―――堕ちる

・・・いやだ

―――全ては俺の意思で行う、それが最も楽な方法だ

・・・いやだ

―――何故拒む?、貴様が目障りだと思っている存在は全て消すと言っているのに・・・

・・・そういうオマエこそ、なんで俺の中にいるんだ、それ以前に、オマエは誰なんだ!?

―――・・・俺は焔の闇を持つ者、お前を利用せんがため今ここにいる

・・・焔の闇・・・?

―――そう、貴様の氷結の闇は人の温もりにやがては溶かされる、
だが俺は違う、俺の闇は人の温もりを燃やし、人の優しさを焼き尽くし、人の心を消し炭にする
真の意味での闇、それは暗く冷たい世界には無い、
全てを邪悪に照らす漆黒の闇、奈落の煉獄が放つ焔、それこそが真の意味での闇なのだ

・・・だが、俺は、俺はそんなものは要らない!

―――お前が必要としているしていないは関係ない、
これは俺の力であり俺の心であり俺そのもの、冷徹ではなく燃え盛る心にこそ、真の闇はあるのだよ・・・

・・・そんな事どうでもいい、俺は、俺は、俺の望みは・・・、
ただただ、平穏な日々を、ただただ、暖かな人の温もりに包まれて生きていたい・・・

―――それを得る為の戦いでもある、そして、我は神すら狩る者、
我に仇名す者、究極の闇の果てに見るは・・・、神々の黄昏、終末と言う名の救いなり
我が名は・・・、異界よりの使者、我が名は魔導騎士・・・




DARK SIDE

第8話

「堕ちたる者の、煌きよ・・・」





その場には、緊張が流れていた・・・

時間にして、10分と経っていない短い期間であったが、

その張り詰めた空気は10分を何倍にも長く感じさせる

戦う者達は二組、

時の力操る闘士と、衝撃を自在に操る格闘家、

風に護られし剣士と、死人を操る魔女(?)、血を操る紳士(?)

