第21章「最強たる者」
J.「
“僕が認めた最強だ” 」
main character:カイン=ハイウィンド
location:バロン城・中庭

 

 

 カインの突撃をバッツは回避する―――が、その直後の二度目の跳躍を、バッツは避けきれない。

「ぐあっ!」

 もう何度吹っ飛ばされたかは解らない。
 すでに戦闘開始から一時間が経過しようとしていた。空の太陽も傾き、そろそろ西の空が赤くなりそうな頃だ。

「ハア・・・ハア・・・」

 カインは荒く息をつき、吹っ飛ばされて地面に倒れたバッツを睨む。
 並の人間ならばこれで―――否、当の昔に終わっているはずだった。だが―――

「まだまだぁっ!」

 ふらり、とバッツは立ち上がる。
 剣を杖として、ややふらつきながらも、まだ終わる気配を見せない。

「・・・貴様」
「まだだ。まだだぜ、カイン=ハイウィンド! 俺はこれくらいじゃ終わらねえよ!」
「終わらすには。・・・貴様を殺すしかないようだな」
「それこそ無理だぜ。言ったろ? 旅人さんは生きることが商売だってなあっ!」

 今度はバッツがカインに向かって飛びかかる。
  “奇襲” ではない。真っ正面からの攻撃―――だが、ただの突撃ではない。 “神行法” とバッツが呼んでいる、一瞬で敵の間合いを詰める秘技だ。

「!?」

 突然の接近に、カインの反応が遅れる。
 その隙をついて、バッツがカインに向かって剣を振り下ろす―――が、

「っ!」

 カインは下がらずに逆に前傾姿勢で踏み込むと、バッツの懐に飛び込んで、自分の肩をバッツの胸に押し当てる。
 そしてそのまま―――

「おおっ!」
「ぐ・・・!」

 ―――瞬発力を爆発させ、そのまま前に向かって跳躍した。
 肩で胸を押され―――押される、などという生易しい力ではなかったが―――バッツは後ろに大きく吹っ飛ばされた。

「ちっ」

 舌打ちひとつして、再びバッツとカインは間合いを置いて向かい合う。
 そこへ、ロックの実況が響いてきた。

『おっと、久しぶりのバッツ=クラウザーの反撃! しかしカイン=ハイウィンドには通じなかった!』
『けど、今のって普通にバッツは突進しただけですよね? それにしてはカインは戸惑ったようですがー?』

 ユフィの疑問に答えたのは解説のセシルだった。

『そうだね。ここからではバッツは普通に突進したようにしか見えない―――けれど、カインにしてみればいきなり間合いを詰められたように見えたはずだよ』
『どういうことですか?』
『おそらくあれも “無拍子” の応用でね。予備動作無しで動く―――つまり動く素振りを見せずにいきなり動くから、見えていても反応が遅れる。さらに “完全に真っ正面” から真っ直ぐ向かってくるから、距離感を見失いやすい。君は野球とかやったことあるかい?』
『まあ、ちっちゃい頃に』
『投げたボールを横から見るのと、打席に立って前から見るのとでは、打席に立った時の方が捕らえにくいだろう? 理由はそれと同じだよ』
『解ったような解らないようなー・・・』

 もっとも、野球のボールと人間は違う。
 人間が腕を振って足を大きく上げて走ってくれば、例え真っ正面からだとしても、走ってくることははっきり解るだろう。無駄な動作を極力廃した “無拍子” だからこそ、この技は成立する。

 セシルとユフィの会話を聞きながら、バッツは舌打ちした。

「あの野郎・・・タネをべらべらと喋りやがって―――まあ、解説されなくても、気づかれたとは思うけどな」

 と、バッツは息を荒く切らせているカインを見やる。
 先程まで果敢に攻めていたカインは、動きを止めてバッツを睨んでいた。どうやら息を整えているようだが。

「もう一つの “仕掛け” もバレたかな? でもまあ―――」

 に・・・と、笑ってバッツは始動する。

「―――悪いが、まだまだ付き合って貰うぜ、カイン=ハイウィンド!」

 

 

******

 

 

「おっと、バッツ=クラウザーが仕掛けた! しかし、カイン=ハイウィンドの反撃がまたもや決まったー! 吹っ飛ばされるバッツ―――だが着地。もう何度吹っ飛ばされたでしょう! だというのにまだまだ戦う気のようです! 旅人というのは不死身なのかーーーーー!」
「・・・って、流石におかしくない?」

 調子に乗って実況するロックの横で、ユフィがなにか腑に落ちない様子で、バッツとカインの様子を見る。

 ロックの言うとおり、バッツはもう何度もカインの体当たりを受けて吹っ飛ばされている。
 だが、これまたロックの実況通り、不死身の如く何度も何度も立ち上がって戦い続けていた。

