力を持つ者は、利用するか、されるかの、どちらかしか選べない・・・

完全な第三者を装いつづけることは不可能だ、何にも関わらずにいる事は不可能だ

何故なら力を持つというのは異端であり、

異端は排されるか、利用されるかして俗人の中に埋もれてしまう運命にあるからだ

だから、彼らもいつまでも力無き非力な俗人を演じることは不可能の筈だ

人々から、大衆から「力」が消え失せてしまった時点で、

残った力持つ者は、長き鎖に縛られる事になる

しかし、その鎖を解こうとする者がいる事も、また事実

だが、その者の行いが果たして正しいのかは、また別の問題ではある・・・



DARK SIDE
第3話
烈風



例えどんな惨劇であろうと、天変地異でもなければ朝は、いつも通に来るものだ、今日も例外ではない

「ふぅ・・・」

冷治は頭をかきむしる、

その手には新聞、彼は普段から新聞を読む性格ではないが、

しかし今は違っていた

あの惨劇から、既に三日が経過していた

そのトラウマはやはり冷治を苦しめている、自分に実感が無くとも、多くの人間をその手で殺めてしまった、憤り

それを知られてはいけないものに知られた、苦しみ

そして、自分の中に湧き出る何者ともつかぬ、別の意思が自分を支配しようとする、恐怖

せめてあのことが事件となり警察が動き出せば、自分が自主でもして・・・、と思ったのだが、

どうやら前出した死体は全て、始末されたようで、

新聞にもそれらを報じる記事は一切、無い

死体そのものは待機させていた他の仲間が回収させたとして、

飛び散った血痕は、あの「血」を操るふざけた男が回収したのだろう

これならば、すべての証拠を隠滅できる

別の紙面を、くまなく読み、あの出来事が全く報じられていないことを確認すると、

冷治はある種の憤りと安息感を感じながら、新聞をとじた

―――ピンポーン

ピク

外部からの、呼び鈴に、冷治は眉間にしわを寄せる

恐らく、諦だ

あいつはとにかく阿保の極みを言ったような男だ、何でもしでかす

しかも前に、阿保とか言うと、だからお前はアホなのだ云々・・・

とにかく、外部からの来訪者に見せかけて「びっくり箱」とか置いて行きかねない、

しかも中はスタングレネードとか言うのだからとさかモノだ

と言うわけで、冷治は昨日貰ったばかりの刀を手にする

そして気配を感じさせぬようゆっくりと厳寒に近付いて行く

―――ピンポーン、ピンポーン

呼び鈴は、今も鳴っている

「諦、お前が与えた武器だ、後悔するなら自分を・・・」

そして、今まさに玄関の扉を開き、外の人物を刺そうとした時であった

「冷君、いるー?」

聞き覚えのある声、月江だ・・・

「いや、あいつならボイスチェンジャーの一つくらい・・・」

冷治は意外な声に一瞬止まるが、しかし自分を納得させて、再び刀を構える

「開いてるって聞いたから開けていいよね・・・」

・・・が、冷治が刀を突き出す前に扉は開かれ、そこにはやはり、月江がいた

・・・因みに、いくらなんでも諦は女装はしない事は、付け加えておく

「うん、某雲・ストライフとかみたいだしな!」

「・・・なんだ、一瞬悪寒が・・・」

冷治は額に手を当て、熱が無いかどうかを確かめる

「・・・どうしたの?、気分、悪い?」

そんな冷治を見て、月江は心配そうに顔を覗き込む

「見るなっ!」

そんな彼女に対しての冷治の態度は冷たかった

怒りを露に彼は罵声を上げる

「ご、ごめんなさい・・・」
「いいか、俺に関わるな・・・」

自分のせいでおこられたと重い、自責の念に駆られる月江に、さらにトドメの一言

「でも、私は・・・」
「・・・」
「・・・」

沈黙、月江が何を言いかけようとしたのかは気になるが

「・・・俺がやったと思っているのか?」
「・・・え?」
「昨日の事は全て、俺がやったと思ってるのか!?」

半ばヒステリーになりながら、冷治は叫ぶ

月江の肩を握り、彼女の体をゆすぶりながら

「・・・」

冷治の、ある種悲痛な問いに、月江はかけるべき言葉が思いつかない

確かにあの状況下で、全ての原因は冷治にあるのだと思われて当然だ、

自分の中に妙な意識が出て来てそれが自分を支配した、なんて、

言い訳所か、異常者としてさらに厳しく言及されかねない

「あ、あのね、諦さんが、あれは十分言い聞かせたからって」