その二つの緊張は極限まで達していた

先に回って一気に潰すか、後に回って確実な隙を討つか、

前者は隙を見せれば後者に弱く、後者は隙を見出せなければ前者に弱い

先に回るか後に回るかの、二つに一つの選択だが、その先には無限の分岐がある

それを真っ先に破ったのは、衝撃の戦士―――純であった

「死ね!!!」

純は地面を叩く

彼の手から白い光が溢れ、それは地を這う白亜の衝撃となる

大地はえぐれ周りに生える木々は根っこから飛ばされる、地面にのみ走る衝撃は、周囲に多大な影響を与える

諦は純の放った衝撃を回避するため上へ飛ぶ

土が荒れ、木々の欠片が舞うので視界も悪いし、強すぎる衝撃の影響かその速度は非常に速い

柔らかい土の塊でさえ普通にぶつかっても何の支障も無い大きさのものなのに、

それが体に当たると、鍛えていなければ打撲傷を負うほどの痛みを持つ

それが根こそぎ飛ばされた木の幹ともなれば脅威だ、大きいので視覚に捉え易いが当たり易く、その威力もまともに当たれば怪我では済むまい

しかしそんな危険な空中でさえ、安全地帯であった

それほどの巨大なエネルギーを生み出す純の衝撃波は、地面に突っ立って喰らうとどうなるか分かったものではない

それに諦には見えていた

回避不能とさえ思える大量の土砂や木々を、的確に、かつ確実に回避する

しかも動きに大きな制約を課せられる空中で、だ

更に諦は純の姿も捉えていた

この一撃、相当に力を使ったらしく、手を地面に当てたまま動かないでいる

諦は純に向かって、急降下した

その、拳に力を込めて









その者達の戦いの合図は、純の放った白亜の衝撃であった

距離は幾分と離れていなかった為、双方、粉砕される大地の衝撃をもろに受ける羽目となった

いきなりダメージを受けてしまったのだ

「ちぃ、あいつ、見境ねぇな」
「まぁ、そうなんでしょ、彼の目的は、静谷諦を倒すことだからねん」

二人の男女は、向こうで繰り広げられている戦いを静観しながら感想を言う、

しかしその目には余裕は無い、無いが、危機感も無い

獲物を見つめる鋭い目つき、人殺しの目だ

「一つ、聞きたい」

翔飛は剣を構え、言う

「お前達の目的は何だ?」

彼の問いは、もっともらしいものだった、そして大抵、その答えが聞ける筈は無い

無論この場合も、例外ではない

「・・・知っていたとしても言わないが、俺達も知らんよ」
「私達、信用されてないのかしらぁ・・・?」

二人は肩をすくめたり、上目遣いで空をあおいだり、ふざけた動作をしているが、目つきは変わっていない

それだけ、本気と言うことだ、翔飛もそれは、感じた

「遠慮はしないでもらおう、俺は最初から加減を聞かせる気はないからな」

翔飛は剣を構え、二人を睨む

その眼は、戦士の意思を宿した信念の目であった

翔飛に向かい、ソフィアとローズは・・・

「じゃ、サクっと死んでもらいましょうか?」
「恨むなよ、関わった奴が悪いんだからな」








ゴキィィィィィィィ!!!

諦の拳は、すんでの所で防がれた

諦は急降下したままの姿勢で空中に固定され、純はその諦を睨みつける

諦の顔には、余裕があった

「多少腕を上げたな、だがまだまだ俺の次元には程遠い」
「黙れぇ!!!」

豪速の拳、それに更に白亜の衝撃を纏わせ、威力を何十倍にも高めている

しかしそれさえも、諦はいとも簡単に受け止めてしまう

「俺の力が何か知っているか・・・?」
「・・・時を操る力・・・」

純の返答に、諦はフっと鼻で笑った

「我が流派は三つの戒めの上で、一つの目標をこなすべく訓練を積む、
三つの戒め、
一つ、飛び道具を使わず、二つ、敵に背を向けず、三つ、
決して得物から手を離さず・・・、
その上で目指すべき極意・・・、それは・・・」

諦は飛んだ、跳躍した、目にも止まらぬ速さで、人間の視覚では捕らえられないスピードで、

飛んだ

「それは・・・、刹那の時を制することぉ!!!」

ドスゥ!!!

