―――例えば、例えばもし、全てを夢に出来たら、

それはどんなに良い事だろうか。

そうする事で私達はどんなに救われるのだろうか。

だって私達はきっと、確実に、破滅への道を進んでいる。

もしかしたら被害妄想かもしれないそれは、けど曖昧な確信となっている。

何故かといわれたらわからないけど、そんな予感ばかりがして。

だからせめて最期まで側に居て欲しいと・・・。

貴方に。





DARK SIDE

第14話

死ぬる池へ」











「奴の居場所が分かった。」

貧乏臭い安宿での生活は、諦のその一言を以て終焉を迎えた。

諦以外の四人は要領を得ないまま首をかしげる事しか出来なかった。

最大の理由は、何故諦が調べられるのか、と言う事だが。

「何で分かった?」

その問いを真っ先に行ったのは冷治だ。

他の三人も同じ顔色をして、同じ眼差しをして、そして同じ質問をしている。

諦はさして驚いた様子も無く、静かに語り始めた。

「この前、連中の屋敷の地下に異常な水があっただろう。
それの特質を解析して行った所、行きつく場所は一つだった。」

説明の最初の言葉がそれだった。

無論、前半部分は冷治には理解できたが、後半部分は完全に理解不能だ。

「分かり易くお願いするわ。」

月江は突き刺すような冷たい眼差しで、アキラに叱責の念を送った。

と言うかわけ分からなさ過ぎだからだ。

「あー、つまるところだな、あの異常な水の状態の説明からしなくちゃならん、
滅茶苦茶長くなるが良いのか?」

諦は面倒臭そうに言う。

物臭な彼が避けようとするのだから、さぞ長い話なのだろう。

が、諦の性格がどうであろうと説明無しには動けない、ので四人の返答は一つだった。

「話してくれ。」

と、今度は翔飛が言った。

先日の一件での傷は、まだ癒えていない。

否、此処に来る前から負ってしまった心の傷は、まだ癒えてはいないのだ。

日香は心配そうな顔をしていたが、それ以前に自分の発動させた力に畏怖の念を感じていた。

後で話されたが、あれを本当の形で発動させれば、翔飛さえ刹那に焼き殺したらしい。

未熟なのと、あと本能単位で手加減が働いたお陰だと聞かされた時、彼女は随分不安になった。

大切なものは失いたくない、それは当然の心理である故に。

「いいか・・・、あの液体は、人間―――それも俺達のように物使いとか、
ダークサイドとか呼ばれる者を溶かしたものだ。
その製造法は古代に於いて完全に消滅させられたが、もし黎治の家系が改革派であったのなら説明がつく。
その事は後で話すとして、あの状態になった人間は、大いなる矛盾を抱えている。」

大いなる矛盾、と聞いて、一同、やはり腑に落ちなかった。

が、冷治は大体オチを読んだらしい。

「・・・生きている矛盾か・・・。」

その言葉が放たれ、他の三人はその顔が一瞬にして凍りついたのが、目で見えてわかった。

人体の液化、それは死、死の筈なのに生きているのは限りない矛盾。

諦の言葉は続いた。

その顔が暗く、話しづらい事であるのは、誰の目に見ても明らかである。

「あの状態は、肉体の細胞単位の活動はそのままに、人体を液化する事で成立する。
イメージとしては生き埋めだ。
そしてその状態になっても尚魂は肉体と言う液体に定着している。
あとはそれを飲むんだよ。」

そう言われ、冷治も、そして他の三人も、その顔は更に深く恐怖に歪んだ。

「何かの儀式か、あのやたらプライドの高いあいつがするとは思えん・・・。」

憎々しげに、冷治は吐き捨てた。

だが諦は意に介さず、話を続ける。

「魂の定着した液体には、魂の持ちえる奇蹟級のエネルギーが詰まっている、
そしてそれを飲み、尚且つ生き続ける他者の意志をエゴで押し潰し、力だけを奪う・・・。
後は繰り返すだけで、簡単に超人が作れてしまう。
奴は人間をあの生きた液体に変える方法を見つけたんだろう。
そして手当たり次第に能力者を集め、次々と液化して行った。
最初は自宅の地下でやっていたが、その内最も適した場所を見つけた。
そして奴は間違いなく、反撃の為に其処へ移った筈だ。
話を戻そう、何故それが分かったかを。」

