父さんが死んで、母さんが死んで・・・

それでも私には、心の支えがあると思っていた

彼女は、私にとってかけがえの無い人だと、そして彼女もそれは同じだと、思ってた

信じていた

でも彼女は、私を秤にかけた、そして私は落とされた

大切な者を失う苦しみなど、知らない連中より、私は軽い事になってしまった

私は裏切られた、表には出してないけど、今も私は彼女を恨んでいる

表面から見て、仲の良い姉妹だな、友達だなって思われてるみたいだけど

そして今も尚、救いを求めていた、そんな時、

彼に、出会った

私と同じように、救いを求めている人に・・・



DARK SIDE
第4話
げられたい」



今、彼女達は現実味が限りなく薄い所にいた

彼女達は巻き込まれた側であるから、巻き込まれた時声など出せなかった

だが、彼らは違う、彼らは巻き込んだ側、なのだろう

そして何より、彼女たちが思う現実味の無い世界で恐らく、生きている存在だ

翔飛は、幼い頃より「能力者」としての英才教育を施されてきた、

冷治は、呪われた宿命の中に、「能力者」としての現実を突きつけられていた

そして諦は、「能力者」となるべく運命と宿命を背負い、平然と出来る、それが彼の普通なのだろう・・・

だが二人は違った、「能力者」として、力ある者として生きる事になろうなど、

あの日まで思っても見なかったし、あの日以来、自分達の中に芽生えた力を、

多用もせず、「普通」を装って生きてきたのだが・・・

しかし、立て続けに起こった事件は、彼女たちを平穏な現実から引き離していた

そしてその事象は、縺れかかった二人の絆を引き離すのに、十分すぎた














まだ日常の中の、教室の中で、喧騒がどよめく

「・・・・・・」

しかし、おおよそ大半が、何気ない話に花咲かしている時、確かな沈黙は流れていた

方や、黒い髪の冷たい少年、方や青い髪の静かな少女

二人とも、人込みは嫌いだった、そして喧騒も嫌いだった

だから、休み時間の教室と言うのは一種の地獄なのだが、

外に出る気にもなれない、廊下も別の教室も、これと同じなのだろう

気分が悪くなる

頭が痛くなる

吐き気がする

まるで自分だけが疎外されている、言いようの無い孤独感を紛らわすには、

やはり何かすればよいのだが、その何かさえ思いつかない

そしてその沈黙は、始め、ただの思い込みだと思ってきた事が、事実となり、彼らは、

確実に学級と言う一つの輪から疎外され始める

疎外されれば、もう後は、その存在を消去するのは容易な事で、

自殺なり、登校拒否なり何なりしてしまえば、もう誰も覚えていない、

事後、何日か、喜ぶ連中が喜ぶだけだ

無論それを歯止めする為に教師が居るのだが、

小学校レベルなら聞き分けもいいから助かる、だが中学、高校ともなれば、

聞き分けは悪くなり、どんなに厳しく叱っても、恐らく身体的な制裁を与えたとしても、

何度でも同じ事は起こるのである

そして二人は、その過程の中にいた

もうすぐ存在が抹消されるのだろう、二人とも、そう言う事は自覚できていた

「・・・・・・」

少年は何気なく机に目を向ける

そこにはただ、机の木の板があるだけだ

無気力、とはこの事か、時に激しい憎悪に駆り立てられる、

それを抑える方が、何かしている気分で楽だった



















「仲が悪い?」
「うん・・・」

放課後、翔飛と日香は、学校の裏庭にきていた

日香が呼んだのだ、翔飛は、今日は部活が無いのであっさり承諾した

彼はてっきりこの前の続きを聞かせてくれるものだと思っていたが、

その内容は予想とかなり違っていた、

ただ、無視する事の出来ない重要な内容と言う事は分かった

「他の子が、月江の悪い噂ばっかり立ててて・・・」
「根も葉もないんだろ?」

翔飛の問いに、日香は無言で頷く、

いつもの明るい彼女も、今日は暗かった

「疎外されてるなって、思い始めてたと時から、どんどん彼女の様子がおかしくなってたのよ」
「そうなれば普通はおかしくなるもんなんだろな、けど、どういう風に?」
「なんか分かんないんだけど、凄く、ストレートに悪意を突き立てられてる・・・」
「いやぁ、バッサリバッサリ、よくもまぁこんな所で愛せるものですなぁ」