その一撃は大きかった

物体がぶつかる時のエネルギーは、重量に速度の二乗を掛けたものだと言う

この場合の諦の全身全霊を込めた一撃ですら60kg程度の衝撃にしかならない、

純にとってそれは、風船と同じだ

しかしそこに速度の二乗が来る、諦のスピードは何よりも速い

視覚で捉えられないのだ、超人の域に達するその速度を合わせた一撃を受けて、無事な者がいるはずは無い

事実純はその一撃を見事鳩尾に喰らう、諦は上空からの攻撃を放った、力の向きは下、厳密に言えば角度の鋭利な斜めだが、

その一撃が純の体を吹っ飛ばし、砂塵を巻き上がらせ、純が先ほど破壊した木々の断片に激突させる、

普通の人間がこれを受けて、無事な筈は、無い

「・・・どうだ、まだやるか」
「ああやるさ・・・、まだ俺は死んではいねぇからな!」

純には確実なダメージがあった筈なのに、その顔は、彼のその顔は、戦う前よりも活気に溢れていた、余裕のある顔だった

戦いは、これからが本番だった・・・











暗闇の中、銀の剣と銀の爪が交差し、炸裂する

戦いであった、翔飛とローズの

「ふん!」

翔飛の剣が一閃する、ローズはそれを紙一重でかわす

いや、ローズの頬に僅かな切り傷を負った、戦いの最中ならば気を集中する為気にしなくなる小さな傷だが、

翔飛は確実な一撃を負わせた、のではない

負わされた、言うなればこの傷は意図的なものだ

「フフフフフフ、我々の力は少し特殊でね、使いどころを選ぶのだよ」

ローズはそう言うと、傷をつけられた頬に手を当てた

「何をするつもりか知らんが、力を出す前に斬り捨てれば!」

翔飛は叫び、ローズめがけて一直線に突進する

が、翔飛の進行方向に障害物が突如現われた

それは地中から這い出てきた、異様な臭気を放つ歪な物体

それは死体と呼ばれるものだった

その物体を前に、翔飛は一度停止する

「こいつは!」
「フフフ、これが私の力、死人に仮初の命を与える術よ、最も、蘇らせるわけではないけど」

それまで姿を見せなかったソフィアが現われ、ご丁寧に自分の力の内容を、ようは手の内を明かしてくれる

彼女の表情は自信に満ちた不敵なものだ、数の有利か、それとも自分の力に対する自信がそうさせるのか

「死人をか・・・、外道だな」

翔飛は正直な感想を言う

まぁ、死んだ人間を言いようにこき使う能力など、普通は疎まれるだろうが

「フフ、そんな感想、聞き飽きたわ・・・」
「それに、俺の力も言っちまえば同じようなものだし!」

今度はローズが、頬を抑えた手を離した

その手には僅かな血が付いており、ローズが手を前に差し出すと、

その紅い血は一つの矢となって放たれ、ソフィアの呼び出した死体に突き刺さる

直後、死体が膨張し、破裂する

死者の腐った臭いを持つ大量の血液や体液が翔飛の全身にかかる

それは酸でも持っているのか、服が溶け出し、液のかかった皮膚には焼けるような痛みが走る

「自分の血をトリガーに相手の血を自在に操る力、これが俺の力だ、自分の血ならば自在に操れたりする」
「そうそう、私達、汚れ役専門なのよ、要人暗殺なんて、今まで何度もしてきたわぁ」

ソフィアは天を仰ぎながら、呆けたように言うがやはりその眼は狩人のものだ

ローズも同じ、こんな呆けた奴が、しかも目立ちすぎる奴が暗殺をするとは思えないし、

第一二人の力は間接的なものだ、ローズは相手に毒薬ではなく自分の血を飲ませればさっきの死体と同じようなことが出来るだろう、

しかも死の時期を選ぶことが出来る、

上手い具合に使えば完全な事故死に見せかける事だって出来る、

検死で自分の血が見つかっても、その謎を解ける人間は自分以外いないのだし

方やソフィアは自分は動かず死体だけを動かせば犯人などわからぬまま相手は謎の変死を遂げる

なるほど暗殺に向いた連中だ、しかも相手は二人、相当の手練、

対して翔飛は自分だけ、彼も幼少から訓練は受けているが、経験の差は明らか

彼は直接的な切り込みや斬撃を得意とするが反面からめ手には弱い

それは相手も同じだろう、間接攻撃を得意とするものは概ね自身は弱いものだ

無論二人とも訓練や実績を持っているのだから肉体能力が弱いとは言い切れない

しかし単純な力比べなら翔飛が勝つ

が、この場合技量と数の多いほうが勝るのはいうまでもない

用は翔飛は零距離の戦闘に持ち込めばいいわけだが、数が二人だと片方に集中している間にもう片方に攻撃される

技量が上だと零距離戦闘に弱い事など分かっているのだろうからそもそも距離を置かれるだろう

とまぁ、こんな具合で翔飛はかなり不利だ

それでも退かないのは友のためか、それとも己の信念ゆえか

再び張り詰めた緊張が走る

翔飛は距離を置き、二人の出方を伺っている、それは相手も同じ

どちらが先に仕掛けるとも分からぬ緊張が過ぎた後、

先に駆け出したのは翔飛であった

その手に持つ剣には、風をまとわせて

夜の闇に、竜巻の音が鳴り響いた・・・












阿鼻叫喚の地獄絵図とでも言うのか、ここは

大地はえぐれ、木は飛ばされ、生き物すら存在できない、破壊の限りを尽くされた、

その荒野とも分からぬその場所に、二人の男は立っていた

いや、立ってなどいない、1分のうち約8割は空中に浮かび、地上にいる間も常に走り回っている

二人の傷は相当なものだ、全身打撲、所々に血が流れている、明らかに急所と思える頭や胸からも

常に、戦って、戦って、戦い抜いて!、

どちらか一人になるまで、戦い続ける!

もはや二人とも、疲労と言う生易しい言葉が不適当な状態だろう

全身の筋肉、間接、骨など、運動に使う部分はおろかその他全ての箇所、臓器、神経までもがボロボロだ

だが二人の顔にそんな疲労の色は見せず、満足感に溢れるその顔は、ただただひたすらに恐ろしい

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ぬぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁ!!!」

激突する拳と拳、衝撃が伝い、全身に負担がかかる

その強烈さは、それだけで大地がえぐれるのだから分かるだろう

そして破壊の閃光、衝撃の波、白き破壊の化身であるそれは一振りの刀によって分断され、無力化される

激闘、激闘、激闘!

