―――風が吹き荒れる。

風は何故こうも自由にいられるのだろう。

人は何故こうも不自由にいられるのだろう。

そんな、数多の哲学者が自分なりの論文を幾ら出そうとも結局は定義をつけられなかった、

深遠な議題を、なぜ自分は無意味と知りながらも自問して、自答しているのだろう。

男は、自らを嘲笑しながら歩く。

男は、危機感を覚えていた。

人間らしい感情は「思い出さなくてはならない」事に。

自分は人間のつもりでも、実は人間ではなかった。

いや、そんな人間らしいとかそうでない定義すら曖昧で抽象的だ。

非道を行うのは人間だ、暴虐を犯すのは人間だ。

にもかかわらず、「自称」善人はそれらが人であることを否定する。

自分のカテゴリの中に穢れがある事を憎む、それは偽善。

だがそんな事もどうでも良いか、と、男は足を踏み出した。

ただ流れに任されるままに、自らのために、愚考と知りながら、偽善と知りながらそれでも歩を止めてはならぬ。

それが、男の億の自問が結局行き着く一つの答えなのだから。



DARK SIDE

第11話

「黒の意味」





―――雪の降る町、悴む手、それでも少女は歩を止めなかった。

人のまるで居ない閑散とした道路を歩きながら、彼女は黙ったまま歩いていた。
行く宛てなど、一枚の紙切れしかない。

我が身一つがただ一つの賭け金、勝てば日常、負ければ死。

端から見れば、無謀かつ愚かな賭けなのだろう、しかし当事者になってみればよく分かる。

―――そんな日常が最も至宝だと言うことに。

少女は失うものが何も無いと思い込んでしまっている。

僅かな「普通」への糸が失うものだった、

それが無い今、「異常」な自分をそれでも受け入れてくれる彼の元に行くしかない。

それは逃避だろう、しかし人は大抵逃げている。

死から、病から、痛みから、とにかくあらゆる苦しみから逃げている。

先が苦しみと知りながらそれでも立ち向かう、そんな強靭な精神を、

それでも普通の人間というカテゴリから大きく逸脱した存在ではないこの少女が、持ち合わせているはずはない。

彼女も立派な人間だ、苦しみから逃れる少女。

月江は、今もまだ雪の降る町を歩いていた。

彼女はきっと逃げている、そのために立ち向かうのだ、死と。

そう、彼女に失うものは何も無い、失うとすればこのまま呆ける事が失う事に繋がる。

自分が自分の居場所を確立できない、それは悲痛。

その悲痛の、全てではないが発端には少なくとも関わっている者が、どうして今、彼女の前に現われているのか。

「・・・日香。」
「こんにちは、月江、こんな寒い日にどうしたの?。」

その、黒髪をなびかせる少女を、月江は少し見つめてから、歩き出す。

雪に埋もれた道路に、自分の足跡を一つ一つ確実に残す。

そして日香と月江が背を向け合う形になって幾らかの距離が開ける。

「・・・・・・月江、そのまま徒歩で行くつもり?。」
「まさか、途中で列車に乗るわよ。」

月江はどこか嘲るような口調で言った。

そして歩は止めない。

「悠長ね、それじゃ、冷治は死ぬわ。」
「―――ッ。」

日香の放ったその言葉に、月江は確かな怒りを覚えたのだろう。

歩を止め、振り向き、そして険悪な瞳で自分の「妹」を睨む。

「貴女に私の何が分かると言うの・・・!?。」
「分からないわよ・・・。」

少し、顔を沈めながら日香は言った。

その言葉に、月江の険悪な表情はより一層、酷くなる。

「いちいち、呼び止めてもらわなくても結構よッ!。」
「冷治はあなたの恋人だけど、一応私の友達としても通っているのよ?、
友達の心配ぐらいするわよ。」
「友達なんか、一人二人死んでも気にならない位居るくせにッ!。」

