第23章「最後のクリスタル」
L.「封印の洞窟」
main character:ロック=コール
location:封印の洞窟

 

 

 ―――次の日。

 ロック達はトメラの村を出立し、 “封印の洞窟” へと向かった。

「・・・ったく、ひでえ話だぜ!」

 不機嫌そうにそう口走ったのはギルガメッシュだった。
 彼は戦車の中、バッツの座席の背もたれに掴まって立ちながらぶつくさと呟く。

「倒されたままずっと放置だったつーの。酷くねえ?」
「ちゃんと助け起こしてやったろ―――俺達が宿に戻った時に」
「お前らが宿に戻ってきたのはいつだと思ってんだ! ドワーフ達は『ガンバレー、ガンバレー』とか言うだけで助けてくれねえし、他の連中は宿を出てもこねえ」

 じろり、とギルガメッシュは周囲を見回す。
 と、バッツも首を傾げて。

「ていうか、こいつが喚いてるのは宿の中でも聞こえたはずだろ? 助けてやれば良かったのに」

 バッツがそう言った途端―――何か妙な緊張感が戦車内に走った、ような気がした。

「あー・・・ちと色々とあってな」

 何かを誤魔化すようにロックがそう言い繕う。
 話をそらそうとしているのはバッツにも解った―――が、その理由が解らない。

「・・・なんか妙ね?」
「何かあったの?」

 それはリディアやセリスも同じだったようで、訝しげに呟く。
 だが、ロックはそれには答えずに、逆にバッツへと質問を投げかける。

「何かあったと言えば、お前らこそ昨日は何処に行ってたんだよ?」
「俺? 俺とセリスが何処行ってたかって? ただ俺は―――」

 話を聞いてやってただけだ、と言いかけて、バッツはにやりと笑う。

「なんだ、気になるのかよ」
「そりゃあ・・・」
「お前、セリスのこと好きなのか?」
「・・・なっ」

 直に言われてロックは一瞬言葉を失う―――が、すぐに激しく首を横に振る。

「ん、んなわけねーだろ! ばっかじゃねえの――――――あ」

 思わず叫んでから、はっとしてセリスの方を見る―――と、ロックの座席からその表情は見えないが、顔を俯かせていることだけは解った。

 “馬鹿はお前だろ” とバッツは小さく呟いて嘆息。
 その後ろで、なにやら事情を察したギルガメッシュがロックとセリスを交互に見て、嬉しそうにはしゃぐ。

「なに、なに? もしかして、お前らってそういう関係―――」
「黙ってろ」

 ごつん、とカインの石突きがギルガメッシュの後頭部を打つ。
 割と強めだったらしく、ギルガメッシュの頭は弾かれたようにすぐそばの壁に激突し、それで軽い脳震盪でも起こしたのか、力無くバッツに向かってお辞儀をするように―――背もたれがあるため、上半身だけ―――倒れ込む。

「だあ!?」

 危うくバッツとギルガメッシュの頭が激突しそうな寸前、それを察したバッツは上半身を前に倒してそれを回避。
 ぶ、とギルガメッシュは、バッツが背を預けていた背もたれに顔面をぶつけて、鼻の頭を赤くして勢いよく起きあがった。

「てめえ! 何しやがる」
「フン、貴様もあのサイファーとか言うヤツと同じだな―――弱い犬ほど、と言うヤツか」
「なんだとー!」

 むっ、としたようなギルガメッシュ。
 確かに反応はサイファーに似ている―――が。

(しかしなんだ・・・? こいつ、サイファーとは何かが違う・・・)

 違うのは当たり前だ。別人なのだから。
 だが、カインから見ればサイファーは単なる雑魚にしか見えなかった―――のだが、このギルガメッシュはなにやら奥底に得体の知れないものを感じる。

 ちらり、とカインはバッツの近くにエクスカリバーと一緒に立てかけられた、ライトブリンガー―――エニシェルを見やる。
 彼女に昨日 “言われたこと” を思い返して、フン、と鼻を鳴らした。

(まあいい。・・・例えコイツが何者であろうと、俺は俺の役目を果たすだけだ・・・)