戦いは常に終わる事を見せない

乱舞する拳、地をえぐる衝撃、天を切り裂く刃、

まさに修羅、これを見た者が恐怖を覚えずして何を感じようか

そんな光景だ

「アキラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「これでケリをつけぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅ!!!」

野獣の雄叫びにも似た叫び声、直後二つの拳は交わる

両者の体に強烈な衝撃が走る

そして吹き飛ぶ、何十メートルもの距離を

これが最後の一撃だったのか、今までの攻撃よりも段違いに激しかった

これでお互いの闘志は消えただろう、全身を駆け巡る苦痛は興奮と闘争本能が押さえ込んでいた

しかしそれが消えたいま、二人の体には強烈な痛みが走っている事必須

これで立ち上がれば立ち上がった者の勝ち、両者立ち上がらなければ引き分け、

両者立ち上がれば、また戦いが起きるだけの事

そして立ち上がったのは・・・

静谷 諦だった

「ひっさびさにいいファイトが出来たぜ、感謝する、純」

諦はそう告げると、暗く淀む森の中に消えて行った

残された敗者に、立ち上がるだけの力は無かった・・・













―――ゴォォォォォォォォォォォ!!!

翔飛を中心に竜巻が吹き荒れる

力の発動、自ら鍛え上げた風の力

「ぬぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

その周囲に存在できるものなどいない、近づく者全て切り裂く風の結界

その結界を纏うものが、突撃する

目標は二人、その二人の距離は極めて短い

離れられるか、そうされても切り札は在る

これはいわば、前奏曲なのだから

「ちぃ!」
「これじゃ私達の力かなわないわよねぇ」

ローズもソフィアも、同じように愚痴をこぼす

二人の力は間接的なものだ、

血を媒介に敵にダメージを与えるローズは、相手に自分の血を送らねば意味は無い

故に風に弾かれては何の効果も無い

死人を使って攻撃を行うソフィアは、自分より能力の低い死人に頼らなければならない

相手が一騎当千の実力を持つものなら・・・、

数の暴力を容易くねじ伏せるだけの実力を持つのなら、無力に等しい

そして今いるのは、風の結界で仮初の命を持つ死人を片っ端から消してゆく一人の少年

経験こそ浅いだろうが、この技の前に彼女の能力は無意味だ

「西洋のフランソワの称号を持つ俺が・・・!」
「何よそれは!、と言うか、逃げるわよ!」

翔飛は一直線に突進している

その動きはきわめて遅い、いや、速いには速いが、二人にすれば遅い、それだけの事

翔飛は二人の間の、ちょうど真ん中に来る

これで終わりか、ローズがそう踏んで自らの血を流した時だった

―――ゴォォォォォォォォォォォォォォォ

翔飛を纏っていたその風は、まるで風船が弾けた様な、そんな感覚で、

まるで岩雪崩でも繰るような、そんな衝撃で

巨大な暴風雨となって、森を切り裂いた

範囲は広すぎる、二人に逃げ場らしい逃げ場は無い

どんなに下がろうと吹き荒れる風に切り裂かれ、どんなにかわそうと風の流れにやがては飲まれいいように弄ばれる

出来る事はただ一つ、ただ防御に徹するのみ

風が吹き荒れる、大地がえぐれ、木々は倒れ、その破片が宙を舞う

そしてその風が止んだ頃、勝負の決着はついていた

「まだ、立っているなんてな・・・」

ローズの言ったその言葉は、自分に対しても、自分をこうしたまだ若い少年に対しても言える事であった

「くぅ・・・」

翔飛は一応立っていた、しかし力の消費が激しすぎたのか、かなり辛そうな顔をしている

「でも、こうなっちゃったらおしまいよね」

ソフィアは最後の力を振り絞って死人を呼び出す

その数5体、少なすぎるが、翔飛を殺すには十分な数だ

(ここまでか・・・)

敵がこれほど強いとは思わなかった

かつて彼の父親から教わった奥義、それをもってしても勝てなかった

翔飛は諦めかけていた

(もう死ぬのか・・・)

自分でも馬鹿な事をした、と思う

関わらなければよかったものを、心の闇がそう告げる

そう言えば日香の事が気になった

怒る、いや、泣くだろうな

彼は最後に少し笑った

死を受け入れる覚悟はもう出来ていた

その時だった

「そこまでだ」

誰だ?

