落下する。
「げええええっ! 底が見えねえっ!」
と、悲鳴をあげたエッジの言葉通り、落下先を見れば見通せない闇が見えるだけ。
「オフクロ、どーにかしてくれっ!」
「どーにかって言われてもねえ」ジュエルは緊迫感のない様子でぽりぽりと頬を掻く。
「あたし一人ならどうとでもなるけど、全員助けるとなると―――あ、あれがあった ”忍法・天地無用の術” 」
「それってどんな術だよっ!?」背負ったリディアが離れていかないように、しっかりと抱えながらロックが尋ねる。
うん、とジュエルは頷いて。「簡単に言うと、周囲を無重力状態にする術」
「無重力にしただけじゃ意味ねえよッ!」
「え、なんで?」きょとんとするジュエルに、ロックは口早に説明する。
「俺らはもう落下してるんだ。無重力にしたところで、重力で加速しなくなるだけで、今までに加速した分で落下するのは変わらない」
空気抵抗でそのうち減速するだろうが、減速する前に術の範囲を出てしまうか、床に激突するかのどちらかに違いない。
「ああ、そっか。なら “忍法・天地逆転の術” ってのも―――」
「それ、逆方向に落下していくだけじゃねえのか?」
「当たり。しかも多分1回使えば力尽きるから、繰り返し使って落下速度を落とすなんて事もできないわ」せめて飛翔用の忍具があれば話は変わってくるのにねえ、とジュエルは困ったように笑う。
「使えねえな忍法!」
「言ってる場合じゃねえだろ! 下が―――」エッジの叫びに下を見れば、闇の中、闇を四角く切り取ったような白い光が見えた。
どうやら “底” らしい。エッジが最初に気づいた時には砂粒ていどの大きさだったのが、みるみるうちに近づいて、大きくなっていく。「畜生、ここまでか!」
光の中に飛び込み、死を覚悟したその瞬間。
「『レビテト』!」
セリスの声が周囲に響き渡った―――
******
一方その頃―――
「クックック・・・そろそろ観念して貰おうか」
「・・・・・・ううっ」髪は乱れ、衣服はあちこち引き裂かれ、白く美しい肌にはあちこち傷やアザが出来ている女性を、竜の鎧を身に着けた男が追いつめていた。
「手こずらせてくれたようだが、ここまでだな」
完全に悪役の調子でカインがバルバリシアに向かって槍を向ける。
そのバルバリシアは壁際に追いつめられ、すこしでも動こうものなら、即座にカインに串刺しにされるだろう。「まさか・・・策にはまったのはこっちのほうだったなんて・・・ね」
最初はバルバリシアは囮として、カインをおびき寄せていたのだと思っていた。
だが、どうやらおびき寄せられたのはバルバリシアの方だった。カインはそれを悟られないように、ずっと手を抜いていたようだった。ルビカンテとバルバリシアは単体でも厄介な相手だが、1対1ならばカイン一人でなんとかできる。
だが、二人で連携されればどれ程の強さを見せるのか未知数だった。だからこそ、カインはバルバリシアをおびき寄せ、ルビカンテをバッツ達に任せたのだ。そして竜剣でバルバリシアから熱量を奪い取った後は、演技する必要もないと思ったのか、桁違いの跳躍力でバルバリシアを追いつめはじめた。
バルバリシアは、なんとかカインの槍の届かない高みに逃げようと繰り返すも、自在に空を飛ぶ能力を持っているとはいえ、水平移動に比べて上昇の方がスピードは遅くなる。そして、僅かな遅さも本気のカインは見逃してはくれなかった。
無理に上昇しようとすれば高速の槍が迫り、結果としてバルバリシアは低空を逃げ回らなければならなくなった。戦う、という選択肢はバルバリシアにはなかった。空中戦ならば負ける気はしないが、地上では勝ち目が薄い。
その空中戦に移行するのを防がれては、バルバリシアに逃げる以外の選択肢はなかった。必死で逃げ続け―――そして今、壁際に追いつめられ、万事休すの状態だ。