そして激昂が飛ぶ。

純粋な怒りと憎悪が、月江の口から放たれる。

それが、人の倫理を踏み外した事、姉妹は協調しなければならない、その、至って普通の倫理を破壊した事。

それは、勿論二人の心に何の痛みも与えていない、筈がなかった。

「知り合いが死んで気にならないなんて、そんなの異常よッ!。」

だが、心の確執は二人の心の隙間を容易に埋めはしない。

「だったら放っておいてッ!、私は貴女なんかよりずっと冷君の事知ってるんだからッ!。」
「それが何!?、素直な好意くらい受け取りなさいよ莫迦ッ!。」

けど、仲裁者も当然ながら居る訳で。

「この・・・。」

日香が手をあげる、月江もすかさず身構える。

みっともないだろう、端から見れば、しかしこれが今のこの姉妹の実情だ。

このまま取っ組み合いの乱闘に繋がるのは目に見えている。
しかし・・・。

―――パシィン

急に、日香の頬がはたかれた。

やったのは月江ではない、風の如く颯爽と現れた少年。

「・・・・・・翔飛。」

無表情な、無感動な、けれどどこか嬉しそうで、悲しそうな顔をしながら、

日香は自らをはたいた人物の名を唱える。

翔飛は、日香には答えず、まずは月江のほうを振り向いて口を開く。

「すまない、助けるつもりだったのに・・・。」

その言葉を、月江は理解できなかった。

何を助けるのか?、何故謝るのか?、一体この二人は、何のつもりで私の前に現れたのか?。

様々な疑問が脳裏を過ぎる、が、その顔は無表情だ、ただ、やはり少し強張ったままだが。

翔飛は次に少し溜息をついてから、日香のほうを向く。

「日香、さっきのは言いすぎだ、第一声から礼を欠いていた。」

翔飛は責めるような目で見ない、怒った顔で見ない、ただ目を逸らしながら、彼女に言葉を投げる。
しかしそれでさえ、十分な責め苦だと言う事を、果たして少年は理解しただろうか?。