知らない声ではなかった、真っ先に浮かんだのは諦であったが、彼のものではないので、

即座に否定される

どこかで聞いたような、温かみのある声の様な気がした

視線の先にあるのは地面、顔をあげる気力もないから、その声の主が誰かわからない

「あ、あんたは・・・」
「何の用で?」

敵だった二人は、驚いたような声を上げる

上官か?

「命令だ、帰還せよ」
「しかし・・・!」
「我らの正体、政府の裏にある陰謀、たかが一学生が漏らした所でどうにでもなりはしない、
詭弁か、奇病と思われもみ消されるだけだ」

その声、声質からして男、の言うことは、随分理に敵っていた

そうだ、俺がこいつらが誰か何ていったところで、誰にも信じられないだろう

「とにかく帰還だ、後始末は私がする」
「了解しました」

そして風の吹く音が聞こえる

去ったのか?、いや、まだ残っている

「くぅ・・・」

俺は最後の力を振り絞り、その何者かと対峙しようとした、が

―――ドゴ

俺の腹に直接来る痛み、それが俺の意識を混濁とした闇に落としていった

最後にそいつの顔を見た気がした、どこかで見た気がした、すべてが不確定のことだった

そいつが何かしゃべっていたような気がしたが、俺にはもう、意識を眠らせることしか出来なかった・・・

















どれくらい走った?、俺は自問する

どれくらい走ったかはわからない、この永遠に続くとも思える闇には手があることを信じて走り続けている

時折、声が聞こえる、奴だ、誰かは知らない、知る由も無いし知る必要もない、

ただ、俺の意識の断片に、多分、ずっと昔から潜んでいる悪魔のような存在

黒い意思を輝かせ、俺の意思を潰そうとする闇の存在

俺にはそう思える

そいつが、体を使わせろと言う、俺の願望を叶えさせてやると言う

分からないのか、お前は、俺は人質を、平気で見捨てるような奴に、任せられない

いやそれ以前に、他者の意思に任せられない

彼女を、救うのは俺一人だから・・・














冷治は何度も走った、走って、走って、走り続けて、ようやく果てが見えた

漆黒の闇に輝く一つの光、そこに彼女と、そして奴がいると

冷治は進んだ、もう走るだけで随分体力を消耗してしまった

体が言う事を聞かない

だがそれでも冷治は進み続けた














暗い森の中、僅かな明かりと月光を覗き光源のないその場所に、黎治は立っている

「来たか」

一言つぶやくと、直後、大地が爆ぜ、瓦礫が押し寄せる

黎治は小さく呪文のような呻き声を上げ、巨大な岩の壁を作り上げる

それはなだれ込む瓦礫を防ぎ、黎治の身を守る

「随分な挨拶だな、冷治、それが兄に対する態度か?、ん?」

黎治は、嘲るように、爆ぜた大地の、砂埃舞うその場所にいる冷治に向かって言い放った

「俺に、家族を言う認識を常識から完全にそらさせたのが誰か、言うまでもないだろう・・・?」

怒気を含ませた声で、冷治は言った

「フフフ、そうか、つまり貴様にとって家族は憎む対象でしかないか」
「あそこまで俺をいたぶりながら、分からないとでも言うのか・・・!」
「ククク、それはお前が不完全だからだろう?、常に完璧を求める親の要求に応え続けていれば、
この俺のように、とても優遇された待遇をしてもらったのだがな」
「完璧・・・、だと?、その完璧のハードルが高すぎるんだよ!」
「それは我侭だ、常に頂点に立つべきという我が父母の期待をお前は悉く裏切り続けていた」
「何に対しても頂点でなければならない・・・、そんな無茶な要求を飲めと言うほうが無理だ!」
「無理ではない、事実俺はそうして親の期待に応え続けた、
この組織に、ジャスティスに入ると告げたときも、どんな暗殺でもできると言うことを、
自ら両親を殺す事で証明したのだから・・・」