因みにバッサリバッサリに意味は無いぞ、と親指を立てながら、

諦はいつものように、聞こえよくても神出鬼没、聞こえ悪くても神出鬼没に現われる

「あんたは、どうしていつもいつも・・・」
「日香、一応、諦さん、先輩だけど・・・」
「先輩?、五年もダブってる奴は実質上先輩でも後輩よ」
「いや俺、三年」

因みに日香と翔飛は二年だ、ついでに諦は、一応、ダブってない

・・・一応

「まぁとにかく、その話、無関係じゃないな」
「あんた、世界最強のお笑い芸人の異名を欲しいままにしてるでしょ?」
「俺じゃねぇ、冷治だ冷治」

諦からその名が口に出たところで、二人は手をぽんと叩き、納得する

「んじゃ聞かせてくれ」
「嫌」
「殺生な・・・」
「日香、別にこれは聞いてもらってもいいんじゃ・・・」

翔飛の説得で、日香は納得してないが、渋々話し始める

「まぁ、他人から見ればわかんないけど、私達、二人で暮らしてるじゃない、
だから、お互いよくわかってるつもりだけど、けど・・・」
「んー、今までの話から察するに、月ちゃんが虐められてるので助けたいが出来ない、という事だね、うん」

一人、諦は納得していたが、しかし日香は何も言い返せない

言い返す言葉が見つからないのだ

何故ならそれは、事実だから

「俺のニュータイプ能力、じゃ無く、念動力で、日ちゃんの頭の中全部読みあげようか?」
「殺して欲しいのかしら?」
「諦さん、こんな時までユーモラスはやめてくれ」

方や説得、方や脅迫で、諦は舌打ちして、だが話し始める

「要するに、日ちゃんの友達が虐めてるわけだ、
そして日ちゃんは、友達との関係を壊したくないからそれを見逃しちゃってる、と」

諦がいつものように軽い口調で喋り終えると、直後、日香の鉄拳、+炎付きが飛ぶ、というか頭を掴んでいる、バーニングフィンガー?

どうやら能力者としての立場というか要領は、得ているらしい

「俺、なんか言った?」
「当たりまくりで腹立つわ」
「日香、それ以上すると本当に諦さん死ぬ・・・」

翔飛が、暴走した日香を止めようとすると、諦は鼻で笑って

「・・・で、月ちゃんはきっと日ちゃんが、自分を助けてくれるって思ってる訳だ」

諦はそう言うと、日香の拳の威力は、さらに強まる、握り締める音が、僅かながら聞こえるほどに

日香は元々運動は出来る方だが、こんなに強い握力は無い

それなのに彼女がこんなに強く握れるのは、怒りだ、

怒りが彼女の肉体能力を一時的にではあるが上昇させている

「・・・だって、月江は一応姉だし!、一人でも大丈夫って、納得しなきゃいけないのよ!?」

ようやく手を離すと今度は、激しい声で離し始める

「・・・翔飛、頼んだ」

その様を見て、諦は、翔飛の方をぽんと叩く

「俺じゃ殺される」

諦の目に恐怖の色は無かったが、しかし彼女を説得できるのは翔飛だけだと思ったのだろう

だから彼に、代わったのだ

翔飛に全てを託すと、諦は現れた時と同じく、気配も感じさせぬままに消え去った

「・・・日香、つまり、どういう事だ?」

翔飛は、日香の方を向いて話す

その時初めて、彼女の目に涙が称えてあったのに気がつく

「・・・月江とね、私の距離が、離れすぎちゃってるの」
「・・・・・・」
「私の方から近づけるけど、でもそうしたら一層、皆の彼女に対する差別意識が強くなるの」

そう言って、日香はぐっと拳を握り締める

かなり、辛い思いで話していると言うのが分かる、翔飛はそれを、黙って聞く

「でも私は、多分皆を説得出来るし、出来なくても、月江の側にいる事だって出来る」

そう言う話は、姉妹の話ではない、そもそも双子だった彼女たちが、

親の死をきっかけに、(中学卒業まではそれでも親戚の家に厄介になっていたが)

