地底。
ロックが蘇った直後、封印の洞窟前で。「―――それで、これからどうする?」
そう切り出したのはカインだった。
「またバブイルの塔へ乗り込んで、クリスタルを奪い返すか?」
「そいつはちょっと厳しいだろ」反論したのはエッジだった。
「正面から攻め込めるほど甘かねえと思うし、俺の壁抜けの術で侵入出来たとしても―――」
「今度も誘い込んでくれる、なんて悠長なことしてくれるとはおもえねえよな」ロックが後を続けて言うと、カインも頷く。彼自身、それは難しいと思っていたのだが。
「とりあえず、ここはトメラの村に戻るとしようぜ。俺はそうでもないけど、リディア達はつかれてるだろ」
バッツが言う。
ちなみにこの場にリディアは居なかった。「なら俺達はここで別れるぜ」
と、言ったのはエンオウだ。
対してバッツは首を傾げる。「とゆーか、お前誰だよ?」
「つれないなキョーダイ。初対面ってワケじゃねえだろ?」にやにやと笑うエンオウに、バッツは「ああ」と声を上げる。
「お前、あの時の炎の幻獣か。リディアが召喚したヤツ!」
「・・・自分で言っておいてなんだが、なんで解るんだよ!?」逆に吃驚するエンオウに「いや、なんとなく」と応え、バッツはエルディアの方へと顔を向ける。
「お前はアレだろ? バブイルの塔でリディアが召喚した氷の幻獣」
「・・・・・・!」声に出さないものの、エルディアは驚いたように目を見開いてバッツを見返した。
それに構わず、バッツは続いてエルディアが乗っている馬―――シオンへと目を向けて。「こいつは・・・知らないなあ」
当然である。リディアは現界に来て召喚したのは、エンオウとエルディアの二人だけだ。
「ていうかなんで別れるんだ? お前らも一緒の方が、リディアだって喜ぶだろ」
「そうしたいのは山々なんだけどな」エンオウは苦笑すると、瞬間、その身体が膨れあがった。
筋骨が隆々と盛り上がり、炎を全身に纏うその姿は、以前にバッツと ”決闘” したリディアが呼びだした炎の幻獣そのままの姿だ。「な・・・っ!」
人間の身長を優に越すその威風にエッジが驚愕し、カインが身構えるが、すぐ近くに居たバッツはいつものように、にやり、と笑いを浮かべる。
「やっぱお前、あんときのヤツか」
「いや、もうちょい驚けよお前は」炎を纏った幻獣―――イフリートは呆れたように呟いた。
しかし、すぐに気を取り直したように続ける。「これが俺の本来の姿なんだよ。こんなのが、人間社会に入り込んだら騒ぎだろ?」
「さっきの姿は?」
「あれは仮の姿だ。・・・あれを維持するのは、実は結構しんどくてな。魔力に溢れた幻界ならともかく、この世界であの姿で在り続けるのはかなり消耗する―――俺と同じ、炎の属性が強いこの地底ならそうでもないんだけどな」そう言って、エンオウは先程の人間の姿へと戻る。
「って、ことは・・・」
バッツがエルディアとシオンに視線を移した。
しかし、エルディアは無言。そんな彼女を、エンオウは指さして苦笑する。「無表情だから解らねーだろうが、これでこいつ結構無理してるんだ。こいつの属性は氷で、相性の悪い炎属性の強いこの地底で無理して人間の姿をして居るんだからな―――シオンだって、地属性とは相性が良いわけじゃない。そんなわけで、俺はこいつらの面倒を見なけりゃならんわけだ」
別に面倒みろとは頼んでない、とエルディアが無言で訴えるが、エンオウは無視。
「面倒見るってどうするんだよ? 地上への道は埋まってるんだぜ?」
そう発言したのはエッジだった。この地底では炎と地の属性が強い。それらの属性は、エルディアやシオンにとっては反するものらしい。
ならば、とエッジには言葉とは裏腹にある種の期待があった。
地底が都合悪いのならば、地上に出るしかない―――エンオウは地上への抜け道を知っているのではないかと。しかしその期待はあっさりと裏切られた。
「なに、地底には幻界の出入り口があってな。まあ、幻界に戻ることはできなくても、入り口近くなら行けるし、そこなら地底にある属性の影響も受けにくい―――ああ、ちなみにこの話はオフレコで頼むぜ? 特に、そこで寝てるガストラの女にはな」
と、エンオウは未だ気絶したままのセリスを指さす。
エッジはぱたぱたと手を振って、単刀直入に尋ねる。「いやいや言う気はねえけどさ。お前、地上への抜け道とか知らん?」
「知らん」きっぱり返事をされて、エッジはがくりと膝をついた。
そんなエッジに構わずエンオウは朗らかに告げた。「とゆーわけで俺達は行かせて貰うぜ―――あ、リディアによろしくな? いつでも喚んでくれて構わねえからよ」
ちなみにリディアは、バッツに「馬鹿」と言った後、戦車の中に篭もったままだ。
ともあれそう言って、エンオウはエルディア達を伴って去っていく。
それを見送り、エッジは頭を抱える。「ちいっ、地上に出る方法がなんかあるかと思ったんだがな!」
「なんじゃ、地上に出たいのか?」問いかけたのは縛られた男だった。
エッジの父を魔物へと変えた、許されざる狂科学者。「あんだよテメエ、なんか抜け道でも知ってるってのか?」
露骨に不機嫌になりながら聞いてみる。
するとルゲイエはきっぱりと応えた。「知らん」
「よし、死ね」本気の殺意をもって、エッジはルゲイエの首に手を伸ばす―――と、ルゲイエは泡食ったようにブンブンと首を横に振る。
「道など知らんが、地上に出る方法はあるぞ!」
「なに?」ぴたり、とエッジの動き止まる。
「どんな方法だ?」
カインも身を乗り出して尋ねる―――と、ルゲイエは「ふふん」と不気味な笑いを浮かべた。
「教えてやらんもんねー!」
「「よし、殺そう」」エッジがルゲイエの首を掴んで固定し、カインが勢いよく足を振り上げて踵をルゲイエの脳天に狙い定める。
竜騎士の脚力で踵落としなどされれば、頭蓋骨陥没程度では済まされないだろう。「じょっ、じょーだんじゃっ! いうっ! 言うからタスケテー!」
悲鳴をあげ、懇願するルゲイエにカインはチッ、と舌打ちして足を元の位置に戻す。
しかし、エッジはルゲイエの首に手を添えたままだ。「ならさっさと言え。今度巫山戯たら問答無用で締めるからな!」
「まあまあ落ち着いて」と、宥めるように声をかけたのは女性だった。ロックとバッツを蘇生させた、リディアが連れてきたアスラと言う名の女性。
「ここで話をするよりも、一旦落ち着ける場所へ戻るべきではないでしょうか?」
アスラの提案に、しかしバッツは首を傾げる。
「ていうかアンタも幻獣だよな? さっきの奴らと一緒に行かなくて良いのかよ?」
「私はこの姿でもそれほど消耗はしませんから」それに、と彼女は眠り続けるセリスを見やり。
「色々と聞きたいこともありますしね」
そう言って微笑んだ―――