「なんであんなに吹っ飛ばされて平気なのさ? しかも相手はカイン=ハイウィンドだろ。地面を砕くほどの瞬発力での体当たりを、まともに喰らったらどんなタフな人間だってただじゃ済まないんじゃない?」
「・・・ていうか、今更気がついたのかよ」

 呆れたように言ったのはロックだった。

「それでもニンジャかお前は」
「う、うっさいなあ! そういうロックはどういうことか解ってるのかよ!?」
「とーぜん」
「じゃあ、説明してよ!」
「おっと、解説説明はセシル国王陛下様の役目だぜ―――というわけで、ご解説どうぞー」
「・・・やっぱりわかんないんじゃないか」

 わかってるっつーの、とユフィにロックが言い返すのを聞きながら、セシルは口を開いた。

「解説する前に―――ユフィ。君が今言ったことだけど、一つ間違いがあるよ」
「え? アタシ、なにかおかしいこと言った?」
「どちらかといえば勘違いだね。ロックなら解るだろ?」
「・・・解説は俺の役目じゃないって言うのに」

 話を振られたロックは苦笑して、ユフィに向かって答える。

「カイン=ハイウィンドの体当たりをまともに喰らってるはずなのに、バッツが平気なのは妙だって言ったろ?」
「言ったけど・・・だって、どう考えてもおかしいでしょ!」
「そのとーり。じゃあ、逆に訊くけどな。バッツはなんでまだ戦えてると思う?」
「え? えーと・・・」

 ユフィは口元に指を添えて「うーん」と少し悩んでから答えた。

「こ、根性?」
「ほほう。カイン=ハイウィンド殿の体当たりは、根性入れれば耐えられるモンなのか」
「ああああ、もう! なんだよ! わかんないよ! もったいぶってないで、さっさと言えー!」

 喚くユフィに、ロックはやれやれと肩を竦める。

「答えは簡単。バッツはカインの攻撃を “まとも” にゃ喰らってないんだよ」
「はあ? 何言ってんの? あんなに吹っ飛びまくってるじゃん!」

 なにこいつ目ン玉どこにひっついてるんだろうかというか目の前のことが理解できないなんてかなり深刻な馬鹿だよねー。

 そんな感じの侮蔑の表情を隠しもせずにロックに向ける。
 ロックはにっこり笑って拳を握ると、それをユフィの頭の上に振り下ろした。

「痛い!」

 ゲンコツを落とされ、悲鳴をあげるユフィに、ロックは抗議の声を上げる。

「誰が馬鹿だ!」
「アタシ、口に出して馬鹿だなんて言ってないじゃん! 思っただけで!」
「やっぱり思ってたんじゃねーか!」

 ぎゃいぎゃいと喚き合う二人を余所に、ベイガンがセシルに尋ねる。

「それで結局、どういうことなのでしょうか?」
「ロックの言うとおり、バッツは油断していた最初の一撃から後はまともに攻撃を喰らってない」
「しかし、ユフィ殿の言うとおりに、派手に何度も吹っ飛んでおりますが」
「あれは自分からわざと跳んでるんだ。カインの体当たりがバッツの身体に当たった瞬間、バッツは自ら逆方向へ跳んで、衝撃を逃がしてるんだよ」
「むむう・・・・・・だから派手に吹っ飛んでいるように見えるのですか? なるほど・・・」

 ベイガンが納得して頷いていると、段の上からファリスが口を挟む。

「あいつはレオ=クリストフの必殺技も同じ方法で何度も喰らっては立ち上がってきたからな。いくらカインの体当たりが強烈でも、あれほどじゃあないだろ」
「で、ではこの勝負は・・・バッツ殿の勝ち、でしょうか?」
「さあて、ね―――バッツの “奇襲” はカインの “跳躍” には届かず、カインの体当たりもバッツには対してダメージを与えられない。どっちも決め手が無い状態だ」
「でもさ、少しずつでもバッツはダメージを受けているんだよね? だったらいずれはカインが勝つんじゃない?」

 今度はロックと言い合っていたユフィが口を挟んだ。
 それを聞いて、ロックは「お前にしては鋭いじゃねえか」と茶々を入れる。馬鹿にされたような言い方にユフィがロックを睨むと、彼は視線を受け流して戦っているカイン達の方に目をやる。

「もっとも、それにはある前提が必要となってくる」
「なんだよそれ?」
「カインのヤツが永遠に動けるならって前提だ―――ほれ、バッツとカインの様子を見比べてみろよ」
「見比べてって・・・?」