辛そうに歯を食いしばる冷治を見ながら、

月江はそう告げる

その言葉に、冷治は冷笑して

「俺ですら統制できないものを、なんであいつが言い聞かせられるんだ?、
あいつが不可能など無いとか言ってるが、それは自画自賛なだけだ!」

と、険しい顔で言い放つ

「・・・結構な台詞だな、冷治」

と、後ろで声がしたので振り返ってみる

「・・・お前が仕組んだのか?」
「だっておめぇ、俺の言う事聞かねぇだろ?」

冷治の怒りも含んだ冷淡な台詞に、諦が不満そうに指差しながら応える

「ま、悪い夢見たと思って済ませな」
「それで済むか!」

諦の楽観的な言葉に、冷治の怒りは頂点に達する

「前ので証明されただろう、狙われてるのは俺だ!、
父か、母か、兄か、誰が俺を狙っているのかは知らん!、
だがな、俺は狙われてるんだ!、いつ襲われるか分からないんだ!」

冷治の怒り一色の罵声、しかしそれは理にかなったものだ

「・・・なるほど、で、お前は巻き込みたくないと、
周囲を、例えば、月ちゃんとか」
「え?」

諦の台詞に、怒濤の展開に口が出せなかった月江がきょとんとした目で冷治を見る

「そんな訳無いだろう・・・、そんな訳・・・」
「でもお前は本当は優しい奴だ、
潜在的に、願ってるんだろ、巻き込ませたくないって」

諦は容赦なかった、その言葉は、冷治にとって苦痛以外の何者でもなかった

「・・・勝手に、勝手に言ってろ!!!」

冷治は叫び、月江を突き飛ばして玄関から外に出る

急いで出たので、履いた靴の踵を踏んだままだった

「・・・やれやれ、荒治療は効き目無しか」

諦は、失敗したという顔で、ふうと溜息をつく

「そういや、日ちゃんも力使えるそうで」
「ええ、諦さんが言うとおりなら、やっぱり親が死んだのが引き金になったんだと思う」
「でも弱いんだろ?」
「私のに比べれば、でも彼女のは炎を操るのだから、
彼女の方が強いって錯覚しそうになる」

と、軽く、しかし中身は実に重い談話を繰り広げる二人

「さて、今日は休みだ、因みに今日なんかあったか?」
「翔飛君の、大会があるわ」
「おう!、あれか、じゃ、お望みどおり冷治引っ張ってくるんで!」
「え!?、あ、あの!?」

月江に反論も口論も言わせないまま、諦は玄関から飛び出していった

・・・裸足で

「・・・冷君」

冷治の放った冷たい言葉、怒りの言葉の数々を思い出しながら、

月江は一人、寂しそうに呟いた























人気の無い路上に、冷治はいた

走ってきた為、息は切れている

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

荒く息を吐きながら、冷治は拳を強く握り締める

憎かった、自分が、

無関係の者を巻き込んでしまった、力の無い自分が

「よぉ」

そんな彼の背後に、諦はいつの間にか立っていた

・・・何故か靴も履いていた

「貴様・・・」
「・・・休みの日くらい有効に使えよ、
外に出るのは、悪い事じゃない、寒いと嫌だけどな」

冷治の言葉を遮って、諦は淡々と言葉を放つ

「んー、やっぱ俺は嫌な奴か?」
「当然だ、俺の中を覗こうとする・・・」
「やっぱそうか」

諦は、予測された答えに対してだろうか、

さほど気にする様子も無かった

「お前をここまで育てたの俺と俺の両親なのに、
何でこんな風に育っちまったのかね・・・」

諦は遠い目で遥か空の彼方を見上げる

「・・・まだ、覚えてるからだ」
「・・・・・・」
「まだ覚えてるからだ!、あの時の記憶を、
完璧を求められ、それが出来ないが故に殺されそうだったあの時を!」
「お前の両親、相当にヒステリックだったみたいだな」

諦は、怒りに駆られる冷治に対して、そう答える

因みに彼の両親は、子に負けず劣らずぶっ飛んだ思考をもっている

「・・・ヒステリック?、ただの馬鹿だ、奴等は!」

冷治の口調には、さらに怒りが篭る

彼にとって過去の事は、それだけ思い出したくない事だ

「・・・お前が昔、どんだけ辛い思いをして今ここにいるのかは俺には分からない、
どんだけ苦しんだかは、お前がその全てを言葉にしても理解する事は不可能だろうな」
「分かってるんなら・・・」
「そうさ、俺は人間の心の醜い部分は、想像の中にしかない、
だがお前は違うだろ?、お前は実物を見たんだ、だから苦しんでる、と」
「・・・・・・」