そして一同、息を飲んだ。

諦もまた、改めて意を決したようだった。

「生きた液体を使って超人が作られた例は、過去に一度ある。
古代文明の崩壊、かつて能力者だけで築き上げられた高度、且つ恒久的な闘争と恒久的な平和を両立すると言う矛盾で国家を安定させていた。」

それについての話は、初めて聞いた。

古代文明は、極めて封建的な社会で、上流階級は遊びの限りを尽くし、下級階級は常に貧困に喘いでいたとか。

そして教科書では「決して戻ってはならぬ時代」とされている。

「しかしそれは何処とも知れぬ所よりやって来た異邦人達の手によって終焉を迎えた。
異邦人たちは最初客人となって内部に入り込み、適当な能力者を引っ張り出して次々と液化して行った。
彼らは能力者のような力は無く、数に於いても圧倒的に劣っていた。量と質に劣っているのならば正面からやりあったとしても返り討ちに逢うのは確かで、搦手が必要だったのさ。」

頷ける話である。

異邦人達は最初から征服欲に駆られていたと言うのなら、そうするしかないだろう。

数に於いても質に於いても劣る、そして自らが滅ぼされ尽くしたとして、国家にとっては正しく害虫を駆除したようなもの。

利益があっても害はないのだから、勝つには秘策が必要だったのは当然のこと。

「つまり、能力者を液体に変え、その力を奪い去る事で超人を作り上げたのさ。
これは、初めから高位の能力者で構成される上流階級に潜り込めたのが決定打だった。
上流階級として裕福に暮らす者は、常に自らの強さを一定水準以上に保つ事で、
下級階層の叛乱を抑えようとしたのさ。
そして尚且つ、下級階層で力をつけ始めた者は処罰ではなく上流階級に組み入れる事で、
上流階級には常に優秀な能力者だけが集った。
だが上流階級は下級階級を蔑ろにする事はしなかった。
下が滅べば自分たちも滅ぶのは分かっていたからな、
飴と鞭を使い分けた支配の仕方で、揺ぎ無い安定を見せていたんだ。
鞭は戦争だ、不穏な動きのある領主同士に戦争をさせて、かつ自分たちも試練として戦乱に突っ込んでいったのさ。
古代人の文明、恒久的な平和の裏に恒久的な戦国時代を作る事で、完璧に近い政治体制を成し遂げたという。」

其処まで分かっていれば、国家の破綻などはまず有り得まい。

下を決して不当に扱いはしない、封建的のはずなのに民主的な体制。

そしてそれで破綻が起きるとすれば、平和を望まない軍部のクーデターだが、

裏に戦国時代があるのなら、それは軍の望む事で、わざわざ異論を唱える必要も無い。

更には実戦を積む事による自己民族の強化さえ図られた、成る程確かに完璧に近い。

「これらの仕組みによって常に戦線に立ち、研鑚を積み続けた者達。
彼らは一人一人が一騎当千の超人だったと聞く、ならばそれを集めて一緒にしたもの、
そのようなものが、形容の仕様のない怪物になったのも想像に難くない。」

そこまで言って、アキラは一呼吸置いた。

そしてテーブルの上に置いてあった水を一杯飲み干した。

「異邦人たちは超人を作った事がばれて抹殺された、だが生き残りが境地に逃れていたんだ。
しかも一部は自分の国に帰って応援を呼んだ。
その頃国の中心では、国の全戦力を投入して化け物退治が行われた。
そして、その中心になったのが静谷と黒井、否、この二つの家は遥か昔より、数多の戦乱に於いて常に親友であった。
だからこそ、いや、それは良いか、とにかくこの二つの家の当主含め、トップ階層の強さは伊達じゃない。
俺はその時代に生きていたならその家から認められる存在なんだが・・・、
だがそれでも、俺ではかつての当主達に勝つ事は出来ん。
だが次元違いの、桁外れの超人たちの力を以てしてもその怪物を倒すのに苦労し、
結局、能力者の大半は死に絶え、そして生き残りの異邦人達が帰ってきた。」

