第29章「邪心戦争」
AH.「 “無敵” の冒険者」
main character:クロス=イーゲル
location:ダムシアン砂漠
ダムシアン砂漠の上空。
“グラビディブレード” の範囲外で、アリスは妹を片腕で抱えたまま眼下を見下ろしていた。「・・・リーナじゃないけど、めんどいし―――ちゃっちゃと終わらせよっか」
下方、地面に這いつくばる二体のドラゴンを眺めながら、空いた方の掌を真っ正面に向ける。
「―――オルハリコン」
呟きつつ、まるで窓を拭くような動きで、前に向けた掌を見えない壁をなどるように左右に動かしながら下げていく。
ややあって、掌が辿った軌跡上に光の粒子が生まれ―――それは次々と “短剣” の形となった。
その “短剣” には細かく無数の文字が柄や刃に刻まれていた。「行きなさい―――」
ガンバレルダガー
アリスが命じた瞬間、彼女の目の前に浮かぶ短剣に刻まれた “文字” が淡く光を放つ―――直後、それらは一斉に発射される。それもただ真っ直ぐに飛ぶのではなく、まるで意志を持っているかのように様々な軌道を描いて飛翔する。
短剣の一つ一つには重力系の魔法が付与されている。
その重力魔法が短剣を宙に浮かばせ、自在に飛翔させる “タネ” だった。もちろん、重力魔法が付与されていると言っても、同じ “重力” の力ならば “グラビディブレード” の方が遙かに強い。
無数の短剣はすぐにその力に捕まり、軌道を下へと向ける。
だが、それでも重力魔法が付与されている為か、真下―――すぐ手前のクロス達目掛けて落ちることはなく、やや斜めの落下軌道を取り―――地面に重力で縛られている二匹のドラゴンへと目掛けて落ちていく。「―――うん、計算通り」
満足そうにアリスが呟いた直後。
無数の短剣は、超重力に寄って増幅された速度と質量を持って―――「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!」」
―――次々とドラゴンの強靱な鱗を貫き、肉を斬り裂いていった。
******
無数の短剣を背中に受けて、悲鳴をあげる二頭の竜。
刃渡りが大人の掌程度しかない短剣だ。そんなものが多少刺さったところで、見上げるほどの巨体を持つドラゴンには致命傷になりえないだろう。だが、この超重力下、遥か高みから降り注ぐ短剣は、勢いよくドラゴンの肉体に突き刺さり、のみならずその身深くへと潜り込んでいく。刃は肉を裂き、竜の身の中心部まで到達する―――それが無数であれば、いかなドラゴンであってもただではすまない。
「やったか・・・!?」
剣を構えながらクロスが呟く。
彼の目の前で二頭の竜は苦しそうに身じろぎし―――やがて、動かなくなった。「・・・終わっ・・・た?」
背後で妹が苦しげに呟く―――直後、周囲を抑えつけていた重力が消え失せる。
振り向けば、リーナが地面に刺さった大剣に身を預けるようにして、苦しそうに荒く息をついていた。「大丈夫―――じゃあねえな?」
「・・・大丈夫・・・よ・・・」こちらの問いかけに、無理に虚勢を張る妹にクロスは苦笑する。
と、そこへアリスが舞い降りてきた。「よお、アリス。お疲れさん」
クロスが声をかけると、白衣の美女は「てへ」となにやら悪戯っぽく舌を出す。
その仕草に、長年の付き合いがあるクロスは嫌な予感を察して眉をひそめる。「おい、まさかお前―――」
最後まで問わず、クロスは慌ててドラゴンの方を振り返る。
見れば、地面に倒れ伏している二頭の竜の内、赤い方がゆっくりとその鎌首を持ち上げるところだった―――「少し計算ミスっちゃった。なんか赤い方が生命力高くって」
青い方―――ブルードラゴンは完全に絶命しているようだが、レッドドラゴンは傷を負いながらもまだ動けるようだった。
