第22章「バブイルの塔、再び」
A.「FFIF学園編、再び」
main character:キスティス=トゥリープ
location:いんたーみっしょん

 

 

 きーんこーんかーんこーん、とやる気無さそうな授業のチャイムが鳴り響く。
 同時に、タイミングを見計らったかのように、キスティスが教室に姿を現わした。

「きりーつ、礼、着席」

 学級委員のセリスが号令をかけ、生徒達が立ち上がり、教壇に立つキスティスに礼をして着席する。

 ―――はい、そういうわけで今回もFFIF学園編です。

「さて、今日はバロンにおける、エブラーナ戦争後の騎士と貴族の対立について、だけど―――バッツ」
「お・・・おう?」
「おう、じゃなくて、はい、でしょ? ・・・それで前回、予習をしておけって言ったけれど―――してきたかしら?」
「もちろん!」

 自信もって返事をするバッツに、キスティスは少し驚いてから微笑む。

「そう? じゃあ、ちょっと解説して貰おうかしら」
「なにを?」
「予習してきたことに決まってるでしょうが!」

 言われ、バッツは少し考える素振りを見せて―――それからおもむろに口を開いた。

「・・・えぶらーなせんそうしゅうけつご、ふぉーるすにはへいおんなじだいがおとずれた。しかしせんそうはさまざまなあつれきをのこしていた。せんそうしゅうけつしたとはいえ、ばろんとえぶらーなはひょうめんかでたいりつをつづけ、そのほかのよんかこくともけんあくとなり、またばろんないぶでもきしときぞくのたいりつが―――」
「ちょっと! ストップストップ!」

 つらつらと言葉を並べるバッツに、キスティスは慌てて制止をかける。

「なんでそう棒読みなのよ!?」
「え、えーと・・・」
「先生」

 キスティスの問いに対し、何故か口ごもるバッツに変わってティナが答える。

「バッツって、頭は悪いけれど記憶力は良いんです」
「おいこら。頭悪いとか言うなー! イジメだろそれ!」
「・・・それ、どういう意味?」

 キスティスが怪訝そうに聞き返して、ティナは「はい」と頷いて答える。

「馬鹿って事です」
「・・・いや、そーじゃなくて。頭悪いけど記憶力が良いからなんなの?」
「多分、教科書の内容を理解出来ずに、文章だけを丸暗記しただけなんじゃないかと」
「・・・それはそれで凄いわね」

 言われてみると、テストでも教科書の文章を引用した穴埋め問題なんかは正答していた気がする。
 ちょっと捻った問題を出すと無惨だったが。

 はあ、とキスティスは溜息を吐いて。

「あのね、バッツ。教科書の内容って言うのは、覚えるだけじゃ駄目なのよ? 理解しなければ意味がないの。解るわよね?」
「んなこと解ってるさ!」

 バッツは胸を張って言った後に続けて、

「でも教科書の中身が理解出来ないんだから仕方ないだろ」
「仕方なくないわよッ! ・・・いえ、そうね、そういう生徒のために先生が居るのよね。教科書読むだけで理解できるなら、そもそも教師なんて必要ないわけだし」

 なにやらブツブツと自分に言い聞かせるように言ったあと、キスティスはバッツへにっこりと笑いかけた。

「・・・ま、まあ、意味無くてもちゃんと予習してきたのはエライわ。意味無くても」
「2回言った!?」
「はい、じゃあとりあえず。今、バッツが言ったように、戦争は終わったけれどもバロンとエブラーナの対立は終わらなかった―――いえ “対立” とはちょっと違うかもね。戦争が終わっても、両国は友好を深めて交流するということもなく、逆に完全に縁を切ってしまったの。早い話、お互いに無視することにしたわけ」

 キスティスは黒板に “バロン” と “エブラーナ” と二つの国の名前を書いて線を引き、さらにその線の中心に×印を付けた。

「元々が、フォールスに二つだけある軍事国家の意地の張り合いみたいな戦争だったのよね。相手を潰すことしか頭にないような、なんの意味もない戦争。だからこの戦争はバロンとエブラーナ間だけで行われ、他の四ヶ国は全然関与しなかったの。基本的には」
「・・・基本的には?」

 疑問を漏らしたバッツに、キスティスはがっくりと肩を落とした。

「あのね、以前にちゃんと教えたはずでしょ? 基本的に他の国はノータッチだったけれど、バロンが劣勢の時だけ援助していたって」
「ふうん、優しいんだな」
「優しいってわけじゃないわよっていうかそれも教えたはずよね教えたわよね!?」
「せ、先生、目が怖いです」

 バッツの隣りに座っていたティナが、怯えた様子で呟く。
 と、その様子を眺めていたセリスが、やれやれ、とでもいうかのように口を開いた。

「早い話、他の四ヶ国はバロンとエブラーナ、どちらにも勝手欲しくなかったのよ」
「なんで? エブラーナはともかく、確かバロンってダムシアンやファブールと同盟国じゃなかったっけ?」
「同盟国じゃなくて、バロンが “クリスタル” の盟主だったってだけよ。月へと至る鍵である “クリスタル” 。それをバロンとエブラーナ以外の四ヶ国が保有して、バロンが盟主となりクリスタルが一つに集まらないように監視して、月へと至る道である “バブイルの塔” をエブラーナが守護する―――それが1000年前に、月へと移り住んだ古代種との盟約だったのよ」

