第27章「月」
U.「魔大戦」
main character:セシル=ハーヴィ
location:幻獣神の洞窟

 

「・・・・・・!」

 小さなクリスタルから放たれた光に目が眩み―――反射的に閉じたまぶたの向こうの光が収まるのを感じて目を開ける。
 目を開き、飛び込んできた光景を見てさらに目を見開く。

「これは・・・!」

 セシルは思わず息を呑んだ。
 そこは先程までの洞窟ではなく、地上の風景へと変貌していた。先程、 “仮初めの空間” に “バッツ” が出現した時と同じような草原―――だが、あのような清々しい情景ではなく、刃閃き炎雷飛び交う戦場だ。

 数千、ひょっとすると数万単位の人間同士が斬り結び、魔法を放って互いを打ち倒していく。
 話に聞いたエブラーナの戦争よりも尚激しい人間同士の戦争―――いや、戦っているのは人間ばかりではない。中には人外の獣や魔物達も入り乱れ、闘争本能の赴くままに肉を裂いて骨を砕き、血を啜っている。

 まるで地獄のような戦の情景を、セシル達は見下ろしていた。

「そ、空を飛んでるわよ私達!?」
「いや、飛んでるというか・・・」

 先程から驚きっぱなしのローザに、ヤンが踵をトントンと鳴らす。
 見下ろせば足の下に戦の情景が見える―――が、足下には地面の感触が変わらずにあった。

「幻影・・・?」
「そう。クリスタルに眠る記憶をこの洞窟に投影しているのだ」

 厳かにフースーヤが告げる。

「記憶・・・って、これは実際にあったことなのか・・・?」

 セシルが問う。
 今までの歴史の中で数え切れないほどの戦争があった。
 これほどの大規模な戦争も何度も行われただろう。

 しかし、人魔入り乱れての戦争など、セシルは聞いた事がなかった。

「・・・魔大戦」

 ぼそり、呟いたのはギルバートだ。
 先程からローザやフースーヤが口にしている単語。セシルも名前だけは知っていた。

「1000年前に起きた歴史上最大級の戦争だよね。世界全てが炎に包まれたとかなんとか―――」
「そんな簡単な話じゃないわよ」

 言ったのはリディアだ。
 彼女は嫌悪を隠そうともせずにセシルへと告げる。

「 “メテオ” や “アルテマ” とかの、今では封印されている強大な魔法が平然と飛び交い、幻獣すらも―――その王たるリヴァイアサンすらも人間の “兵器” として使用された。大地が裂かれ、海は穿たれ、世界そのものが壊れる寸前にまで追い込まれた―――私は幻獣界でそう聞いた」

 それを肯定するようにギルバートも頷いて、付け足す。

「元々、世界はもっと大きな大陸の集まりだった―――それが魔大戦で割れて、今のフォールスやファイブルと言った地域に別れた、と伝承では謳われているよ」
「幻獣を兵器にしたって言うのは知らないけれど、今では考えられないほど技術が発達して、一瞬で幾千幾万の命が失われるような兵器が運用されていたらしいわよ」

 最後にローザの話を聞き終えて、セシルは嘆息する。
 平時に聞いたならばとてもではないが想像出来る話ではなかっただろう。だが、眼下では正にその通りの戦いが繰り広げられているのだ。

 大地が割られ、山が砕かれ、瞬間瞬間で大爆発が巻き起こり人が光の中に消えていく。
 魔物や幻獣達が人間に使役され、敵を屠り、屠られていく。

「召喚士の娘の言うとおり、魔大戦によって世界は崩壊寸前にまで追い込まれた」

 フースーヤが苦々しく呟く。
 先程の話によれば、この魔大戦を引き起こした要因の一つは、フースーヤ達 “セトラの民” が伝えた技術にあるという。そのことを悔やんでいるのかも知れない。

「そんな世界を救うべく、一人の男が現れたのだ」

 フースーヤが言ったその瞬間、戦場のまっただ中に一つの輝きが生まれた―――

 


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