第21章「最強たる者」
AB.「最強たる者」
main character:セシル=ハーヴィ
location:バロン城・謁見の間
「「これが俺達の “最強” だ――――――」」
二つの力の中心で、オーディンは消滅して行きながら3年前のことを思い出していた。
あの時にセシルは言った。
カイン=ハイウィンドは “まだ” 最強ではないが、 “いずれ” は最強になるのだと。だがそれは―――
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「・・・やった、のか?」
竪琴を斬られ、ただ見ていることしかできなかったギルバートが放心した様に呟く。
凄まじい戦いだった。
最強の騎士王に打ち勝つために、セシルとカインは持てる全ての力を出し尽くした。
しかしそのための代償も大きい。リディアやバッツを失い、さらにセシルやカイン達のダメージも激しいだろう。限界以上に竜剣で “熱” を溜めたせいで、カインの体は内外から焼かれている。まだ息があるのが不思議なくらいだ。
セシルもダークフォースを放った後遺症で、以前の様に体がボロボロになっている。またエリクサーでも呑まなければ、回復しない―――「あれ?」
―――はずだった。
「馬鹿な・・・? 俺は・・・?」
カインは自分の体の様子に驚く。
さきほどまでは全身を炎で焼かれ、あまりにも酷い大火傷のために、逆に感覚がマヒして痛みを感じなかった。
皮膚を焼かれたせいで皮膚呼吸が出来ず、軽い酸欠気味だったはずなのに、どういうわけか―――「体が・・・治ってい―――ぐっ!?」
すでにカインの体に火傷の痕はなかった。
だが、足から響く激痛に、彼は顔しかめる。「治っている―――というよりは、元に戻った、ということなのかな」
苦笑しながらセシルが呟く。
そのセシルも、強大なダークフォースを放った代償に傷ついているはずが、まるで何事もなかったかのように平然としていた。
そしてセシルは苦笑浮かべたまま、カインではない別の誰かに語りかける。「そうですよね? 陛下」
「なに―――?」セシルの視線を追えば、そこには―――
「ふむ。飲み込みの早いヤツだ。もう状況を把握しているのか」
「オーディン!?」セシルとカインの連携技で消滅したはずのオーディンがそこに居た。
だが、騎乗していた馬の姿はなく、鎧も “王の鎧” の姿へと戻っている。さらに、その容姿が若々しかったものとは打って変わり、黒かった髪の毛は白に染まり、顔にも歳を思わせる皺が幾つかできていた。オーディンは自分の皺を撫でながら、困った様に笑った。
「やれやれ―――仮初めの空間とはいえ、危うく消滅してしまうところだった」
オーディンが生み出した “仮初めの空間” で傷ついても、現実の空間に戻ればそのダメージは消える。
だが、肉体に影響はなくとも精神には影響を及ぼす。
そしてセシルとカインの放った “天地崩壊” は、肉体と精神の二つを消滅させる威力を持っていた。 “仮初めの空間” で肉体が消滅しても問題ないが、精神が消滅してしまえば、肉体は無事でも意識の戻らない植物人間となってしまう。特に、今のオーディンは幻獣である。普通の人間よりも精神的な影響は強く受けるため、下手をすれば今の一撃で消滅していた可能性もあった。外観が老化しただけで済んだのは、幸運だったといえる。
「どういうことだ!? セシル!」
問うカインに、セシルは肩を竦めた。
「さてね? 僕もなにが起きたのかはよく解らないけど、ともあれ全ては陛下が仕組んだってことだろうね」
そう言って、彼は後ろの方を振り返った。
そこには呆然と立ちつくすバッツ達の姿があった。セシルとカインの “天地崩壊” の凄まじさに、度肝を抜かれているのだろう。
が、やがてハッとしてベイガンが駆け寄りながら叫ぶ。「へ―――陛下! ご無事ですか!」
