「お帰りなさいませ、ゴルベーザ様」
バブイルの塔へ戻ってきたゴルベーザに、ルビカンテとバルバリシア、カイナッツォが出迎え、恭しく一礼する。
「クリスタルは・・・」
「この通りだ」ルビカンテの問いかけに、ゴルベーザはマントの中からクリスタルを取り出し、それを見せる。
まあ、とバルバリシアは手を叩き、顔をほころばせる。「ようやく全てのクリスタルを揃いましたね」
「うむ、これで月へと至ることができる―――皆のものあと少し、力を貸して貰うぞ」
『はっ!』ルビカンテたち、四天王がはっきりとした返事を返す。
と、それまで黙っていたシュウがふとした疑問を投げかけた。「・・・そう言えば今まで聞いていなかったが」
それはちょっとした素朴の疑問―――のつもりだった。シュウにとっては。
「月に行って―――力を手に入れてどうするんだ?」
月には “力” が眠っている、という話はシュウも聞いた。ゴルベーザはその “力” を得たいのだと言うことも。
だが、その “力” で具体的に何をするかは聞いていない。「どうする、だと?」
「いや、力を必要とするにも理由があるだろう。何かを成したいがために力を手に入れようとしているのではないか?」
「何かを成す・・・」シュウの言葉に、ゴルベーザは黙り込む。
(・・・そう言えば、私はなんのために力を求めている・・・・・・?)
理由はあったはずだった。力を心の奥底より渇望する理由が。
それははっきりとしているのに、どういうわけか理由そのものを思い出せない。「私は―――」
と、その脳裏に何かが閃く。
それは光景だった。光と闇の激突。聖なる白き騎士と聖なる黒き騎士。光輝の剣と暗黒の剣―――「ゴルベーザ?」
「・・・!」シュウの声に、ゴルベーザは我に返った。
見れば、心配そうにこちらを覗き込んでいるシュウの顔があった。「どうした? 顔が青いが・・・」
「いや・・・」大丈夫だ、と言おうとしたところを、バルバリシアが遮るように、
「ゴルベーザ様はお疲れのようです」
「バルバリシア・・・」
「というわけでシュウ、ゴルベーザ様を休ませて差し上げてもらえる?」そのバルバリシアの言葉にシュウは怪訝そうな顔で彼女を見返す。
そう言う役目は、バルバリシアが率先してやりそうなものだ。シュウに役目を譲るなんてありえない。しかしそんな疑問も一瞬のこと。
ゴルベーザを休ませるという意見には賛成なので、シュウはすぐに頷く。「解った―――行くぞ、ゴルベーザ」
「私は別に・・・」
「大丈夫、というのならその青い顔をなんとかして言え!」
「むう・・・」腕を引くシュウに、ゴルベーザは少し抵抗するが―――調子が悪いのも事実だ。
仕方なく、引かれるままにシュウについていく。「良いのか?」
シュウに連れられて去っていくゴルベーザを見送り、ルビカンテがバルバリシアに問いかける。
問われた彼女は目を伏せ、深く、深く息を吐く。「・・・私には、ゴルベーザ様をいたわる資格はないもの―――今の状況を作り上げたのは私達の責任でもあるのだから」
「そうか・・・そうだな―――」苦みの混じった呟きでルビカンテは頷く。
「フシュルルル・・・私はこの状況も悪くはないとは思うがな。己の力を存分に振るえるのならばな」
スカルミリョーネが笑うと、カイナッツォも頷いて。
「カカカッ! 確かに。ゼムス様より与えられたこの力悪くはない―――が、それももうすぐ終わる」
「結末、か・・・」クリスタルは揃った。月への扉が開かれる。
カイナッツォの言うとおり、結末はもうそこまで近づいている。「迎えるのがどんな結末であろうとも、ゴルベーザ様だけは ”解放” してみせる・・・!」
バルバリシアは胸に秘めたる決意を言葉に出す。
その想いは他の三人も同じようで、一様に頷きを返した―――
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―――ちなみに。
ルゲイエのことは完全に忘れ去られたらしく、話題に出ることすらなかった―――