俺が誰も求めなかったのは、この日を予測していたからなのだろう

恐らく、俺はまだあいつらの鎖から逃げ切れていない

俺は、その存在を消され、記録の上で「死んだ」筈なのに、だ

奴らは、利用価値のある者なら、死んだ人間にすら手を出そうというのか、

幾らでも、人の幸せを踏みにじれるというのか

それでいて、正義の二文字で許されると思っているのか

俺は認めない、決して、

そして、狩る、貴様らを



DARK SIDE

第7話

「堕ちたる者・後編」


今日も見つからなかった

月江も、黎治も、手がかりさえも

一個人の出来る事には限界がありすぎる・・・









何故奴があの時、ああしたのか、何故、彼女を連れ去ったのか、

未だに冷治は、理解できないでいた

自分が目的なら、自分だけを捕らえればいい、と

「俺を怒らせる事に、意味はあるのか・・・?」

冬の冷気で白く濁る窓ガラスを睨みながら、冷治は思う

怒り、その力は確かに凄まじいのだろうが

恐らく冷治の自覚している力は、たかが知れている、

恐らく微弱、奴が、黎治が目を向ける必要など無い筈だ、

にも拘らず、狙ってきた、それは自分の潜在能力が高いということか

・・・違う

自分にははっきりとわかる、遠のいてゆく意識、見えたのは漆黒の闇、それでいて赤々と燃える煉獄の如き、

そう、焔の闇、冷治の中にいる、冷治とは全く違う存在、二重人格でもない、最初から自分の中にいる存在ではない

気が付けば全ては物理的な破壊と言う、短絡かつ有効な方法で解決される

いや、解決などではない、力技で解決できるのなら、今すぐにでもあの黒き意志に全てを明け渡し、黎治を完膚なきまでに破壊する、

出来ればいい、しかし奴は人質を、月江を手に入れた

下手な真似は出来ない、つい先日、分かり会えたのに、失いたくない

そして何より、彼女を助けるのに他者の力を借りたくない

それは、自分の内外、全ての存在において言える事だった

冷治は後ろを振り向く、いつの間にか、諦がそこにいたのだ

気配すらなかった、あからさまな足音で気付いたのだ

冷治の目は鋭い、だが諦の目はそれ以上に、怒りをたたえている気がする

「・・・何をしに来た」
「言うまでも無いだろ」

奴はそう、もう全てを知っている

話した訳ではない、だが奴は勘付いた、あの男の、静谷諦の本来の姿というものを、冷治は知らなさ過ぎるが、

決して自分に理解できる代物ではない事は、本能の上で察知していた

「ほら、月ちゃんを助けにいくんだろ?」

諦はいつもの口調で言うが、冷治の目は更に鋭くなる

「・・・彼女は助けに行く、だがついて来るな」

冷治はやはり、冷淡に言い切った

「阿呆が」

そんな冷治を、諦は嘲笑うように、いや、実際嘲笑いながら言い放った

お前は馬鹿だ、と目が言っていた

確かに、相手は実際のところ国家権力だ、しかも相当に上位のモノ

敵は当然複数だ、下手をすれば袋叩きということになる

その頭の黎治の目的は冷治の殺害ではない以上、命だけは保証されるが、

命など無いに等しい環境におかれるのは必至、そんな運命に自ら飛び込もうと言うのは、馬鹿としか言いようがない

「・・・なぁ、冷治」
「一人で行く、俺は」

冷治はやはり言い切る

すると諦は、こちらにゆっくりと歩み寄って来る

「一人で抱え込むな、どうしてもと言うのなら俺を倒してみろ」

―――無理だ、少なくとも、この静谷諦を倒すのは不可能だ

奴は得体が知れない、そのネジの数百本は外れた思考回路の裏に、何かが蠢いている

だが冷治はそれでも、体裁を気にした、愚かである

「やってやる」

言うと冷治は、呪法刀を構える

―――が


ゴスッ


構えるや否や、諦の裏拳が冷治の腹部に炸裂する

見えない、動きを視覚できなかった

二人の距離は一メートルちょっと、近すぎるが、それでも身構える動作くらい必要だろう

なのに諦の動きはそれを読ませない、瞬間移動でもしているのか

「貴様、時を・・・!」

強烈な痛みに腹を抑えながら、いつの間にか二メートルに距離を取っていた諦を睨み、言う

諦の能力は、時間を制御する事だ

「俺は時を制しているが、時間を動かしてはいない、複数相手ならばいざ知らず、一対一の戦いにおいてあの力を使うことはしない、
そんな外道な真似はな」

諦は言い放つと、拳を構える

「俺は刀では人を殺す、だが拳では殺さない」

言うと諦は、じりっと、一歩だが、距離をつめる

大して冷治は壁側だ、このまま近づかれても、逃げられない

「・・・俺は時を制している、刹那の時を」
「なんだと?」

突如、訳の分からない事を言い出す諦に、冷治は警戒心を強める

「勝負とは刹那の間の技の出し合い、その積み重ね、力を出すその一瞬、その一瞬に全てをかけねばならない、
闘志、気迫ならともかく、相手が静観に回っているうちから攻撃を仕掛けようとするのは愚かだ、
先手必勝という言葉があるが、それは不意を取れればの話だ、こちらの動きを見切られては意味など無くなる」