だが怒った素振りも見せず、無言のまま、小さく頷く。

「順応なのね、翔飛には。」
「なっ―――!。」

再び、激昂が吹荒れようとしていた。

が。

「止めろ!、今はそんな事をしている場合じゃないって、二人とも分かってるだろう!?。」

翔飛が叫んだ、人目に付いていれば、きっとかなりの注目を浴びていただろう。

幸いなのは人通りが殆ど無い事か、人目につくとやり辛い事は多々ある。

しかし逆に言えば人目につかないと二人を本気にさせる要因にもなるので、必ずしも幸いな事とは言えない。

「とりあえず、こっちに来てほしい。」

翔飛は月江に向かってそう言った。

しかし彼女は拒否の色を見せる。

「無理か?。」
「あなたがどこまで知っているのかは知らないけど、
全て知っているというのなら大体予想はつくと思うわ。」

そんな冷たい言葉が放たれる。

翔飛は暫く俯いたままだ。

「私は無力じゃないと、自分で証明したいから。」
「・・・・・・。」
「運命を書き換えたい、自分で。」

月江はそう言って、振り返り、歩みだす。

それは強い決意の言葉だ、彼女の強い意思を表している。

が。

「いいわね・・・、まだ、変えられる運命で・・・。」

日香がそう漏らした。

あまりにも率直な侮蔑の言葉だ。

「・・・まだ、やる気?。」
「日香、もう何もいうな・・・。」
「黙っててッ!。」

その時、日香はさっきよりずっと強く、ずっと恐ろしく、そしてずっと悲しく、激昂していた。

彼女自身、無意識のうちに、飛び出していた。

そして月江に掴みかかり、共に冷たい雪の上を二転三転する。

そして互いににらみ合う。

「あんたに、あんたに翔飛の気持ちなんて分からない・・・!。」
「日香!?。」

翔飛は驚嘆の声をあげた。

それは、怨嗟ではないと思ったからだ。

「翔飛はどんなに頑張っても、もうお父さんにあえない・・・。」
「・・・!?。」

そして、二人の脳裏に、幼かった頃の情景が映し出される。

遊んでいた、無邪気に、無垢に。

三人で。

純粋に、ただ疲れ果てるまで。

それを見守る人がいた、大きな体の、一見怖そうなおじさん。

けどとっても優しくてとっても強い、とっても良いおじさん。

それは翔飛のお父さん、ずっと前にいなくなった、お父さん。

「何が・・・、あったの・・・?。」
「それを・・・、私達も、知りたいから・・・!。」

そうして、相変わらず胸倉を掴みながらも嗚咽の言葉を続ける日香を見て、

月江の憎悪は、不思議と収まる。

それは、仲が良かった頃の、姉妹としても友人としても認め合っていた日々に、戻ったかのような、デジャヴ。

そして彼女の顔を見て悟る、涙を流していた、それは悲しみの涙。

「一緒に来てくれないか・・・?。」

そして翔飛は、恐る恐る、月江に話し掛ける。

「そうね、話だけでも聞きたいし・・・、とりあえず、何処に行くつもりなの?。」

「学校、まずは宗吾に、言い訳しておかないと。」

それは、あまりにも真っ当な行動だった。

真っ当すぎて、月江も反論する気にはなれず、黙って付いていく事にした。

空は相変わらず灰色で、雪が降っていた。
