それもまた、完璧に近い侵略の仕方であったであろう。

自らの撒いた一部の種によって国家の大部分を破壊。

喩えそれが諦の言うような数多の超人を薙ぎ払う化け物でなくても、

例えば疫病一つを蔓延させるだけで壊滅的な被害を与えられる。

「その時、すっかり数を無くし、また上流階級は殆ど死に絶えた為、能力者たちは負けを認めてしまう。
異邦人達が国を新たに作り直すのは苦労しなかった。
まず彼らは能力者の存在を完全に消滅させた。
中には極秘に権力者に売られて子を生まされて能力者の血を受け継ぐ者も居たり・・・、
また僅かに生き残った名家が生き残っていたりする。
だがそう言う家は絶対に排他的でな、俺は唯一の例外なんだ。
俺の親父とおふくろが冷治に会おうとしないの、そう言う事情があるんだよ。
だからこの事は誰にも話すな、昔の事を蒸し返すの嫌だから。
まぁとにかく、今、能力者の数が極めて少ないのにはそう言う事情がある。
で、その怪物を作った施設、そこが怪物を作るのに特化してるんだ。
この街から北に10キロ程度、山の中腹にある気味の悪い廃墟があるのは有名だが、
奴はそこを占領して、またあれを作り出す、いや、自分がなるつもりだ。」

諦は其処まで話した、忌々しげに床を見つめた。

見つめたのは床だが、そのやり場の無い怒りを向けて、睨むべき場所は無い。

「自分がなると・・・?」
「世直しのつもりなんだろう・・・、奴の家については知らん、
だが異邦人の家であれかつての名家であれ、偏った妄想で国を滅ぼされては敵わん。」