心の中でアリスに「ド阿呆ッ」と罵倒しつつ、クロスは剣を構える。首を持ち上げたレッドドラゴンは、クロス達に向けてその顎を開く。
その喉の奥に赤い光が見えた。
先程のブルードラゴンと同じように、何らかの・・・おそらくは炎の “ブレス” を放ってくるのか―――と、クロスは予測して。「え」
熱線
予測は裏切られた。
超高熱の光線が、クロス達目掛けて放たれる。
それは “ブレス” ほど広範囲ではなく、一条に集束されているが、 “ブレス” よりも遙かに “速い” 。
流水秘剣
一瞬でこちらに到達してくる熱線を、クロスはギリギリで受け流す。
軌道が逸れた熱光線は、クロスのすぐ脇を抜けて後方の砂漠へ命中、線上に砂地を灼いて―――瞬間、しゅぼぅっ、と砂が炎上した。「って、熱ーーーーー!」
クロスは脇を押さえて声を上げた。
超高熱の光線だ。直撃しなくとも、かすめただけで灼かれてしまうだろう。 “熱” さえも受け流す流水秘剣でなければ、熱線そのもの回避できたとしても、大火傷を負っていたに違いない。「やべえ速ぇ! ていうかやべえ!」
焦った様子で、クロスは剣を構え直す。
レッドドラゴンはダメージを負っているためか、すぐに次の攻撃に移れないようだった―――が、だからといってこちらには攻撃手段がもう無い。「・・・アリス、さっきの攻撃は・・・?」
クロスの背後でリーナが問う―――と、アリスはピンチだというのに普段と変わらぬ調子で応える。
「ああ、無理無理。さっきのはグラビディブレードの “超重力” の力で加速して竜麟を貫けたんだから。まともに撃っても弾かれるだけよ」
「・・・なら私がやる・・・」リーナが大剣を砂から引き抜いて構えようとする―――が、足下がふらついて地面に再び刃を立てて身体を支える。
「くっ・・・」
「その身体じゃ無理よ」
「でも・・・」
「・・・リーナって、普段無気力なクセして、やる時はやる気になるわよねー」感心しているのか呆れているのか解らない口調でアリスが軽口を叩く。
対し、大剣の少女は馬鹿にされているとでも感じたのか、不機嫌そうに口を尖らせた。「・・・死ぬかも知れない時にやる気出さないのは馬鹿だと思う」
「確かにねー・・・でも」アリスはリーナの身体を支えている大剣に手を伸ばし、ぽん、と軽く叩く。
それだけで剣は光の粒子に分解され、アリスの手の中に吸い込まれるように消えていった。「あ・・・っ!?」
「はいっ、と」支えを失って倒れ込みそうになったリーナを、アリスは大剣を消した手でそのまま支える。
片手にヘレナを抱え、もう片方の腕でリーナを支えて、白衣の女性は嘆息しながら呟く。「無理しても無意味な時に無理するのも馬鹿のすることよ?」
「無意味なんかじゃ・・・」
「剣に支えられているような今の貴女が、どうやって戦うと?」
「くっ―――きゃあ!?」悔しそうに唇を噛むリーナ―――を、アリスは自分の妹同様に強引に引き寄せて脇に抱えこんだ。小さいヘレナはともかく、リーナはアリスほどではないにしろ、そこそこ体格が良い。だというのに、白衣の女性は二人を楽々と抱えている。
「じゃ、そんなわけで私らは退避するから。あとお願いね」
先程からレッドドラゴンに対し、油断無く構えているクロスの背中に声をかける。返ってきた答えは「おう」という短い返事だった。
「ちょっと! 兄貴一人で―――」
文句を口にしたリーナに構わず、アリスは再び “エアスライド” に乗って飛翔する。
直後、再びレッドドラゴンから熱線が放たれた―――
******
「はい、到着」
と、アリスはダムシアン城の城壁の上に “エアスライド” を着陸させ、降りる。
そして両脇に抱えた二人の少女を下に降ろし―――もとい、落とした。割と無造作に。「んぎゅっ!?」