諦が全てを理解したかのように、しかし全てを理解出来る事は自ら否定して、

連ねる言葉には、冷治は反論できなかった

「・・・ついでにお前は野郎に慰めて欲しくない、と」

が、それまで淡々としたらしくなかった諦は、やはりいつものふざけた軽い奴に戻る

「俺だってそうだ」
「お前の事などどうでもいい」
「・・・だろうな、まぁ、俺は天才的なモテない素質を持っててね、
決して恋人なんか作れないんだが・・・、
お前は逆だろうな」
「なにが?」

ビシッと指を指す諦に対して、冷治は彼の言う言葉の意味を把握できないでいた

「・・・寂しがってたぞ、彼女」
「・・・人の心は見えないのではなかったのか?」
「前言撤回、俺が見えないのは醜い部分、感傷的な部分は、たっくさん、知ってるぞ」

やはり軽いノリで答える諦に対し、冷治ははぁ、と、溜息をつく

「・・・で、何をさせに来た」
「だから、休みの日くらい有効に使おうぜ、
付いて来い、大会が始まるぞ」
「なんの?」
「剣道」
「なんで・・・?」
「飛べる君が出るから」

諦のやはり軽いノリの返答に、

冷治は納得する

確かにそれは、いかにも諦が引っ張り出しそうな事だ

「あと、今度からは月ちゃんに優しく、てのはいきなりは無理だろうが、
まぁ、なるべく怖がらせてやるな、そうすりゃ多分、彼女ならお前を慰めてくれるだろ」
「・・・・・・」

諦が言い放った言葉に対し、冷治は何も答えなかった

答える事は出来なかったのだろう

いまだ、自分の心の傷を癒す存在など、無いと思っているからだ




















そしてそのままの流れで、会場まで来た二人

「・・・結局来たが」
「入る気無しってか?」
「ああ」

言って、冷治は振り返る

「待て!、そんな身も蓋も無い事を!、
せめて一試合でも見ていけ!」
「いずれにしたってこの学校が勝つ見込みは極めて低いんじゃ・・・」
「飛べる君が一発逆転してくれる!、というか先鋒も次鋒も中堅も何もかも飛べる君だ!」
「だから、飛べるって言うのは止めてくれないかしらね?」