「ってコラ! 聞いてるのかよオイッ!」

 ギルガメッシュがなにやら騒いでいる。
 どうやらさっきのことですっと喚いていたらしいが。

「いや聞いていない」
「なんだとコノヤロウ」
「五月蠅いヤツだな―――突き刺すぞ」

 と、カインはギルガメッシュに向かって、今度は石突きではなく刃の方を前にして槍を向ける。

「No!? そうやってすぐに暴力に訴えるのはどうかと思う!」
「だったら黙れ」
「なんか理不尽!?」

 いいつつも、ギルガメッシュは観念して呟く。
 その様子を見ていたエッジは半眼でカインを見やり。

「・・・ていうか戦車の中で槍を振り回すなよ。危ねーだろ・・・」
「この俺の槍さばきが危ういとでも?」
「常識で物言ってんだよ―――だから切っ先こっちに向けんな!」

 などと。
 エッジが喚く頃には、先程の微妙な雰囲気は消え去ってしまっていた―――

 

 

******

 

 

 街から洞窟まではそれほど離れていなかった。
 戦車で二時間ほど進んだところにある、不自然に盛り上がっている丘。どうやら人工的に作られたらしいその丘の頂上付近に、件の “封印の洞窟” が口を開けていた。

「・・・ゴルベーザたちは居ないようだな・・・」

 戦車から降りたロックは周囲を見回す。
 トメラの村長の話によれば、ゴルベーザ達は飛空艇に乗って、この洞窟に来ていたという。
 だが、周囲には飛空艇らしき影は見えない。

(戦車のレーダーにもそれらしい反応は無かったしな―――つってもあのレーダー、どういう原理で感知してるかイマイチ解らないから、飛空艇に反応するかどうか知らないが)

 そんなことを思いつつ、ロックは “封印の洞窟” を見やる。
 洞窟の入り口には扉らしきものは見えなかった―――が、洞窟を少し入った先に、扉らしきものが見える。

「おいロックロック! ペンダント貸せよ、ペンダントー!」

 ギルガメッシュがロックに向けて手を差し出す。

「え、なんで?」
「なんで、じゃねーだろ。開けてみたいじゃんか!」
「・・・まあ、良いけど」

 ロックはジオット王から預かった、ルカのペンダントをギルガメッシュに渡す。
 「よっしゃー!」と、ひったくるようにそれを奪い取り、ギルガメッシュは洞窟の入り口へと飛び込んでいった。その後をカインとエッジが追う。
 さらにバッツやリディア、セリスまで洞窟の中に入ろうとする―――のを見て。

「あ、セリス」

 思わずロックはセリスを引き留めた。
 「なに?」と振り返るセリスに、ロックはさっきの “失言” を思い返して気まずそうに口を開く。

「さっきのことなんだけどさ―――」
「開けゴマァァァァァアァァァァァァァアアァッ!」

 ロックの言葉を遮るように、洞窟の中からギルガメッシュの叫び声が響いてきた。
 セリスが思わず目を見開き、ロックはやれやれと嘆息する。

「あの馬鹿。絶叫しなきゃいけないなんて誰も言ってねえだろうに」
「な、なんなの・・・?」
「合い言葉だよ」

 訝しがるセリスに、ロックが説明する。

「トメラの村長が言うには、封印の洞窟に入るためには鍵となるペンダントと、合い言葉が必要なんだとさ」
「それがさっきの叫び声」
「そ。 “開けゴマ” っていう割と由緒正しい合い言葉なんだが―――まあ、それは良いとして」

 こほん、とロックは軽く咳払い。

「それで、さっきの―――」
「おーい! なにやってんだよ! さっさと入ろうぜ!」

 洞窟の中からバッツが顔を出して叫んでくる。
 出鼻を挫かれ、ロックはがっくりと肩を落とした―――

 

 

******

 

 

 洞窟の中に入ると、ギルガメッシュが待ちくたびれたように、自分の武器を振り回していた。

「おっせーぞ!」
「悪かったな―――って、危ねえな! 切っ先向けるなよ!」

 ついさっき聞いたような台詞をロックがいうと、ギルガメッシュは「悪い悪い」と全然悪びれない様子で武器を引く。
 振り回していたのは槍のような柄の先に反りのある刃を付けた武器で “薙刀(なぎなた)” と呼ばれる武器だ。それをエッジがじぃっと見つめて問いかける。