「・・・っ」硬い石の床に落とされ、リーナとヘレナは苦痛に顔を歪める。それを見て、アリスは「あ、ごめん」と適当に謝る。一応、わざとではなかったらしい。
「い〜た〜い〜・・・んん・・・? どこここ・・・・・・?」
落とされた衝撃で目が覚めたのか、ヘレナが打った身体をさすりながら身を起こす。その隣では、すでにリーナが起きあがっていて、アリスへ詰め寄っていた。
「アリスっ!」
「ん? どしたのリーナ。血相変えて」
「なんで兄貴を置いてきたの!?」
「流石の私もクロスまで抱えていけないわよ」
「そう言うこと言ってるんじゃない!」いつもの気怠げな様子からは一変して、激しい口調のリーナに、目が覚めたばかりのヘレナは訳が解らずに困惑する。
「え、ちょっとリーナ、どしたの?」
「アリスが! 兄貴を見殺しにしたっ!」
「えー!?」言われ、ヘレナはきょろきょろと周囲を見回しクロスの姿を捜し―――ふと、城壁の外に目を向ける。
「・・・あれ、もしかしてクロス君!?」
彼方の砂漠に、赤い竜と対峙する剣士の姿が辛うじて遠目で見える。
時折、レッドドラゴンから放たれる赤い光線――― “熱線” を、クロスは辛うじて受け流しているようだった。と、不意にヘレナは気付く。
そのクロスとドラゴンの向こう側では、ヘレナの魔法で立ち竦んでいた魔物達が再び動き出そうとしていることに。「い、いくらクロス君でも、ドラゴンと魔物の群れを同時には―――ねえ、おねえちゃん!?」
これ、ヤバイんじゃないの―――と、姉の方を振り返ってみれば。
「―――・・・そういうわけで、追加報酬としてあの竜の死骸を要求するわ」
などと、報酬の件で、ちょうどそこにいたアルツァートに掛け合っていた。
「ちょっ、おねえちゃん! そんなこと言ってる場合じゃ・・・」
「そんなことはなによ? 竜の死骸なんて貴重な素材じゃない」淡々と応え、アリスは再びアルツァートへと詰め寄る。
「そもそも、最初の報酬からして安すぎるわ。あの魔物の群れを食い止める見返りが ”バロン王への紹介状” なんて紙切れ一枚って言うのも不誠実な話よね?」
実は、クロス達がこの依頼を受けた報酬がそれだった。
彼らが追っている “バッツ=クラウザー” はバロン王 “セシル=ハーヴィ” に協力しているという。ならば紹介状があれば、スムーズに逢うことが出来るだろうというクロスの考えだった。
それとは別に、 “魔法技師” を名乗るアリスとしては、バロンが誇る飛空艇技師 “シド=ポレンディーナ” の技術を間近で見たいと言う願望もあった。そういうわけで、その時は異論はなかったのだが。「だからさらなる追加報酬として相応の宝石を頂くというのはどう?」
「ちょっと待て! 宝石はともかく、竜の死骸を丸々一頭分は破格すぎるだろう!?」アリスの提案(というか恫喝)に、我慢出来ずにアルツァートが叫ぶ。
しかし彼女は「いいえ」と首を横に振った。「一頭ではなく二頭丸々よ」
「んなっ・・・!?」流石にアルツァートは声を失う。
アリスも言ったとおり、竜の死骸は非常に貴重なモノである。
竜麟や骨、はてはは血や目玉さえも様々な薬や武具などの素材となるのだ。それぞれの単価もそれなりに高いが、何よりもあの巨体だ。目玉や舌などの一器官はともかく、竜麟だけでも数千枚から一万枚以上は採取出来る。それだけあれば、一般人ならば一生遊んで暮してもお釣りが出るだろう。その他の部位も合わせれば、小国ならば年間の国家予算にも匹敵する。
それを二頭も―――さらにはその上、宝石まで要求するのだから、アルツァートが声を失うというのも仕方がないということだ。
「おねーちゃんっ!!! そーゆーこと言ってる場合じゃないでしょーがっ!」
クロスのことなど放っておいて交渉事を続けるアリスに、ヘレナが半ばキレて絶叫する―――そのすぐ後「はうっ」と呻いて、ぱたりとその場に倒れた。