諦らしかなぬ言葉の羅列だった

だがこれこそが静谷諦という、得体の知れない男の本性なのか、

戦いに対する、信念の塊だ

だが冷治は負けるつもりは無い、例えどんなに無謀でも、自分の恋人は自分で救いたかったからだ

「・・・ゴタクはいい、俺はお前を倒す、そして一人で月江を助ける!」
「自惚れではなく、自己犠牲で全てを抱え込むか、だが、なら!、尚更愚かだぞ、冷治!」

諦が叫んだ後、もう冷治の視野に諦の姿は無く、

最初に感じられたのは、まずは脳天を貫くような痛み、続いて背中に巨大な何かが落とされたような痛み

更に全身をえぐるような強烈な痛み

痛みだけだ、その中に諦の姿を捉える事は不可能だった

視界に、入らない

白い壁紙が張られた部屋の壁と天井に見えるのは白い壁紙のみ、

こげ茶色の木の板を敷き詰めた部屋の床に見えるのはこげ茶色の床のみ

冷治の視覚、目に見える感覚、360度、どの空間にも、静谷諦の姿は無い

ただ感じられるのは激痛、耐えるだけで理不尽、よろめき、肘をつき、嘔吐しそうになる

・・・しかし彼は倒れなかった、自分の弱さを、誰かに頼らなければならない事を拒絶した

だが、静谷諦という男は、その独りよがりな強さを認めるような優しい男では、無い

「だぁ!」

最後に冷治が感じ取った感覚は聴覚、その短い気合の一言を聞いた直後、彼の意識は消えた・・・














「・・・・・・」

諦は一人、立ちすくんでいた

彼は冷治の予想以上の弱さに半ば、失望していた

「こんなもんじゃぁ、誰も守れねぇな」

彼はそう呟くと、冷治をベッドの上に乗せる

「・・・さて」

諦は、窓の方を見やる

窓の外には、何かがこちらに何かが飛んできている

烏か、とも思ったが、違う

それはまるで銃弾のように窓ガラスを突き破り部屋に侵入してきた

諦はそれを、素手で受け止める

弾道を見切り、見切って、明鏡止水の心で掴み取る

そう、マジで彼は人類の限界を超越する単位である明鏡止水の心得を会得しているのだ、尤もレベル1だが

無論そんな事はどうでもいいが

「ふむ・・・」

よくよく見れば、それは弾丸にしては大きすぎた、それは掌に乗る程度の鉄の塊だが、

鉄の板を適当に張り重ねただけで構造が脆く、多少、腕力のある者ならば握り潰せるほどだ

「これは、俺宛じゃないな」

なんとなく分かっていた、が諦はやはり口に出す

彼の脳裏には純の姿が映るが、彼の視点からならこんな回りくどい真似はせず、

白昼堂々襲い来るはずだ

中はやはり空洞だった、そしてその中には手紙が一つ

「連中、国家権力なら郵便入れにでも入れろよ・・・」

そう言えば、冷治を狙ってる奴らは国家権力だったか、

今更ながらにそんなことを思い出す

・・・別に彼にしては大した事ではなく、大企業の後ろ盾と、自身の絶対なる力量の前には児戯にも等しいのだ

・・・・恐らく

「さて内容は、やはりそうか・・・、
えーと、明日街の北側にある山地に来い、来なければ小娘の命はない、と、
ハン、ありきたりかつ面白味のない脅迫文か、これを書いた奴はさぞ文才に欠けるんだろうな」

と、適当に毒づく辺り、諦の余裕が手に取るように分かる

「・・・さて、本来ならば俺一人で全てのカタをつけたい所だが」

前に、冷治の中に潜む漆黒の影と話した時だ、

何故自分の力を用いて全てのカタをつけないのかと尋ねられた

それは出来ない、敵の中枢が分からなかったからだ

しかし今は違う、このまま進めば、敵の中枢で無くとも、何かしら手がかりのようなものはあるはずだ

そうすれば、自ずと中枢も見えてこよう、そうなれば、諦の一人勝ちで終わる

が・・・

諦はその前に冷治の顔を思い切り殴る

別に殺そうと言うわけじゃない、起こそうとしているのだ、その割には随分手荒だが

「くぅ・・・」

しかし効いたらしい、冷治は殴られた右頬を強く抑えながらも、起き上がる

「よぉ、目覚めたか」
「黙れ・・・!」

諦の台詞に、冷治は怒りを露にする

別に何でもない台詞だが、それでも怒りに満ちるほどに今の冷治の怒りは凄まじい

「・・・さて、お前宛てに手紙だ」

諦はそんな彼の心情を一切無視し、いや、考慮してだろうか、

投げられた手紙を突きつける

「・・・・・・」
「答えは聞くまでもないだろうが、俺も一緒に・・・」
「五月蝿い」
「一人で言っても無駄だぞ、俺も場所分かってるんだし」
「だからなんだ、だから・・・”」
「俺が一人で相手をしてやる・・・、お前はヒーローを演じて、然る後に平穏に戻ればいい、
敵が尻尾を見せた時が、連中の最期だ」

