第23章「最後のクリスタル」
F.「最後のクリスタル 」
main character:ロック=コール
location:ドワーフの城・謁見の間

 

 

「やれやれ・・・死ぬかと思ったわい」

 玉座に座ったジオット王の呟きに、それはこっちの台詞だ、とロックは口に出さずに思った。

 ―――ファルコン号の魔導レーザーがジオット王の乗る戦車に直撃した後、ますます状況は混乱した。
 ドワーフたちはジオット王達の仇討ちとばかりに、熱くなった砲身で無理に砲撃をして自爆を繰り返し、ファルコン号はダブル魔導バルカンやらダブル魔導レーザーやら魔導ミサイルランチャーやら、どこにそんな兵器を搭載していたのかと疑いたくなるような武器で反撃を繰り返した。

 ただ、その混乱は割と早くに収まった。
 ドワーフの戦車隊は、ほぼ全てが自爆で戦闘不能となり、ファルコン号もあっさりとエネルギーやら弾薬やらが尽きてしまったからだ。まあ弾薬はともかく、レーザー兵器をバカスカ撃てるエネルギーが残っているなら、今頃はまだ墜落はしていなかっただろう。

 エネルギーが少なかったせいか、それとも単にドワーフやギルガメッシュが頑丈だったせいか、攻撃が直撃したはずのジオット達を含め、奇跡的に死人はでなかった。
 まあ、その代わりにファルコン号や戦車隊は壊滅状態だが。

 さて、そんなこんなでドワーフの城の謁見の間である。
 ジオット王の前に居るのは、ロックの他にはエニシェルだけだ。
 他の者たちは寝込んでいるか、その看病でここにはいない。

 さらに付け加えると、ロックは体中に湿布を貼っていて、ジオット王は身体のあちこちに包帯を巻いていた。

 と、エニシェルがうすら笑いを浮かべて意地悪く言う。

「やれやれ、情けないのう。あの程度のことで・・・」
「お前はそりゃ平気だろうさ」

 戦車の砲撃による衝撃で、何度も全身を飛空艇の甲板に打ち付けたロックは皮肉げに言い返す。

「なにせ、怪我や打ち身とは無縁の人形だからな」
「人形?」

 と、疑問の声を発したのは、ファルコン号の魔導レーザーの直撃を受けて怪我を負ったジオット王だ。
 ドワーフの王相手に、エニシェルは誇らしげに「うむ」と誇らしげに―――というか偉そうに胸を張って答える。

「妾の正体は最強の暗黒剣デスブリンガー! ただ、暗黒剣の状態では自分で動けないのでな、人形に意志を移しておる」
「人形に意志を移して・・・か」
「うむ! 妾に秘める膨大なダークフォースの力によって動かしておるのだ!」
「あれ・・・?」

 ふと、ロックが疑問の声を上げた。怪訝そうに黒髪の少女を振り返る。
 ただの人形が、人間のように表情を変えて動き回ってはいるのはデスブリンガーのダークフォースの力によってである。それはロックも知っていた。
 しかし―――

「確かお前って、聖剣―――ライトブリンガーの力でも動いてなかったか? ほら、なんか銀髪で白いドレス姿になるやつ」
「これのことかの?」

 パァッ、とエニシェルの身体から明るい光が放たれ、一瞬でロックの言うような姿へと変化する。

「そうそれ―――って、それもダークフォースの力で動かしているのか?」
「いるわけなかろう。今、貴様が言ったとおりにこれはライトブリンガーの力。ダークフォースとは対極にある光の力―――ライトフォースによるものだ」
「らいとふぉーすぅ?」

 ロックがうさんくさげに呟く。

「なんだそりゃ。ダークフォースなら何度も聞いたが、ライトフォースなんざ聞いたこと無いぞ」
「それはそうだ。貴様らにとっては特別な力というわけではないからの」

 は? と怪訝そうに首を傾げるロックに、エニシェルは元の黒尽くめの姿に戻ってから。

「貴様にも解りやすいように言ってやれば、ライトフォースとは命の力―――生きとし生けるものが普通に持っている “生命力” のことだ」
「生命力ねえ・・・・・・ダークフォースって、その生命力とは反対の力なんだよな? ということは、今のエニシェルはアンデッド―――」
「そこに気づくなぁっ!」

 げし、とエニシェルはロックのスネを蹴りつける。
 ロックが気がついたとおり、ダークフォースの力で身体を動かしているエニシェルは、ゾンビやスケルトンと同じアンデッドと同じ仕組みだったりする。

