○コンビニ

 

 深夜のコンビニでバイト。

 客が来なくて何もする事がない割には時給が良い。

 正直、無理矢理24時間にしない方が人件費と電気代的に安上がりだと思うんだけどどうなのか。

 まあ良いか。楽な仕事で金が貰えるなら有り難いし。

 

「ていうかやることないわけじゃないんだからキチっと働け」

 

 ドリンク類の補充をしていた俺の後ろでサボタージュ中の先輩が言ってくる。

 って、あ、商品のトマトジュースを勝手に呑むなよ先輩。

 

「勝手じゃないわよ。今現在、このコンビニに居るのはアンタと私。責任者はどっち?」

 

 そりゃあ先輩だろ。何故か。

 何故か、と付け加えたのは先輩が高校生だからである。ちなみに俺は大学生。

 それを先輩と呼ぶのは、俺の方がここのバイトに後から入ったからだが。

 

「そう、責任者はこの私。私は責任者の私に許可取ったから勝手じゃないの」

 

 全く理屈になってません、先輩。

 てゆーかこのコンビニ、高校生を責任者にするのもアレだが未成年の学生二人に深夜営業任せるのはどうなのか。

 まあいいか、どうせヒマだし。先輩が働こうと働くまいと俺の時給には関係ない。

 そう思いつつ、ジュース類の補充を再開する―――と。

 

「・・・あ、客だ。ちぇー」

 

 客の来訪を告げるチャイムが鳴って、先輩は面倒そうにレジの方へ移動する。

 一応、最低限仕事をやる気はあるらしい。

 客の方は先輩に任せ、俺は冷蔵庫の裏で作業を続けていると、程なくして。

 

「金を出せ!」

 

 ちょっとくぐもった男の声が聞こえた。

 それからすぐに続いて接客モードの先輩の声。

 

「申し訳ありませんが、ウチではお金は取り扱っておりません」

 

 普段の先輩とは天と地も掛け離れた丁寧な応対だ―――って、ちょっと待て。

 俺はバックヤードから出て先輩に慌てて言った。

 金ってつまり金券のことじゃないですか? と、客の前なので俺も丁寧語。

 

「あ、そっか―――お客様、もしかしたらプリペイドカードなどのお求めで」

「ざけてやがんのか! 金を出せって言ってるんだ!」

 

 どうやら金券の事ではないらしい。客は不満そうに声を荒らげた。

 客は大きめの帽子を目深にかぶり、夜だというのにサングラスをして、大きなマスクまでしていた。

 手にはナイフを持って、それを先輩に突き付けている―――なんだ強盗か。

 

「い、いいか、俺は本気だぞ。殺されたくなければ―――」

「ちょっと後輩、もしかしてこいつ客じゃなかったりする?」

 

 まあ客じゃないだろうな。てか見て解れ。

 先輩、防犯ベルが確かそこら辺にあっただろ。それを押したら警察が来るから。

 

「防犯ベルねー、使ったこと無いからなあ・・・何処だったっけなー」

「てめえ!」

 

 目の前の強盗を無視してベルのスイッチを探し始めた先輩に、強盗がキレた。

 勢いよく先輩の胸にナイフを突き立てる―――うげ、やな光景見た。

 流石に人が刃物で刺される光景を見るというのは精神上宜しくない。

 なので俺は眼鏡を外す。ややぼやけた視界で見れば、ナイフは先輩の胸ではなく脇の間に刺さっていた。

 そりゃあそうだ。先輩は平然と立っている。胸にナイフを突き立てられて、平然としているなんてありえないことだからだ。

 

「くそっ!」

 

 焦った声を漏らし、強盗は先輩の脇に挟まっていたナイフを抜く。

 同時、先輩は身軽にレジを飛び越えると、素早く強盗の背後に回り込んでチョークスリーパーを仕掛けた。

 「ぎゃああああっ」と、首を絞められているはずの強盗の口から、何故か盛大な悲鳴が放たれる。

 眼鏡を掛けてみれば、先輩は首を絞めているワケではなかった。

 強盗の肩を掴み、その首筋に口を当て―――血を吸っている。これもあんまし見たくない光景だなあ。

 俺は再び眼鏡を外すと、レジカウンターの下に設置されている防犯ベルを鳴らした。

 

「ごちそうさま」

 

 満足そうな先輩の声に振り向くと、強盗の顔は青ざめ、白目を剥いた状態で完全に気絶していた。

 

 

******

 

 

 それからしばらくして警察がやってきた。

 色々と事情聴取などをされ、強盗を捕まえた賞賛と、ナイフ相手に無茶なことはするなという警告を受けた。

 責任者が高校生で、未成年が深夜営業の店を任されている事にも何か言われかけた。

 が、先輩がじっと相手の目を見つめると、それ以上言われることは無かった。催眠術らしい。

 とまあ、そんなこんなして、警察が帰る頃には夜が明けていた。

 外に出てみれば、街の向こう側から朝日が昇ってきている。朝日を浴び、先輩は機嫌良さそうに伸びをした。

 

「今日は退屈しなくて良かったわねー」

 

 良かったって言えるんだろうか。

 眼鏡をかけた視線の先、先輩の胸元にはナイフで切り裂かれた跡がある、が血は一滴も出ていない。

 ていうか先輩、吸血鬼のくせに朝日を浴びても灰になったりしないんだな。

 

「そりゃあ鍛えてあるから」

 

 そう言いつつ、パックのトマトジュースをちゅーっと飲む。

 ・・・って、だから勝手に飲むなっつーの! てか今日、何杯目だそれ!?

 


あとがき

 なんか変な短編第四弾。

 この話のツッコミどころ。お前も「金を出せ!」って聞こえた時点で強盗だって気付けよ。


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