「・・・ていうか源氏の鎧といい、その薙刀といい、ウータイかドマの出身か? まさかエブラーナじゃないよな?」

 薙刀は槍のようではあるが、槍ではない―――どちらかと言えば、柄が長い刀と言った武器である(だから “長刀” と書いて “なぎなた” とも読む)。
 バロンではまず見ない武器で、エブラーナや、シクズスにあるドマ国のサムライが使うものだ。

「だから別に俺のことはどうでもいいだろ」
「確かにどうでもいいな」

 即うなずいたのはカインだった。
 本気で興味なさそうな態度のカインに「それはそれで寂しいよーな気も」とギルガメッシュがぶつくさ呟く―――と、ロックがそんなギルガメッシュに向かって尋ねる。

「おい、さっきのペンダントは?」
「これか?」

 ギルガメッシュがロックにペンダントを見せる―――と、素早くロックはそれを奪い取った。

「あ、ドロボー!」
「じゃねえって何度も何度も―――まあいい」

 ロックはペンダントを手にして背後を振り返る。
 そこには、さっきギルガメッシュが開けたばかりの扉があった。

 白く、しかし土埃で薄汚れた扉だ。
 ロックは全員が洞窟の中に入っていることを確認してから、開かれた扉に向かってペンダントを掲げる―――すると、扉はすっと動いて音もなく閉じた。
 さらにペンダントを掲げたまま、ロックは扉に向かって囁くように何事かを呟くと、扉はパッ、と一瞬だけ光り輝いた。

「お、なんだなんだ?」
「合い言葉を再設定したんだよ」

 ロックはペンダントを上着のポケットに丁寧に―――ドワーフ王、というか王女からの借り物だからだ―――しまい込む。

 一度開かれた扉は、ペンダントを使えばもう一度再封印出来る―――と、村長は教えてくれた。
 その時に、合い言葉を変えることができるとも聞いた。

 一応、持ち回り制のトメラの村の村長の役目の一つが “封印の洞窟” の管理であり、昔は村長が替わるたびに合い言葉を変えていたのだという。
 そして、合い言葉は当代の村長しか知らないようにしていた―――のだが、一度村長となったドワーフが合い言葉をうっかりと忘れてしまい、危うく封印の洞窟が永遠に封印されかけたので―――ちなみにその後、そのドワーフが合い言葉にしそうな言葉を村中総出で考えて、なんとか解除出来たらしい―――それ以降は “開けゴマ” のまま変えていないという。

「後からゴルベーザ達が入ってきて、バックアタックなんてぞっとしないからな。とりあえず封じておくってわけだ」
「なんて合い言葉にしたんだよ?」

 尋ねてくるギルガメッシュに、ロックはにやりと笑って言った。

「秘密」
「って、秘密にしてどうすんだよ! お前が死んだら俺達出れないだろ!」
「じゃあ、死なないように守ってくれよ」
「ちっ・・・」

 ギルガメッシュは舌打ち一つすると、背を向けて洞窟の先に向かって歩き出す。
 その後を先程のようにカインとエッジが続いて、さらにバッツとリディアが続く。最後にセリスと、その隣りにロックが並んで歩き出した。

「・・・セリス」
「なに?」
「えーと・・・お前、俺がガストラにどんな恨みを持ってるか・・・知ってるんだよな?」

 言いにくそうにロックが尋ねると、セリスは無言で頷いた。

「俺、お前には言った覚えがないんだけど―――」
「ローザから聞いた。ローザはセシルから聞いたって・・・」
「・・・あのお喋りめ」

 忌々しげに、今頃は玉座でふんぞり返ってるであろう―――ロックの勝手なイメージでは―――セシルの顔を思い浮かべる。

「名前は、聞いてるか?」
「・・・ええ―――レイチェルさん、っていうのよね?」

 ロックがガストラ帝国を恨む原因となった女性。
 帝国の兵士によって失われてしまった女性の名前だ。

 ロックの事情は、セシルが王位についた時に話してしまっていた。
 というか、反ガストラ組織の一員であることを伝えておいた方がいいと思い、そのことを伝えたらロック自身の事情も話さざるを得なくなってしまったのだ。