何故か、熱く熱く語り始めようとする諦を睨む、一人の少女

日香だ

にっこりスマイルには確実に怒りが込められており、今からでも包丁でみんなのうらみ云々・・・

「・・・翔飛」
「・・・しょうたろう」

―――ザシュ

あの阿保が、冷治は口には出さなかったが、そう言っていると良く分かる目で、大きく溜息をつく

諦は、日香の怒りの包丁一刺し(何故もっている化は不明)で胴体を一刺しされた

・・・普通なら、死んでいるはずだ

「・・・どうしよ、これ?」
「粗大ゴミ置き場にでも入れておけ、墓場には埋めるな、死者が天国から地獄に引きずり込まれるだろう」
「怨霊大発生ね」

酷い事をマシンガンのように今来る二人、

案外こう言う事では相性は良いのだろうが、残念ながらただの友達だ

「・・・焼却所も却下だ、ダイオキシンと放射能で星が死ぬ」
「フフフ、俺はアクシズかよ・・・」
「・・・・・・」
「ツッコむ言葉を考えるな」

―――ブス

さらに胴体に、冷治の一撃

ここまで行くと、もはや諦は超人を超えた超人となってしまう

「・・・じゃ、私、中に入ってるから」
「残念そうだな、日ちゃん」
「何がよ?」

何故か頭から血を流しながら、諦はよろめきながらも起き上がり、日香に言った

その意味ありげな言葉に、日香も足を止める

「・・・翔飛が惨敗」
「マジで地獄に落ちる?」
「もう落ちてます」

ヤバイ、今度こそ殺される、ということなのかどうかは知らないが、諦は日香に負けず劣らずのにっこりスマイルを返す

「月江が、人込みは苦手だからって・・・」
「ああ、そう言う事か」

諦はなるほど、と手をぽんと叩く

「では参るぞ弟よ!」

で、諦は冷治のいた方向に思い切り叫ぶ、

・・・が既に冷治はそこにはいなかった

「・・・どこに行った?」
「先に入っていったわよ」
「おお、珍しく積極的」
「・・・・・・」
「どした?」
「はぁ・・・、苦労してるのね・・・」

日香は、もう意味の詮索の使用もないことを呟きながら、会場に入って行った

「所で即売会のスペースはどこかね?」
「違う!」

これで本日三度目の、胴体の穴開きだった・・・





















「はぁ・・・」

冷治は会場の中をうろついていた

この会場は、小型ながらもドーム状の形をしている

そしてその周りには通路があり、化粧室や休憩の為のイスが、至る所に並んでいた

その中に、彼女はいた、月江だ

一人寂しく、静かに、ホールの扉を見つめながら

「・・・・・・」

声をかける気は無かった、そして向こうから気付く気配も無かったし、

朝の事もあるから、気まずいだけで、多分、見て見ぬふりをされるだけだろう・・・

だが冷治は、まるで何かに引き寄せられるように、彼女の元に歩いていく

もう五歩、六歩で月江の真横に立てると言う距離で、彼女も冷治に気がついた

目が合った

「・・・・・・」
「・・・・・・」

気まずい沈黙

予想通りだ

冷治はそう思いながら、思わず目を背けてしまう

「・・・・・・」
「・・・・・・」

無駄に、時間が経っていく、冷治は辰の葉そろそろ疲れるので、椅子に座ろうとした時・・・

「始まったみたいね」
「・・・・・・」

月江が、独り言のように呟いた台詞、しかし冷治は椅子に座るだけで、何も言わない

「大会・・・」

その一言を境目に、さらに沈黙は、続くのであった・・・






















「翔飛ぉぉぉ!、いけぇぇぇ!」
「そうだ叫べ!、さすが俺の見込んだ男!、俺の見込んだ応援団員!」
「あんたら、それ以上戯れるとチェーンソーじゃ済まないわよ」

大声で叫び続ける宗吾と諦の隣で、日香はかなり堪忍の緒がやばいと顔に書いてある

因みにチェーンソーは装備済みだ、ギュルルという独特の音を放っているのに、それなりに多い観客は目を向けない

「あ、翔飛」

日香が、翔飛らしき人物を確認すると、立ち上がる

いつの間にかチェーンソーは消えていた

場には、試合をする二人と審判が一人、立つ

うち片方、西に立っているのが翔飛だ、名前を呼ばれたのだ

だが場からかなり離れた所では、その顔を窺い知ることは出来ない

「始め!」

審判の合図と共に試合が始まる

戦況は、いきなり翔飛が有利

そして三秒と経たぬ内に、大きくメンをいれて翔飛の圧勝

その一瞬の試合に、観客はどよめき、歓喜の声を上げる

因みに歓喜の声の七割を占めるのは、宗吾と諦の叫び声だ

「やっぱり強いわ・・・」
「大会終わったら会うのか?」
「勿論♪」
「熱いねぇ・・・」
「あんたにはマントルの熱さを教えてあげるわ」
「太陽の核かメガ粒子で無ければ俺はたおせん」