「ご無事だってことは解るだろう? ・・・まあ、ちょっと頭がくらくらするけど」肉体へのダメージはなくとも、精神的な疲労はそのまま残っている。
と、不意にがしゃん、という音が響いた。見れば、カインがその場に倒れている。「カ、カイン殿!?」
「心配することはない。あれだけの無茶をしたのだ。緊張がゆるんだせいで、意識を保てなくなったのだろうな」自分の肉体が燃えてしまうほどの熱量を集めるために、どれだけ集中し、精神力を注ぎ込まねばならばなかったのか、当人でなければ想像も出来ない。
一応ベイガンは倒れたカインの様子を確認し、命に別状がないと解ると安堵する―――そして、オーディンをキッと睨む。「オーディン様! 一体、何故このようなことを!」
うわ、珍しい。とセシルは驚きを禁じ得なかった。
誰よりも忠義に厚かったベイガンが、オーディンに向かって睨付けている。今までも、オーディンの言動を窘める様に苦言を漏らすことは何度か見かけた記憶はあるが、こうまでハッキリと敵意をむき出しにしたところは見たことがない。「言わなかったかね? “最強” を返して貰うためだ」
「最強を “継承” することは、オーディン様も納得したではありませんか! 何故、今更・・・・・・」
「思い出したのだ」オーディンは静かに呟く。
遠い昔に失った、大切な “何か” を語るように、静かに、しかし万感の想いがこもった声で、彼は続ける。「私が何者であるか―――何故、こうしてまだこの世に残っているのかを」
「何者と申されましても、オーディン様はオーディン様では?」ベイガンの言葉にオーディンは首を横に振った。
「・・・私はバロンの王子として生まれる以前、かつてとある国の騎士であった」
「生まれる以前? 一体何の話を―――」
「もう名前も忘れてしまった。遥か昔に栄え、そして滅びた―――歴史の中に幾千幾万と眠る、存在すら忘れ去られた国々の一つだ」オーディンの言葉にバッツが「ああ」と声を上げる。
「もしかしてそれって、前世ってヤツか?」
「そうだな。そういうと解りやすいか―――ともあれ、私が騎士だったその国に、ある時隣国が攻め込んできた。その目的は私が使えていた姫君だ。この世で最も美しいと囁かれていた姫を、隣国の王が欲したのだ」
「でも、その姫君は騎士様と身分違いの恋におちていた、と」からかう様にエッジが言うと、オーディンが少し驚いた様子でエッジを見る。
「む、何故解ったのだ?」
「って、マジかよ! うっわー、なんかむかつくー!」だんだんだん、とエッジは腹立ち紛れに床を思いっきり踏みつける。
「もっとも、その恋は実ることはなかった。敵国の力は強大で、我が国は攻め落とされ、私も命を落とした―――しかし、敵の王も姫を手に入れることはできなかった」
オーディンの辛そうな表情に、セシルはなんとなく結末を察した。
「まさか・・・自ら命を?」
「・・・うむ。その身を石へと変えた。来世こそは私と結ばれる様に、と愛の誓いを残して―――そのことを知った敵の王は怒り狂い、姫に呪いをかけた」
「呪い?」
「何度私と巡り会おうとも、必ず結ばれることのない呪い―――」
「・・・それって、まさか」はっとしてセシルは気づく。
セシルにとっても負い目のある女性の名を口にした。「ビアンカという人が―――」
「そう。かつて私が愛した姫の生まれ変わりなのだよ」
「・・・・・・」肯定されて、セシルは押し黙る。
そんな彼に、オーディンは優しく語りかけた。「だからセシル、彼女のことをお前が気に病む必要はない。彼女が死んだのは、前世から続く因縁のためなのだ」
「しかし・・・・・・」
「彼女を失ってしまったのは、お前のせいではない。私が弱かったから、彼女を守りきれなかったのだ」
「・・・だから陛下は拘ったのですか “最強” に」セシルの言葉にオーディンが頷く。
守るべき者、守りたい者を守るために、オーディンは誰よりも何よりも強く在らねばならなかった。「すまなかったな、セシル―――だが、こうでもしなければお前は私と本気で戦おうとしなかっただろう?」