バルバリシアは気丈にもカインを睨付けるが、その身体は恐怖で震えている。
ゾットの塔で、カイン達に殺されかけた記憶が蘇っている。
あの時、ドグやゴルベーザの助けがなければ、確実にバルバリシアは死んでいた。「安心しろ、昔のよしみで苦しませずに殺してやる」
先程のバルバリシアと同じ言葉。
バルバリシアは観念して瞳を閉じる。「調子に乗らないことね」
「なに?」
「私はここで死ぬ。けれど、ゴルベーザ様は貴方達なんかには絶対に負けない。特に、セシル=ハーヴィには絶対に!」
「フン、負け惜しみを」実際それは負け惜しみだった。
それ以上、バルバリシアには抵抗する気力はなかった。どうすることも出来ない。
カインはこの期に及んで、まだ油断していない。
バルバリシアが下手な動きをすれば、即座にその槍がバルバリシアを貫くだろう。(申し訳ありません、ゴルベーザ様。私はここまでのようです―――)
と、バルバリシアが観念したその時だ。
「―――畜生、ここまでか!」
いきなりカインの頭上から声が振ってきた。
見上げれば、高い天井に、四角い穴が開いている。その穴から、凄い勢いで。「なに・・・!?」
ロック達がカイン目掛けて落ちてくる。
「ちいっ!?」
カインは後ろへと跳躍する。
直後、カインの目の前にロック達が積み重なるように床に落ちてきた。「だあああああああああっ! し、死ぬかと思ったあああああああっ!」
がばっ、とロックは立ち上がる。
本当に死ぬところだった。
間一髪、セリスの浮遊魔法のお陰で、落下速度が軽減され、無事に着地することができた。いきなり落下速度をゼロにすることはできなかったので、床まで落ちて多少身体を打ったが、死ぬよりはマシだ。「お前らどこから―――しまった!」
ハッ、としてカインはバルバリシアの姿を探す。
だが、すでに金髪の美女の姿は何処にもなかった。「逃がしたか・・・!」
チッ、とカインは舌打ちした―――
******
「・・・死ぬかと思ったわ」
クリスタルルームまで転移して、バルバリシアは一息吐く。
と、肉体を両断されたルビカンテを見やり、眉をひそめた。「随分と派手にやられたわね」
「面目ない。不覚を取った」
「カカカカッ、ゴルベーザ四天王のナンバー1とナンバー2ともあろう者が良いザマだな」愉快そうに笑うのはカイナッツォだ。
その笑い声にバルバリシアは不機嫌になるが、ルビカンテは素直に頷く。「カイナッツォの言うとおりだ。返す言葉もない―――手間をかけたな」
「全くだ。この借りはいずれ返して貰うぞ。カーッカッカッ!」
「カイナッツォ、あまり調子に乗らないでくれる? 殆どなにもしなかったくせに」流石に我慢出来ず、バルバリシアが文句を言いながら睨む。
その視線に、カイナッツォは「おお怖い」と、わざとらしく肩を竦めた。「―――それよりもバルバリシア、一つ聞きたいことがある」
切断された上半身で、ルビカンテはバルバリシアを見上げて尋ねる。
「なにかしら?」
「敵の中に “デスブリンガー” を持つ者が居た」
「―――!」ルビカンテの出した単語に、バルバリシアは目を見開く。
「・・・その反応からすると知っていたようだな」
「それは・・・」
「カカカ・・・そう責めるなルビカンテ。かつて “あの御方” に、直に仕えていたバルバリシアだ。言いにくいのも当然だろう」バルバリシアを庇うような発言をするカイナッツォに、当のバルバリシアが驚く。
「珍しいわね。貴方が私を庇ってくれるなんて」
「フン、 “あの御方” には俺も並々ならぬ恩があるからな」
「別に責めているつもりはなかったのだが―――しかし、その様子からすると、カイナッツォも知っていたのか?」ルビカンテが尋ねると、カイナッツォは頷く。