―――そんなソラを、少年は見つめていた。

少年がいるのは牢獄、ベッドと椅子がある以外は何も無い部屋。

窓は一つだ、鉄格子の窓、子供でも出られそうに無い間隔で鉄の柵が並んでおり、

仮に出れたとしてもそのまま重力に引かれてミンチになるだろう。

ここは6階だ。

部屋は狭い、かつて自分が住んでいた部屋の半分の広さもないだろう、満足に手を広げる事も出来やしない。

床も壁もコンクリートだ、ストーブもない、寒い寒い部屋。

そう、それは確かに牢獄だ。

―――黎治は夜にならねば帰って来れないから、それまでこの部屋で待つように。

逃げ出そうとすれば命は無いわ。

それが、ソフィアとかいう女から聞いた言葉だ。

要するに幽閉という事だろう、というか奴は、相当まずい事でもしたのか。

そのまま社会的に抹殺されれば苦労なないが、それを巻き返す為の手段が自分なのだろう。

と、思索するが、確固たる答えなど帰ってこないし、そんなものを求めても居ない。

自分がやるべき事は一つなのだ、と思い直し、少年、冷治は椅子の上に腰掛ける。

そう、ただ一つ。

この呪わしい物語を終わらせる唯一の手立てを―――。

と、冷治は窓の方を見やる。

一瞬、窓に人影が映ったのを見た。

錯覚と思った、いや、錯覚と確信した。

ここは地上6階だ、確かに都会の真ん中だがビルは見えない、窓から見えるのは灰色の空。

窓から顔を出した風景の全貌など知る由も無いが、だいたいにして想像はつく。

妙な突起とか、煙突とか、とにかく人の足場になるようなものは何一つ無いだろう。

そう、そんな莫迦な事がある訳ないのだ。

そんな莫迦なことが。

「ああ、居たな、この世で最強最悪の大莫迦野郎が。」

冷治は鬱陶しそうに呟くと、窓の方を睨んだ。

「姿を見せろ、諦。」

そして、呪詛にも近い憎悪の言葉でその名を呼ぶ。

そして窓の向こうに、冷治に義理の兄である諦が現われる。

その顔は、何故か酷くしかめっ面だが、冷治は気に求めず言葉を放つ。

「全く、こんな所にまで来るのか、愚かしいな、つくづく。」

呆れるように、冷治は言い放ち、不満の目で諦を睨む。

そして気付く、アキラが、確かな怒気を放っていた事を。

「なんだ・・・?。」
「なんだ、とは随分な言い草だ、
俺は婦女子を悲しませるような最低野郎を弟に持った覚えは無いのだがな。」

窓の、分厚いガラスを通り越しても尚響く声で諦は言った。

というか、自分がさっき呟いた声も聞こえている辺り、ガラスは案外薄いのかもしれない。

「俺も、お前みたいな莫迦を兄に持った覚えなど無い、そもそも最初から家族など居ない。」
「莫迦はお前だ。」
「なんだと・・・?。」

諦の怒気は収まらない、更に更に強くなっている。

しかし冷治は恐れを抱かずやはり不満そうな目で睨んでいる。

そして諦は口を開く。

「莫迦って言うのは、自分が莫迦だって自覚してないんだよ、
てめぇは潔く美しい自己犠牲のつもりだか何だか知らんが、その前に悲しむ者の気持ち考えろ。」
「じゃあ貴様は自分が莫迦だと自覚しているのか?。」
「俺の事はこの際どうでも良い、
お前は今自分のやっている事が、果たして正しい事かどうか、考えた事あるか?。」

