第26章「竜の口より生まれしもの」
P.「復帰」
main character:クラウド=ストライフ
location:バロン城・中庭

 

 剣を握る。
 身の丈ほどもある巨大な剣だ。

 クラウドはそれを握りしめ、勢いよく振るう。

「・・・・・・!」

 縦に、横に、斜めに。
 連続して何度も空を斬り裂き風を凪ぐ。

 ほぼ一分間、剣を振り回し続け―――クラウドは動きを止め、息を吐いた。

「―――随分と良くなったようですね」

 クラウドの背後から声が掛る。
 振り向けば、このバロンの白魔道士クノッサスが、クラウドの居る中庭に入ってくるところだった。その後ろにはもう一人、筋骨隆々とした格闘家―――マッシュがついてきている。

「ったく、探したぜ。ベッドに居ないから抜け出して何処に行ったかと思えば」
「怪我は治った。いつまでも寝ている必要はない」

 ぶっきらぼうに言って、クラウドは剣を握り直す―――のを見て、クノッサスが吐息した。

「・・・まだ完全ではないようですね」
「・・・!」
「握力に不安を感じるのでしょう? 違いますか?」
「・・・・・・」

 クノッサスの問いに、クラウドは応えなかった。
 図星だ。
 砕けた両腕はクノッサスの白魔法のお陰で回復し、剣を振り回せるほどにはなった―――が、まだ完治したとは言えない。
 ずっと寝込んでいたためなまっているだけなのかもしれないが、以前よりも力が入らない気がする。

「・・・剣は振り回せる。問題ない」

 言い訳のようにクラウドが言うと、クノッサスは頷いて応じた。

「そうかもしれませんね。私の見立てでは9割方治っています。 “普通の人間” ならばほぼ問題はないでしょう」

 しかし、とクノッサスはクラウドをじっと見つめる。

「話には聞いています。新羅のソルジャー―――肉体を強化され、さらにその限界を超える力を持つ戦士・・・」
「何が言いたい?」
「その腕、通常の力で剣を振るうだけならば問題ありません―――ですが、限界を超えた力を使うとなると、長くは保たないでしょう」
「・・・リミットブレイクをしてしまえば、すぐに限界が来るということか・・・」

 限界を超えて即座に限界になるとはシャレにもならないな、とクラウドは肩を竦める。
 対し、クノッサスは真面目な表情で続けた。

「あと、解っているとは思いますが、貴方の腕が砕けた原因―――その力は二度と使わない方が良い。もう一度使えば、おそらく次は完全に腕が死ぬとでしょう」

 セカンドブレイク―――現界の、さらに限界を超えた力。
 それを使えば、今度は回復魔法でも絶対に治らない―――そう、クノッサスは言っているのだ。

「私が伝えたかったのはそれだけです―――後は貴方の言うとおり、もうベッドに寝ている必要もないでしょう。お大事に」

 そう言い残し、クノッサスは中庭を去っていく。
 それと入れ替わるようにして、ネズミ族の赤い竜騎士が中庭へ入ってきた。

「クラウド! こんなところにいたか!」
「フライヤか」

 フライヤがクラウドの姿を見つけて駆け寄ってくる。

「見舞いに来てみたら、寝ていたはずのベッドに居らず、抜け出してどこに行ったかと思えば!」

 少し怒ったようにフライヤが言うと、先程似たような台詞を吐いたマッシュが苦笑する。

「身体の具合は―――腕はもういいのか?」
「見えないか?」

 と、クラウドは手にした巨剣を持ち上げてみせる。

「無理はできないって言われたけどな」

 マッシュが細くすると、クラウドが「余計なことを言うな」と軽く睨んだ。

「っと、そーいやアンタ、ギルバートにくっついてあちこちまわってたんじゃなかったか?」

 エブラーナでルビカンテと死闘を演じ、命からがらバロンに戻った後、ダメージの深いマッシュは療養していたが、ギルバートは地底から戻ってきたフライヤを護衛として、フォールス各国を飛空艇で巡っていたはずだった。