 言われるままにユフィは戦場の二人を見る。
 見れば、またバッツが吹っ飛ばされたところだった。しかし地面には倒れずになんとか着地する。

「あれ? 言われてみれば、なんか吹っ飛ばされ方が弱くなってない?」

 さっきまでは、バッツは吹っ飛ばされるたびに地面に落ちてずざーっと滑るか、観客に受け止められたりしていたのだが、ちょっと前から普通に着地している。
 そのことを気にしながらカインの様子を見てみれば。

「うわ・・・? なんだかもの凄く疲れてない? あの人」

 カインを指さしユフィが言う。
 彼女の言うとおり、優勢なはずのカインが疲労しきっていた。
 肩で息をして、棍を構える手も随分と重たそうにしている。

 対して、バッツは何度も吹っ飛ばされ、あちこち擦り傷だらけで汚れているものの、まだまだ余力がありそうだった。

「な、なんで? 全くダメージを受けてないはずのカインが・・・・・・」
「解説者様がさっき言ってたろ? カイン=ハイウィンドとバッツ=クラウザーの特性の違い」
「ええと、バッツは力で、カインが技って言う?」
「逆だバカタレ。さっきは、カインの方が―――っと、これは俺の仕事じゃなかったな。というわけで、解説どうぞー♪」

 明るい声でセシルに向かって言うと、セシルは苦笑して頷いた。

「僕はさっき、 “力任せ” で跳躍するカインの方が、バッツよりも破壊力がある―――と言ったけれど、その反面、強引に力で動くカインの方が消耗が激しいんだ。逆に、動きの無駄を極限まで削って動くバッツの “無拍子” の方は全くと言っていいほど体力の消耗が無い。おそらく、カインは今の調子だとあと一時間・・・いや、その半分も持たないだろうが、バッツなら半日以上―――下手すればあと一日だって戦い続けられるかもしれない」
「え、じゃあこのまま行くと、カインのスタミナ切れでバッツの勝ち?」

 なんだかなあ、と言う表情でユフィが言う。
 と、ベイガンが異論を挟んだ。

「お待ちくだされ。カイン殿には “竜剣” がありますぞ。相手の熱を奪い、自身のエネルギーとするあの技を使えば・・・」
「 “竜剣” はカインの跳躍よりも遅いよ。バッツなら避けるのは容易い」

 反論をばっさり斬り捨ててから、セシルは告げた。

「だから最初に言っただろう? この戦いは、バッツ=クラウザーの “奇襲“ がカインを打ち倒すのが先か、カイン=ハイウィンドの一撃がバッツに的中するのが先かだって」

 バッツの “奇襲” でなかったら、カインはここまで消耗することはなかっただろう。
 何故なら、バッツが “奇襲” を仕掛けるたびに、カインは跳躍しなければならない。そうでなければ、バッツの “奇襲” の餌食になるからだ。

「だけど、バッツがカインの一撃をまともに受ければ、それで終わる可能性だってあるんだよね?」
「まずないだろな。バッツの “無拍子” にまともに攻撃をを当てるなんて―――あいつは雷撃の魔法すら余裕で避けるような変態だぜ?」

 ユフィとロックの会話に、セシルは頷いて、

「そうだね―――ただ、カインがバッツに攻撃を的中させる方法が無い訳じゃあない」
「というと?」

 ロックが問うと、セシルはにこやかに笑って―――とんでもないことを口にした。
 それを聞いたその場の全員は、唖然として言葉を失う。
 ロックが表情を引きつらせながら、絞り出すような声でセシルに言った。

「お前、どーしてそういうこと考えつけるんだよ・・・・・・」

 

 

******

 

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・・・・」

 息が荒い。
 消耗していると自分でもはっきりと解る。

(おのれ・・・)

 苦々しく思いながら、目の前の “敵” を睨付ける。
 敵―――バッツ=クラウザーは、薄汚れながらも未だ飄々と笑っていた。

「へ、どうしたよ “最強” ? 随分とお疲れのご様子じゃんか」
「く・・・っ」

 明らかな挑発。
 しかし、今のカインには言い返すだけの余力は無い。

 バッツを吹っ飛ばすたびに、カインには疲労が蓄積していった。
 反面、こちらの消耗に見合うダメージを与えたとは言い難い。

 最初は気がつかなかった。
 だが、何度も吹っ飛ばしているうちに、流石に気づく。
 バッツ=クラウザーは、わざとカインの攻撃を受け続けているということに。

(この俺が・・・旅人如きにコケにされるとは・・・!)