二人で共同生活を始めていた、だから彼女達の間は、むしろ親友と呼ぶべきだ

「・・・秤にかけた訳だ」
「・・・・・・」
「友達を取るのか、月江を取るのか」

それまで黙っていた翔飛が口を開く、その言葉は、日香の心を深く刺す

翔飛だって、自分が日香を傷つける真似をしているのはわかるが、しかし止めてはならなかった

これは多分、解決しなければ二人の将来に関わる問題にもなりそうだから

「かけちゃいけないもの?、姉と、友達は、価値が違いすぎる?」
「かけるなとは言わないし、助けてくれない事を拗ねている月江を弁護する気は無いけどな」

翔飛は一瞬、間を置く、話す事を、躊躇っているようだ

「自分の苦しみを知っているものを秤にかけて、あまつさえ突き放すのは、
きっと君が悪い」

翔飛の口から放たれた、冷たい言葉、いや、彼にも優しさの念はあったかも知れないが、

しかしそれは、純粋に日香の心を傷つける

「だが、救われない事を拗ねている、月江も悪い」

翔飛はそう言って、一度、大きく溜息をつく、

彼に、ジャッジは不可能だった

自分に託した諦に申し訳ないな、と一瞬、刹那の間、思う

「・・・クス」

次の言葉を考えている翔飛を見ながら、日香は少し、笑った

「?」

その様に、違和感があったのだろう、きっと、泣いて飛び出すものだと思っていた

「真剣に考えてるんだ、本当に」

そう言いながら、日香は翔飛にもたれかかる

翔飛は日香を、さっと受け止める

「当たり前だろ」
「はぁ、じゃ、前の続き、言おうか?」

日香は穏やかな顔で、翔飛に言った

翔飛も次の言葉が何なのかわかっているが、しかし黙っている

「あのね、私・・・、あなたが」
「おーい!、諦さーん!!!」

その最後の一言を、言いかけたその時だった、

ただの叫び声、ただ人を呼ぶ声、

ただそれだけの声が、何よりも憎く聞こえた

一瞬の内に二人は距離を離す、翔飛の方は少し顔を赤くしているが、日香は、違った

「お、二人とも、諦さん見なかった?」
「連れてってあげるわよ」
「へ?」
「諦の住んでる所に、地獄に、因みに片道」

タイミングとは、上手くすれば大成功の元、一歩踏み間違えれば地獄直送の、

とてつもなく危険な、博打だろう

きっと南部も、ジョーカーを切る時はタイミングを見計らってるに違いない

・・・ナンブ






チェーンソーの響く音、骨が切断される音、そして宗吾の断末魔が響いたのであった・・・











「・・・所で」
「何?」

もはやこれ以上は無いと言うほどの惨状を作り出した日香に、翔飛は恐る恐る声をかける

「諦さんは、何を考えているんだ?」
「下品な妄想」
「いや、それは違うと思うぞ」

日香が目を座らせながら言い放った言葉を、翔飛は抵抗しながら否定した

「ま、とにかく、諦が何考えてるなんて、わかんないわよ」
「・・・それもそうだな」

二人、妙に納得して、そしてもう雰囲気滅茶苦茶なので、ここで別れた
















その光景は、諦によって監視されていた、廊下に立つ諦によって

「フ、やはりワシの予想通りであったか、
ならば・・・」
「何やってる?」

彼の者の口調を真似なる諦に、冷治は呆れ気味に声をかける

「いやぁ、自分から声かけるなんて、嬉しいぞぉ、ぶらざー」
「・・・・・・」

諦がそう言うと、冷治は思い切り無視して、その場から立ち去ろうとする

諦も、引き止めはしなかった、引き止めはしなかったが・・・

「冷治、せめて自分を責めるのはやめろ」

ただそう言った、冷治はやはり無視をしたが、心なしか、歩調が強くなった気がする

