第22章「バブイルの塔、再び」
K.「バブイルの塔へ」
main character:エドワード=ジェラルダイン
location:エブラーナの洞窟

 

 

 ジュエル達が砦として使っている洞窟のさらに奥。
 エブラーナのある島の内陸へ向かって延々と続く洞窟を、エニシェル達は歩いていた。

 ルビカンテを撃退し、ジュエルとエニシェル―――というかセシル―――が会談した翌朝のことである。

 何故、そんなところを歩いているかと言えば、当然バブイルの塔へと侵入するためである。
 この洞窟はバブイルの塔の、地上と地底の間にある地下部分に続いているらしい。

「チッ・・・辛気くさい洞窟だ」

 などと悪態を付いたのはカインだった。
 それもこれが初めてというわけではなく、もう10回は同じ言葉を吐いている。

 一行は朝から出発して、もう随分と歩いている。
 彼らは洞窟の中に居るため時間の感覚はわからないが、すでに地上は太陽が天頂近くまで昇っていた。

 塔を目指して歩いているメンバーは、ジュエルを先頭にカイン、ロック、セリス、バッツ、リディアと続いて、最後はエッジが殿だった。
 ちなみにエニシェルはバッツの腰に下げられている。塔へと続く洞窟は起伏が激しく、少女姿の “人形” の状態では困難な道のりであるためだ。

 サイファーやミストの姿はない。彼らは砦やエンタープライズの守りを任している。
 留守番にされてサイファーは大分ごねたが、「「足手まといだ」」とカインとバッツの二人に言い放たれ、納得しないながらもそれ以上食い下がることはなかった。最強の竜騎士と、バロンで圧倒的に叩きのめされた “最強の旅人” の二人に反論できるほど身の程知らずではなかったようだ。

 ちなみに、ルビカンテに対抗出来るカインとバッツの二人ともを塔に侵入させることについて、ロックは守りが手薄になることを懸念したが、セシル曰く「攻撃は最大の防御」だという。

 「というか、むしろルビカンテでもバルバリシアでも、或いはその両方でも攻めて来てくれた方が、塔の中に侵入するの楽だよねー」というのがセシルの弁。
 セシル達の目的は、あくまでもゴルベーザの目的の阻止である。ルビカンテを倒すことではなく、ゴルベーザを打破、もしくはクリスタルを奪取できればそれでいい。
 早い話、エンタープライズやエブラーナの砦が “囮” となってくれるならば、それはそれで都合が良いというわけだ。

「塔まではまだ遠いのか?」

 苛立ちを隠そうともせずにカインが先頭を行くジュエルに尋ねる。ジュエルは「もう少しよ」と答えるが、その言葉もカインの悪態と同じ分だけ口にしていた。
 直線距離で言うならば、もうおつりが出るほど歩いているはずだが、洞窟内は曲がりくねっている上に起伏が激しく、体力と時間を消費した割には進んでいない。

 とはいえ、この程度で音を上げるような軟弱な鍛え方をしている一行ではなかった。
 ・・・・・・約一名を除いて。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 息荒く、必死でバッツの後ろについて進んでいるのはリディアだ。
 戦士でもなく、旅慣れてもいない彼女にとって、この道程は辛く厳しいものであった。

「おーい、大丈夫か?」

 バッツがリディアを振り返って訊く。こちらは対照的に、息一つ切らしていない。

「・・・・・・」

 大丈夫、とでも答えようとしたのだろう。息をするよりも僅かに大きく口を開けて―――しかしリディアは一言も発さずに、口を大きく開けたまま、あえぐように息を吸い込む。
 足下がでこぼこして歩きにくいということもあるだろうが、なによりも薄暗い洞窟の中ということで閉塞感がある。外よりも息苦しさは増すというものだ。

「あんまり無理するなよ。俺が背負ってやるっていってるじゃんか」

 そう言ったのはエッジだった。
 が、当然のようにリディアは答えない。答える余力がない。
 見るからに限界一杯といった様子なのに、人の手を借りる気はないようだった。「意固地なヤツだ」とエッジが呆れたように呟く。

「おい、そろそろ休憩しないか?」

 バッツが前を歩くジュエルに向かって声をかける。

「ずっと歩き通しだしさ。俺、疲れちゃったよ」

 などと見え見えの嘘を吐く。
 どう見ても、一行の中で一番疲労していないのはバッツだった。

「・・・・・・」

 情けをかけられたことが気に食わないのか、リディアは息を切らせながら不機嫌そうに目の前の背中を睨む。

「・・・そうね、丁度良いわ」

 と、ジュエルは立ち止まる。

「到着したから」
「・・・行き止まりに見えるのだけれど?」

 セリスの言ったとおり、ジュエルの前には壁が立ち塞がっていた。
 が、それは洞窟の壁ではない。なにやら金属めいた―――ぶっちゃけて言ってしまえば、地下で見たバブイルの塔の壁や床と同じ材質に見えた。

 とりあえずの目的地に着いたと知って、リディアはその場に崩れ落ちるように座り込む。
 それをバッツとエッジが心配する一方で、ロックが塔の外壁を眺めながら呟く。

「・・・非常口とか・・・なさそうだよな」
「ないわよ」
「あっさり!? じゃあ、どうやって塔の中に入るんだよ!?」

 確かにここには塔を守る魔物の姿はない。
 だが、入れなければ意味がない。

 ふとカインがセリスを振り返る。

「魔法で―――」
「出来ないこともないけれど―――おすすめしないわ。転移系の魔法は下手をすれば次元の狭間に落ちて、二度と戻ってこれなくなるから・・・・・・」

 行ったこともない場所へ転移しようとすると、その成功率は格段に下がる。

「―――なら、壁を、ブチ、破れば、良いのよ」

 息も絶え絶えに言ったのは、座り込んだままのリディアだった。

「いくら、なんでも、召喚獣、なら―――」
「そいつは塔の中までとっとけって」

 ぽん、とエッジはリディアの頭に手を置く。
 親しげに置かれた手を、リディアは乱暴に振り払う―――よりも早く、エッジはさっと手を退いた。

「何か別に方法でもあるのか?」

 ロックが尋ねると、エッジはにやりと笑ってみせる。

「任せな。エブラーナ忍術の真髄ってヤツを見せてやるぜ!」

 

 


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