聞き分けなく言い返す冷治に、諦は自分の考えを素直に言う

それが彼の行動方針であり、願い、そしてそのまま目的へと直結しているのだ

諦の言葉に、冷治は平静になるかと思ったが、余計に陰険な瞳で見られる

どうあっても、一人で全てを背負い込む気らしい

「・・・強情な奴だな」
「貴様もな」

互いに、皮肉を言い合う

「・・・俺は一人でいく、絶対に来るな・・・」
「おいおい、こういう時は来るならかってにしろ、とか、フォローを暗喩みたいに使うのがお約束ってモンだろ?」

知るか、諦の軽口に対する冷治の返答は、表情で分かった

冷治は諦を無視して立ち上がり、部屋を出ようとする

今夜にでも攻めにいくつもりなのだろうか

「・・・なら」

諦は一呼吸沖、その鋭い眼光を冷治の背に向ける

諦の言いかけている事を聞こうとしのか、それとも諦の強烈なまでの視線を感じ取ったのか、

或いは両方かは定かではないが、冷治は一度足を止める

「勝手に死ね、お前の命はお前のもんだ、お前の好きに使えばいいさ、
・・・が、アフターケアは完全にしないと、墓など作ってやらん、死体は烏の餌にでもしてやる」

要するに生きて帰って来い、という、遠回しな言い方だ

普通の人間ならこの言葉の真意を理解できなかっただろう、ただの暴言とも取れる、冷治もまたそれは同じ

しかし冷治には、こうでも言わなければ聞かない気がした

諦の目が言っていた

お前が死んで泣く奴は、0じゃないと

だが背を向け、死地へと飛び込む冷治はその意志を感じなかった

感じることも無かっただろう

残ったのは、虚空を見つめ立ちすくむ、諦だけだった













冷治が簡単な身支度を整え、外に出る頃にはもう日は暮れていた

街の北側の山地、ここからはだいぶ遠い、歩いて1時間はかかる

冷治は小走りで行く

具体的な場所はわからなかった

だがそれでも行く

自分が原因を作ってしまった以上、自分で清算をつけたかった

冬の風は冷たい、冷治の体を凍えさせる

だがそれでも走る、ただ先を目指して







そうして冷治が目的地に辿り着いた頃にはもう、

辺りは、闇に閉ざされていた












空に浮かぶ月の光だけが唯一の照明、

周囲を覆う木々がその照明を遮る為、この森の中はとても暗く感じられる

暗闇の影響か、視界は限りなく狭い

見えて5メートル先が限界か、ここで戦うにはかなり不利だ

相手は集団だ、一斉に襲われてはひとたまりも無い

が、しかしあえて不利な場所へ突っ込まなければなるまい

黎治も同じ条件だが、あちらは数の上で勝っている、自分が有利に事を進められる場所を選んでいると見て間違いない








ここからは慎重に進む

僅かな気配さえ敏感になる