「・・・ついでに、そろそろ気付いてやれ」

さらに諦が台詞を追加すると、冷治の焦りとも怒りとも付かぬ、

ただ憤りは感じられる歩調は確実に感じられるようになる

冷治が通り過ぎた後、諦はフッと笑う

「俺も世話好きだな、ま、性は性だからしょうがないか、読みを違えれば洒落だな」

それだけ言うと、冷治が進んだ方向とは逆方向に向かって、歩き出した


























冬を告げる木枯らしは、身を凍えさせる

立つ事すらままならぬ、動き回れば楽になるが、動き回る力も無い

上着を一応着込んでいるが、しかしそんなもので寒さを防ぐ事は出来ない

吐く息は白く、全身が僅かに震えているのが確かに分かる

もう、何時間こうしているのだろう

使い古した、合っているかどうかいまいち自信のない腕時計を見やると、

短針は五と六の間、長針は六をさしている

五時半、彼女がこうしだしてから、もう、一時間半も経っていたが、彼女にとっては何時間という長い時間に感じられる

この寒空の下、一人は寂しかった、そして、心細かった

・・・家の鍵を忘れてしまったのだ、入ろうにも入れない

彼女は、月江は、いつもは自分が持っている家の鍵を、忘れていた

スペアは日香がもっている、いつも先に帰る月江が先に開けるので、彼女が使うことは殆ど無い、

持っているというだけで、ただそれだけなのだが、今の彼女には唯一の希望だ

が、その希望に抵抗を覚える

自分のかけがえの無い「妹」であり、「親友」である者に、今は嫌悪感を抱いてしまっている

月江は一度息を吐き出すと、家を見上げる

かつて、二人はこの家に住んでいた

両親の死後、親戚の家に引き取られた彼女達だが、中学校を卒業し、

ある程度自立できるようになってからは、親戚の援助を受けながらも、

二人で共同生活を送っていた

その際、まだ誰にも買い取られていなかった、この家に住めた時は、

心の底から嬉しかったのを覚えている

この家には思い出があった、様々な思い出が

両親との記憶が、その中で最も、鮮やかに輝いていた

親戚の家から引っ越す時、二人でかつて楽しかった思い出を語り合いながら、作業を進めていたのを覚えている

だが、それから暫くして、二人の間は急速に広がっていった

人当たりがよく、人望の厚かった日香に対し、寡黙で、陰険な雰囲気が強かった月江は、次第に疎外されていった

一年も経てば、立派な悪者扱いらしく、

重大な校則違反をした訳でもないのに、生徒会の監視を付けられたり、大いに不愉快な思いをしていた

だが、一番不愉快だったのは、日香が庇ってくれなかった事、

姉だから、妹に庇ってもらわず一人で何とかする、今までそう自分に言い聞かせてきた、が、もう限界だった

冷たい視線と陰湿な陰口に嫌悪を感じていた




















この手は冷めている

冷治は、自分の手を見つめる

今はもう、六時になりかけていた

彼は自分の部屋で、自分の手を見つめていた

この間、ついに血で汚れた自分の手を、嫌悪と、そして言い知れぬ不安の目で見つめていた

この手は冷めていた、彼は生まれてこの方、一度も、人の体温を感じた事は無かった

例え向けられたとして、彼がそれを感じる事は無かった

彼がこの家に来たのは、随分昔で、

最初、瀕死の状態だったのを、この家の長男、というか一人息子の諦が拾ってきて、

そしてそのまま居ついてしまった

この家の両親は大企業を束ねているらしく、いつも家には居なかった、そして諦も、いつも家にいなかった

そして使用人すら居ない、

