第25章「地上へ」
L.「とりあえず」
main character:セリス=シェール
location:地底

 

「バブイルの塔が起動したか―――」
「ゴルベーザを止める事は出来なかったってわけかよ」

 セリスの見つめる先にあるはずのバブイルの塔。
 その方角を、カインとバッツも見つめ、悔やむように苦い言葉を吐いてから。

「「まあ、それはそれとして」」

 いきなりテンションを変えて、二人は揃って方向転換。
 今まで目指していた、ククロの家の方向に身体を向けて歩き出す。

「さっさと行くぞ。今日中にはつきたい」
「まあ、もうそろそろのハズだぜ? てゆーか、あれそうじゃねえかな?」

 などと、まるで塔の事など忘れたように、さっさか歩いていく。

「ちょ、ちょっと!?」

 置いて行かれた形になったセリスが慌てて追いかける。
 呼び止められ、二人は彼女を振り返った。

「どした?」
「どした? じゃない! ゴルベーザが目的を達してしまったのよ!?」
「って言われてもなあ・・・結局、アイツの目的ってなんだったかよく解ってねえし。クリスタルが集まって、どうなるのか良く解らないし―――いや月に行けるってのは聞いたけど、そもそもゴルベーザってヤツは、月に行って何をしたいんだ?」
「え・・・それは、解らないけれど」

 問い返され、セリスは言葉に詰まる。
 バッツの言うとおり、ゴルベーザの目的はまだはっきりしていない。

「けれど、きっと良くない事が―――」
「なら、その “良くない事” とやらが起きた時にどうにかすればいい」
「手遅れになったらどうするのよ!」
「だからって焦っても仕方ないだろう? ・・・それになにが起きたとしても、セシルがなんとかするさ」

 それは信頼―――と言えるかも知れないが、セリスは単に責任を押しつけている気がしてならない。
 というか、そのセシルに命じられて、結局ゴルベーザを止めることが出来なかったのだから、もう少し後悔とか責任とか感じるべきではないのかと思うのだが。

 そう言う事を言ってみれば「仕方ないじゃん、止められなかったんだし」とあっけらかんにバッツから返事が返ってきた。

「責任感じて悩んでいてもどうしようもないだろ。大切なのは “今まで” よりも “これから” だろ?」

 割と格好良い言葉だが、やはり無責任としか見えない。
 けれど、セリスにはそれに反論することはできなかった。

(確かに、今更悔やんでも責任感じても、時が戻るわけではないし―――今の私達に出来る事なんてないけど・・・)

「このままでは終わらん」

 再び歩き出しながらカインが呟く。

「ゴルベーザが何をしてこようとも、セシルなら対抗出来る―――その時には俺の力が必要になるだろう」

 それは “予想” ではなく “確信” だった。
 まだ戦いは終わっていない。ゴルベーザ達と決着をつける機会はまだあるはずだと。
 だからこそカインは―――

「その時のために、俺は俺に出来る事をする―――俺達の前に立ちはだかる、あらゆる全てを貫くために」

 そのための “槍” を―――今まで使っていたものよりも、鋭く強い、 “最強の槍” を得るために、カインは歩む。

「無責任なんかじゃねえよ」

 にやり、と笑いながらバッツが告げる。

「ま、俺なんかはただの旅人だしな。今回はレオのおっさんの時みたいに、個人的に叩きのめされたわけでもねーから気楽なもんだけど」

 いいつつ、彼は歩み進んでいくカインの背中を見つめる。

「あいつはああ見えて色々と感じてると思うぜ。なんだかんだで、セシルの期待に応えられなかった―――けど、だからってぐちぐちと責任感じて立ち止まってりゃ、それこそセシルは失望する。・・・だからアイツは、この時点で自分がやれる事、やるべき事しか考えていない。そういうことだろ」
「自分のやるべき事、か・・・」
「・・・リディアもそう考えてくれりゃいいんだけどなあ」
「え? リディア?」

 バッツが苦笑しながら付け足した言葉に、セリスは思わず聞き返す―――が、バッツは「なんでもない」と誤魔化した。

「それより、お前が気になってるのは “塔” じゃなくてロックの事だろ?」
「う・・・」

 図星だった。
 ロック達が戻ったドワーフの城は、バブイルの塔を肉眼で確認出来る程度には近い。
 だから不安になる。ロックに何か悪い事が起きていないかと。

「アイツとの間に何があったのかは知らないけどさ。気になるんだった戻れば?」
「今更どうやって戻れって言うのよ」

 バッツの提案に、セリスは嘆息する。
 溶岩の川を越えるための戦車はロック達が乗って行ってしまった。

「それに、今の私は・・・・・・」

 情けない、という感情が胸にある。
 ロックの事が心配で、バッツの言うとおりに今すぐ彼の元に戻りたいとも思う―――一方で、彼に相対すればいいのか解らない。

 分かり切っていた事だ。
 自分と彼が相容れぬ者だという事は解っていて―――だからフラれるのも仕方ないと解っていたはずなのに。

「私は・・・」
「ま、いっか」

 表情を俯かせるセリスに、バッツは励ますように笑いかける。

「こんなところで立ち止まっても仕方ないし、今はとりあえず進もうぜ」
「とりあえず進む、か」

 そうね、とセリスは力のない笑みを浮かべ、顔を上げる。

「どうすればいいのか解らないのだから―――なら、立ち止まるよりも、とりあえずは・・・」

 そう言って、彼女は再び足を踏み出した―――

 

 

******

 

 

 彼女らが、目的地に辿り着いたのは、それからしばらく歩いてからの事だった―――

 

 


INDEX

NEXT STORY