第29章「邪心戦争」
AE.「最強の援軍」
main character:レオ=クリストフ
location:バロンの街・デビルロード

 

 

「じゃあ、バロンの方は任せたぞ!」

 バロンの街にある “デビルロード” の入り口。
 二名の竜騎士を従え、手には大きなバスケットを持ったカーライルがロイドに向かって言う。

「ああ、そっちもダムシアンを頼む―――だが・・・」

 やや不安そうに表情を曇らせ、ロイドがカーライルを含む三人の竜騎士を眺めた。

  “デビルロード” は一瞬で他国へ移動出来る便利な施設だ。
 だが、二つの理由で一度に転移出来るのは三名に限られている。

 理由の一つは技術的な問題。
 以前、セシル達がミシディアからバロンへ渡った時とは接続が不安定で、下手をすれば次元の狭間に跳ばされる危険性があった。
 今は改良され安定しているが、そのために定員が定められ、一日に四名までとなってしまった(ちなみに重量に関係なく “四名” までである。四名分の “意識” と言うべきか)。無理をすればそれ以上転移することもできるだろうが、以前と同じように次元の狭間へと跳ばされる可能性がある。

 そしてもう一つの理由は政治的な問題だ。
 各国間を繋ぐ “デビルロード” は確かに便利だが、それゆえの危険もある。
 もし仮に一度に大量の人員が送り込めたとしたら、いきなり大量の兵士を他国へと送り込み、制圧することもできるということだ。今現在のフォールスの情勢ではそんなことは有り得ないだろうが、将来他国を支配するという野心を持つ王が現れぬとも限らない。

 もしかしたら技術的な問題はそのうち解決出来るかもしれないが、政治的な理由により “デビルロード” には制限が設けることをセシルが決め、他の国々もそれに同意した。

「三人で大丈夫か?」
「カイン隊長のように “一騎当千” とまではいかないが」

 不安げなロイドに、カーライルは少しおどけたように応える。

「だが、我々でも一人で百人分の働きはしてみせる」

 そう言うと、傍らの二人の竜騎士も力強く頷いた。
 それに、とカーライルは手に持っていたバスケットを高く掲げた。

「アベルも居る―――飛空艇で後続が辿り着くまでは持たせてみせる!」
「シャギャ」

 バスケットの中から小さな飛竜が顔を出し、可愛らしく鳴いた。
 デビルロードは “四名” まで一度に転送することができる。カーライル達竜騎士三名に加えたこのアベルが “四人目” であった。

 基本的にデビルロードは人間が使うように出来ている。
 そのため、飛竜の巨体では施設の中に入らない―――そこで、黒魔道士団の黒魔道士に頼み、魔法で縮小してもらったのだ。
 向こうに着いたら小人化を解くアイテム “うちでの小槌” を使えば良い。

「それよりも私はバロンの方が心配だ。リックモッド殿は苦戦しているのだろう?」
「ああ。だがそっちにはとてつもなく強力すぎる “援軍” に行って貰った」

 リックモッドが苦戦している鋼鉄の顔――― “フェイズ” の報告を聞いた時には、ダムシアンへの増援を取りやめ、カーライル達竜騎士団とベイガン、さらに民間人であるミストに頼み、召喚獣をぶつけるしか手がないと思っていた。

 だが “最強” を冠する存在が居るなら話は別だ。

「レオ=クリストフか・・・任せて大丈夫なのか?」
「その言い方はないだろ? 仮にも “最強” ―――しかもカイン=ハイウィンドを倒した相手だぜ?」

 ロイドが苦笑して言うと、カーライルはムスっと不機嫌そうになる。

「あれはただの “手合わせ” だったからだ。本気の戦闘ならば隊長が負けるはずはない」
「はいはい解った解った―――とにかくこっちはあの “最強” に任せりゃいい」
「お前にしては随分と楽観的だな」
「 “最強” を相手にして、自分の無力さ加減を嫌と言うほど痛感してきたんでね」

 以前、バブイルの塔に行った時のことだ。
 セフィロスという “最強” を相手にして、ロイドは何をすることもできなかった。

「 “最強” ってのは人の形をしていながらも、人の常識を通じない強さを持つから “最強” っていうんだよ。バッツ=クラウザー然り、セフィロス然りだ―――てめえだって、ずっとカイン隊長の傍について来たんだ。それくらい解るだろ?」

 ロイドの言葉に、カーライルは舌打ちする。

「まあいい。バロンは任せた―――だからこちらは私に任せてくれ」
「ああ―――死ぬんじゃねえぞ、カーライル=ネヴァン」
「お前こそな―――ロイド=フォレス」

 互いの名を呼び合い、笑みを交す。
 そして、カーライルは竜騎士を従え、デビルロードへと入っていった―――

 

 

******

 

 

