第27章「月」
W.「力の差」
main character:セシル=ハーヴィ
location:魔大戦

 

 

「これがデスブリンガーが生み出された瞬間・・・」

 クルーヤが暗黒剣に名を付けるのを聞きながら、ローザはセシルを振り返る。

「じゃあ、エニシェルはセシルのお母さんだったのね・・・!?」
「あんまり母親って感じはしないけどなあ」

 セシルは苦笑。
 と、リディアが納得行かなそうな表情でフースーヤへ詰め寄る。

「聞いたこともない!」
「なに?」
「人間を剣に変化させる魔法なんて聞いたことも無いって言ってるのよ!」
「それは・・・」
「当たり前だ。あれはこの世界の魔法ではないからな」

 そう告げたのはフースーヤではない。それまで黙していたバハムートだった。
 青年の姿を変化している竜の王はリディアに向かって愉快そうに笑う。

「あれは “スナップドラゴン” という―――異世界より流れ着いた、異なる世界の法則による術式だ」
「異世界の法則による術・・・? なんでそんなものがこの世界で使えるの!?」

 百歩譲って異世界とやらがあるとして、他の世界の法則による術が、この世界の法則で使えるはずがない。
 だがバハムートは「気づかなかったのかね?」と小馬鹿にするように告げた。

「魔法陣があっただろう? あれは一時的に異世界の法則に書き換えるための魔法陣だ」
「あの魔法陣が・・・」
「随分詳しいんですね。あの場に貴方はいないようでしたが」

 ギルバートが告げると、バハムートは苦笑する。

「それは当たり前だ。なにせあのスクロールをセシリアに与えたのは私だからね」
「アンタかよっ」
「・・・なるほどねー、むしろ納得だわ。幻獣の神ならば異世界の魔法を知っていてもアリな気がするし」

 即座にロックがツッコミ、その後でリディアが納得したように頷く。

「しかし・・・セシルの母がデスブリンガーへと変化したのは解った―――が、人間一人が剣に変じたからと言って、聖剣に匹敵するほどの武器となりうるのか・・・?」

 疑問を告げたのはヤンだった。
 彼はデスブリンガー、ライトブリンガー双方の力を目の当たりにしている。ダークドラゴン・アストスを圧倒したライトブリンガーの力は正に “世界の力” と呼べるほどの威力があり、またバロンで目にした “黒髪のセシル” の力はライトブリンガーにも劣らないように思えた。

 見たところ、デスブリンガーとライトブリンガーの力は互角に思えた。
 一人の人間を犠牲にしたからと言って、 “世界の力” に対抗出来るほどの力が生み出せるものなのだろうか?

「確かに、ただの人間を剣に変えたところで聖剣に匹敵する事はないだろう」

 ヤンの疑問にフースーヤが返答する。

「しかしセシリアにはある力が秘められていた “世界” に匹敵する力――― “世界” が生まれる前の、ただ一つの存在の力が」
「それって、もしかして “原初の闇” とやらのことかな?」

 セシルには心当たりがあった。
 この世界が出来る前、そこにはたった一つの “闇” しかなかった。闇以外のものは何も存在せず、故に闇は “孤独” を感じ、その淋しさに耐えきれなく涙を零し、その涙から光が生まれ闇を斬り裂き “世界” が生まれた。

 眉唾物のおとぎ話。
 けれど、その何よりも深い孤独を感じていた闇のカケラ―――すなわち “原初の闇” がセシル自身の中にもあるのだという。

 それは試練の山で自分の中の “闇” と相対した時から自覚していたモノだ。―――が、どういうわけかバロンでバッツと死闘を繰り広げた以降、何も感じなくなってしまった。
 少なくとも、かつてバッツと剣を交えた時のように、意識してあの力を使うことは出来ない。

「エニシェルから聞いた憶えがある。自分は “原初の闇” から生まれた存在であると―――いつ、どのようにして生まれたのかは覚えてないみたいだったけどね」
「ではその “原初の闇” のお陰で、デスブリンガーは聖剣に匹敵する暗黒剣となったわけじゃな?」

 セシルの言葉を受けてフライヤが言う―――が、何故かフースーヤは微妙に怪訝そうな表情を浮かべる。

「いや・・・原初の闇と言えど、そのカケラでは世界そのもの力には敵わぬ」
「私の予測でも、セシリアが剣へ変じたとしても、その力はライトブリンガーに僅かに及ばぬはずだった」

 バハムートも補足するように告げる。

「え? けれど、二つの剣の力はほぼ同じに思えたけれど・・・?」

 ヤンと同じような感想をセシルも抱いていた。
 光と闇という、力の質が正反対なのではっきりと比べることは出来ないが、どちらも同じくらいの力を秘めているというのが、実際に振るったことのあるセシルの意見だ。

 しかし、フースーヤは首を横に振る。

「互角ではない」
「しかし実際にデスブリンガーがライトブリンガーに劣るなんて事は・・・」
「逆じゃよ」
「・・・どういう意味ですか?」

 問いかける―――が、フースーヤ自身、よく解っていない様子で疑問混じりに答える。

「あの時のデスブリンガーはライトブリンガーと互角などではなかった。想定していた力を凌駕し、聖剣を圧倒していた―――」

 そう、フースーヤが告げた瞬間。
 再び、周囲の場面が切り替わった―――

 


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