気配の読み方は諦から教わった、冷治としては不本意だが、

彼が今戦えるだけの力を持っているのは、全て諦がいたからだ



暗闇の中を、あてもなく彷徨う

随分と歩いた、振り返れば、街の輝きが見える

どうやら、相当上まで登っていたらしい

冷治は上を見上げる

その先は木、木、木しかない

木の群れが森を成している

黎治の手紙は具体的な場所を指名してはいなかった

だから冷治が見当違いの方向に進んでいるとも限らない

そう思うと、一瞬不安になる

一度引き返すべきか、という考えが、彼の脳裏を過ぎる

やはり周囲の気配に敏感にしていたが、しかし何の気配も無い、

時折、烏の泣き声は聞こえても、人の気配はしない

・・・が、次の瞬間、冷治の不安は一気に消え去ることになる


―――ズン


それは白い閃光

何か巨大なものが、冷治の目の前を通り過ぎていった

それは尋常ならざる事、ならば、冷治が結論を出すのに、1秒もかからなかった

この先に黎治が居る、さっきのは恐らく、手下が攻撃を加えたのだろう

奴が能力者ならば、「ダークサイド」ならば、その配下に同じ人種がいてもおかしくは無かった

―――ザッ、ザッ、ザッ

誰かがこちらに向かって歩いてくる足音

それは以前暗闇の中に埋もれ、その姿を確認できないが、

だがそれは確かな気配だった

―――刹那

冷治の足首を、誰かが掴む

全く気配すら感じさせない、何者かもわからないが

冷治は即座にその見えざる何かに向かって放った

―――発火

原子の動きを急速に加速させ、その摩擦熱によって火を放つ

その炎は、夜の闇に良く映えた

だが、冷治の足元にしがみつくそれがなんなのかは分からなかった

なんなのか分からぬまま倒してしまったようだ

冷治はきっと、以前向かってくる足音の方向に顔を向ける

その時気付いた、足音は複数だ

二人、いや三人、同じ方向からやってくる

そして・・・



―――ズン



もう一度、白い閃光

それは冷治のすぐ側を通り過ぎた、わざと狙いを外していたようだ

そしてそいつらは、ようやくに冷治の視界に姿を現した

「・・・貴様は!」

冷治が忌々しげに言い放つ

その三人のうち一人は、真ん中にいる、目つきの鋭い筋肉質の男は、

少なくとも、見覚えがあったからだ

「ふん、キサマかよ・・・、つまらねぇな、諦はどうした?」

その男、純は、冷治など視界に入っていないかのように言い放つ

いや実際、冷治などどうでも良いのかもしれない

彼の、純の諦に対する対抗心が、彼の闘士の何よりの原動力なのだから

「・・・諦は居ない、俺一人だ」
「そうかい・・・、なら、さっさと捕まっちまいな!」

純は叫ぶと、両手をあわせ、虚空に円を描く

するとその円は白い光を放ち、刹那・・・



―――ドォウン!!!