諦の顔にはしっかりと怒りがあった。

冷治は心が震える、この威圧感、圧倒されそうだ。

だが彼は、自分の中の僅かな虚栄心と優越感を以て震えを抑え、

やはり不満そうな目で諦を睨み続ける。

「この世に正しい事なんてない、間違った事もない。」

そして、言い切る。

すると諦は、ふぅ、と言って肩をすくめる。

どうやら何かに掴まっている訳ではないようだ、足場を作ったとでも言うのか?。

「それは真理だ、そして摂理だ。
だがな、冷治―――、俺はお前が正しいとは、口が裂けても言わない。
俺が今一番したい事は、てめぇをぶん殴る事だ。」
「止めておけ、騒ぐとまずいのは分かっている筈だ。」
「ああ、分かっているさ、俺が大人の男である事に感謝しろ。」

そして諦は、背を向ける。

いよいよこいつが何をしているのか理解できなくなってきた。

振り向いて、諦は言った。

「絶望という絶望を刻み込め、そしてギリギリのギリギリで助けてやるよ、莫ァ迦。」
「要らん。」

そんな、やはり兄弟のものとは到底思えぬやり取りをした後。

諦はふっと、霧の様に姿を消した。

それは確かに非現実的な、異常だった・・・。


















宗吾、すっかり忘れていた。

非日常に浸りすぎて、日常を忘れていたのか、非日常が日常になっていたのかのどちらか、

―――というか、どちらも大同小異とでも言うべきほどに意味は同じだが。

どっちでもいい、ただ平穏な時を気ままに生きる少年と、

目まぐるしい世界を廻る私達とでは距離が開くのは当然で、そしてそれを言い表す言葉など複数も要らない。

私は昼時なのに薄暗い廊下を歩きながらそう思った。

薄暗いのは当然、雪が降るほど空が灰色だからだ。

私達―――、つまり、私と翔飛と日香は教室に入る。

今は冬休みだが、良く誰かが遊び場としてやって来る。

宗吾もいる、と言うか呼んだらしい。

と言うか居た、真ん中の方の机でぐー、といびきをかきながら安眠中だ。

複数の椅子を並べて無理矢理寝床を作り、

あろう事か机を枕代わりにするその様は到底、安眠できるような環境とは思えないけど。

これが彼の心意気と言う奴なのかもしれない、寝たい時に寝る、というのは素晴らしい自己表現だ。

そう、自己表現だ、私も私が私として確固たる存在である事を証明したくて戦っている。

戦いに向かうのか、これから。

「宗吾・・・。」

多少苦笑混じりで、話し掛け難そうに翔飛が言った。

まぁ、こんな環境でいびきをかけるのだから、控えめに言っても起きる筈無い。

「宗吾ッ!、起きなさいよ!。」

と、日香が叫びながらひっぱたき、更に枕代わりの机を取り払う。

まぁ要するに、支えを失った彼の頭はそのまままっ逆さまに重力に引かれて落ちて、

硬く、そして冷たいリノリウムの床に激突した。

ごつ、と痛そうな響きが聞こえた、音が鈍い分より痛々しい。

「いってぇ・・・。」

そう言いながら起き上がり、立ち上がる彼は、まだ眠そうだ。

まだ寝れるのか、私は何だか感心してしまった。

「こら宗吾、起きなさいよ、誰に呼ばれたと思ってんのよ!?。」
「うー、こう言う場合は呼び出した方が謙虚な姿勢を示すべきだと思わないか?、二人とも。」

私は答えない、翔飛も答えない。

「何よ、じゃあ伝説的な超人に見初められて呼ばれた時も謙虚な姿勢をしろって訳!?。」
「何事にも例外はあるんだよ。」

ごつ。

今度は思い切り上から下への逆アッパー、というのか?。

そのままその勢いで彼の頭はまたリノリウムに激突。

今度は高度がより高い分、より痛い。

「俺、記憶喪失になりそうだ・・・。」

―――いっそ、そうなってくれた方がいいのに。

私はそう思って慌てて取り消すが、

宗吾の愚痴を聞いて、どうやら翔飛も同じ事を考えていたらしく、

苦笑交じりだがどこか楽しげだった顔は、うつむいた顔になってしまっている。

そんな事を考えないのは日香だけだ、それが、羨ましかった。

「で、なんだよ?、日香、金なら貸さないぞ。」
「あ〜、違う違う。」

日香は手を振って、否定のジェスチャーをする。

「翔飛。」

日香がその名を呼ぶが、翔飛は言い難そうにしてる。

「なんだよ、翔飛、お前が金貸してほしいのか?、
だが誰でも同じだ同じ、俺、ピンチなんだよ〜。」

と、涙目で宗吾は空を見る。

灰色の空を。

「ああ、違うんだ、修吾、暫く、お前に会えないな、と思ってな。」
「あ・・・?。」

宗吾は、今さっき翔飛の言った言葉を、すぐには飲み込めなかったようだ。

誰だってそうだ、そんな反応の仕方が当然。

「どういう事だよ・・・?。」

宗吾は、先程のおちゃらけた雰囲気を吹き飛ばして、今にも掴みかかりそうな険悪な雰囲気で迫っていた。

