第23章「最後のクリスタル」
I.「出立 」
main character:ロック=コール
location:地底

 

 

「それではクリスタルの事は頼んだぞ」

 ―――バッツ達がドワーフたちと砲撃戦のようなものを繰り広げた三日後の朝。
 城の外まで見送りに来たジオット王が、封印の洞窟へと向かうバッツ達に声をかける。

「おう、任せてくれよ」

 とん、と胸を叩いて頷くバッツ。
 それからふと、彼は自分の背後を振り返る。そこにはバッツに隠れるようにして、その背中にしがみついているエニシェルの姿があった。

「・・・ところでなんでお前はそんな風に隠れてるんだよ?」
「い、色々と事情が―――」
「エニシェル!」

 なにかエニシェルが言おうとした時、城の方から人形を抱えたドワーフの少女が現れた。
 ジオット王の娘、ルカだ。
 ルカはバッツの背後に居るエニシェルを目敏く見つけると、他には人目もくれずにエニシェルの元へ駆け寄った。

「エニシェル、もう行っちゃうの・・・?」
「う、うむ・・・」
「絶対、絶対に無事に帰ってきてね!
「あ、ああ・・・」

 すがりつくドワーフの姫に、何故かぎこちなく頷くエニシェル。
 そんな様子に、ジオット王は「ほう」と感心したような呟きを漏らす。

「人見知りのルカがこんなにも懐くとは・・・」
「人見知り・・・?」

 とてもそうとは思えない様子に、バッツが思わずルカを振り返ると、少女はエニシェルに向かって微笑みを浮かべてそっと囁くところだった。

「帰ってきたら・・・その身体、解体させてね♪」
「・・・・・・」

 言葉を失うエニシェルに、ルカはパチンとウィンクひとつすると、ぱっと離れてジオット王の隣りに並ぶ。
 どうやらルカの言葉はエニシェルとバッツにしか聞こえてなかったらしく、バッツは唖然として呟く。

「か、解体・・・?」
「・・・あの娘、人見知りなどではなくて、単に人形以外に興味がないだけだ」

 三日前、エニシェルは初めて彼女と会った時のことを思い出していた。
 ルカは何時間も人形についてのことをまくし立て、エニシェルが別の話題を振っても「ふうん」と気のない返事を返すだけですぐに人形の話題に戻した。その中で「貴女の好きなお人形は?」と聞かれ、エニシェルが思わず自分自身が人形であるからと漏らしてしまうと「やっぱり!」と歓声を上げた。どうやら最初っから半ば気がついていたらしい。だからこそ、初対面から人形話を大展開したのかもしれないが。

 そして、どんな人形なのか材質とかじっくり見たいから服を脱げだの、どんな原理で動いているのか知りたいから解体させろだのとエニシェルに迫った。
 例の、ゴルベーザが送り込んだ人形を見た時から “自分の意志で動く人形” というものに興味を持ってしまったらしい。

「いずれは私、そういうお人形さんを作ってお友達にしたいの!」

 同じドワーフで友達作れよとエニシェルは思いながら、笑顔の瞳に妖しげな光を潜ませて迫るルカからなんとか逃れ、ここ数日はずっと剣―――ライトブリンガーの状態で、バッツに携帯してもらっていた。

 出立の時に姿が見えなければ色々と不審がられると思い、わざわざ人形の姿を現わしたのだが―――

(・・・構わずに剣のままで居るべきだったか・・・?)

 ジオット王の隣で、エニシェルをロックオンしたままじいっと見つめるルカに寒気のようなものを感じ、エニシェルは身震いする。

「ルカ、首飾りを」
「はい、お父様」

 ジオット王がルカに合図すると彼女は頷いて、首からさげていたペンダントを外すと、父王に差し出した。
 娘からペンダントを受け取ったジオット王は、それをバッツに差し出す。

「これは?」
「封印の洞窟の封印を解くための鍵じゃ。詳しい話はトメラの村の村長に聞くと良い」
「洞窟の近くにある村ってヤツか。じゃあ、最初はそこに行くってことで―――おい、ロック」

 バッツがロックの方を振り返って名前を呼ぶ。
 だが、なにやらロックはぼーっとしているようで、反応しない。

 ―――ここのところ、なにやらロックの様子がおかしかった。
 なにやら四六時中考え事をしているようで、話しかけても反応しない事が多い。

(ドワーフの城に来てから―――っていうか、目ぇ覚ましたセリスがロックを探しに行ってからだよなあ。あの二人、なんかあったのか?)