最もこの家は、大企業のトップと言う立場からは絶対にありえない、究極的に庶民的な家で、

閑静な住宅街にポツリと立っているだけだった、何故かはわからない

だから冷治はいつも一人で家に居た、昼食か夕食かに、諦は帰ってくるが、

すぐに出かけてしまう、諦の両親は、いつも冷治が寝静まる頃に帰っていた

諦は、極力冷治と接触しようとしたのだが、しかしその人の道を外れた破天荒な行動に、彼は嫌悪感を抱いていた

そして彼が元いた場所は、思い出したくも無いほど凄惨な場所であった

結局、彼は、誰の絆も感じられることも無く17年、生きて来た

もしかしたら向けられていたのかもしれない、少なくとも諦は、

冷治と接触を取ろうとしていたのだが、しかし彼は拒絶しか出来ず、

結局、一人で過ごしてきた

冷治の手は、今も冷めていた、そして彼の心も、一生他人との関わりを知らぬまま過ごすものだと思っていた

少なくとも今日、この日までは・・・



















もう、あたりは真っ暗だった、六時だと言うのに、冬場は日が沈むのは早い

街灯の明かりがついているのでそれほど暗く感じない、だがこの寒空の下で、

こうしているのは耐えられなかった

こうしているのは・・・

「あ・・・」

不意に、声がする、月江は声のした方を振り向く

日香が居た、これで何とかなると思った、のだが・・・

彼女の背後には、友達が何人かいた、

暗闇で顔を察する事は出来ないが、皆、不愉快な顔をしていると言うのはわかった

「・・・・・・」

言葉が出ない、お互い、言いかけようとした言葉を出せないでいた

張り詰めた空気が、過ぎる、

恐らくそれは短い時間だったのだろうが、しかし、二人にとっては、長い間だった

「ねぇ、日香、こんな所で立ってないで、家に入ろうよ」

それは彼女の後ろの誰が言ったのかはわからない、

ただそれで、月江の行動は、決まった

「じゃあね・・・」

それだけ言うと、彼女は暗闇に向かって駆け出す

日香は止めようとした、しかし制止の言葉が、出なかった

―――自分の苦しみを知っているものを秤にかけて、あまつさえ突き放すのは、
きっと君が悪い

そして、翔飛に言われたあの言葉を思い出す

「感じ悪う・・・」

友達が言い放つ、無情な一言、

そこからさらに残酷な言葉が放たれるのを、彼女は恐れた

「さ、家に入って・・・」

日香はそう言う、そうでしか、残酷な言葉を止めることは出来なかった

ただ、自分の心はどうしようもなく痛かった





















冷治は、今は何も考えず、歩いていた

手は、ビニールの袋を握り締めてある

夕飯を買いにいくのだ、

いつも、自分の分量だけ作るのだが、今日は作る気が起きず、

即興で作れるものを買いに行っていた、今は帰りだ

彼は何も考えていない、何か考え事をする度に嫌な事を思い出しそうだから

そんな道中・・・、予期せぬ事は、起きた

冷え込んだ風の中、人通りは極めて少ない、いや、皆無だ、

そして冷治自身、こんな自分に、誰も通りはしないだろう、

ましてや、こんな寒い日には、

と勘ぐっていた、が、そこに、人影があった

暗闇の中、僅かにうごめくそれは、こちらを向いてはいない、

寒さの中、震えるそれは、こちらに気付いてはいない

冷治は、その何かが気になって、近づく

「・・・」

僅かに街灯で照らされたそれは、確かに見覚えがあった

こんな中、目立つ服は上着一枚という明らかな薄着の、上に見える青く輝く髪、

僅かに、泣き声が聞こえた

「・・・何をしている」

冷治は、淡々とした口調で、それに向かって言い放った

それは、彼女は、月江は・・・、