翔飛は言いにくそうだった、どうごまかそうか、と、考えている。

「旅行。」
「は?。」

そんな思索を、日香が遮った。

「旅行よ旅行、冬休みを丸々使って旅行、残念ながら5名様限りであんた除外されたのよね。」
「〜〜〜!!!。」

宗吾の雰囲気は変わった、滅茶苦茶悔しそうな顔になる。

でもこれで良いのだと思う、多分日香が居なければ何も言えず分かれなければならなかった。

―――もとより私は何も言わずに行くつもりだったのだけれど、あの人がそうであったように。

「ヘン、大事な冬休みは家で寝る事に意義がある、旅行なんて無駄すぎなんだよ阿保が。」
「滅茶苦茶強がりねぇ・・・。」

普段なら手を挙げるところを、日香は呆れながら返答した。

彼女もまた、自分がなにを言っているか、痛いくらいに分かっている。

「じゃあな、新学期には会えると思う。」
「ん?、そりゃ当然の事じゃないのか?。」

宗吾は鋭いところをついてくる。

「まあいいか、それよか月江よ、あれから冷治とはどうなったよ?。」

と、宗吾は興味心身にこちらの目を見てくる。

ああ、私居たんだ、あまりにも私が取り残されていたから気付かなかった。

と、そう考えるのに若干の余白が出来る。

そして次の思考、そして答え方。

「知っていたの?。」
「フン、どれだけの偵察兵が出向してると思ってる。」

数えたくも無い。

冷君だって意図的に特に学生の少なさそうな所を選んでいたのに、なんでこうもバレるのか。

多すぎだ、私達の回りには確実に張り込みがいた。

「まぁ、それよか、何処まで行ったんだ?、旅行で一気にたたむのか?」
「・・・・・・どうかしらね。」

曖昧に答える、どうなるかも分からないのだ、私にも。

この灰色の空のように曖昧な境界で表された今の私の居る世界。

はっきりと結果が出ないのだ、不透明が過ぎる。

「なんだよ、よくわかんねぇな・・・、ま、頑張れよ。」
「そうね・・・。」

そして私は、灰色の空を見る。

彼も、今この空を見ているんだろうか?。

「宗吾、じゃあな、新学期で会おう。」
「その前に、剣道はどうしたよ?。」
「ハハッ、旅行がてら特訓しようと思ってね。」

特訓ではなく実戦になるだろう。

しかしそれすら愉しそうだ、それは酷い虚構で、それもまたこの灰色の空のよう。

「全く、私達、時間無いんだから。」
「あ、おい、諦さんは?。」
「あの人なら先に行ってるらしいな、ま、何をするかよく分からん人だし。」
「違いねぇ。」

そして談笑の幕は閉じられた。

最後にさようなら、と三人して言った。

宗吾は他人行事みたいでよせよ、とか言った。

私達は、果たして帰って来れるのだろうか?。

この世界に、かつて居た世界に。

いや、私達、ではなく、彼が・・・。

私の眼は、今だその瞳に暗さを抱えている少年に向けられ、

想いは、どこか遠くで何かをしようとしている一人の愛しい人に向いていた。















教室から出て、後者を出て、運動場のど真ん中を歩いている時―――。

「で、どういう意味?、お父さんが死んだって。」

ついに、その話を聞きだす。

翔飛は当然、口を紡ぐ。

日香もだ、何も言わない、言いたくなさそうだ。

だが。

「翔飛のお父さんは、死んだらしいの、上官に、刃向かって。」

上官、というのは誰だろう?。

もしかして―――

「黎治、つまりは冷治の兄に逆らったんだ、奴に任せると必ずよく無い事が起きる、と。」

そう言って、翔飛は一振りの刀を抜き放った。

美しく伸びた銀色の刀だ、鏡の如く磨かれた刀身は、だいたい刃渡り130センチと言ったところか、

本当に、美しい。

「これは本来、父さんが練習用として僕に手渡したもの、
本当はもっと大きくて太くて重いものだったんだけど、これを隠す為に・・・。」

そして翔飛は、その銀の刀を一閃する。

「来るべき日のために、ね。」

そして強い砂埃が舞う、しかしそれは不思議と目に入らないばかりか、確かな流れを作り出していた。

「・・・竜。」

その、風の流れが、竜のように見えたのだ、気の流れが、竜を見せたのだ。

「「絶風之太刀」、父さんが残した、俺の、戦う力だ。
これで俺の力は、何倍にも高められている。」

そして風の竜は、そのまま向かって遥か彼方に立つ、高さ10メートルほどの樹に飛び掛り・・・、そして、粉にした。

「そんな・・・。」

あまりにも強大すぎる力を見て、私は震えた。

「そして、全てを書き綴った手紙と・・・、これと・・・。」

翔飛はそう言って、一つのエンブレムを私に手渡す。

「何これ・・・?。」
「政府御用達のフリーパスだ、大抵の交通機関は無料で、しかもノーチェックで利用できる。」
「一人専用なんじゃないの?。」
「三人分だ、多分、連れて行けってことなんだろうな。」