 ちなみに、クリスタルの監視役であるバロンの監視役として、ミストの村の召喚士が存在する。

「ただ、エブラーナとの戦争末期には、もうそんなことを覚えている者は殆ど居なくて、クリスタルの意味すら失われていたわけだけど―――そのせいで、後になって、クリスタルの意味を知っていた者がバロンを操り、クリスタルを集め、バブイルの塔を起動させてしまう―――いわゆる “邪心戦争” が起こってしまったのよ」

 そこまで言って、セリスは「あ」と何かに気がついたような仕草を見せ、コホン、と咳払いする。

「・・・話が逸れたけれど、ともあれバロンは他の国々と国交はあったけれど、正式に同盟を結んでいたわけじゃないの。そして他の国々としては、バロンとエブラーナのどちらかがフォールスの覇者となるよりは、互いに力を消耗し合ってくれていた方が都合が良かったというわけ」

 セリスが説明している間、少し気分が落ち着いたのか、キスティスは気を取り直して後を続ける。

「セリスの言うとおり。だから他の国はバロンが劣勢になった時だけ援軍を出したりしたの」
「あれ? でも、エブラーナとの最後の戦争にも援軍来たのか? この前の授業じゃ、そういう話は聞いた覚えはねえけど」

 と、これはバッツ。
 キスティスは「あら?」と少し驚いて、

「流石に最近の授業は覚えているのね―――あ、記憶力だけは良いって言ったかしら?」
「おう! 記憶力には自信があるぜ!」
「・・・皮肉も理解出来ないのね」
「ん?」
「なんでもないわ―――エブラーナとの最終戦争では、バロンが劣勢に追い込まれていても、他の国は全く動かなかった。その原因は当時のバロン王――― “愚賢王” の異名を持つヴィリヴェーイ王にあったの」

 と、キスティスは黒板に書かれた “バロン” の上に “ヴィリヴェーイ” と書き、さらにその上に少し離して “四ヶ国” と書く。
 そして、 “ヴィリヴェーイ” から “四ヶ国” へ向けて矢印の線を書いた。

「この愚賢王というのは賢かったのだけど、それ以上に欲望が強かった王様で、バロンの軍事力を誇示して周辺の国々を脅迫し、貢ぎ物として金品を差し出させていたの。それで、毎日のように酒池肉林の宴会を開いてた―――だから他の国々はバロンを見限り、援軍を送らなかったのよ」

 説明しながら、キスティスは “バロン” の下に “貴族” と書いて、さらにその下へ短く矢印を引っ張って “騎士” と書き、さらに矢印を下へ引いて “領民” と書く。

「さて。そんな王様を見て、各領地を治めていた貴族達は、自分たちも贅沢したいと、領民達に無理な税を徴収し始めた。貴族の全てがそんなことをしたわけじゃないけれど、大半の貴族は愚賢王を “見習って” 、騎士を使って領民から財産を巻き上げた。酷い貴族になると、別の貴族の領地に自分の騎士を攻め込ませたりもしたそうよ?」
「・・・それって “内乱” ?」

 ティナが呟くと、キスティスは頷いた。

「そう。そんなことが各地で起こり、国は乱れた―――で、そこをエブラーナにつけ込まれ、バロンは窮地に立たされた、というわけ」

 その後のことは、前の授業で説明した通りよ、と言って、キスティスは “ヴィリヴェーイ” を消して、代わりに “オーディン” と書く。

「戦争終了後、 “愚賢王” のせいで他の国とは関係は最悪。貴族と騎士は完全対立し、さらには領民達も貴族に不審を抱いて、バロンという国は滅茶苦茶になっていた。唯一の希望は、エブラーナを撃退した “騎士王” オーディン。騎士からの信任厚く、バロンを守り抜いたと言うことで、民からも期待され―――そしてオーディンはその期待に見事応えたのよ」

 言いながら、キスティスは “エブラーナ” と “四ヶ国” を消し、それらとバロンを繋げていた線も黒板消しで消し去った。

「バロンと諸外国の話はまた今度にするとして―――まずオーディンがしたことは、貴族から騎士を切り離して王直属の軍隊としたの。とは言っても、すでに騎士は貴族を見限って、貴族達の言うことを聞かなくなっていたんだけどね」

 キスティスは “貴族” の下にあった “騎士” を消して、 “オーディン” の隣へと書き換えた。

「 “騎士” という軍事力を取り上げられた貴族達は、領民達に対する力を失い、以前のように乱暴に財産を巻き上げるような事が出来なくなってしまった―――どころか逆に、領民達は貴族の屋敷へ攻撃して、今まで奪い取られた以上の金品を奪い返した。まあ、因果応報ってヤツだけど、それは流石に看過できず、オーディンは騎士を差し向けてそういった暴動を鎮圧したの。さらには『領民が領主たる貴族に危害を加える事を禁ず』という命令を出し、もしもこれを破った者は重い罰を与えることにしたのよ」