 貴族の反乱や、その後の処理などでバロンを動けないセシルに代わり、各国間で意見交換などをして調整をし、ゴルベーザ打倒のための意志を統一するためだ。
 砂漠の民にしては色白で、どこか頼りなさを感じさせる風貌のギルバートだが、身分を隠して吟遊詩人で各国を放浪していた経験がある。どんな場所やどんな人々の中でも、すぐに溶け込み、うち解ける特性がある。

 現在、エイトスへ向かっているウィル=ファレルも似た能力を持っているが、あちらは長年培ってきた観察眼と話術によるもので、ギルバートのそれは生来の性格によるものだ。
 ともあれ、セシルはギルバートならば適任として、各国間の調整を依頼した。

 しかし、それでも問題がなかったわけではなかった。

 ファブール、ミシディアなどは比較的協力的だが、ダムシアンとトロイアの二国はそれほど積極的に動こうとしない。今回のゴルベーザの暗躍によって、特に被害を受けたと言えるのがこの二つの国だ―――ダムシアンは城ごと王と王妃を殺され、トロイアは奪われたクリスタルを国の要としていた上、ゾットの塔の一件では国土を魔物の群れに荒らされ、さらには隕石魔法の被害も少なくはない―――が、逆にそれを理由にして、国を立て直す事を第一としている。

 ギルバートはダムシアンの王子ではあるが、長いこと放蕩していた事もあって、あまり発言権はない。大臣であるアルツァートはギルバートを支持してくれたが、セシルの―――バロンの手先となって動いているとして、敵意を見せる者の方が多かった。 

 それでもなんとか説得し、デビルロードを設置する許可を得た。
 ファブールにはすでに設置完了しているが、しばらくすればダムシアン、トロイアにもデビルロードが設置され、各国が繋がる事となる。

「なんでもロックのヤツが用事があると聞いてな。それで王子と共にバロンに戻ってきたんじゃ」

 例の、国内調査の件である。
 王子であり、吟遊詩人でもあるギルバートの意見も参考にしたいとロックは考え、探していたのだが、昨日の時点ではバロン城にギルバートは居なかった。
 その頃、ギルバートは丁度ダムシアンに居たらしく、ベイガンが気を利かせて、ヤンの記憶喪失の件と一緒に、ロックが探していたことを伝えたのだ。
 しかし、ベイガンは内容までは伝えなかったらしく、もしかしたら緊急の用件かも知れないということで、急ぎデビルロードを通り、ヤン達と入れ替わりにバロンに戻ってきたというわけだった。

「で、折角バロンに戻ってきたのだからと、クラウドの様子を見に来てみたら居なかったから探しに来たというわけじゃ―――まったく、人が心配していたというのに」

 ぶつくさ文句を言うフライヤに、クラウドは「興味ないな」とそっぽを向く。

「・・・まあよい。それでクラウド、これからどうするつもりじゃ?」
「どうする、とは?」
「お前の探し求めていたセフィロスは倒したのだろう? この国に留まる理由はもう無いのではないか?」
「あれは偽物だった」

 苦い口調でクラウドは言い捨てる。
 それから西の方角―――バブイルの塔がある方向へと目を向ける。

「しかし、その偽物が何故、あそこに居たのかが気に掛る―――もしかすると、セフィロスの目的は・・・」
「ゴルベーザと同じく “月” にあるということか」

 フライヤが言うと、クラウドはこくりと頷いた。

「だからしばらくここに居るさ―――それに、あのゴルベーザにも借りはある」
「・・・そうじゃな」

 フライヤが頷く―――と、それまで黙っていたマッシュがパン、と手を叩いた。

「よっし、そろそろ話は終わりか? ならクラウド、身体慣らしに少し付き合えよ」

 そう言って、マッシュはクラウドの眼前で構える。
 対して、クラウドも手にした大剣を背中に背負い直し、拳を握ってファイティングポーズを取った。

「そうだな・・・寝込んでいたせいで身体がなまっている。相手をしてやるよ」
「剣は使わないのか?」
「死にたいって言うなら使ってやるが? ―――そうでないなら拳で十分だ」
「上等!」

 マッシュは拳を振り上げ、クラウドに向かって突進した―――

 

 


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