再びチェーンソーを構える日香に、諦は余裕で鼻息を吹く

そして鳴り響く骨を切断する音と諦・・・と宗吾の叫び声には、流石に全員の目を集めた

「肉を切らせて骨を断つ!!!
「月も見ぬまま地獄におちろぉぉぉ!!!」

はー、やってられんわ

























気まずい沈黙は長く続いていた

もう何時間が経過しただろうか

大会は、昼頃には終わる予定なのだが

冷治はちらりと腕時計を見る

11時20分

もう少ししたら帰ろう、いや今すぐにでも帰るか、と思い始めていた、その時

「あの・・・」
「・・・・・・」
「ごめん・・・」

月江は一言、謝るが、何に対して謝ったかは分からない、

ただそれを言うと、口ごもる、何か言いたそうだが、言葉に出来ないでいるようだ

「・・・朝は悪かったな、怒鳴ったりして」

冷治はうつむき加減に、言う

そして自分の中に、何か違和感を感じる

多少心地良い、妙な感覚、冷治はその正体を理解する事は出来ないようだ

「・・・人込み、嫌い?」

同じく月江も、うつむき加減に言う、無論二人、目は合わせていない

「・・・嫌いだ」
「同じね」

僅か3秒程度の短い会話で、また沈黙が流れ始める

「一人って、寂しいね・・・」

だが、静寂は破られる

「また一人だよ・・・」
「お前には友達がいるだろ?」
「うん・・・、距離が遠いけど」
「どういう事だ・・・?」

月江が、躊躇いがちに言う言葉に、冷治は疑問を感じる

彼は、彼女が孤独を噛み締めてるなど、夢にも思っていない

「・・・その、ね」
「・・・・・・」
「私、他人に対して冷たいから」
「・・・・・・」
「こ、こう言う風に接してるの、あなただけ・・・」
「・・・・・・」

その言葉で、冷治の眉はピクリと動く、無論、冷治の方から顔は合わせないが、

月江の方は、こちらを向いている、そんな気がした

「だから、その・・・!」

そして、月江が最後の言葉を言いかけようとしたその時だった

「優勝おめでとー!」

聞きなれた声が、通路に響く

見れば周りには人が一杯だった

「・・・・・・」

月江は目を背けて、黙ってしまっていた

冷治は声のした方を向く、そこには日香と、見覚えのある少年が立っていた

薄い、銀色に近いブルーの髪を短く切った少年

日香に笑顔で祝福され、穏やかに笑っている姿

彼が、翔飛だった

「よ、ご両人」

・・・で、諦現る、全身にはくまなく傷がついている、ああ、怪我の元は考えたくない

「行くぞ」

冷治はそう言って、月江の手を引っ張りながら会場の外に向かう

「あ、待て!」
「あ、あの!?」

冷治はそれぞれに抗議しようとする二人の声を無視して、月江を会場から引っ張り出した



















「ちょ、ちょっと!」

いい加減冷治が足を止めたのは、会場の外に出てからだった

「どうしたの?、急に」
「あいつが現われた」

冷治が憎々しげに行っている姿を見て、月江ははぁ、と溜息をつく

「・・・もう、昼ね」
「ああ・・・」
「・・・・・・」

やはり、気まずい沈黙が流れる、と思いきや

「なぁ、一人ってどういう事だ?」

冷治は目を背けながらも、月江にたずねる

さっき言っていた台詞を思い出しながら


「一人って、寂しいね・・・」


「それはね・・・」

月江は、躊躇いながら言葉を続けようとした時だった

豪勢な自動車から現われる数人の、白いコートを纏った男たち

胸に付いているエンブレム

今度は、正規で動いている「ジャスティス」のメンバーだった

冷治はそいつらを視覚に捉えると、一歩引く

月江も、冷治のただならぬ気配を察したのか、不安気に彼のほうを見ながら、黙ってしまう

そいつらは、或いは冷治をギロリと睨み、或いはニヤリと嫌悪したくなる笑みを浮かべながら、

通り過ぎて、会場の方に入っていってしまった

そいつらが通り過ぎた後、冷治の手は震える

よく分からない感覚、ただ憤りだけは感じられる

「冷君?」

彼の名を呼ぶ月江の顔は、やはり不安そうだ

「・・・来い」
「え?」
「見られた、勘違いじゃ済まん・・・」
「ど、どうしたの!?」
「行くぞ!、そして奴らが何をしているか、しっかりと目に焼き付けろ!」

そう叫び、冷治は月江の手を引っ張って、今度は会場の中に突っ込んで行った






















