第27章「月」
Z.「巨人」
main character:セシル=ハーヴィ
location:幻獣神の洞窟

 

 

「光と闇が激突は次元の穴を開き、そこから “虚無” が生まれた―――」

 クリスタルの映像が消えた後、フースーヤは補足するように厳かに告げる。

「虚無?」
「次元の穴から、クルーヤの息子達と入れ替わりに何かが出ようとしただろう。あれこそは “無” が具現化した存在――― “暗闇の雲” と呼ばれるモノじゃ」

 さらにフースーヤは告げる。
 その後、世界を無へと消滅させようとする暗闇の雲を、光のパラディンが光と闇のクリスタルの戦士達と共に戦ったこと。 “12の武器” と呼ばれる聖剣を用いて次元の狭間へ暗闇の雲を押し返したが、その時に光のパラディンも失われてしまったこと。再び次元の穴が開き、暗闇の雲が出現しないように闇のクリスタルの戦士達がその身を人柱にして、クリスタルタワーで眠りについたこと。

 そしてその “光の氾濫” と呼ばれる戦いから1000年余り、世界は封じられ―――1000年後、新たな光のクリスタルの戦士達によって世界の封印が解かれた。

「それまでゼムスは自分の本心を隠し続けていた―――が、地上が再び元の姿を取り戻したのを知り、全てを滅ぼそうと動き出した」

 その時にゼムスが地上を滅ぼすために月を支配しようとし、それをフースーヤ達が封印したのだという。

 それが、今から1000年も昔の話―――

「・・・って、あの後セシル達はどうなるの!? 無事なの!?」
「ローザ、落ち着いて。無事じゃなかったら僕はこんなところにいないだろ?」
「えー? セシルって割と無事じゃないけど生きてたりするじゃない!」

 切り替えされ、セシルは思わず言葉に詰まった。
 考えてみれば、ヤンでも恐怖を刻み込まれ、記憶喪失にまでなった場所だ。まだ幼いセシルやゴルベーザが無事だったとは思えない。

「さて・・・その後、セシリアの息子達に何が起こったのかは知らぬ―――おそらくは次元の狭間に落ちることによって次元を越え、現代へタイムスリップしてしまったと思われるが・・・」

 どうしてそうなったのかは解らない、とフースーヤは首を横に振る。
 「まあ、ともあれ」とセシルは話をまとめるように口を開いた。

「現代にワープして、僕とゴルベーザとはぐれてしまった」

 ベイガンから聞いた話には、ゴルベーザの姿はなかったようだ。

「そして僕はオーディン様に拾われ、ゴルベーザはゼムスに操られてしまった―――ってことで良いのかな?」
「うむ。その後、ゼムスはこの月の地下に封じられながらも強力な思念でゴルベーザや、闇のクリスタルの戦士達を操り、バブイルの塔を起動させるためにクリスタルを集めさせた」
「ゴルベーザを月に呼んで、自分の封印を解かせるために―――か。・・・それにしても」

 と、ふとロックはセシルの方を振り向いてにやりと笑う。

「一つハッキリしたのは、やっぱあのエニシェルがお前の母親だって事だ」
「・・・・・・」

 それほどに嫌なのか、セシルは口を閉じて何も答えずに、ロックから視線を反らす。

「それにしてもなんでゼムスは地上を滅ぼそうとするのかしら?」

 指を顎に当て、心底不思議そうにローザが首を傾げる。

「ゼムスはエニシェルのことを好きだったんでしょう? その好きな人が自分の身を犠牲にしてまで守ろうとしたものを、どうして滅ぼそうとするのかしら」
「逆に言えば、地上のせいで愛する者が犠牲になったということでもあるだろう?」

 セシルが言うと、ローザは不満そうに「それって逆恨みじゃないの」と口を尖らせる。
 全くその通りだとセシルは苦笑。

「愛する者を奪った地上を、愛する者の息子で滅ぼす―――どんだけ性格がねじ曲がってるんだか」
「けどさ、具体的にはどうやって地上を滅ぼすつもりなんだ?」

 ロックがフースーヤへと疑問を投げかける。
 するとフースーヤは洞窟の入り口の方へと目を向けた。

「・・・おそらくは、魔大戦で使われた兵器でも持ち出すつもりなのだろう」
「魔大戦で使われた兵器・・・光のパラディンは地上の封印を決意しなければならなかったほど、強力すぎる “力” 」

 チッ、とクラウドが舌打ちする。

「そんなものを地上で使われたら・・・」
「今の地上には対抗出来る手段はないはず。だからゴルベーザ達が地上に兵器を運ぶ前に、なんとしても止めなくてはならん!」

 フースーヤが拳を握りしめて叫ぶ―――と、そこへ「あ」とバハムートが思い出したように声を上げた。

「バブイルの塔ならついさっき起動していたが」
「は?」

 決意に水を差すような言葉に、フースーヤの思考が止まる。
 構わずにバハムートは続ける。

「多分、 “巨人” を地上に運んだっぽい」
「っぽい、じゃないわあああああああああああああっ!」

 相手は幻獣神だということも忘れ、フースーヤは全力でつっこみ。

「なんでもっと早くいわんのですかッ!?」
「いや、熱心に話し込んでいたし。関係ない話で邪魔するのもあれかなって」
「ぬうああああああああああああっ!」

 やり場のない怒りを発散するかのようにフースーヤは叫ぶ。
 絶叫するフースーヤに、少し躊躇いながらセシルが問う。

「フースーヤ、その “巨人” とは一体・・・?」
「その名の通り、鋼でできた巨人じゃ! 地上の兵器では、まず太刀打ちできん!」
「鋼の巨人か・・・」

 ふむ、とセシルは少しだけ考えてから皆を振り返る。

「とりあえず、地上に戻ろう」
「私も行こう。正直、起動してしまった巨人を外から止める手段など思いつかんが、何かの役に立てるかもしれん」

 そう言ってフースーヤもセシル達に同行する。
 一行は、バハムート達に別れを告げ、洞窟を後にした―――

 


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