「当然です。大恩ある陛下に、何度も刃を向けるなんて・・・」
「恩があると感じてくれるならば、私の望みを受けてくれても良かったのではないかね?」
「う・・・・・・」気まずそうにセシルは視線を反らす。
それを見てオーディンは苦笑。「まあ良い―――だが、一つだけ答えてくれないか?」
「なんでしょうか?」
「3年前の話だ。お前がどうして “策” を仕立ててカインを “最強” としたその理由だ」
「それはカイン殿に “最強” を継がせるためにでは―――あ」思わず呟いたベイガンは、はっとしてロック達の方を見る。
その様子に、ロックはにたりと笑って納得した様に頷いた。「成程な。どうも妙だと思ってたんだ。ベイガンが、わざわざセシルを貶める様なことを言うなんてな」
バッツとフライヤがカインの “最強” に疑問を持った時、ベイガンは “セシル二人でオーディンという最強を倒したからだ” と答えた。そして、カイン一人が最強と何故呼ばれるかの疑問に、その時セシルは役立たずだったからだといった。
「つまり、こいつの “最強” は作られたものだってことか」
「それは違う」ロックがカインを見ながら言った言葉を、オーディンが否定する。
「紛れもなくカイン=ハイウィンドは “最強” だ。そうだな、セシル」
「・・・・・・」オーディンに呼びかけられ、セシルはしばらく押し黙っていたが―――やがて、「はい」と小さく頷いた。
3年前の決闘。
その三戦目、セシルはなにもしなかった。
オーディンがセシルに意識を向けているところを、カインが突撃してオーディンを打ち倒した―――ということになっているが、実際は違った。
確かにセシルに気を取られていたのは事実だ。だが、オーディンはカインの一撃に対して、あの時何も反応することが出来なかったのだ。一戦目、二戦目はしてやられたとはいえ、カインの攻撃に反応することくらいはできた。
だが三戦目、オーディンは反応どころか、倒されたことも認識出来ないほど見事にやられてしまった。今にして思えば、一戦目、二戦目と、カインは戦いを重ねるごとに速く強くなっていた様な気がする。早い話―――
「あの時点で、カインは私を上回っていた。カイン=ハイウィンドは作られた “最強” ではない。紛れもなく、かつては最強と呼ばれた私を打ち倒した、新たな最強だった・・・」
カイン=ハイウィンドという男は、練習試合などでは本気を出せない。
いや、当人は本気を出しているつもりでも、無意識のうちに手加減してしまう。
それはその攻撃力の高さが原因だった。カインの本気の一撃を受ければ、大抵の者は死んでしまうだろう。
模擬戦用の刃を潰した武器だろうと関係ない。刃のない棍でも、まともに決まれば撃ち殺しかねない。
カインは非情ではあるが、非道ではない。敵でもない相手を、それも練習試合などで殺すわけにはいかない。だから、無意識のうちにリミッターが入るのだ。それをセシルは、殺傷能力の低い棍に武器を変えさせ、さらに「何があっても貫き通せ!」と言葉をかけた。己が認めた “王” の言葉だ。それによってリミッターが外れ、カイン本来の実力で、オーディンと戦うことができた。
「若い頃の私ならばともかく、老いた私をカインはすでに上回っていた。だからこそセシル、お前はあのような策を用いたのだな?」
並の騎士よりは遙かに強いとはいえ、オーディンも老いと共に力を失っていく。
いずれはオーディンを倒す者が現れてしまうだろう。だからこそセシルは、 “策” によってオーディンを倒そうとした。
オーディンが、自らが敗れたのは “策” のためであり、本当の “最強” はオーディンのままであると思わせるために。「・・・陛下の事を気遣っただけではありません。周囲の騎士達の事もありました。もしも陛下が実力で敗北した場合、そのことで少なからずショックを受ける者は多いでしょう。特に、陛下と肩を並べて戦った者たちは」