剣道部の準備室で、日香と翔飛は二人きりだった

「やっぱり凄いよね、一瞬で倒しちゃうもん」
「ハハ、いや、手加減って案外難しいな」
「うわ、凄い事言ってる」

と、談笑を交わしている

「ねぇ、翔君、これから・・・」
「ん?」

躊躇うように、もったいぶるように言おうとする日香の態度に、

翔飛はその顔に疑問の色を浮かべる

「翔って呼んでもいい?」
「別に構わないが?」
「そう?」

あっさり承諾し、笑顔になる日香

「こうしていれば、まるで恋人同士みたいだ」

とそこに、究極的なお邪魔蟲、諦が現われる

「ひでぇ、てか蟲?」

諦が独り言を呟きかけたその瞬間

鉄拳制裁

今日何度殴っただろう、日香の息はいい加減荒くなる

「に、日香・・・?」
「な、何?」

翔飛が、怒りに震える日香に、驚きと畏怖の目を向ける

に対して、日香はにっこりスマイル、もしかしたら特技かもしれない

技名「ごまかしの笑み」とか

「いや、諦さんが・・・」

翔飛は、諦が先ほど言った言葉を気にしてしまう

そう、二人はいくら幼馴染で顔見知りで、

意気投合した中でも、恋人では決して無い

日香は違うが、翔飛は彼女を友達として認識している

が、諦の台詞に異常に反応してしまった

「あ、それはまた後で言うからー」

日香は笑顔を絶やさず、外に出ようとする

その時

バンと荒々しく扉は開かれ、日香はその衝撃で前に飛ばされる

咄嗟に翔飛が駆け寄って受けてくれたが

翔飛は次に、扉にいきなりはいって来た者に目を向ける

いかにも粗暴そうな、数人の男達が、それに似合わぬ白いコートを着て立っていた

「・・・翔飛殿ですな?」

その男の一人は、低い声で、それに似合わぬ敬語で、翔飛を名指しする

「お父上がお呼びです、我々に付いて来て貰いたい」
「ちょっと、何よ、あんた達!」
「まて!」

いきなり乱暴な扱いを受けて、しかも平気でしている連中の無礼さに腹を立てた日香が、

抗議しようとすると、翔飛は彼女を制止する

「・・・俺は父さんからの遺言に従って、絶対にあんたらには従わない」
「お父上がお呼びです」
「何言ってるの!?、翔の父親は死んでるのよ!」

日香が、怒りを込めた、しかしどこと無く哀しげな声で叫ぶ

そう、翔飛の父親はまだ彼が10歳くらいの時、死んだ

警察の機動隊だった父親は、死亡したと・・・

原因はテロによる施設の破壊、そして、日香と、月江の両親は、その巻き添えで死んだ

その事を聞かされた時、日香は泣いた、月江も泣いた、翔飛は、信じられないといった顔で三日間放心状態になった

ただ、二人の姉妹の、両親の遺骨はあったが、翔飛の父親の骨は、見つからなかった

遺骸無き葬式の中で、翔飛は延々と泣き続けたのを、日香は覚えている

「いやいや、お父上は実は生きてらっしゃるのですよ」
「そんな、見え透いた嘘・・・!」
「待て、日香!」

怒りに震え、体格などものともせずに、今にも飛び掛りそうな日香を制し、

翔飛は男たちを睨む

「こう言う手段に出るのは、予測通りだ」

翔飛が憎々しげに言い放ち、立ち上がる

日香も彼のそばを離れず、男たちを視線で威嚇する

「・・・あんたらには協力しない、最低最悪の、正義には」

翔飛がそう言い放った時、男の一人がにやりと笑った

「なら、死んでもらう他無い、そう言う命令なのでな!」

恐らくそいつは、その瞬間を待っていたのだろう、喜々と小型の剣を引き抜き、翔飛の頭目掛けて突進する

部屋は狭い、もう一秒足らずで、男の刃は翔飛の頭を貫くだろうその瞬間、

男は、急に進むべき方向とは逆方向に吹っ飛ぶ

「・・・風の力、あなたもダークサイドですね」
「も、というと、貴様ら総統お付きの能力者部隊か」

翔飛は、彼らの組織図を知ったような口ぶりで言い放つ

しかしそれは、翔飛が彼らの内部事情を完全に把握している証明だ

政府の人間の中で、「ダークサイド」の存在を知る者はごく僅か、

だから男たちが所属している部隊名も、表向きはただの一個の近衛部隊か、精鋭でしかない筈

「翔!?」

あまりにも急な展開、そして不可解な事象の数々に、流石に日香は混乱する

「政府中央局最強の部隊、ジャスティス、正義と秩序の名の元に、ありとあらゆる非道を行う、
最低最悪の矛盾・・・」

その言葉を放ったのは、翔飛でも日香でも、男達でもなかった

つい先程まで倒れていた、諦だった

「静谷諦、名門静谷家の、時期当主・・・」