「痛えな。いきなり蹴るなよ、冗談だろ?」
「フン、冗談でも妾をアンデッドなんかと同列扱いするでない!」

 どうやら本人でも気にしているのか、この話はタブーだったらしい。

「人形・・・と言えば、ゴルベーザが差し向けてきた刺客も人形であったな」

 ロックとエニシェルの会話が途切れたところで、ジオット王は思い出すようにして呟く。

「ああ、確かセリスが倒したって言う・・・」

 その時現場に居なかったロックは伝聞でしか知らない。

「あの人形、実はルカが随分と気に入っていたようでな。表には出さなかったようじゃが、随分とショックを受けていたらしい」

 ルカ、というのはドワーフ王の娘だ、とロックが事情を知らないエニシェルに説明する。
 ジオット王は、エニシェルを見やり、

「それで頼みがあるんじゃが、少しで良いから娘の相手をしてくれんだろうか」
「妾を人形遊びに使わせろと?」

 不機嫌そうに言うと、ジオット王は「いやいや」と首を振る。

「少し話し相手になってくれれば良い。あの子は内気な性格でな。人形くらいしか友達がおらん。人形の身であるそなたならばうち解けられるのではないかと・・・」
「・・・そう言うことならば構わぬが」

 とかいいつつ、エニシェルは嘆息。

(・・・しかしファスと言い、どうも最近 “内気な娘” に縁があるのう・・・)

 縁、と言っても二人目だが。
 だがその他の娘がどうにもアクティブ過ぎるので―――特にローザ―――余計にそう感じるだけなのかもしれない。

「さて、話が後回しになってしまったが―――これからの事を相談したい」

 ジオット王は話題を切り替える。
 ロックも頷いて、

「ゴルベーザの事だな―――バブイルの塔には居ないようだった。けどもしかして、今何をしているのか知っているのか?」
「うむ。ヤツめ、どうやら最後のクリスタルを手に入れようとしているらしい」

 ジオット王がそう言うと、ロックは「最後のクリスタルの在処は?」と尋ねる。

「この城よりずっと南―――溶岩の海を越えた、 “封印の洞窟” と呼ばれる場所にある」
「封印の―――って、いかにもって名前だな」

 ロックは思わず不敵な笑みを浮かべた。
 トレジャーハンターとしての職業柄か、そう言ったいわくありげな名前を聞くと、反射的にワクワクしてしまう。

「しかし、それはゴルベーザ達も解って居るようだが? まだクリスタルは奪われておらんのか?」

 エニシェルが問うと、ジオット王は頷いた。

「おそらくは。封印の洞窟はその名の通り、入り口を強力な結界で封じられておる。洞窟の近くに、 “トメラ” という職人達の村があるのだが、そこからの話では、ゴルベーザの飛空艇はまだ洞窟の近くにあるという」

 そこで、とジオット王はロックに告げる。

「お主らに頼みがある。封印の洞窟へ赴き、最後のクリスタルを確保してくれまいか?」
「そうくると思ったが―――封印の解き方は解ってんのか?」

 ロックの問いに、ジオット王は「勿論」と頷く。
 と、そこでエニシェルが口を挟んだ。

「ゴルベーザ達は封印を破れないのだろう? ならばわざわざ封印を解かない方が良いのではないか?」

 エニシェルの意見に、ロックとジオット王は揃って「うーむ」と悩んだ。

「一理ある・・・が、その結界がどれだけもつか解らねーだろ。もしかしたら、今にも封印は解かれているかも知れない」
「結界に頼るよりはこちらで確保した方が安全かもしれぬ。それに私は前回の戦いでお主達の力は知っておる。お主達にならばクリスタルを託すことができる」
「それならば良いが・・・移動手段はどうする? 溶岩の先にあるのだろう?」

 飛空艇は使えない。
 ならば別の移動手段が必要だが―――

「戦車ならば溶岩も渡っていける。砲塔が壊れただけのヤツならば、少し修理すれば移動には使えるだろう」
「りょーかい。ただ二日くらい待ってくれ。こっちも結構ダメージが激しい」

 現状、まともに戦えるのはカインとバッツ、それにブリットくらいなものだ。
 ロックとエニシェルを加えたその四人以外はダウンしている。

「解った。ならばそちらが回復するまでに、こちらも戦車の準備を完了させておこう―――」

 


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