冷治に声をかけられると、涙で濡れた顔を向けて、彼に、抱きついた

冷治は、最初、状況を上手く理解できずにいた

ただ、冷たく凍った彼女の体温だけは、確かに感じ取っていた・・・




















暫く、冷治の胸の中で月江が泣いた後、

二人は諦と冷治の家に行った

月江は事情など話さなかった、冷治も何が起きたのかは考えなかった

ただ、帰路でも、彼女は泣き続けていた















冷治の部屋の中は、暖房が聞いておらず、冷えきっていた

冷治は、すぐ側にあるストーブの火をつける

「暫くしたら、暖かくなるだろ・・・」

彼はそう言うと、店で買った菓子パンを口にくわえて、ベッドの上に寝転がる

月江は、顔を沈めた状態で、何も話さなかった

冷治も何も聞かなかった、ただ、ベッドの上で横になっていただけだ

(そう言えば、諦はいたか・・・?)

不意に、彼の脳裏に諦の姿が浮かぶ

悪寒がした、こんな状況を彼に見られてはたまったものではない、

冷治は勢いよくベッドから飛び上がると、諦の部屋に向かった









「あれ?、いない?」

諦の部屋に入ってみると、そこはもぬけの殻だった

恐らく説明などつくまい、無数の正体不明の物体が転がっている部屋だが、

そこに人の気配は無い

「ん?」

冷治はふと、床に投げ捨てられた紙切れを手に取る

何か、文面が書かれた跡っぽかったので、それを拾った

広げてみれば、案の定、彼の行方を示す手がかりであった

「遂にくぅぅぉ(こ)の日がやって来た
俺は自ぁぁぁぁぁらの魂とエレグアァァ(ガ)ントさを求める為、
神々のぉぉぉう城を訪れる事にする
夕飯は好きにしてくれ
          我が崇高なる兄貴 諦よか」

・・・と、かなり汚い字で書いてあった、読める自分が奇跡であった

「・・・・・・」

冷治は何も言わず、紙切れを丸めてゴミ箱に捨てる

「どうしたの?」

不意に、背後で声がした、

冷治は反射的に振り向く、そこには、月江の姿があった

「・・・諦はいないらしい」
「そう・・・」

そう聞くと、彼女の顔は心なしか、明るくなる

「えっと、諦さんの両親は?」

恐らく、短く「両親」とでも言いそうだったのだろうが、彼女は言葉を選ぶ

冷治に、血の繋がった家族の話は禁句だ

「居ない、大きな行事でもなければ、会わない」

諦の両親は大企業のトップだ、

こんな閑静な住宅街に住むなど考えられないほど豊かだし、

それ相応に忙しかった

帰ってくるのは、週に三度とない、

しかも大抵、冷治は寝静まった頃に帰ってくる、

起きる頃には、朝に食べる軽食を置いて、仕事に出てしまう

何か大きな行事とか、用事がある場合は顔を合わせるが、殆ど赤の他人といった感じだ

最も、人当たりは良く、諦並に意味不明だが、良心的なので、冷治もここにいられるわけだ

「・・・・・・」
「何だ?」

視線をそらして、黙り込んでしまう月江に冷治は違和感と、少しばかりの戦慄を覚える

「朝まで、ここに居て良い?」
「明日は学校があるんだが・・・」
「大丈夫、置き勉してきたし、諦さんの教科書とか借りればいいし」

彼女、成績は優秀なのだが内容は意外に悪どい、子悪魔的だ

因みに諦は三年なので、二年の時の教科書を置いている可能性がある

「・・・やめておけ、教科書としては使えん、
殆ど、奴の落書き帳だ」
「じゃぁ、どうしたら良いの?」
「・・・俺のを借りれば良いだろ・・・」
「・・・良いの?」
「構わんさ・・・、一日や二日、教師に怒鳴られたくらいで留年はせん、よほどの事がなければ」
「そう・・・」