「ヘ、ヘレナ!?」
「あーら。まだ回復しきってないのに無茶するから」リーナが倒れたヘレナに駆け寄るのを眺め、アリスはやれやれと嘆息する。
「クロスの事は平気だって言うのに」
「でもっ、いくら兄貴だって一人で・・・」アリスの言葉にヘレナの身体を抱き起こしながらリーナが反論する。
それを聞いて、白衣の女性はさらに嘆息した。「あんたたち、クロスのことを過小評価しすぎ」
「・・・え?」
「一人だから平気だって言ってるの―――クロス=イーゲルは “無敵” の冒険者よ? 相手にバッツやドルガンクラスの馬鹿が居るならともかく、あの程度の相手・・・」ふ・・・と、アリスは城壁の外、クロスへと殺到する魔物の群れを眺め―――断言する。
「敵ですらないわ」
******
四方八方から攻め立ててくる魔物の攻撃を、クロスはことごとくいなし続けていた。
数えるのも嫌になるくらいの数の魔物の群れの集中攻撃を、時に身を反らして避け、時に剣で受け流してやり過ごしている。
それはまるで停滞することのない川の流れのような―――まさに ”流麗” と評するに相応しい動きだ。その流れるような動きを捉えようとすることは、川の流れを掴み上げようとするに等しい。アリスがリーナへ向けて言った言葉は事実だった。
クロスにとって、魔物がどれだけの数居ようとも物の数ではない。「―――まあ、最初の予定は狂ったが」
背後から獣型の魔物の爪がクロスへ伸びる―――のを振り向かずに首を傾けるだけで回避しつつ、クロスはまるで軽いジョギングでもしているかのような様子で呟く。
「とりあえず、増援が来るまで時間を稼ぐってのは変わらねえか」
魔物達の間をすり抜け、難なくクロスは包囲を突破した。
そしてクロスを狙わず、ダムシアンの城の方へと向かいかけていた魔物を適当に蹴りつける。まるで力の籠もってない蹴りだ。そんなものでは魔物を倒すことはできないが―――「お前らの相手はこの俺だっつーの」
「GAAAAAAAAAAAAAAッ!」―――それで街の方へ向かおうとしていた数体の魔物は振り返り、クロスを目標と定める。
その攻撃を容易く避け続ける。かの “最強” の旅人を知るものが見れば、このクロスの戦い―――もとい回避振りを彼と重ねることだろう。
どれだけの数の敵が、どれだけの攻撃を仕掛けようとも当たらず、倒すことはできない―――さらに、回避し続けている当人は、動き続けているにも拘わらず、息ひとつ切らさずに余裕の笑みすら浮かべている。それはまさに “無拍子” という才能を持つバッツ=クラウザーそのものだ。
しかし、バッツとは決定的に違う事が一つだけあった。
それは―――「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!?」
悲鳴。
一体の魔物が悲鳴をあげ、血しぶきを上げながら砂の上に倒れる。
それはクロスの攻撃に寄るものではない。
クロスを狙った別の魔物の攻撃が受け流され、それが今倒れた魔物の身体を抉ったのだ。結果としては “同士討ち” だが、それを狙って受け流したのはクロスだ。
魔物がクロスに仕掛けるたびに、その攻撃が外れ、別の魔物へと直撃し―――血しぶきと悲鳴が上がっていく。
実はクロス自身に攻撃能力は殆どない。
“流水秘剣” という絶対の防御技を習得している代わりに、攻撃技をあまり会得していない―――無論、攻撃出来ないわけではないが、攻撃するよりも防御に徹し、敵の攻撃を受け流して同士討ちさせる方が、不慣れな攻撃をするよりも効果が高い。これがバッツとは――― “ただ” の旅人とは決定的に異なる点だ。
“冒険者” を自称するクロスは、襲いかかってくる敵を殺すことに躊躇しない。殺戮を好むわけではないが、バッツのように潔癖までに “死” というものを忌避しない。何故なら冒険者とは “険しきを冒す者” 。