「ほっほぉ、俺って結構有名人ー♪」

と、ふざけた口ぶりで言う諦の顔は、全く笑っていなかった

「諦さん!?」

翔飛は意外な展開に、流石に驚きの声を上げる

「ここは狭いが・・・、俺には関係無し、
さて、あんたらが俺の弟に手を出してるんで、制裁、させてもらうぜ」
「待ってくれ」

諦が手の骨をボキボキと鳴らしながら、今にも飛び掛りそうな時、翔飛は彼を制止させる

「これは俺の問題だ、俺だけで片付けさせてくれ」

真顔で言う翔飛に、諦はフッと一度微笑すると、後ろに退く

「余裕だなぁ?」

男達の言葉づかいは、もうその体格に合った粗暴なものとなっていた

「死ねぇ!」

一斉に飛び掛る男たち

それに対し、翔飛は、構える

「日香!、目を閉じてろ!」

言うが早いが、諦が日香の目をふさぐ

どういう事か、彼は察したようだ

―――ザシュ、ザシュ、ザシュ

何かが吹きぬけるような音と、斬れる音が何度もする

そして響き渡る、怪物の悲鳴のような、声

それは、翔飛の持つ風の力を駆使した、烈風の剣だった

諦はその光景を眺めながら、気難しそうな顔をする

男達は倒れた

だが、息を絶やしてはいない

「翔飛、お前の力、完全なんだな?」
「父さんが、技を中途半端な部分でしか教えてくれていないんだ・・・」

まだ動く男達を睨みながら、諦の真剣な台詞に対し、翔飛は悔いの篭った声で言う

恐らく、父親が、資料の上で死んでいるからだろう

「・・・しかし、心の傷を使わない技の発生方法、
どうやら古代の血を一つ見つけたみたいだ」
「諦さんも?」

立ち上がり、怒りに震える男達を睨みつつも、話をする二人

「ちょっと!、いつまで目をふさぐのよ!」

とそこに、一人状況を把握しないでいる日香が抗議の声を上げる

「日ちゃん、せめて翔飛に塞いでもらいたかったんだろ?」
「どうでもいいから開けなさい!」
「へいへい」

言って、諦は塞いでいた日香の目を、開けてしまう

そして彼女の目に映った惨状は、血塗れになって、しかし怒りを燃やした、

醜悪な獣の如き呻き声をあげる男達の姿

「ちょっと・・・」

日香はその光景に、言葉を失ってしまう

「こいつら、だめだ、再生の力を持ってる、
何度斬りつけても蘇る!」

再生、つまりこいつらは、強靭すぎる自己治癒能力を持つのだ
だから小手先の攻撃はほぼ無駄で、大ダメージを与えてもすぐに治されてしまう

狙うは一撃必殺だが、翔飛の持つ技でそんな器用な真似が出来るのは、無い

翔飛は焦りの声を上げながら、しかし一歩も退く事無く、立ち向かう

「・・・静谷家はいわばダークサイドの中で、最強クラスの実力の保持者でね、
俺は、こいつらを消滅できるぜ・・・?」
「手は出さないで欲しい」

翔飛が、この状況でもやはり孤独で戦いを挑もうとするのは、彼が強い闘志をもっているからだ

しかし彼の意に反して、手を貸す者はいた

突然、男達が炎に塗れる

「翔、一人で戦うなんて無茶よ、私も手伝うわ!」

日香だ、日香の持つ炎の力は弱いが、急な不意打ちに既に破壊の衝動でのみ動く化け物となった男たちは、

身悶えする

「これは、俺の・・・!」
「そんな事はどうでもいい」

翔飛が言葉を続けとようとしたとき、男達を包む炎は、凄まじい勢いで燃え盛り始める

「・・・酸素化合!?、これは・・・」
「わ、私の力はこんなに強くない・・・」
「つまり、俺の弟♪」

火の手が一気に静まり、野獣の如き男達が倒れた、その先にいたのは、

その掌から力を放った冷治と、それを見守る月江だった

「よう、ご両人、どうやら・・・」

諦が軽い口調で言葉を続けようとしたとき、男の一人が消滅する

「お?、分子分解?」
「ああ、掃除はいるだろ?」

冷治は、残酷な笑みを浮かべる、その様は、まるで前に見た冷治の別人格のようだ

「じゃ、ちと待て」

諦はそう言い、今だ身悶えする男の一人の襟袖、と言えるものすら殆ど残ってないが、を掴み、

脅したてるような顔で睨む

「帰ってお前らのボスに伝えな、静谷の力は、世界を食らうとな・・・!」

いや、脅しだった、もう勝てないと踏んだその男は怯えた顔で、しかし何処か残酷な笑みを浮かべて何処かへと走り去っていった

「お前・・・!」
「奴らがしてるのは表立って出来ない事だ、
それにここまで騒ぎが大きいのに警備員が来ないのは、前もって奴らが仕組んだ証拠だ」

そう言えばと、一同、警備員のいない違和感に、辺りを見回す