(まあ、セシルのヤツにはミシディアでレイチェルのことを少し喋っちまったしな。言わなくても察しただろうけど・・・)

 そんなことを思いつつ、ロックは彼女の名を口にする。

「コーラス」
「え?」
「レイチェル=コーラス。それがあいつのフルネームなんだ―――もしも俺に何かあったら、憶えておいてくれないか?」
「・・・なんで急にそんなことを?」
「なんとなく―――それで、話は変わるんだけど」

 こほん、とまた咳払いして。

「さっきの事なんだけど―――」
「さっきって?」
「ほら、戦車の中で。俺ちょっと、なんていうか―――」
「どわあああああああっ!?」

 悲鳴―――に、目を前に向ければ、何かに呑み込まれようとしているギルガメッシュの下半身が見えた。

「な、なんだ!?」

 後ろを歩いていたロックやバッツ達も駆け寄る。
 駆け寄って気づく。ギルガメッシュを呑み込もうとしているのは―――

「扉!?」

 バッツがぎょっとして叫ぶ。
 言うとおり、ギルガメッシュは “扉” に食われようとしていた。
 正確には、扉に擬態していた魔物に、だ。

「最初は普通の扉だったんだ。それが、ギルガメッシュが開けようとした瞬間、いきなり魔物に・・・」

 突然のことに、エッジも目を丸くしている。軽く混乱しているようだった。

 その魔物は扉の形をしていて、ギロリとした大きな目と、幅一杯まで広がる巨大な口を持っていた。
 口には鋭く尖った牙のような歯が何本も並び、それがギルガメッシュをしっかりとくわえ込んでいる。

「アサルトドアーか!」

 ロックはその魔物を知っていた。
 魔物、というよりは “罠” に分類した方が正しいかも知れない。
 見たとおり、扉に擬態する魔物で、知らずに開けようとした侵入者を、その大きな口で呑み込もうとする。
 古代の魔道士が作り上げた魔法生物で、迷宮などで宝物を守るために扉に設置されることが多い。

 巨大な口の中は異空間に繋がっていて、呑み込まれたが最後、二度とこの世界には戻ってこれないという。

「だあああっ! 助けてくれええええええ!」

 呑み込まれた上半身から悲鳴が聞こえた。
 生きている。どうやら歯は全て鎧で止まっているようだった。

「話しにゃ聞いてたが、頑丈な鎧だよなあ・・・」

 落ち着きを取り戻したらしく、どこかのんきにエッジが言う。
 と、カインがロックに向かって「どうする?」と目配せする。

「どうするって―――」
「助けるに決まってるだろ!」

 ロックがそれに答えるよりも早く、バッツがエクスカリバーを抜いて怒鳴る。
 がん、とエクスカリバーを魔物に向かって叩き付けるバッツに―――しかしダメージは与えられないようだった―――ロックも頷く。

「だな! カイン、お前はバッツと一緒にドアを攻撃してくれ! 俺は左足を持つから、エッジは右足を頼む! 攻撃で怯んだ隙に、ギルガメッシュを引きずり出すぞ!」
「私達は?」

 尋ねてきたのはセリスだ。 “達” とひとくくりにされたのが嫌だったのか、リディアは不快そうな顔をしたまま押し黙っている。

「ギルガメッシュを引きずり出すまで待機だ。今、魔法を使ったらこいつまでまきこんじまう!」
「解った。一応、攻撃魔法の準備だけしておくわね」

 そう言って、セリスは精神を集中させる。
 それを見て、リディアも渋々と言った様子で魔力を高め始めた―――

 

******

 

 ―――30分後。

 バッツの牽制と、カインの槍の一撃で怯んだ魔物から、なんとかギルガメッシュを引きずり出す。
 ギルガメッシュを取り替えされた魔物は、扉として収まっていた入り口を飛び出し、襲いかかってくる―――のを、バッツとカインが食い止め、その後、セリスとリディア、それからエッジの攻撃魔法(プラス忍術)によって、アサルトドアーは倒された―――

 

 

 


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