実力ではなく、策で敗北したと言うことにしておけば、騎士達の動揺も少ないはず。
そしてセシルの思惑通り、若い騎士達は素直にカインが最強であることを信じ、その強さに憧れ、オーディンと付き合いの深い古参の騎士達は、セシルの “策” だと思いこみ、体面上はカインが最強であることを認めた。
もしもカインが実力でオーディンを倒したということになれば、古参の騎士達は反発し、若い騎士達との対立が起こっていたかも知れない。「陛下、今まで謀っていたことをお許し下さい」
「それは構わん―――が、さっきから疑問に思っていたのだが」
「はい?」
「何故お前は、私の事を “陛下” と呼ぶのだ? 私はもう、この国の王ではないぞ」オーディンの言葉に、セシルはいいえ、と首を横に振った。
「私は仮初めの王に過ぎません。陛下が帰ってきた以上、王の座は陛下にお返し―――」
「お待ちくだされ!」セシルの言葉を遮ってベイガンが叫ぶ。
「何を仰られるのですか、陛下!」
「君こそ何を言っているんだ? 敬愛するオーディン様が戻ってきたんだ、君にとっても喜ぶべき事だろう」
「それは・・・本気で仰っているのですか」
「本気だよ。僕は王位継承者でもないのにこの国を奪い取った簒奪者に過ぎない。正統なる王が返ってきた以上、王座をお返しするのが当然といえるだろう」
「陛下!」
「だから僕はもう陛下じゃない」
「・・・・・・っ!」ぎりぎりで歯を噛み締め、ベイガンは何か言いたげにセシルを見つめるが―――上手く言葉が出てこない様だった。
と、オーディンが「ふむ」と頷いて。「解った。ではセシル、王の座を返して貰うぞ」
「御意」
「オーディン様!」頷くセシル。そしてベイガンが抗議の声を上げる。
「そんなこと、例え陛下とオーディン様が認めようと、この私は認めませんぞ!」
「ふむ。認めないというのならどうするかね? 私を斬るかね?」
「そっ・・・それは・・・」そんなことが出来るわけもない。
実力的にも不可能だし、できたとしても敬愛するオーディンに対して、さっきのような状況でもない限り刃を向けることなどできるはずがない。「王は正統な人間が成るものだ―――セシルの言い分には理がある」
「しかし―――」
「ベイガン、陛下の言葉は絶対だよ」セシルの言葉に、ベイガンは何も言えなくなる。
静かになったのを見て、オーディンはセシルへと向き直る。「さて、セシル。早速だがバロン王としてお前に命ずる」
「ハッ! なんなりと―――」言いかけて。
セシルはなにかイヤな予感がした。「・・・あ、あの、命令とはなんでしょうか?」
「何、とても簡単なことだ。ついさっきまでお前がやっていたことだよ」
「それって・・・まさか―――」
「うむ。セシル=ハーヴィ。お前に王位を譲り渡す―――これでお前は正式にバロンの王となった」
「ちょっと待って下さい!」なんとなく言われることを予め予測していたセシルは、素早く反論する。
「どういう意味ですか、それは!」
「どういう意味も何も・・・つまり、お前は王位継承権がないのに王位についたことが納得出来ないのだろう? だから先王である私が、正式に王位を譲り渡せばなにも問題はなくなるわけだ」
「・・・・・・」オーディンの言葉に、セシルは唖然として言葉を失う。
そんなセシルの様子に、オーディンは訝しげに首を傾げた。「ふむ? 先程の話は、そういう話ではなかったか?」
「え、ええと、そうではなく! 私よりも陛下の方が王に相応しいでしょう!? 私は王の器ではありません!」
「相応しいと思わなければ、王位を譲ろうとは思わんよ。それとも私には人を見る目がないとでも?」
「い、いや・・・そんなことは―――」
「ではよいではないか」
「え、ええと・・・・・・」完全にセシルは追い込まれていた。