ここは、公共の施設だ、奴らが仕掛けるなら、もってこいの場所だ

「冷治、お前、殺す決心はついたのか?」
「奴らには容赦しない・・・」

冷治は、憎々しげに呟く

「どういう事か、話が見えないんだが・・・」
「そうそう」

翔飛と日香は、尤もな事をいう

「はいはい、じゃ、順を追って説明しますよ」

諦はそう言いながら、椅子に腰掛けた

これまでのいきさつを話しながら、証拠隠滅が図られた

激しく燃えたことで酸化した床は還元し、すすは取り払えば済んだ、

そして残る男達は全員、分子分解で空気中に消えた

諦曰く、最も苦しみの無い死に方だと言うが、半狂乱の連中に死の痛みなど関係なかっただろう

「しかし驚いたな、翔飛も力使えたのか」

諦は、ひと段落がついたところで、不意に翔飛に話を持ちかける

「ま、父さんが教えてくれたし・・・」
「翔は、昔から、お父さんの事好きだったもんね・・・」

そう言う日香の表情は暗い、同時に翔飛も、そして月江も、かつての悲劇を思い起こし顔を暗くする

「父さんは本当に尊敬できる人だったな」
「そうか、それは随分と幸せだったんだな」

しかし昔を懐かしむように言う翔飛に、冷治は、絡むような口ぶりで言う

「冷君!?」

普段とは明らかに違う、確実な憎悪をむき出す冷治に、月江は驚いた声で言う

「なんだ?、確かに幸せだったが・・・」
「ほい、そこまで、世の中それぞれ、父を慕う子もいれば、血縁者全員嫌悪する奴もあり」

その先の展開を呼んだ諦は、事態が深刻になる前に、二人を止める

「血縁者全員って・・・」

諦の言葉に、翔飛は憎々しげに彼を睨む冷治を、唖然と見つめる

「確かに、冷君は諦の義理の弟で、て言うのは聞いたけど、もしかして家出?」
「やめろ日ちゃん、こいつは家族の話ほど嫌ってるもの無いんだ」

言って、諦は冷治の靴を踏む、冷治は仕返しとばかり諦の靴を踏みつけるが、そこに手加減は無く、憎悪が込められているのがよく分かる

「さ、もうお開きにしようぜ、今日見たことは無かった事にするべし!」
「そう言えば昼がまだ・・・」

月江は時計を見やって言う

1時10分、多少、昼飯には遅い時間だ

「じゃ、食いにいくか、今日は俺が奢ってやる、ただし!、制限はあるぞ」
「貴様の家に溜め込んであるカップめんか」
「ぐ、そ、そんな事は・・・」
「奢ってくれるのか、じゃあ、寿司屋がいいな」
「私高級レストランー♪」
「別に、どこでも・・・」
「待て諸君!、金は有限だ!、不況は地獄だ!」
「諦めろ、これはお前の名前に使ってある字だな」
「ノォォォォォォォォォォォォ・・・」

次の日の長官に出た記事は、昼過ぎの亡霊とか言う、奇声を聞いただのとかいう幽霊の記事だった野はまた別の話で、

そして宗吾がさっさと食いに帰って出番が消えた事はまた別の話

「そりゃあんまりだぁぁぁぁぁぁ!!!」















次回予告

姉妹の心の溝、冷治の心の傷

二つを埋める事は出来ないのか

すれ違い、そして憎しみを感じ始める二人の姉妹

そして惹かれ合いながらも、距離を縮める事の出来ない少年と少女

そんな光景を見て、諦は一つの画策をする

第四話

「告げられた想い」






諦「前、現実を舞台にしたって書いたけど」
F「諸般の事情で潰れました、ごめんなさい」
冷「まぁ大して使ってない設定だ、気にするな(皮肉+嫌味)」
F「残酷な天使ね、君」
?「それは俺じゃないのか?」
F「あんた今回出番ないでしょ」
諦「そう言えば出番を失った奴がまたいたな」
宗「酷いよ、酷いよ・・・」
F「あははー、これ、結構時間無かったりするんだおー?」
宗「さりげなく佐祐理さんとか名雪とか・・・」
F「創作だおー」
諦「いいけどいい加減同人作れや」
F「それ言うなやこんちくしょぉぉぉぉぉ!!!(やけくそ)」
月「・・・次で告白?、告白なの?」
日「どうなのよ、てか私の告白が曖昧」
F「同人ってなぁ、同人ってなぁ、地方が遥かに不利なの分かってるだろ!?」
諦「だめだこりゃ、詮索は次回にするべし」
月「はぁ・・・」
F「見よ!、コミケは、赤く燃えているぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」








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