こんな日を予測したのだろうか、翔飛のお父さんは。

「いい?、月江、これに冷治が今どういう状況かが書かれているわ。」

そして日香は、私に古ぼけた、ちり紙と変わらない紙切れを渡す。

しかしそれには確かに文字が書かれていた。

私は紙を広げ、文字を読む。

最初は翔飛の事、

剣を砕いたのなら、立派にこの刀を使いこなせるだろう、と。

次に自分のこと。

黎治を討ちに行く、上手くしたら帰って来れる、また家族と、無効の双子と一緒に遊べるぞ。

ただ、上手く行かなければ、確かに私は死ぬだろうが。

彼は、私達のことだと今だ10数年前のまま時が止まっているようだ。

当然か。

そして次。

私が帰ってこなければ、どちらも大切にしろ。

そして最後。

そして、もし静谷冷治という人を知っているのなら、彼を救うべきだ。

彼はもうすぐ黄色い蜂蜜のような色をしたプールに投げ込まれ、細胞単位まで分解されるだろう。

純粋な「ダークサイド」の力を引き出す為の、素材として。

凍った。

私は凍った。

「〜〜〜ッ!。」

そしてすぐに駆け出そうとする、が、日香が思い切り手を引っ張る。

「やめてッ!。」
「だから、私達も行くって言ってるんでしょうがッ!。」
「これは、これは、私だけの・・・!。」
「同じ事、何度も何度も言わせないでよッ!。」

日香の声なんか聞こえて居ない、恐怖で真っ青になる。

早くしなければ、早くしなければ、冷君が、ころされてしまう―――。

ようやく手に入れた全てをこわされてしまう―――。

ハヤク―――。

そして私の視界は暗転し、意識もどこかへ飛び始めた。

「翔飛・・・?。」
「いいんだ、これで・・・。」

ダメだ、寝てはいけない、起き上がっていかなければ・・・。

「日香、黒って、なんだろう?。」
「黒?、黒って、黒でしょ・・・?。」
「冷治は俺達が助け出さなければ・・・、あの冷たい色は、助けられる。
冷たい色だから。」
「何でよ?。」
「暖かい色は最初から暖かいままだ、冷やさないと変わらない、最初から悪いと、冷やすともっと悪くなる。
けど冷たい色は暖めればよくなる、そう言う事だよ。」
「冷治が・・・?。」
「ああ・・・、そして、月江もな。 だから、彼女は待っていなくちゃな・・・。」

ダメ・・・だ。

ダメ・・・。

「ッッッッッッッ!!!。」

私は思い切り歯を食いしばって、意識を保った。

思わず舌を噛み切りそうになって、寸止めで済む。

ああダメだ、冷君は今死にかけているんだ。

「月江ッ!?。」
「私達の問題に手を出さないでっ・・・!。」

私はどうやら、諦から貰った短剣で手を串刺しにしていたらしい。

痛みが過ぎて、痛みを痛みとして感知していない。

「やっぱり私を置いていく気だったのね・・・ッ。」

そして、うろたえる二人を、純粋な憎悪の目で睨む。

「私は無力じゃない・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「連れて行きなさい・・・、私を。」

そして、二人して大きく息を吐いた。

「わかったよ・・・。」

言ったのは翔飛だが、日香も同じ事が言いたかったようだ。

「だけどその前に、怪我の手当てはしておこう。」

言い寄る翔飛を無視して、私は手に意識を集中する。

流れる血は止まり、傷口も完全に塞がった。

「月江・・・?。」

そして私は二人を睨む。

「良いでしょう?、無力じゃないんだから・・・。」

そして、私は、いや、私達は歩き出す。

ああ、そう言えばいつの間にか、日香への恨みが無くなっていたな・・・。

そんな事を想いながら、私は遥か果てを目指していた。

空は相変わらず、灰色だった
















あとがき


―――次回予告、なし

冷「マテ、=何も考えていない、と言う事か?」

いや、神様が考えてくれる筈さ☆

俺はそれを授ければよい☆

冷「最低の他力本願だな、愚かしい・・・。」

全くだ

冷「貴様に言っているんだぞ、この阿保がッ!!!。」」

イヤー、しかし今回は結構、俺の本音が出ていたり

冷「純粋に宗吾忘れてたもんな、て言うかあと突っ込む所複数箇所あり、全て答えろ、今すぐに」

事を性急に運ぶとろくな事がない

冷「貴様自身ロクでもない
第一クリスマスとか年賀状どうするんだ!?、 俺の記憶が正しければかれこれ半年以上はペイントソフトを触っていない気がするぞ!?、 絵師の癖に!」

痛いー、痛いー

冷「誰の真似だよ?」

キング・オブ・ハートの来世ー♪

いやて言うか、文句言うなら誰か親切丁寧に色塗りの仕方教えてくれ、

ニュータイプ(雑誌の事)はアテにならん

冷「おいおい、高校じゃ無理だぞ・・・、しかも公立、しかも田舎、しかも貧乏」

辞めるか♪、そしてそれ系統の学校へれっつらごー?

冷「一つ、貴様の所為でSSSが閉鎖を免れたと言う事、忘れるな。 だから貴様に挫折は許されん。」

うぅ・・・

冷「一つ、貴様レイヤー使っているか?」

うん、フレイヤたんよりレイヤたんの方が萌え

冷「魔探偵は置いておけ」

使ってない、て言うかどう使うんだ?

つまりこの時点でもうダメダメな気がするよぅ・・・

冷「さって、このダメダメなぼんくらを来年も見捨てずにしてやってくれないか?」

ヘタレが言うなー

冷「このままだとあとがきの癖にやたら長くなるので終わる」

ギニャアース


INDEX

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