第29章「邪心戦争」
AI.「三度目の “竜” 」
main character:マッシュ
location:トロイアの街
四人の “冒険者” 達や、デビルロードを通って援軍にやってきたカーライル達の活躍により、ダムシアンに出現した二匹のドラゴンが倒された頃。
トロイアの方でも夜明けと共に現れた “竜” が暴れ回っていた。
「な、なんだあの “竜” 手が付けられねえっ!?」
「こ、こっちの攻撃が通用しねえだと!?」傭兵達が悲鳴をあげる。
“竜” の鱗は硬く、並の斬撃ではまるで刃が通らない。
それならば、と魔法の心得がある傭兵が、炎や氷、雷などの攻撃魔法を放つが、ことごとく通じず、逆にそれよりも更に凄まじい火炎の渦や吹雪、稲妻で反撃される始末。トロイアではゼムスとは別の “思念” の影響のためか、ゼムスの思念によって操られた魔物達の動きは鈍い―――が、この竜に関して言えば、まるで強さが衰えない。・・・いや、もしかしたら本来よりも動きが鈍くなっているのかもしれないが、ともあれ傭兵達が手を付けられないことには変わりない。
そういうわけでトロイアの街は、たった一匹の “竜” によって破壊され、蹂躙され続けていた。
「畜生! なんなんだよ、あいつ!」
目の前で仲間の傭兵が稲妻に吹き飛ばされていくのを眺めながら、メイドフェチが絶叫する。
その隣で、同じ傭兵であるサンダーボルトが神妙に呟いた。「むう・・・あれはまさしく “白竜” !」
「知っているのかサンダーボルト―――って、まあ白い竜っていうのは見りゃ解るけどよ」などとメイドフェチが言ったように、その “竜” は白かった。
また、ダムシアンに出現した二匹のドラゴンとは異なり、その体躯は “蜥蜴” ではなく “蛇” ―――長い長い蛇身をくねらせている。「三種の属性を操り、果ては地脈をも支配する存在! 下手に属性魔法で攻撃すれば手痛い反撃を食うぞ!」
「ああ、うん、そりゃあ見てれば解る・・・」対して役に立たないサンダーボルトの説明に、メイドフェチはがっくりと肩を落とした。
と、その傍らではマッシュが “白竜” の姿を凝視し、とある名を呟いた。「アストス・・・!」
「え・・・?」マッシュがその名を呟いた意味をファーナが聞き咎めた。
彼女は “彼” が変化した姿を見ていない。だから解らなかった。「あの “竜” ・・・アストスが変身した姿に似ている・・・」
かつて土のクリスタルを手に入れる為、 “磁力の洞窟” にてダークエルフ・アストスと戦った。
そのアストスが最後になって変身した姿が黒き蛇竜―――ダークドラゴンだった。色は違えど、今目の前に存在している “白竜” はあの時のダークドラゴンと良く似ている。
と、マッシュの呟きを聞き咎めたのはファーナだけではなかった。
赤毛の傭兵―――サラマンダーもマッシュに問いかける。「アストス・・・前にトロイアに出たというダークエルフか?」
「ああ、俺達が―――いや、最終的にはセシルが倒した」マッシュの返答に、サラマンダーは特に期待する様子はなくさらに問う。
「その時はどうやって倒した?」
「どう・・・って、セシルがパラディンの力を使って倒した・・・かな」
「パラディン・・・か。それ以外の勝算は?」
「・・・・・・」押し黙るマッシュに、しかしサラマンダーは特に落胆した様子はなかった。鼻から他人の力などアテにしていないというかのように。
その代わりに、会話を聞いていたらしいメイドフェチが「使えねー!」と声を上げる。「じゃあなんですか? パラディンとやらじゃない俺達はどうしようも無いって?」
「いや・・・」マッシュは暴れ回る “白竜” の姿をマジマジと見つめる。
「あの時の “ダークドラゴン” ほどの “威” を感じない」
磁力の洞窟で戦った “アストス” はまさにどうしようもないほどの力を示していた。
だが “白竜” は、確かに凄まじい力を感じるが、絶望的なほどでもない。
もっとも、 “アストス” よりはマシと言うだけで、人を凌駕した存在であることには変わりない。だが―――
(アストスの時も、バハムートの時も俺は無力だった・・・!)
マッシュは心の中で苦みと共に思い返す。
アストスの時は早々に倒され、ドラゴンと貸したアストスと戦うセシル達の姿を、倒れたまま見つめることしかできなかった。
バハムートの時は、戦う資格すら得られなかった。だから。
「今度こそはッ!」
「マッシュ!?」サラマンダーが呼び止めるのも聞かず。
マッシュは “白竜” へ向けて突進した―――