言うと、彼女はすぅと、一度、息を吸い込む

「あのっ・・・」

何かを言おうとした、彼女は、しかし冷治は皆まで言わせず、彼女を抱きしめる

「・・・言うんじゃない、後悔しかしない・・・」
「・・・・・・」

冷治の顔は無表情だった、この状況下にあっても、いやだからこそか、

冷静なポーカーフェイスを崩しはしない、

ただ、何かを訴えたい、そんな顔はしていた

「・・・抱きしめといて、そんな事言わないで・・・」

月江は、抱き返す、多分、冷治よりも強く、抱いている

「・・・寒いのよ、全部」
「・・・だろうな」
「・・・助けて欲しいの」
「俺では君を救えない」
「どうして?」
「俺は自分も救えない奴だから・・・」
「でも、それでも、私は・・・」
「・・・・・・」
「あれ・・・?」

冷治は寝ていた、限りなく不自然ではあるが、寝ていた

疲れている素振りも見せなかった、が、体から何かが抜けてしまったように、静かに眠っていた

「・・・好きだよ、きっとね・・・」

月江は彼の耳元でそう呟いたあと、

彼を部屋まで運んだ



・・・その日は、月江が床の上で寝た・・・






















「はぁーん、ははぁーん、素晴らしきー、素晴らしき神々の城ぉーん」

奇妙奇天烈な不協和音を放ちつつ、諦は夜の街道を歩く

黒づくめのサングラス姿は、三百六十度どこからどう見ても、不信人物である

そんな諦の前に、一人の男が立つ

同じく黒づくめだが、スーツではない、

その男の黒は、夜の闇にあって、尚黒く目立った

「ふぅーん、ふふぅーん」
「おい貴様」
「髪はー、ころされたー、リュウ達によってぇー」
「・・・その皮肉めいた歌はやめろ、所々間違ってるし」

男は、はぁと溜息を付くと、諦の行く手を塞ぐように、というか塞ぐ為に立ちはだかる

黒、まさにそこにはそれしかなかった

その童顔の、一見すれば優しそうな目をした男の姿は、

しかしその短い漆黒の髪は、光すら反射しない

そして、得体の知れない邪気が、男を中心に立ち込めていた

「何のようだ?、やっぱ俺の体を依り代とするか?」
「却下、最も、今使ってる体も危険になってきたが」

男はかなり不満そうに言う

大して諦の顔は、そのいつものようにふざけた口調とは違い、目が据わっていた

「・・・お前、もしかして雰囲気を・・・」
「大事な所を言わせる前に寝かした、愛情が俺にとってどれだけ苦痛か知ってるだろ?」
「相変わらず、女の子苦手なのね」
「女に関わると、ろくな事がない」

今度は、その顔にかなり怒りを浮かばせる

なんか、色々と経験があるらしい

「・・・で?、何の用?、俺も嫌いでしょ?」
「そうだな、大嫌いだ、お前の義理の弟よりも尚、お前を憎んでいる」
「それは君が負の塊だからさ♪、君から“黒”を取ると、何も残らないし」
「そうだな、認めたくないが事実だ」

男は常々、不満そうに言葉を放つ

「・・・貴様、いつまで遊んでいる?」

・・・が、その言葉は、一転して真剣なものだった

溜息をつくか口を尖らせるかだった男の顔も目が据わっている

「・・・遊び?、遊ぶことは大好きさ、楽しいし」
「ふざけるな・・・、俺は、貴様の力を知っているんだぞ」
「・・・“滅び食い止める者”の?」
「俺だってそうだからな、最も俺は「終末を呼ぶ者」だから、その名を冠するのは矛盾だが」
「矛盾ってな、矛と盾って意味だ、矛をストライク、盾をイージスってするとだな」
「・・・いい加減、ふざけるのもやめろ、
その自らの欲望を自在にコントロールすることで、全てを超え、
神すら超え、認めたくないが俺すらも超えた存在・・・、
静谷諦、この宇宙で、貴様に勝る存在など無い筈だ」
「要するに、全部速攻で終わらせろって意味?」
「お前なら可能な筈だ、本拠は割れてるのだろう?、
なら表にも裏にも出る事無く、ただの一つの事故に見せかけて事件の主要人物全てを消す事も容易い・・・、違うか?」
「だって、その主要人物がわかんねえんだよ、俺だってエスパーじゃないし、あ、ニュータイプだけどな」
「だからな・・・」