 キスティスがそこまで一気に説明すると、「えー?」とバッツが不満そうに声を上げた。

「なんだよそれ、元々悪いのは貴族だろ?」
「そうね。けれど、貴族が悪いからって、民の無法を放置しておけば、それこそ国が荒れてしまうでしょう」
「でもよ、それじゃあ領民達は納得できないだろ。また貴族にデカイ顔されるだけじゃねーか」

 バッツの意見に、キスティスは「ええ」と頷いて。

「オーディンの出した命令だと領民達は貴族に逆らえないわよね? だからオーディンはもう一つ命令を出したの。『身分問わず、王に謁見することを許す』と」

 つまり、貴族に不満があるならば、直接それを貴族にぶつけるのではなく、王へ陳情しろというわけだ。

「もっとも貴族達も騎士達を取り上げられ、下手なことをすればやぶ蛇にしかならないと解っているから、これ以降は領民に無理な命令はあまり出さなかったけれど―――表面上は」
「表面上は?」
「貴族達は表面上は大人しくしながらも、水面下ではかつての力を取り戻すべく、虎視眈々と国を奪う計画を練っていたの―――まあ、それもオーディン王の次の王、セシル王によってあっさり潰されるわけなんだけど」
「ああ。なんかそれは何故か良く知ってる気がする」

 苦笑しながら頷くバッツの隣で、ティナが「はい」と手を挙げる。

「その話、私も何故か貴族軍とバロン軍がぶつかり合って、あっさり貴族軍が蹴散らされたトコだけ良く知っているんですけど」

 第20章 Y.「顛末」参照(笑)。

「あれって、貴族が率いていたのは確か領民でしたよね? どうして領民達は王に “反乱” を密告せず、貴族の命令に従ったんですか?」

 ティナの疑問に、キスティスは「良い質問ね」と呟き、

「理由は幾つかあるんだけれど、一番大きい理由が王が代わったばかりだったということ。それも国民達がよく解らないうちに、いつの間にか、何故かオーディン王は殺されていて、代わりにセシル王が即位していた。国を立て直したオーディンではなく、新しいセシル王のことを領民達は信頼しきれなかったのよ」

 キスティスは “オーディン” の、 ”騎士” とは反対側に ”セシル” と書いて、 “オーディン” を×で消す。
 それから下側の “領民” から “セシル” へ矢印線を引いて、その途中で×を描いた。

「そのことを理由に、反乱した貴族達のリーダーであるカルバッハは言葉巧みに領民や他の貴族達を懐柔し、さらには事を成した暁には、戦果を上げた民達には褒美を与え、騎士の称号も与えるというようなことを言って、民達を味方に引き込んだのよ」
「でもそれだけの理由ではまだ弱くないですか? 相手はカイン=ハイウィンドを筆頭とした、軍事国家の精鋭達だし・・・勝算がなければ、どんな褒美を貰うとしても乗る気にはならないのでは?」

 セリスが疑問を投げかける。
 と、それに答えたのはティナだった。

「戦力差―――というか数に差がありすぎたのよ。民兵で構成された貴族軍は、バロン軍の約10倍。それだけの差があれば、誰だって負ける気にはならないでしょ?」
「なんでティナがそんなこと知っているのよ?」
「なんでセリスが知ってないのよ?」
「私はずっとローザの屋敷に居て、戦場には出ていなかったから、バロン軍が貴族軍をあっさり蹴散らした、ってことくらいしか聞いてないのよ」

 なんか本編とごっちゃになってますよー!?

「なあなあ、それで貴族はセシルに負けた訳だけど、それからどうなるんだ?」

 はいはーい、と手を挙げてバッツが質問する。

「貴族の反乱後、主犯であったカルバッハ公爵はその地位を剥奪され、一般の領民にされたのよ。その代わりに、セシル王はカルバッハが担ぎ出した愚賢王の血を引くアレックスを、貴族達の長にしたの」
「なんでそんなことを? そんなことしたら、また貴族はアレックスを中心に反乱を起こすかも知れないじゃない」
「ティナの疑問はもっともね。その理由は―――」

 きーんこーんかーんこーん、と、不意に終業のチャイムが鳴り響く。
 「あらもう終わり?」とキスティスはスピーカーを見上げてから、生徒達を振り返る。

「はい。じゃあ、今日はここまで。アレックスを貴族の長に仕立てたセシル王の真意については―――」
「次の授業で?」
「いえ、FF4IF本編が外伝で明かされるはずだから、それまで待っててね♪」
「なんだそりゃ」

 えっと、多分。いつかきっと―――
 駄目だったら “ここだけの話” とか言って書くつもりです。

「それじゃ、セリス」
「はい。起立、礼!」

 セリスの号令に反応して、生徒達が立ち上がり、キスティスに向かって礼をする。
 そしてキスティスは3年2組の教室を後にした―――

 


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