二人の、兄弟の対峙

まずは言い合いか、かつての冷治の境遇に対する愚痴は、冷治の詭弁とも取れかねない

しかし彼はその時の経験がトラウマに残るほどなのだ、余程酷い環境であったのだろう

「殺したのか、俺の親を・・・、まぁいい、今の俺にそんな事は関係ない、
彼女は、月江はどこだ!、答えろ!」

冷治の怒気を含めた問いに、黎治は臆することもなく、肩をすくめ鼻で笑う

「俺の人形になれば教えてやる」
「断る・・・、といえば?」
「力ずくでも、従ってもらおうか」
「そうなると分かっていたから、最初から実力行使を行っていた、
黎治、俺にとって貴様は殺すほか救いのない存在だ、ここで確実に、死んでもらう」

言い放ち、冷治は呪法刀を構えた

「クックック、そんな時代遅れの代物で敵うと思うな!」

黎治は叫び、白いコートを広げる

「水龍」

黎治がその言葉を呟くと、広げたコートから無数の水が鉄砲のように打ち出される

それは大した事ないのか、といえばそんな事はない、

その一撃一撃は確実に痛覚を刺激し、痛いという感覚を呼び起こさせる

だが冷治は怯まない、必至で攻撃を受け止める

彼は随分疲労していたが、それでも立ち向かう

「炎龍」

続いて黎治は、人の背丈の倍ほどもある炎の塊を発生させる

「ゆけ」

そう命令すると、炎の固まりは冷治めがけて突進する

「火炎消滅!」

それに対抗し、冷治も自分の力を発動させる

自在に空気中の原子を操る力、

それを用いて、火炎から酸素を奪い去り、燃焼能力を消してしまう

「ほう、ならば風龍」

続いて、強い風が捲き起こる

それ自体は大したことはないが、その風はやがて一つにまとまり竜巻と化す

巨大な竜巻、いや、自然現象が起こす災害として起きるものに比べれば微々たる物だが、それでも全身を切り裂く力はあるだろう

無論それは、冷治めがけて向かってくる

土砂を巻き上げながら

「く!」

そればかりは冷治も対処しようがなかった、直撃をもろに受け、その体は宙に浮かぶ

「そして、土龍」

続いて大地が盛り上がり、巨大な岩の牙が生み出される

それは宙に浮かぶ無抵抗の冷治の体を叩きつける

「がは・・・!」

手痛い一撃、彼が受けた傷はかなりのものだ

「うく・・・」

そしてそのまま地面に叩きつけられる

その衝撃も、かなりの痛みを伴う

「ふん、無力だな、冷治」

黎治は言い放ち、冷治の頭を踏みつける

「・・・一つ、教えてやろう、冷治」
「何・・・を・・・」

冷治は必死に起き上がろうとするが、体に力が入らない

「お前がなんてことない、普通の能力者なら、
俺も目には止めなかっただろう、しかしお前には、驚異的な力が眠っている、
それこそ、世界を改変しうる力を」
「そんな大げさな力・・・、あるわけない・・・」
「あるさ、事実、お前の原子を操る力、あれも上手く使えば、星を滅ぼす力となりえるのだが」
「う・・・く・・・」