「セシル=ハーヴィと戦った時にな。・・・妙なことに、デスブリンガーの他にライトブリンガーも使いこなしていたようだが」
「馬鹿な!? あの二つの剣は相反するもの―――しかも、セシル=ハーヴィはおそらく・・・」
「 “あの御方” の息子だろうな―――皮肉なものだ。 “あの御方” の命を奪った剣をその息子が使うとは・・・・・・」ルビカンテはずっと黙っているバルバリシアへと視線を向ける。
「このこと、ゴルベーザ様には―――」
「伝えていない。・・・いいえ、伝えたとしてもゴルベーザ様は “デスブリンガー” の事を憶えておられないわ」
「そうだな―――そしてあの方にもこのことを知られるわけには・・・」そう、ルビカンテが呟いた瞬間。
何者かの “意志” を身近に感じて、ルビカンテ達は硬直する。それは聞き捨てならんな―――
三人の頭の中に声が響き渡る。
その声を聞いて、バルバリシアは呆然と声の主の名を呟いた。「ゼムス、様・・・・・・!?」
******
バブイルの塔の通路をロック達は警戒しながら歩いていた。
「追っ手はこないな・・・」
さっきと同様、リディアを背負ったロックが後ろを振り返りながら呟く。
その言葉を聞いて、気を失っているバッツ―――どうやら落とし穴に落ちた時に、高所恐怖症のため気絶してしまったらしい―――を背負ったカインが、フン、と鼻を鳴らす。「随分と痛めつけてやったからな―――そっちもルビカンテを追いつめたようだが」
「そいつが邪魔をしなければ、とどめをさせたはずなんだけどね」と、ジュエルが皮肉そうにカインの背中のバッツを見やって言う。
ちなみに彼女の背中には意識を失ったセリスが背負われている。デスブリンガーを使ったせいでかなり消耗していたところに、落とし穴に落ちた時に浮遊魔法を使ったのが限界だったらしい。現状、バッツ、リディア、セリスの三人が気絶している。
その上、エッジは意識はあるもの、大分傷ついていて、ブリットに支えられて歩いている状態だ。早い話、まともに動けるのがカインとブリット、それからロックとジュエルにエニシェルを加えた五人。
その中で、戦力になるのはカインとブリットの二人だけだ。ロックやジュエルも戦えないわけではないが、どちらかと言えば戦闘は不得手な方だった。ルビカンテやバルバリシアと同じレベルとは言わなくとも、それなりに強い敵がでてくれば逃げ回ることしかできない。エッジを含め、戦闘不能者を四人も抱えた状態で、これ以上戦い続けることは難しい。
だからロック達は塔を脱出するための手段を探していた。
「・・・つっても、魔物の一匹も襲いかかってこないのは妙だぜ。こちとら怪我人抱えた状態だ。魔物の群れで襲われれば流石にヤバイ」
「俺は平気だが?」
「そりゃお前はな。けど、お前とブリットの二人だけで俺達全員守れるかよ?」
「知るか。自分の身くらい自分で守れ」にべもない。
なんにせよ、理由は解らないが追っ手がこないならば僥倖だった。何かの罠でなければ。「お、なんか扉があるぜ?」
先頭を歩くエッジが声を上げる。
みれば、確かに廊下の突き当たりに扉―――ルビカンテと戦った部屋と同じような扉があった。近づいて見る―――が、扉は開きそうにない。
よくよく見れば、扉の脇にはカードを差し込むスリットがあった。それが扉の鍵となっているのだろう。「ち、駄目か」
ダン、とエッジは扉を拳で叩く。
と、エニシェルがジュエルを振り返る。「おい、あの壁抜けの術とやらは使えんのか?」
その問いに、ジュエルは少し悩むような素振りを見せる。
「使えるけど・・・ただ、エッジの念気はほぼ尽きてるから、あたし一人で術を使わなければならない」
「なにか問題が?」
「あたし一人でとなると、あと1回が限度ね。無理すれば2回使えないこともないけど、そしたら多分あたしも気絶する」