それは冷治を確かに直撃した

激しい激痛

そして強い力に引っ張られ、力なく宙を舞い、そして地に落ちる

「・・・ぐ」

冷治は何とかよろめき立ち上がる

目の前にいる男は、純は、不敵な笑みを浮かべている

「おいおい、純君、少しは手加減したまえ」
「そうそう、あまりやりすぎるとボスから顰蹙を買うわよ」
「へ、俺はあいつと決着がつけられりゃそれでいい、こいつを使えばあいつも必ず来ると、
そういう条件でお前たちに協力してんだからな!」

純は、周囲に居た他の二人の忠告にたいして、荒い口調で言い返す

「全く、君には品が無いな」
「物事は美しく、怪盗の盗みは鮮やかだからこそ、怪盗と呼ばれる所以なのよ」
「うるせぇ!、大体てめえらの名前はどうだ!、フランソワにジョゼフなんぞ、品無さ過ぎだろうが!」
「私はローズだよ、まこと美しい名前ではないか、それにジョゼフも悪くない、というかツッコむところありすぎだな君の言動」
「私、フランソワではなくソフィアと言う名前でして、間違ってもマシンセルは作ってないけど」
「ケッ!」

言うと、純は鋭い目線で三人を睨む冷治に視線を向ける

「お前がどういう奴なのか俺は知らん、だが諦が来るまではここに居てもらおうか・・・」

純は言うと、手に力をこめる

「衝撃の力・・・、これが俺の力・・・、お前の原子の力も、俺の力の前には無力、
分子分解など、出来ようはずもあるまい」

言うと、純はその拳に白い光を輝かせていた

これが「衝撃」なのだろう

これを喰らえば、恐らく体が吹っ飛ぶ

冷治も必至で抵抗しようとする、がその前に一つ聞いておくことがあった

「俺は何故狙われる、黎治は、何を考えている?」
「・・・知らん、知っていたら尚更答えなかっただろうな、
まぁ、命は保証されるらしいからそれでもいいんじゃないか?」

違う

冷治は頭の中で純の台詞を否定した

命は保証される、という部分を

黎治はどういう奴か、冷治の記憶には残っていない

残されたのは名前、そして記憶から消さねばならないほど凄惨な事を、平気でやる奴だと言う考え

だからこそ、命の保証などと言う事をする筈が無い、捕まれば確実に、今でなくとも殺される

それも戦いの中ではなく、実験台として、死より尚凄惨な目に遭わされるだろう

それは、月江に対しても同じ事が言える、彼女の利用価値は今のところ自分を呼ぶ餌だが、

また別の利用価値に気付くとも限らない

それが何なのかは冷治には分からないし、無いとも限らない

だが表向きは真っ当な治安維持組織で通っている黎治の組織「ジャスティス」が、

実は相当に凄惨な事を平気でする連中だと分かれば奴の立場は無いだろう

だから、口封じに殺す事は十分考えられた

だから尚更、冷治は進まねばならない

だが、この純と言う男に対し、冷治は全くの無力であった

呪法刀を構えるも、その構えは力ない、刀は両手で握っているにも拘らず下を向いている、

足腰は激しく痛み、手は千切れそうだ

全身打撲の痛みと同等の痛みが今彼を襲っていた

(・・・なら解き放て)

(断る・・・!)

突如頭に響く黒い声、漆黒の意志

闇よりの誘いに、しかし冷治は抗う

今、奴に自分の体を明け渡したら、恐らく一緒に月江も殺してしまうだろうから

(俺を呼び覚ます以外に解決方法はない・・・)

(貴様は人質を取られても平然としている・・・!)

(そうだな、俺は人質ごと殺すが・・・、だが、だがらどうした?、
お前は、今のままで勝てると思っているのか?)