そう言い、黎治は冷治の頭を鷲掴みにして自分の顔のところまで持ち上げる

「なぁ冷治、お前の力は俺のものとなるのだ、
そう、世界を制し、改変するのはお前のような出来損ないではなくこの俺!」

そう言い、黎治は下卑た笑みを浮かべた

―――オロカモノメ

そのとき、冷治の脳裏に黒い言葉が響き

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!」

冷治の頭に強い頭痛が走る

何者かが自分の中を蹂躙する

食われる、闇に食われる、煉獄の如き闇を背負った何者かに食われる

「来たか、さぁみせよ!、そしてひざまずけ、最強の力!」

黎治は、望みが達せられたのか、随分と愉快そうな笑い声を上げる

そして次に響いた言葉は、周りを凍らせる、煉獄の闇の言葉であった

「ひざまずけ?、俺のものになる?、
クックック、寝言以前の言葉だな、人間」

そして闇の結界が発生する

何者も寄せ付けぬ、地獄の業火の如く熱い、しかし何の温度も感じさせない冷たい色の闇

破滅の黒、闇の闇、黒の覇者、暗黒の支配者、終末を呼ぶ者

黒き風が吹き、冷治と名乗っていた人間は別の存在に変わっていく

「人間風情がいきがるな・・・」
「言ってくれるな、しかし消耗してはないか?」
      平行宇宙魔導力       永久魔導門
「ククク、パラレル・エナジー、エタニティ・ゲート、
俺は無限に力を取り出す術式や能力を、あらかじめ備えているのだよ、
そういう貴様こそ人間如きの状態で力を使うのは、ただでさえ短い命をさらに消耗させるだけだ」
「力の代償は命なのか・・・?」
「いいや、疲れさ、お前は消耗する、それだけ俺と戦う時間が短くなる、
だからお前の死は早くなる、それだけだ」

言い放ち、その黒い男から漆黒のオーラが放たれる

そしてその手には、何よりも黒い色を見せる闇の剣があった
    極黒の闇の剣
「唸れ、ダークネス、脆弱なる者に、己の身の程を知らしめろ」

男がそう言うと、その黒い剣は暗黒の矢を飛ばす

「深遠なる闇、それよりもなお深き闇、完全なる黒、故に煉獄、故に焔」

男は呪詛の言葉を吐く

それが黒をより強烈なものに変え、暗黒の矢は暗黒の槍に変化する

「くう!」

それはまるで生物のように黎治を体を縛り、

強烈な締め付けを行う

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

それは単なる物理的攻撃に止まらず、闇が全身に熱さをもたらす

そして同時に体温を奪う、この二重苦の攻撃に、先ほどの優勢と優越は消え、黎治には苦痛の色と屈辱の顔しかない

「く、だが、私を殺せば、いいのか、お前の女が、死ぬぞ・・・?」
「・・・で?」
「何?」
「・・・そいつは俺の女じゃない・・・、
生かそうと殺そうと俺の知ったことではない、むしろ殺してくれ、その方がやりやすくなる」

何の屈託もなく、人の命を斬り捨てられる冷酷さ

その男の脳に、慈悲の言葉は、ない

「さぁどうする?」
「く、くぅぅぅぅぅぅ!」

「残念ながらどうでもないぜ、お二人さんよ」

突如、戦いの場に一つの声が響いた

闇が蠢くその場に現われた男、静谷諦は、その腕に月江を抱えていた

彼女は、眠らされているのか意識はない

「貴様は・・・」
「静谷家の、・・・ぐ、何を、しに来た」
「・・・決まっているだろう?、貴様を殺しに来た」

諦は、月江を適当な所で降ろすと、刀を抜いた

「ククク、今回は俺の負けのようだ、この世界最強の名を持つ静谷と、
最強の力の具現である貴様、
その二つを相手にしては勝ち目はあるまい、今日は退いてやる」

黎治は笑みを浮かべると、一気に力を解放させる

眩い閃光が辺りを包む、放たれていた暗黒の槍だけが不気味に黒を放つが、じきに消える

光が消えたとき、その場に黎治の姿はなかった

「・・・・・・」
「・・・・・・逃げられたか」

諦はそう言い、刀を鞘に収めた

「チ、多少見くびっていたが、
これならエタニティ・ゲートからもう少し力を持ってくれば良かった」
「人一人、平気で見捨てようとして、この態度か?」
「俺はお前のような良い奴にはなれんよ、なる気もない、
俺は生まれながらに孤独で、そしてこの命は利用されながら使われてきた、
誰も大切にしない、俺には守るものがない、あるとすればこの命くらいだ」
「・・・・・・」
「く、どうやら限界が来たか・・・」