そう言って、諦は安っぽいベッドに寝転がった。

「俺は寝てから行く・・・、もう此処まで来たらくるなとは言わんが、命の保証は一切しない。
行くなら覚悟しやがれよ。」

言ってだらけた態度を取る彼を、いつもなら叱責するところだが、誰もそうしなかった。

本当に正常な歴史を、掘り出したくも無いのにわざわざ掘り出してきた諦に、

そして彼の背負った業の深さに、全員が口を噤んだからだ。

「・・・阿保が。」

だがその中にあって、冷治だけが、忌々しげにそう呟いた。

その瞳は、何故か空虚に満ちていたが。














どうせ諦は明日にならなければ起きないだろう、というか、

起きるまで狭い部屋に五人いるのは色々意味な辛いので、分散して色々する事になった。

色々とは色々だが、別に偵察も諜報も在りはしない、

そう言う事は出来ないだろうし、する必要も無いからだ。

主に休息、もしかしたら最後になるかもしれない、などとは誰も考えはしなかった。

考えはしなかったが、色んな事が最後であるのも確かだ。

例えば、告白の機会とか。

二人で日向に居る。

凍える風が頬を悴ませる、けどそれは表面の話。

体の奥はずっと熱い。

緊張とか、興奮とか、色んな感情が混ざって、身体を熱くしている。

冷たい風にもかかわらず太陽は燦々と輝いている。

そう言えば、自分の名前は太陽を思って付けられたのだと、日香は思い起こしていた。

「ね、ねぇ、翔飛・・・。」

ありったけの勇気を奮い起こして話を始める。

「何だ・・・?」

翔飛は無感動に返事をする。

あの時からずっとこうだ、その前までは、少なくとも冷治よりは表情豊かだった筈なのに。

「あのね、言いたい事が、あるの・・・」

いつもは強気な彼女が決して強気になれなかった事。

自分の胸に秘めた想いを曝け出す事。

怖かったからだ。

何もかもを喪ってしまう事が堪らなく怖かったからだ。

失敗すればきっと総てが崩れると恐れていたからだ。

けど。

「この前、私が倒れた時、ちゃんと、抱きかかえてくれたんだ・・・。」

それは、翔飛にとっても「失いたくない」と言う事だと、日香は思った。

だから、必ず届くと確信したからこそ、今こうやって、想いを告げる事が出来る。

「知っていたのか・・・。」
「意識は、ちょっとはあったよ。」

言いよどむ。

決心はしたが、それでもなかなか切り出せないのは、純粋に恥ずかしいからか。

強気な性格は、とどのつまりその奥にある少女の儚い心の表れなのだ。

だから、今彼女は、顔さえ向けられないほど紅潮している。

凍えた風など意にも介さないほど火照ってしまっている。

そして何より、選ぶ言葉が浮かばなくて、浮かんでも意味不明の羅列になってしまって、頭が混乱してしまっている。

「えっと、ね。」

それでもきちんと言葉を選んで、形にして、そして多大な時間をかけて告白の言葉を浮かび上がらせる。

だと言うのに。

「好き・・・って事か?」

一瞬で、それは崩されてしまった。

沈黙。

日香はこの上なく沈黙する。

自分の道化振りと言うか、自分に対する自責と言うか、なんと言うか、

理解不能の感情が自分の心を好き勝手に弄りまくる。

ただ、顔はそれこそ湯気が出てきそうなくらい温度を上げていたが。

しばしの間を置いて、翔飛は溜息をついてから話し始めた。

「ま、なんとなくと言うか、
こうまで俺に付き合ってくれるんだったらそれしかないと思ったんだよな。」

翔飛は目線を合わせない。

日香も合わせていない。

どちらかが合わせようとしても絶対に目線が会う事はない。

とどのつまり、どっちも恥ずかしい思いをしているのである。

「・・・で、返事は?」

今度は日香が言った。

かなり声が小さい。

聞き取れないほどではないが、集中しないとかなり聞きにくい。

まぁどれほど声が小さかろうが、こういう事は以心伝心と言う、不思議と聞き取れるものだ。

よって翔飛も、しばしの間を置いてから口を開く。

「失いたくないと思った。」
「・・・・・・。」

それは、幼馴染としてか。

「手放したくないと願った。」
「・・・・・・。」

それは、友達としてか。

日香の心に不安が募る。

「そして何より、好きだって事が分かった。」
「あ・・・。」

けどそんな不安なんて無意味で、そう、最初の確信どおり、

この告白は天地がひっくり返ろうが上手く行くと決定されていたのだ。

だからこの流れも当然。

いつのまにか目線を合わせていたのも、二人の唇の距離が零になっているのも、

そして日香の目に涙が浮かんでいたのも、総ては恐らく気紛れな神様の悪戯。

そんなもんだった。

その程度でよかったのだ、人としての愛は。














月が光っている夜は、昼よりも尚寒い。