それは図星だった

黒い誘いに抗う間に、純はその拳を振り上げて、冷治の脳天に一撃食らわそうと突進を開始した

冷治の動きは遅い、闇の誘いに抵抗できても、この物理的な破壊に抗う力は無い

もう駄目だな、と冷治が諦めかけた時だった

―――ヒュッ

それは、糸を舞わせた様に軽やかに森を切り刻んでいった

そして純の白く輝く拳は彼の体ごと上空へ飛ばされる

浮く、彼の体は浮く、その高さ、目測からして5メートル

そして落ちる時には、その背中に巨大な分銅を叩きつけられたように勢いよく落ちて、地面と激突する・・・

それは確かな剣舞だった

それが確かに剣の舞と、そして体術を組み合わせた、完成された武術だった

それを放った者は、冷治の目の前に、何の前触れも無く、突如現われた

その男、翔飛は

「な・・・?」

冷治は状況が理解できなかった

何故彼が、諦が居たほうが断然理解しやすい

が、その謎は本人が直接答えを出してくれた

「諦さんが、助けろだってさ、
日香じゃあんまし戦力になりそうも無いが、俺なら安心だと」

翔飛は、実に軽い口調で言い放った

そして・・・

「おお、速い速い、流石は風の使い手、速さは俺以上だなぁ」
「何言ってるんですか、速さは、諦さんの方が断然高いでしょうが」
「おお、全くだ、しかしそれとこれとは話別」

諦は、いつの間にか冷治の後ろに立っていた、そして、ようやくに起き上がった純と、二人の男女を睨む

「・・・さって、純君、俺の相手はお前だ、
そして冷治!」

諦は、冷治の名を呼ぶ

「月ちゃんはお前が助けてやれ、まぁ、駄目そうになったら光速で純を片付けてから助けに行ってやるが」

言うと、諦は純の前に立った

「へ、それでこそだぜ・・・!」

純は、目にも止まらぬ速さで拳を放つ、諦はそれを、表情一つ変えずに受け止める

「あら、私達を敗れるかしら?」

その様子を見て、今まで事態を傍観していたソフィアとローズが、それぞれ武器を構えた

鎌と、爪、どちらも禍々しい形状をした武器だ

「そうと予測したから俺がいる、さ、冷治、早く行け!」

翔飛は剣を構え、ソフィアとローズに対峙する

「・・・・・・わかった」

冷治は至極不満そうな顔で、飛んだ

全身痛かったが、しかし文句も言ってられない、

今行かねば、多分月江は殺されるだろうから・・・

「真っ直ぐだ!、アホの気配が、その奥からするぞ!」

諦は行くべき道を示し、叫ぶ、冷治もそれには従い、真っ直ぐ翔けて行った

「・・・さて」

諦は純の拳を振りほどき、一気に後退して距離を取る

翔飛も銀に輝く剣を構える

対する三人も、それぞれ武器を持って構える

「戦いの、始まりだ」

諦のその一言で、真夜中の闘いは、始まった




















次回予告

一番大切なもの、

やっと通じた想いの為、冷治は走る

走って、走って、そして戦う

一方、諦と翔飛は、その剣を舞わせ、

大地を揺るがし、命を弄び、赤の傀儡を操る者達を圧倒していく・・・

そんな中、遂に本当の戦いは始まる

冷治はその身に宿る焔の闇を呼び覚まし、

黎治は四つの力を操り、血を流し合う

月江はただ見ているだけ・・・

次回

「堕ちたる者の、煌きよ」















FX「時間かかりましたなぁ」
諦「まったくですなぁ」
FX「実は当初、翔飛君を出すつもりはなかったんですが」
諦「ほう」
FX「いつも三文以下の静谷諦じゃ面白くないから出しちゃった」
日香「私の出番は?」
FX「次に期待してください、多分戦いはしないでしょうが」
日香「焼殺」
FX「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
諦「いやはや、まったりとした殺られかたですなぁ、そんな吾輩もまったり・・・」
翔飛「いや、まったりするべき時なんですか?」
諦「いやはや、まったりしましょうや、ろう・ふぁみりあ様も、まったりと次の話待っていてくだされ」
翔飛「結局、そういうオチですか」

 


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