それを見てロックが感心した様に呟く。「・・・すげえ、あのセシルがやりこめられてる」
「なにが凄いって、オーディンの方に、セシルをやりこめようという意志がないことよね・・・」リディアも頷き呟いた。
オーディンにしてみれば、別にセシルを言い負かそうとしているつもりはないのだろう。
ただ、自分が思ったことを素直に口に出しているだけにすぎない。「ですから陛下! この国は陛下―――オーディン様が治めるべきで!」
「それくらいにしておいたらどうですかな、陛下」尚も食い下がろうとするセシルに、ベイガンが声をかける。
その表情はさっきとは打って変わってとても愉快そうにニコニコと笑っていた。思わず、思い切りブン殴りたい衝動にかられたが、セシルはそれをなんとか押しとどめた。「ご自身で言っていたでしょう。 “陛下の言葉は絶対” だと」
「うう・・・」
「なんだセシル。もしかして王になるのがイヤだというのか?」オーディンの問いに、セシルはしどろもどろに答える。
「嫌・・・というか、私は王に相応しいとは・・・」
「何度でも言うが、相応しいと思わぬ者に王位を譲ろうとはせんよ。それにこれは私の望みでもある」
「の、望み・・・?」
「うむ。ビアンカの事は聞いているだろう? 私とビアンカの間に子供は出来なかったが、彼女がその身を犠牲にしてまで守り抜いたお前は、私達の本当の子供だと思っている。我が子に己の後を継いで貰いたいと望むのは、親として当然の事だろう?」
「う・・・」だんだん逃げ道を塞がれている様な錯覚に陥って、セシルは嘆息する。
「しかし嫌ならば無理強いするつもりはない」
「・・・嫌ではありません。国王というのもやりがいのあることだと思います―――ですが、私には足りないものがある」
「足りないもの?」
「この国を愛する心―――愛国心というものが私にはありません」この国が嫌いなわけではない。
今までずっとこの国で生きてきた。かけがえのない親友や、愛する女性もいる。
だが一方で、 “バロン” という国がどうなろうと、セシルにとってはどうでも良かった。
セシルが大切にしているのは “国” ではなく、そこに住んでいる “人々” だ。セシルはセシルが知っている親愛なる友人達の幸せを願うし、可能な限り守っていきたいと思っている。
だから例えば、例えこの国が滅びるとしても、守るべき人々が救われるならば、セシルは迷うことなく国を滅ぼすだろう。「いつか私はこの国を滅ぼしてしまうかもしれない。それが、私は怖ろしいのです」
「陛下・・・」初めて聞いたセシルの胸の内に、ベイガンは絶句する。
しかしオーディンは「ふむ」と呟いて。「別に構わないだろう。そんなことは」
「・・・はい?」
「滅ぼすべきだと感じたら滅ぼせばいい。王たる者にはその権利がある。それが王というものだ」
「で、ですが・・・!」
「なにも難しく悩むことはない。己が正しいと思ったことを成せばよいのだ」
「陛下―――いえ、オーディン様」オーディンの言葉にセシルは苦笑した。
(敵わないな―――)
素直にそう感じる。
一番最初、初めてであった時から変わらぬ想いに、セシルは負けを認める。セシルはオーディンの目の前で跪いて頭を垂れた。
「解りました―――セシル=ハーヴィ、オーディン様よりバロン国王の位を譲り受けます!」
「うむ!」オーディンは満足そうに頷く。
と、その足下がすーっと消えていく。「オーディン様!?」
「案ずるな。少し疲れたのでな、この辺りで休ませてもらうとしよう―――おお、そうだ」消えかけながらオーディンはリディアの方へ視線を向ける。
「そなたはミストの召喚士だな。もしも必要だと感じたなら、いつでも私を喚ぶが良い」
「・・・・・・必要になったら、ね」リディアはどこか落ち着かない様子で、オーディンと顔を合わせることなく、そう答えた。
「それではセシル、ベイガン。バロンを頼むぞ―――」
その言葉を残して。
オーディンはその場から消え去った―――