第26章「竜の口より生まれしもの」
F.「邂逅」
main character:フースーヤ
location:月の民の館

 

 

 セシルがローザやリディアと、三人仲良く川の字になって眠っている頃。

 地上から遠く離れた “月” では一つの邂逅ががあった。

(―――よもやこのような事態になろうとはな・・・)

 フースーヤは厳しい顔で侵入者達を眺め、苦々しく胸中で呟いた。

 足下まで伸びるような長い白髪と長い白髭をたくわえた老人だ。その歳は齢百歳を超えているようでもあり、しかし真っ直ぐに伸びた背筋と鋭く力強い眼光からは、まだまだ老いては居ないと伺わせる。
 髪や髭と同じく長くゆったりとした魔道士のローブを身に纏い、手にはいかつい大きな杖を持っていた。

 そんなフースーヤの目の前には、ゴルベーザとその配下の四天王の姿が侵入者として存在していた。

 この場に侵入者が来ることはフースーヤの予想の範囲内だった。
 バブイルの塔が起動したと気づいた時から、こうなることは予測していた―――しかし、現れた侵入者は予想外のものだった。

(ゴルベーザはともかく、 “闇の戦士” 達までも操るか・・・よもやクリスタルタワーにまで干渉するとはな・・・ゼムスめ!)

 半ば驚嘆、半ば憤怒を持ってゴルベーザ達を背後で操っている者を想う。

「どうしても戦うというのか・・・」

 炎の魔人ルビカンテが最終確認するように尋ねる。
 フースーヤは手にした杖を振り上げ、敵意を持って答えた。

「くどい! いかなる理由があろうとも、この先は月の民の心が眠り、 “悪意” が封じられし場所―――何人たりとも通すわけにはいかん!」
「・・・ならば押して参ろう」

 ゴルベーザが呟き、その手に闇の剣を生み出す。
 その剣を、フースーヤは知っていた。

「・・・神剣ダームディア・・・クルーヤより継承した剣か!」
「クルー・・・ヤ?」

 フースーヤの口にした名前に、ゴルベーザはなにかひっかかりを感じて呟き返す。
 それを見て、フースーヤはゴルベーザに向かってさらに叫んだ。

「それすらも思いだせぬというのか! クルーヤは貴様の―――」

 その続きをいうことは出来なかった。
 何故ならば、フースーヤの言葉をかき消すように、ゴルベーザが―――

「ぐあああああああああっ!?」

 ―――絶叫を上げた。
 その手から剣が闇となって霧散して、兜の上から両手で頭を抱える。
 激しい頭痛に苦しんでいる様子で、頭をかきむしるように、がりがりと兜をひっかき続ける。

「ゴルベーザ様!」

 絶叫し、よろめくゴルベーザをバルバリシアが後ろから支えた。

「お気を確かに!」
「ぐ・・・・・・う・・・・・・っ」

 呻き声を上げるゴルベーザを見て、フースーヤは苦々しく呟く。

「・・・ゼムスの呪いか・・・!」

 フースーヤの呟きには答えずに、ルビカンテがゴルベーザを庇うようにして前に出る。

「これでわかっただろう。私達はお前を倒してでも前に進まねばならぬ」
「それがクルーヤの遺志に反することでもか!」
「クルーヤ様は最後まで二人のお子を案じておられた。ならばそれを守り通すのが我らの最後の使命―――これ以上の問答は無用!」

 ルビカンテが全身に纏う炎が、さらに火力を上げる。
 それを見て、フースーヤも覚悟を決め、魔力を高めた―――

 


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