 そのセリスはと言うと、今までと何も変わらないように見える。ただ、ほんの少しだけ表情が柔らかくなったかもしれない。
 そんな事を思いながら、バッツは再度ロックへと呼びかける。

「おいロック!」
「へっ!? な、なんだよ!」
「話聞いてろよ。戦車を操縦するのお前だろ? 目的地の場所は解ってるのかよ」
「解ってるっての! 封印の洞窟だろ? ちゃんと行き方はバッチリ・・・」
「違う。洞窟じゃなくて、最初は村!」
「む、村? 村ってどこのだよ?」
「・・・・・・」

 うわ駄目だ、と思いつつバッツは嘆息。
 ロックがここまで寝惚けるのは珍しいと思いつつ、バッツは今し方ジオット王と話したことを、もう一度ロックに説明した―――

 

 

******

 

 

 戦車の中は割と広くできていた。
 5人乗りの戦車と言うことだったが、8人乗っても少し余裕がある。
 ただし、座席は5人分しか無く、エニシェルが剣に変化したとしても、2人は座席に座れない計算だ。

「おーい、リディアリディア。俺の膝の上が空いてるぜー」
「・・・・・・」

 リディアは馬鹿が馬鹿なこと言ってるなあ、とでも言いたげな冷めた視線で一瞥すると、エッジから一番離れた座席に座る。

「てめえ! 席が足りないからって、このナイスガイが膝を貸してやるって言ってるんだ! 有り難く座りやがれ!」
「アンタの膝の上だけは絶対に嫌。だいたい、座れない2人は決まってるじゃない」

 そう言って、リディアは鎧を着込んでいる2人の男を見やる。
 言うまでもなくカインとギルガメッシュの2人だ。座席はドワーフサイズで、成人男性が座るのにも少しキツイ。鎧なんか着ていれば座れるはずがない。

「いや、鎧を脱げば問題ねえ!」
「脱いだとしても、貴方達の体格がこの中で一番大きいでしょ。どっちにしろ、立っているのは確定よ」

 ギルガメッシュの主張に対し、セリスが反論する。
 かくいうセリスも鎧を身に着けているのだが、小柄な女性である上に、カインやギルガメッシュのように全身を覆う重鎧ではなく、部分部分をガードする軽鎧だ。
 ドワーフ用の小さい座席でも座れないことはない。

「くそう・・・鎧が・・・この俺の鎧が憎い!」
「席譲ってやろうか? 別に俺は立ってても構わないし」

 そう言ったのはバッツだった。ちなみにエニシェルはライトブリンガーに変じて、バッツの座席の近くに立てかけられている。
 言われ、ギルガメッシュは「むー」と唸り。

「・・・いや、いい。別にどうしても座りたいわけじゃなかったしな」
「なんだそりゃ」

 と、バッツは苦笑。
 すると今度はエッジがギルガメッシュに声をかける。彼が身に着けている、赤い鎧を見つめながら口を開いた。

「そーいやお前、初めて見た時から気になっていたんだが、それって “源氏の鎧” だろ?」
「む、知ってるのか?」
「エブラーナにも一つだけ残されているからな―――重いから誰も着ないけど」

 源氏の鎧。
 古の技法で組まれた “侍” の鎧である。
 材質的には、そこらの新米戦士が身に着けている皮鎧とほぼ変わらないのだが、特殊な製法でなめされた皮を幾重にも重ね、編まれた鎧は、並の金属鎧を遙かに凌駕する防御力を誇る。
 さらに熱に強く、電気を通さず、水に浮くという、金属鎧では到底考えられないような特性を持ち、魔法が付与された鎧を除けば、まさに “最強の鎧” と言っても過言ではない。

 ただし、欠点としてひたすら重い。材質が金属でないにもかかわらず、同サイズの金属鎧よりも重いのだ。

「全世界探してみても、片手の指で足りるほどしか残ってないはずだぜ? そんなもん、どこで手に入れたんだよ」
「別にいいじゃねえかそんな事」

 あっはっは、と何故か誤魔化すように笑ってギルガメッシュはそっぽを向いた。
 その視線の先、偶然にも戦車の出入り口に向いていて、丁度ロックが戦車の中に入ってくるところだった。

「悪い、遅れた」
「何やってたんだ?」

 バッツが尋ねると、ロックは少しバツが悪そうに頭をかく。

「・・・トメラの村の事をジオット王に聞いてたんだよ。行き方とか、長老のこととか・・・」

 先程、バッツとジオット王が会話していたとき、ロックが呆けてなければそれで済んでいた話だ。

「あとは凄腕の鍛冶職人の噂話なんかも―――」
「話は後でいい。さっさと出発したらどうだ?」

 カインに促され、ロックは「へいへい」と応じて操縦席についた。

「よし、それじゃあ出発―――」

 