と言うか、気候と言うのは不公平だ。

夏の夜は冷たいのに、冬の夜は暖かくなりはしない。

それほどまでに、天は人を温もりから遠ざけたいのか。

尤も、互いに温かみを感じ合える二人ならば、些細な事なのだが。

「結局、起きなかった・・・。」

冷治の肩に擦り寄りながら、月江は呟く。

「予想通りだ。」

無感動に言う冷治だが、諦の事がどうでも良いから言っている訳で、

その手はきちんと月江を抱きしめている。

「疲れていたのかな・・・。」
「あの馬鹿が疲れるか?、というか今になってまであの馬鹿の話は・・・。」

不服そうに、というか事実不服だから、冷治は口を尖らせる。

が、月江は微笑を浮かべながら意地悪に言い返す。

「じゃあ、キスしてくれます?」

その一言で、冷治が一気に吹き出しそうになって、更にゼロコンマの時間をかけずに目線を逸らした。

が、それでも彼の腕は彼女の体を抱きしめたままだ。

「馬鹿・・・、なに考えて・・・。」
「どうせ諦さん明日にならないと起きないし、かと言って今こうして抱きついていても面白くないからです。」

穏やかな、が、含みのある笑顔で、月江は上辺の理由を言う。

が、すぐに本音を出した。

「本当は、貴方がうろたえるのが見たかっただけですけど。」

今度は極上の笑顔で言った。

冷治はまだ目を逸らしたまま、納得行かない顔で言い返す。

「お前は・・・。」
「はい?」
「いや、いい、其処まで言うならしてやる・・・。」

行って、冷治は不貞腐れた顔でそっと、彼女の頬に唇をつけた。

「〜〜〜〜〜〜」

不意打ちか、それだけでどちらも顔が極限まで紅潮してしまう。

「この馬鹿・・・。」
「どっちも馬鹿です。」

言い合う。

ただ、それが今は可笑しくて、笑ってしまっていた。

風は冷たい、凍える風は手に霜を帯びさせる。

けれどその内は決して冷たくなく、むしろ十分に熱かった、暖かかった。

ひときしり笑いあった後、月江は空を見上げる。

「私は、月を思って名付けられたんですね・・・。」
「だろうな。」

冷治は目を向ける事無く言い返す。

何故って、今十分に紅潮した顔を向けるのは恥ずかしいから、ただそれだけ。

「おかしいですよね、普通、姉の方に太陽とか付けません?」
「確かにな・・・。」

太陽は燦々と輝き、一日をの始まり告げる。

そして月は煌々と輝き、一日の終わりを告げる。

太陽の方が先なのに、何故姉である月江が月なのか。

「一回、何故?、と聞こうとしました。」
「ああ・・・。」
「聞こうと思ってお父さんとお母さんの帰りを待っていました。」

そこまで話されて、冷治は唇を噛み締める。

彼に親の愛は理解し難い。

兄弟の愛も理解し難い。

血縁、肉親と呼ばれる者には徹底的に搾取され、虐げられた彼に、

どうすれば肉親の愛を知る事が出来よう。

だがそれでも冷治は、今自分の一番大切な人が一番話したくない事を話そうしている、というのは分かった。

それは双方にとって。

親を憎む者と、親を失った者と、どちらにとっても辛い事。

だから。

「あまり、気乗りはしないな・・・。」
「先、分かりました?」
「分かるさ・・・。」

残念そうに俯く月江をよりいっそう強く抱きしめ、冷治は夜空に輝く月を見る。

この話の先は、待っていたけど帰ってきたのは遺体でした、そんなオチ。

そんな事を言わせない、言わせる訳にはいかない。

だって、彼女の名前を考えるのとは、まるで関係の無い話ではないか。

「月はそれそのものは光らない、月そのものは輝かない。
月が光っているのは太陽があるからで、とどのつまり月はやはり太陽に隠れてしまう。」
「酷い、言いすぎです。」

より一層俯いてしまった月江に言われて、冷治は慌てた様子で言葉を考える。

けどその前に月江に笑われて。

「あはは、別にいいですよ。
けど・・・、なんだか予知能力じみた付け方です。
本当に、私は隠れてしまったわけだから。」

自嘲気味に言って、彼女はまた顔を深く沈ませる。

「けどな、月って言うのは、神秘の象徴なんだ。
だから、その、月江は神秘的な女性になって欲しいって事じゃないか?
妹は馬鹿だけど姉は賢いって事で。」

そこまで言うと、月江は冷治の方を振り向く。

彼女の顔は、唖然としていた。

だがすぐに腹を抱えて笑い出す。

「そ、それ日香の前で言ったら殴られますよ!?」
「だろうな・・・。」

言われて、冷治は自分の無節操さを反省している。

けど本当にその通りなのもまた事実な訳だが。



―――知ってるか?、月は人の心理を狂わせるそうだ

それだけ、人が月に与えられる影響は大きいと言う訳だが、ここで一つの名言を紹介しよう。
   我思う、故に我在り コギト・エルゴ・スム。