自ら危険を望み、数々の困難を乗り越えてその先を目指す者だからだ。
“数々の困難” には立ちはだかる魔物などの “敵” も含まれている。故にクロスは敵を――― “障害” を倒すのを躊躇ったりはしない。
(・・・ま。このまま同士討ちを続けてても、全滅させるのは難しいだろうけどな)
敵の数が多く、多方向から同時に攻められれば同士討ちをさせやすい―――が、敵の数が少なくなってくればそうもいかない。
それに魔物にも知能はある。同士討ちが続けば、流石に対応してくるだろう。だが、クロスにとってはそれはそれで構わなかった。
クロス達が請け負った依頼は “敵を倒す” ことではなく “敵を食い止める” こと。
このままバロンの援軍が到着するまで、敵の相手をしていれば良いのだから。「お―――?」
ふと、なんとなく顔を上げる。
見れば魔物の群れの向こう側。レッドドラゴンが頭を持ち上げてこちらを見つめていた。
アリスの攻撃で倒しきることは出来なかったが、浅くはないダメージを負い、さらには背中の竜翼も傷ついている為か、重力から解放された今も、砂漠に這いつくばったま飛び上がろうとはしない。その竜の顎がまた開き―――その喉の奥に赤い光を灯す。
熱線
魔物の群れがクロスに殺到してから、レッドドラゴンは熱光線を放っていなかった。
それは味方である魔物達を巻き込んでしまうためだろう。
だが、魔物達が取り囲んでも依然と回避し続けるクロスを見て、味方を巻き込んででも攻撃するべきだと判断したらしい。赤き熱の光線は、魔物達を瞬時に消し炭にしながら吹き飛ばしつつ、クロスへと迫る―――
流水秘剣
熱線と、吹き飛ばされた魔物と、付随する衝撃波。
迫るそれらを、しかしクロスは剣の一振りで受け流した。「・・・・・・!」
結果として周囲の魔物達だけを消し飛ばし、クロスだけが平然とその場に一人残される。
「よお、サンクス」
に・・・と笑って、クロスはレッドドラゴンへ手を振った。
対してドラゴンは愕然と目を見開いたまま、クロスの姿を凝視する。そして胸に湧き上がるのは、このちっぽけな存在に対する恐怖感だ。
吹けば飛ぶようなちっぽけな人間。
だというのに、魔物の群れが攻め立てても、竜の熱線を浴びせても、平然と在り続ける。今の熱線により、吹き飛んだ魔物達の代わりに別の魔物達が再びクロスに襲いかかる。
だが、他の魔物よりも知能あるレッドドラゴンは無駄だと確信していた。
どれだけ雑魚が攻めようとも、このちっぽけな存在を倒すことはできないと。ならばこの人間が力尽きるまで、他の魔物たちごと消し飛ばしてやる。何度でも―――と、レッドドラゴンは傷ついた身体に鞭打って、体内の “熱” を喉の奥に集中させて―――
ファルコンダイブ
何度目になるか解らない “熱線” を放とうとした直前、頭上から雷光の如き一撃がドラゴンの脳を貫き―――レッドドラゴンは、自分が誰にやられたのか―――そもそも何時の間に殺されたのかすら解らぬうちに絶命する。
「お」
と、クロスは魔物達に取り囲まれながらも、絶命し、倒れた竜の頭の上に立つ黒い竜騎士に気づいた。
さらにその竜騎士の頭上には、一匹の飛竜が砂漠の空を旋回し、そこから二人の竜騎士が砂漠へと降り立つ。「数時間はかかるって言ってたが―――随分と早いお付きだな」
魔物の攻撃を避けながら呟くクロスの言葉が聞こえたのかどうか―――
「バロン軍竜騎士団副官カーライル=ネヴァン! 他二名と共に、ダムシアンの窮状を救いに来ました!」
黒い竜騎士―――カーライルは一人で魔物達の相手をするクロスに向かって宣言し、配下の竜騎士に号令をかける。
「行くぞッ!」
「「ハッ!」」そして三人の竜騎士が、クロスを取り囲む魔物の群れへと跳躍した―――