「攻撃、命中しました」
「うむ・・・!」

 部下の報告に “魔導アーマー” の肩に乗っていたレオは頷く。

  “魔導アーマー” 。
 それは人型を模した機械であり、人間よりも二回り以上の大きさを持つ巨大な機械だ。人間を模した機械と述べたが、人にとって首から上に当たる部分が無く、そこが操縦席となっていて、ガストラの兵士が乗り込み機械を操っている。
 ただし一人乗りである為、レオはその肩部に座っていた。

 ガストラ帝国が誇る “魔導” 。
 その集大成とも言うべきこの機械―――いや、 “兵器” の名は魔導アーマーと呼ばれるものだった。

 刃の通じぬ鋼鉄のボディを持ち、炎や氷、雷などの様々な属性を持つ光線を武器として搭載。力も相当なものであり、何十人もの人間と押し合いしても負けることはない。
 それらの高性能を動かす動力は “魔導” の力であり、その能力を余すことなく発揮することが出来る。

(しかしケフカの忠告通りにしてみたが・・・本当に必要になるとはな)

 その魔導アーマーをレオは二体用意してきていた。
 理由は胸中で呟いたとおり、帝国の魔導師ケフカ=パラッツォに「バロンに行くなら戦力を持っていくことをオススメするよ! あっちはこれからヤバイことになりそうだっていうからねェ!」などと言われたせいだ。

 何故、ケフカがそんな事を知っていたのかは解らないが―――言葉からすると何者かに情報提供されたような様子だが―――ともあれ、その情報は正しかった。

「セリス将軍を迎えに来ただけだったが・・・まあいい、これも縁だ」

 レオが再びフォールスに来た理由は、ここに残っているセリスを連れ戻す為だった。
 流石に数ヶ月もほっといて良い立場でもない。ガストラ皇帝直々に連れ戻せ、とレオに命じられたのだ。

 と、レオの呟きを聞き咎めたガストラ兵が不満を口に出す。

「しかしなんだってセリス将軍の為に、レオ将軍が出迎えなければならないんでしょうかね」
「ああ。自分の立場も忘れて勝手にフォールスに残った女を・・・しかも迎えに来てみれば、月に行ってるだなんて巫山戯すぎです!」

 もう一体の魔導アーマーに乗る兵士もセリスに対する不満を隠そうともせずに呟く―――と、その肩に乗っていた四人目の男が苦笑しながら―――しかし目は笑わずに―――言う。

「おいおい、俺の “女神” に対して随分な言い草だな。オイ?」
「ア、アストラ様・・・!」

 ぎくりとして兵士はアーマーの肩に乗っている男を振り返る。

「ていうか将軍様の陰口叩くってこたあ、それを任じた皇帝様に文句垂れるのと同じ―――つまりはガストラ帝国への翻意と見て、反逆罪でブッ殺してもいいって事だよな?」
「も、もうしわけありません! 失言でした!」

 冗談めかしていって居るが、この男はそれくらいは本気でやると兵士は知っていた。
 アストラに睨付けられ、ひたすら恐縮する自分の部下をみやり、レオは嘆息してから言った。

「アストラ、それくらいにしておけ」
「だがよう、兄貴―――」
「お前がセリス将軍の事を敬愛しているのは良く知っているが許してやれ―――それと今は作戦中だ。私のことを “兄” と呼ぶな」

 レオの厳しい口調に、アストラは不機嫌そうに「チッ」と舌打ちする。

 男の名は “アストラ=クリストフ” 。会話にもあったとおり、レオ=クリストフの実弟である。
 金髪に浅黒い肌と、見た目はレオと良く似ているがその正確は正反対だ。厳格なレオに対し、弟は何処か軽薄そうな雰囲気を持っている。

 手には黒いグローブをはめ、腰には左右二本ずつ、どういうわけか計四本もののミドルソードをさげていた。

 セリスの事を “女神” と称したことからも解るとおり、彼女に心酔していて、帝国ではセリス将軍の副官を務めている。
 今まで、彼女の留守を守っていたが、レオがセリスを迎えに行くというので強引についてきたのだ。

 と、魔導アーマーが戦場に近づいたのを見て、レオは指示を飛ばす。

「お喋りはこれまでだ―――アストラはビックス、ウェッジと共にバロン軍の援護。魔物の掃討に当たれ!」
「レオ将軍は?」
「ンな事決まってるだろ」

 ガストラ兵―――ビックスが問いかけると、レオの代わりにアストラが答える。その視線は魔物達の後方にある、気味の悪い金属の “顔” を見つめ。

「あのデカイヤツを相手にするんだよ―――なあ兄貴?」
「だから兄と呼ぶなと言った」

 そう言われながらも。
 アストラは兄の声音にどこか愉悦めいた響きがあることを聞き逃さなかった―――

 

 


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