 

******

 

 

 今回、最後のクリスタルを確保するために出撃したのは、バッツ、ロック、カイン、セリス、リディア、エッジにギルガメッシュを加えた総勢8名だ。

 ジュエルは城に残り、前回地底に取り残されたSeeD達と共に、地上へ戻る方法を模索している。
 ブリットはいつでもリディアが召喚出来て、戦車の乗員数にも限りがあるために待機して貰うこととなった。

「・・・そーいやなんでお前、ついてきたんだ?」

 バッツがギルガメッシュを振り返り、尋ねる。

「なんだあ? 俺がいちゃ悪いみたいな言い方だな!」
「そう言う訳じゃねえけど・・・」
「へっ、まあいい。俺様はドワーフ戦車隊の戦闘顧問だからな! ドワーフたちのために戦うことは当たり前のことなのだ!」

 調子よく言うギルガメッシュに、ロックが戦車を操縦しながら半眼で呟く。

「なにが戦闘顧問だ。聞いたぞ、あの戦車の砲撃。お前が仕掛けたんだってな!」

 墜落したファルコン号に向かって打ち込まれた戦車の砲撃。
 ファルコン号が頑丈に出来ていたから良かったものの、下手すれば大怪我じゃ済まない話だった。

「いやあれは悪かった。でも敵の本拠地から出てきたら、フツーは敵だって思うだろ? 撃つだろ?」
「せめて降伏勧告くらいしやがれ!」

 怒鳴るロックに、しかしギルガメッシュはしれっと言い返す。

「・・・真の戦士に対して、降伏勧告なんざ侮辱しているようなもんさ・・・」
「俺は戦士じゃねえ!」
「ああいえばこういうヤツだな」
「それはお前だあああああっ!」

 怒鳴り、叫び、ロックはぜえぜえと息を切らす。
 と、そんなロックに、ふとバッツが声をかけた。

「そういやロック、さっきから気になってたんだが、俺の座席の所に変なのがあるんだけど」
「変なの?」
「おう。なんか、丸い鏡みたいな形をしていて、でも何か写してるわけでもなくて、線がいくつも入ってて、中心が白く点滅してる・・・」
「そりゃレーダーだ。自機と僚機、それから敵機を表示するんだが、今はこの戦車しか反応していないって訳だ」

 座席が5つあるのは、何も乗客を運ぶためではない。
 戦車は戦闘するための車だ。普通の車のように動かすだけなら一人でも問題ないが、その上で戦闘するとなると一人では手が足りない。そのため、複数員乗り込めるようにして、役割を分担しているわけだ。

 で、バッツが座っている座席は敵味方の位置を把握する索敵要員の座席らしい。
 ロックが座っている操縦席にも簡易的なレーダーはあるが、きちんと整備された道路をまっすぐ走りだけならばともかく、敵味方入り乱れた戦場を、180度全方位把握して、味方と激突しないように、敵からの直撃を受けないように移動することは難しい。だからこそ、操縦者とは別にレーダー要員が必要なのだ。

「じゃあ、このボタンは?」

 と、エッジは自分の座席の近くに幾つか設けられたボタンを適当に押す。

「って、だから意味も解らずに―――」

 押すんじゃない、と言いかけたロックの言葉を遮るようにして、ずどんっ! と音が響く。
 同時、戦車が大きく揺れた。どうやら戦車に備え付けられた砲台から弾が発射されたらしい。

「・・・カイン」
「・・・ああ」

 ロックが言うと、カインは静かに頷いて、手にした槍の石突きでエッジの頭を突く。
 ごん、と割と良い音が戦車の中に響き渡った。

「痛ぇな! 何しやがる!」
「てめえ! どういった事情で飛空艇が墜落したか、もう忘れやがったかこのアホウドリ!」

 エッジが突かれた頭を抑え、ちょっと涙目になって怒鳴ると、ロックが怒鳴り返す。

「誰がアホウドリだ!」
「阿呆で鳥頭だからアホウドリで十分だ!」
「勝手に鳥頭認定するんじゃねえ!」
「 “阿呆” はいいのか・・・?」

 ぽそり、とセリスが呟くが、とりあえずはスルー。
 エッジはロックを睨んでさらに怒鳴る。

「飛空艇が墜落したのは・・・ほらあれだ、燃料が切れたからだろ?」
「元はと言えば、操縦方法も解らないのに、てめえが適当なボタン押して発進させたからだろがーーーーーー!」

 などと。
 ロックの絶叫を響かせながら、戦車は最後のクリスタルがある地へ向かってゆっくりと進んでいった―――

 


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