「つまり、ここで使って、もしもこの部屋の中に何もなければ意味がない、と?」ロックが言うと、ジュエルは頷いた。
「セシルはなんて言ってる?」
ロックが尋ねると、エニシェルは肩を竦めた。
「 “現場の判断に任せる” だと」
「言うと思った。ていうかセシルがお前を寄越した意味、あんのかよ」呆れたようにロックが言う。
確かにセシルは、玉座に居ながらこちらの様子を把握出来るようにとエニシェルを同行させた。
にも関わらず、殆ど指示らしい指示は出さず、ロック達に判断を任せている。「腐るな。それだけ信頼されていると言うことだろう」
エニシェルが言う。
幾らエニシェルと繋がっているとはいえ、実際に現場に居る者たちの方が、正確な判断をくだせると考えているのかも知れない。「しかしなあ・・・」
「 “悩んでいるなら、とりあえず部屋に入ってみろ” だとさ」意味がない、とロックに言われたことを気にしたのか、エニシェルがセシルの言葉を伝える。
「部屋の中に何もなければ?」
「 “何も無いなら無いで休憩出来る。セリスやリディアの意識が戻れば、脱出のための選択肢が増えるかも知れない” ―――とさ」
「確かにな。じゃあ頼むぜ」ロックがジュエルに視線を向けると、彼女は頷いて扉に手を添えた―――
******
扉の向こうは階段の踊り場だった。
「なんだこの部屋―――つーか、部屋?」
エッジが戸惑うのも無理はない。
階段は巨大な部屋に設置されたもので、部屋自体は三階分ほどの高さがあった。
それもこのバブイルの塔での三階分だ。ただでさえ高い一階が、三階分。
見上げても天井は薄暗くてハッキリと見えず、ついでにその広さも尋常ではない。
壁の端が霞んで見えるほどの広さだ。先程、ルビカンテと戦っていた部屋も広かったが、ここはその比ではない。
どうやらこの巨大な部屋は、それぞれの三階分の階層毎に入り口が設けられているらしく、この階段はそれぞれの入り口に繋がっているようだった。
ちなみにジュエルの術で扉を通り抜けた場所は、二階部分に当たる場所だ。「あれは・・・飛空艇―――赤い翼か!?」
ロックが叫ぶ。
部屋の奥は飛空艇のドッグのようになっており、そこに見覚えのある赤い飛空艇が収まっている。「てゆーか、なんか壁がブッ壊れてるぞ」
エッジの言うとおり、飛空艇の近くにある壁の一部が消失している。
そして、外の光景が広がっているのだが、その光景は―――「地底世界・・・?」
溶岩の輝きで赤く染まった世界が広がっている。
少し上を見上げれば、岩の天井―――地底世界の天井が見えた。どうやら、この発着場は地底と地上の境界に位置するらしい。「・・・ということは、もしかしてあの壁、あの時の砲台とやらで吹っ飛んだのかもな」
前回に侵入した時に暴発した砲台は、古代の叡智で造られた頑強な塔の壁をあっさりと消滅させた。
「ていうことは、ここってこの前脱出した場所の近くか」
あの時は、確認する余裕など無かったが、砲台が暴発した時に塔に与えた被害は割と大きかったらしい。
「なあなあ、あの飛空艇使えるんじゃないか?」
飛空艇を見下ろしてエッジが言うが、ロックは難しそうに首を捻る。
「いや、エンタープライズと違って、 “赤い翼” は一人じゃ動かせない。それなりに訓練を受けた乗組員が数人必要だ」
「そんなこと、やってみないとわからねえだろ」
「あ、おい!」ロックが難を言うのも聞かず、エッジはさっさと階段を降りていく。
流石にまだ本調子ではなく少しフラつきながら降りていく様子に、それまで支えてやっていたブリットが慌ててエッジの後を追いかける。「ったく・・・」
「フッ、だが一理あるかもしれんな。飛空艇ならば俺も動かせる。貴様と俺の二人―――あとはこいつも使えるだろう」バッツを背負ったままのカインが、エニシェルの方を見やる。
