第28章「バブイルの巨人」
I .「切り札」
main character:ゴルベーザ
location:バロン南部

 

「・・・改めて見てみると、やっぱりデカイよなあ」

 エンタープライズの甲板上で、ロイドは半笑いを浮かべて呟いた。
 真っ向から立ち向かおうとするのが馬鹿らしくなるほどの巨大さ。
 なにせ比喩抜きで山と同じくらいの巨人だ。

(山って言うのは越えるモンで、打ち倒すモンじゃねーよな)

 はは、と冗談交じりに思いつつ苦笑。

「目標、接近します」

 配下の兵がそう言って報告してくる。ンなこと言われなくても解ってる、と言う言葉を呑み込んで、緊張しきっている兵士達にロイドは号令を発する。

「さて、これが新生 “赤い翼” の初陣だ! その相手とするには巨大な相手だが、気負う必要は何もない! 俺達の目的はアレを倒すことではなく、時間を稼ぐことだ。だから―――」

 にっ、とロイドは同じ甲板上に居る兵士達に笑いかけた。

「気楽に始めるとしようぜ」

 

 

******

 

 

 飛来する飛空艇団を、ゴルベーザは巨人の視線を通した映像として見つめていた。
 シドが開発した新型飛空艇エンタープライズを先頭として、迫り来る飛空艇の数は20艇ほど。これはかつての “赤い翼” の倍以上の数だった。

 ゾットの塔がバロンへ転移したことを知らないゴルベーザは、何故、この短期間でこれだけの飛空艇を揃えられたのか想像もできなかった―――が、だからといって焦ることもない。
 もしも飛空艇の数が100を越えていたとしても、同様だっただろう。

 いくら飛空艇が束になって来ようとも、この巨人に対しては無力だ。城を一つ吹き飛ばすほどの爆撃ですら、この巨人に対しては傷一つ付けられないだろう。

「蹴散らしますか?」
「・・・いや、捨て置け。相手をするだけ時間の無駄だ」

 この飛空艇と比べ、唯一この巨人が劣っているものがあるとすれば、それは “機動力” だ。
 空を自在に飛び回る飛空艇を捕まえるのは、蝿を追いかけるようなものだ。
 五月蠅いだけで害はないのだから、無視した方が効率が良い。

 だからゴルベーザは巨人の制御システムへ向けて告げる。

「目障りだが飛空艇は無視して進め」

 ゴルベーザの命令を受けて制御システムが “ヴゥン” と応えるように音を立て、再び巨人が動き出す。

「む・・・?」

 再び歩き始めた巨人に対し、向かってくる飛空艇を見てゴルベーザは不可思議そうに唸る。
 20艇の飛空艇のうち、巨人に向かってきたのはその半分の10艇だったからだ。残り半分は逆に後退し、進む巨人に対して一定の距離を取っている。
 間合いを取って砲撃でもする気なのか―――とも思ったが、残り半分はこちらを攪乱しようとしているのか、巨人の周囲を飛び回っている。味方が居るのにそこへ砲撃しようとはしないだろう。

 敵が何を考えているのか読めないうちに、後衛の飛空艇は巨人と間合いを取りつつ横に大きく展開する。あくまでも巨人との距離は一定にして、巨人を中心に円の陣形を作る。
 なにか仕掛けてくるつもりか―――そう思った矢先、ドォンという爆音が響き渡った。

「爆撃か・・・無駄なことを」

 それは巨人を円で囲んだ飛空艇の攻撃ではない。さきほどからずっと、煩わしく巨人の周囲を飛び回っている残りの飛空艇だった。そのうちの一つが巨人に対して爆雷を落としたようだ―――が、直撃したにも関わらず、響いたのは音だけだ。重力固定された巨人の内部には震動すら起きなかった。

「何をするつもりかは知らないが・・・まあいい。何をしようとも、この巨人を止めることなどできぬのだからな」

 愉快そうに呟き、ゴルベーザは巨人を取り囲む飛空艇を気にすることを止めた。

 

 

******

 

 

「相手にするまでもないってことか・・・」

 周囲を飛空艇が飛び回っても、無視して歩み続ける巨人に、ロイドは舌打ちをする。
 何度か爆撃も行ったが揺らぎもしない。
 こちらの攻撃は通用しないと解っている―――そう、舐められていても、怒りすら沸いてこないほどに “巨人” の存在は強大だった。

「巨人の進路は真っ直ぐバロン城を目指しています。このままでは、夜明け前に城に到達されてしまうかと」
「このままじゃ時間稼ぎにもなりゃしないか」

 部下の報告に、ロイドは嘆息する。

「仕方ない―――予定より早いが “切り札” を切らせてもらおうか」

 

 

******

 

 

 モニターの向こう、後衛の飛空艇に動きがあった。
 巨人の真っ正面の飛空艇に左右の飛空艇が近づいて連結し―――しばらくして再び離れた。

 離れると同時、真っ正面の飛空艇がまっすぐにこちらへ向かってくる。というか、後退するのを止めたと言うべきか。巨人が進み、段々と飛空艇が迫ってくる。よくよく見れば、飛空艇の甲板上には人の姿は見えなかった。どうやら先程、左右の飛空艇が接舷したのは乗組員を退避させるためだったようだ。

 何故そんなことをするのか、と疑問に思えば思いつくのは一つだけだ。

(爆撃が通じないから飛空艇をぶつけようと・・・? しかしそんな程度でこの巨人がどうにかなるはずが―――)

 そこまで考え、ふとゴルベーザは気がついた。
 いつの間にか、巨人の周囲を飛び回っていた飛空艇の姿がない―――正確に言えば、後衛の飛空艇と同じような位置まで下がっていた。

「まさか―――」

 とある可能性を考えつき、ゴルベーザは己の迂闊さを呪いながら怒鳴るように叫ぶ。

「いかん! 避けろーーーーーー!」

 制御システムに向かって叫ぶ―――が、その命令はあまりにも遅すぎた。
 システムが命令に反応するよりも早く、巨人の頭が飛空艇に接触し―――そのまま飛空艇の船体を砕く。その次の瞬間、先程の爆撃とは比にならないほどの大爆発が起こり―――

 

 


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