諦のふざけた態度に、男の手は震える

最も、双方、目は据わっているが

「・・・なら、ボスが出てきてからでも遅くはあるまい?、他は知らんが、お前ならば」
「て言うか、お前が向こうから実体を持ってきた方が早いじゃん、労力もかからない」
「・・・断る、面倒だ、第一労力ってなぁ、次元の壁を越えるのがどれだけ大変か知ってるだろ?」
「うーん、俺も面倒だし、第一、俺もお前と同じ行動理念で動いてるし」
「同じ・・・だと?」
「胸くそ悪い奴は、とことんまで調子に乗らせてから・・・、一気に地獄に落とす」
「俺は、とことんまで追い詰める方だ・・・」
「あ、違うの、そうなの」

諦はそう言うと、男の横を通り過ぎようとする

その時初めて、目を閉じるという、表情の変化を見せた

「・・・俺は、自分の命以外失うものは無いだろう、
だがお前には、自分以外に失うものがあるのではないのか?」
「お説教?、君も暇ね」

だが、男に呼び止められ、再びその目は据わる

「・・・忠告だ、
所詮、お前の力は、局地的な誰かを守る為の存在しているわけではない、
大多数を守る為に、局地的な部分を犠牲にする力だ、
俺はそんな力の使い方が神みたいで嫌いだから、全てを破壊する力を選んだ」
「ご忠告ありがとさん、ただ、一つ、詭弁を垂れ流してるね」
「唯一の絶対神はGとか言うなよ」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ではな、明け方頃には戻っている」
「あそ、お互い、仲良くやろうぜ、何たって、同業者なんだから」
「却下」

男はそれだけ言うと、暗闇の中に消えた

「あ、という事は家に居るのか、月ちゃん、
はぁ、野宿は辛いよ・・・、ルルルゥー」

そして、まるで何事も無かったかのように、響いたのは、やけに不快な不協和音だけだった・・・











諦には誰も勝てない

だが諦はそれを嫌う

むしろ、待ち望んでいたのかもしれない、

自分を倒せるものを、自分と同じ精神で、自分を超えられる存在を

第5話

「待ち望むは宿敵なり」


「お前は、そう、衝撃のアルベ・・・」











月「・・・・・・嘘予告、嘘サブタイトル・・・」
F「さぁ、第2次αで進むのかこの小説!?」
?「俺のところも進めろや、リメイク前も散々言っていたが」
F「良いの?、あの人だよ?」
?「・・・・・・」
月「嘘予告、嘘サブタイトル・・・」
冷「まずこちらを何とかしろ、へっぽこ」
F「へっぽこ言うな!、ポンコツ言え!」
諦「お前、日和ってないし、てか男のあだ名じゃない」
月「死ね」
F「あ、短く切られたほうがむしろおそろし、ぎゃえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
日「これで終わりはしないわよ♪」
F「死、死ぬ?、俺が死ぬ!?」
日「むしろ死ね」
F「にょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

諦「ところで」
冷「・・・」
諦「あにぃとか、あにちゃまとか、お兄様とか、兄上様とか、兄君とか(以下略)言うなよ、妹じゃないから」
冷「お前も一緒に死ね、ついでに、永久に言うかぁぁぁぁぁ!!!」
諦「兄さんは可能、エルザム兄さあぁぁぁぁん!!!」



エルザム兄さんの曲好きです、マジで

えっと、今回はかなり自分の事書いてる気がする

なんか、深層意識が云々とか

まぁ、現実は生きていてかなり辛いです、孤独で居たいのにそれを許さない周囲とか

あと、知らず知らずの内に他人傷つけている自分とかも自己嫌悪

多分、傷つけあわない関係なんて成り立たんのでしょうが、それでも嫌です

以上、FXのあとがきでした

尚、FXとはGビットよ、Gビット、サントリーFXネオじゃないからね、あ、これグランゾン


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