「妾は飛空艇なんぞ操れんが」
「セシルにやり方を聞きながら俺達を手伝ってくれれば良い」
「ふむ、なるほど」納得するエニシェルにロックも苦笑して。
「まあ、たしかにここでボヤいてても始まらねえか」
呟いて、ロックはエッジを追って階段を降りはじめた―――
******
「おっせーな。何してるんだよ」
飛空艇の甲板上からエッジが文句を言ってくる。
満身創痍のくせに割と元気だなと思いつつ、ロックは飛空艇を眺めた。ロックの記憶にある “赤い翼” と若干形状が変わっている。
どうやら、 “赤い翼” をベースに改良を加えてあるらしい。「飛空艇の施設があるって事は・・・結構、大昔から飛空艇ってあったんだな・・・」
この発着場は、昨日今日造られた場所ではない。
というかゴルベーザ達は造っている余裕などなかっただろう。と言うことは、元からあった場所をゴルベーザが利用しているというわけだ。
そしてこのバブイルの塔は、1000年以上前から存在しているという。バロンの赤い翼の飛空艇を “開発” したのはシド=ポレンディーナだが、飛空艇そのものは遙か昔から文献に姿を現わしている。
それらの飛空艇を “再現” し、改良したものがシドの飛空艇というわけだ。「なにぶつくさいってるんだよ! 早く乗りやがれ!」
リディアを背負ったまま感慨深く思っているロックに、上からエッジが急かすように言ってくる。
なんとなくイラッとしたが、確かに時間を浪費して良い場合でもない。「今行く!」
飛空艇には、甲板まで橋が架けられていた。
やや細く、勾配のキツイ橋を登り、ロックは看板上に上がった。ちなみにカインやジュエル達はすでに乗り込んでいる。「よおし、全員乗ったな!」
操舵輪の前で、エッジが調子よく言う。
ロックは適当に返事をして、背負っていたリディアを甲板上に寝かせてやる。見れば、ジュエルやカインも、セリスとバッツを寝かしていた。さて、とりあえず機関室に行って、浮遊石を起動させて―――と、ロックが思っていると。
「よし、じゃあ飛空艇ファルコン号、発進! ―――ポチっとな」
ファルコン号ってなんだよとかロックがつっこむよりも早く。
いきなり飛空艇ががくん! と揺れる。「って、なんだ!?」
ロックは困惑する。
シドの造った、浮遊石を原動力とする飛空艇は、その浮遊石を “起動” させなければ動かない。
だが、どういう訳かエッジが何かしたせいで、飛空艇が動き出そうとしている。「エッジ! あんたなにしたの!?」
いきなり動き出した飛空艇にジュエルも焦ったようで、エッジに問いつめる。
エッジはよく解っていない様子できょとんとして、目の前の操舵輪を指さした。「いや、コイツの真ん中にボタンがあったから押してみただけなんだけど」
「「押すなよ!?」」ジュエルとロックの同時ツッコミ。
「お前、それがなんのボタンか解って押したのか!?」
「さあ・・・いや、なんとなくノリで押したくなって」
「ノリでよく解らんボタンを押すなあああああああっ!」
「・・・動いてるみたいだな」甲板の縁から飛空艇の外を見下ろしていたカインが呟く。
見れば、確かに飛空艇が少しずつ前に進んでいるようだった―――と、甲板にかかっていた橋が倒れる。
がっしゃーん、という橋が砕ける音を聞きながら、エッジはぽりぽりと頬を掻いた。「もしかして、ヤバイ?」
「当たり前だッ! 操作方法も解らないのに動かしてどうするんだよっ!」
「う、うるせえな。じゃあ止めれば良いんだろ、もっかいボタンを押せば止まるだろ」
「ちょっと待て、これ以上下手に触るな―――」ロックが叫ぶが遅い。
エッジは再びポチっとボタンを押す。直後、飛空艇が急加速して、バブイルの塔を勢いよく飛び出した―――