人が見ている世界って言うのは実は自分の内包したものであると言う事だ。

俺は一つ、考えた事がある。

今生きている自分は総てに於ける主役であり、永遠の約束された存在ではなかろうか、と。

死と言う概念さえ超えた存在である、今は死ぬ予定だが、今に死を排除される、と。

まぁそんな事はどうでも良いが、認識を変えると言うのは重要な事だ。

今見ているものが、別のものに変わり、今聞いているものが、別のものに。

触れているものが変化し、味わいが変化し、匂いも変化し、霊魂とか言うものも変化する。

もし、人の認識を変えたら、もし、月にその力があるとすれば。

もしかしたら人の認識を書き換えて、有り得ない奇蹟すら起こせるかもしれない―――



「明日になりそうですね。」

そうして二人、また最初のように寄り添い合っていた。

「あの馬鹿が何時までも寝ているからだ。」

冷治はやはり、不服と愚痴をこぼす。

月江はそれを笑って受け止めた後。

「私達も・・・、そろそろ寝ますか。」

そう提案した。

「流石に此処は寒いがな。」

吐く息の白さを見ながら、冷治は残念そうに言った。

「ええ・・・。」

言い合って、二人は立ち上がる。

冷治は月江を促すように、月江は冷治に促されるように、互いの寝床まで戻って行った。

それを、見ている者達がいた。

「悪かったわね、馬鹿で。」
「いや、なかなか面白かったぞ。」

翔飛はいまだ収まりきらない腹を抱えながら、日香を見やる。

一方日香は、至極不満そうにそっぽを向く。

「馬鹿な女は嫌い?」
「馬鹿でも賢者でもいいさ、それに、馬鹿は賢くなれる。」

翔飛はフォローのつもりで言ったのだろうが、全くフォローにはなっていない、というか逆効果。

ので日香はより一層顔を叛けてしまった。

「日香、頼むから機嫌直してくれ。」

流石に悪いと思ったのか、翔飛は諭すように日香に言って聞かせるが、日香は微動だにしない。

まぁそれでも必死に説得しようとしている翔飛を見て、日香は一つの条件を出した。

「じゃ、私の名前を使って上手い口説き文句を考えて。」
「え・・・。」
「不公平だもん、月江ばっか・・・。」

それはまずい。

いや、翔飛も文学の才能が皆無な訳ではないが、恵まれている訳でも無い。

汎百の才能を持って生まれた訳で、あんな文句なんて出来やしない。

翔飛の顔が困り果てているのが見て取れて、日香は少し笑い出す。

「日香・・・?」
「月江が何でああいう意地悪するのかが、分かった気がする・・・。」

多少裏に含みのある声で、日香は言った。

翔飛はそのときになって、自分が前向きになったことを感じた。

そして一時が過ぎてから、今後に多少の不満を感じ始めていた。



―――太陽が平常ならば月は異常だ、それ故に、何かが出来るかもしれない。

例えば、奇蹟とか、奇蹟とか、奇跡とか―――












「あいつらめ・・・、絶対俺を笑っているに違いねぇ。」

諦は一人不服を並べながら、薄暗い天井を睨み続けていた。

「まぁいいさ、あいつらも休まなきゃ、そう、疲れたら休まなきゃいけないんだ。
でなければ、また俺は無意味になる。
ま、俺の遭遇する悲劇は絶対俺は無力なんだが・・・。」

諦はしばしの間を置く。

その顔は、いつの間にか無感動なものに変わっていた。

そして。

「自分の弟くらい、守れよ俺。」

自らを嘲る、悲しみも混じった声を聞く者は、声の主以外には居ないだろう・・・、

































ここから先は本編を呼んだあと1000秒後以降にお読み下さい

































あとがき

F:いえぇーい、14話

諦:ほぼ月1のペースだな、せめて半月1のペースにしろ

F:言うな、戦国無双とMXが・・・

諦:そんな事で漫画家になれるとお思いか!?

F:え?、皆ギリギリまで遊んでるんだろ?

諦:うっわぁ、てめぇ絶対睡眠不足で突然死するぞ
  しかもそんなエンドじゃあ労災にはならねぇな

F:知ってる知ってる

諦:で、次ようやくバトル再会ですねん?、ラブコメは見飽きた

F:俺も飽きた、それに一人死んだし

諦:奴か・・・

F:オチはお約束か?

諦:うむ

?:大きな愛が煌々と光っている
  愛情か?、いや、愛情はもっと憎々しいからな・・・

F:聞こえますかアーガマ、カミーユが・・・

諦:いえぇーい、雰囲気ぶち壊し

F:ま、それはさておき、返事が無い、只の屍のようだ

諦:もうええっちゅぅねん

?:ラ○ァ、時が見えるぅ〜

F:いや、そこで伏字入れられても・・・








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