男はそう言うと、ふらつきながら倒れる

彼が目覚めた時は、既に冷治の状態に戻っているだろう

「・・・俺もお前の境遇には同情するさ、尤も同情はいるまい、
だがな、どんな理由にせよ、俺の仲間を傷つけて良い理由にはならんぞ」

諦は忌々しげに言い放つと、森の闇に消えて行った




















「う・・・」

細々と、視界に光が入る、虚ろな意識

そしていきなり意識が鮮明になる

「ここは・・・?」

どうやら森の中、あの場所から動いていないらしい

「俺は・・・」

あの時、意識を失った

黒い闇に肉体を支配され、その意識は肉体のどこかに沈んでいた

「・・・・・・」

冷治は辺りを見回す

見回すと、すぐ側に人が倒れていた

特徴的な、青い髪をした少女が目に入った

「あ・・・」

彼がそう呟いた時にはもう体は動いていた、すぐさまその少女の側に駆け寄る

「・・・・・・」

彼はじっと目を見開いたまま、少女を見つめる

彼の瞳は、不安そうで、恐怖に囚われていて、それでいて、安心している、そんな目だ

「うん・・・」

少女は小さく唸る

生きている、証拠であった

「つ・・・え」

彼は小さく彼女の名前を呼ぶ

全身に温かみが伝わる

「あ・・・れ」

そして少女は小さく目を開く

と同時に、彼は彼女を強く抱きしめた

その目には、大粒の涙を浮かべながら

「すまない、すまない・・・、俺のせいで・・・」
「・・・・・・いいよ」

彼が言った次の言葉はそれ、

それに対し、彼女はまるで彼の心境を見透かしているかのように返答する

「今はこうしていたいね、冷君・・・」
「ああ・・・」

そうして二人の時間は止まる

互いに抱き合い、そのまま静止する

ただ互いの体温が、相手の体を駆け巡る、それだけ・・・

夜が明けていく

空に太陽が昇り始めた

悪夢は、終わる

そしてまた穏やかな時が戻るだろう

しかし、それは新たな悪夢の前奏曲である事を、

彼は、静谷冷治は、

その身に、実感していた

自分の体が感じる温もりを感じるが故に・・・



悪しき正義の復活は近い

今はその時まで、その体を休めるといいだろう・・・







次回予告


穏やかな日々が戻る

前と違うのはそこに温もりがあるということか

物語の軸は一時、彼らから外れる

冬に合わぬ温かい日差しの下で、

彼はありえない再会を果たす



「貴方は、死んだはずではなかったのでは・・・」



それは、永遠の別れへのプロローグ

人としての心が温もりを感じ、戦士の意志が使命を果たした事を感じれば、

死も、恐怖ではなくなるのだろう

第9話

「人として、戦士として」













あとがき



てめぇ強すぎ

?????「うるさい、そもそもお前がこんなに強くしたんだろうが」

いやぁ、勢いでパラレル・ゲートなんで設定使うんじゃなかったと後悔、

でも書き直すネタも余裕も無いしなぁ

第一お前と黎治の対決って魔法合戦で味気ないじゃん?、

やっぱ至近距離の斬り合いが戦の華よ

?????「マニアックな事を・・・」

本当はもっと長くするつもりだったのに

諦「まぁそれはお前の設定ミスだ」

ま、前半のバトルシーンはアクセル前回出したと思う多分

諦「俺と純のファイトしか気合入れてないと思うんだが」

だぁぁぁってぇ

冷治「ま、それより次の予定は?」

ハイ、人が死にますよ、名前あるお方が

翔飛「俺と関係のある人物か?」

一人しかいませんね、ハイここからはネタバレ厳禁口封じ

そんじゃまた





パラレル・ゲート(平行宇宙魔導力)

この世のエネルギーの総量はエネルギー保存則で一定と決められている

故に限界以上のエネルギーを出すにはこの世界以外の世界からエネルギーを持ってくる必要がある

そこで登場するのがこのパラレル・ゲート

これは平行宇宙(スパロボ的に極めて近く、限りなく遠い世界)からエネルギーを取り出し、

少なくとも、はたから見て無限大の力を出せる

因みに何のエネルギーを出しているかは不明、

ぶっちゃけ対消滅したほうが早いんだけど(てか冷治の力使って核融合、でもこれ普賢と同じネタだしなぁ)

それ言っちゃおしまいよ







・・・結局、短くなってしまった

ううむ、これから例のあいつはなるべく登場させないのが吉か?、やっぱ強すぎるのがいけない

?????「それよりあれを書け、例のあれ」

そうそう、れいのやつと言うのを知っているか?

?????「なんだそれ」

ラスボスでもほぼ確実に上限ダメージを与える、バハラグ最強魔法だ

?????「・・・・・・」

しねぇ!

?????「滅す」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

?????「アホが」




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