 途中から、バッツの策―――カインの疲れ果てさせるという、カインからしてみれば、なんともセコい策だ―――に気がついてはいた。
 気がついた上で、しかしカインはバッツの策に付き合うしかなかった。

 こちらが仕掛けなければ、バッツの方から仕掛けてくる。
 バッツの “無拍子” にカインが対抗するには “跳躍” しかない。

 カインが動かなければ、バッツが仕掛けてくる。一か八かと、攻撃を仕掛けてもバッツにダメージは与えられない。
 行き先が行き止まりだと解っている袋小路に追いつめられていく感覚だった。

(くそ・・・どうする!? このままでは、疲れて動けなくなって終わり―――なんてくだらん負け方をしなければならなくなる・・・!)

 それだけはゴメンだった。
 まだ、真っ向から叩きのめされた方がマシだ。

(かといって、今のままではどうしようもない・・・・・・このイカサマな旅人相手に、どうやったら勝てる・・・!)

 今までバッツ=クラウザーと互角に戦ったという者のことを考える。
 レオ=クリストフ。そしてセシル=ハーヴィ。
 だが、その二人とカインとでは性質が違いすぎる。同じ戦法ができるとは思えなかった。

「なーにが、 “最強” の竜騎士だよ。他の二人の方がよっぽど強かったぜ?」
「この・・・言わせておけば!」

 こちらを誘う挑発だと解っていたが、耐えきれなくなってカインは激昂する。
 一見、クールに見えるカインだが、その実、沸点はさほど高くはない。

「チッ・・・! 他の奴らがどうだったかなどどうでもいい! こうなったら力尽きるまで―――」

(―――待てよ?)

 バッツの言葉にふと引っかかることを感じて、カインは少し冷静さを取り戻した。

(他の二人の最強・・・レオと―――もう一人!)

 その男のことを思い出して、カインにある方策が浮かんだ。
 カインは、バブイルの塔でバッツ達と別れたが、バロンに戻った時に、なにがあったかの報告は聞いている。

 バッツがセフィロスと戦い、そしてどのように倒されたかということを。

(・・・これは “最強” の打つ手ではないが、しかし―――)

 カインはバッツを睨付ける。
 ここまでコケにされて、すでに彼の怒りは頂点をさらに越えていた。

「貴様をぶちのめすためならば、なんだってやってやる・・・!」
「お? 何をやるって言うんだよ! そんな状態で!」
「すぐに解る―――」

 カインは棍を前に突きだして低く構える。
 今までにない気迫を感じ、バッツはカインをからかっていた表情を消す。

「何をやる気かは知らねえが―――お前の棍はあたらねえよ!」
「それはどうかな・・・」

 にやり、と笑ってカインが足に力を込める―――と、その時だ。

『そうだね―――ただ、カインがバッツに攻撃を的中させる方法が無い訳じゃあない』
『というと?』

 セシルの解説が耳に飛び込んできた。
 その解説に、思わずカインの息が止まる。

『・・・バブイルの塔で、バッツはあのセフィロスと戦ったそうだね』
『偽物だったみたいだけどな』
『で、その時バッツはそのセフィロスの偽物に倒されたわけだ。仲間を守ろうとして』
『おい、まさか―――』

 果たして―――それは、今まさにカインが実行しようとしていた方法だった。

『別にバッツを狙わなくても、そこらへんの観客めがけて、二、三人殺す勢いで突進すれば、バッツは自分から当たりに来ると思うよ?』

 その解説―――というか暴言に、観客達がシン・・・と静まりかえる。
 バッツはぎくりとしてセシルの居る解説席を振り返った。

『お前、どーしてそういうこと考えつけるんだよ・・・・・・』

 唖然としたロックの声。
 それを合図とするかのように、観客達が騒ぎ出す。中には中庭から逃げ出すものも少なからず居た。

「・・・おい、まさかてめえ・・・」
「・・・・・・・・・」

 青ざめた表情でバッツがカインを睨む。
 カインは黙ったまま何も答えない。
 そんなカインに、バッツがなにか言おうとした時。

『―――まあ』

 と、観客の騒ぎなど気にした風もなく、セシルののんきな声が拡声器から響き渡った。
 その声に、観客達はまた静まりかえる。今度は何を言い出す気なのかと、戦慄しているのだ。

『そのセフィロスの偽物とやらならともかく、カイン=ハイウィンドはそんなことしないけど』
『なんでそういい切れるんだよ? カインの攻撃はバッツに通じてないんだぜ?』
『そんなの “最強” だからに決まってるだろ』

 理由になっていない。
 が、構わずにセシルは続けた。

『カイン=ハイウィンドは僕が認めた最強だ―――バッツ』

 バッツの名前を呼んで、セシルは静かに告げた。

『 “最強” を嘗めるな』

 それは拡声器で拡大されていたが、静かに落ち着いた一言だった。
 だが、妙な迫力を感じて、誰もが言葉を失う。

 と、やがて言われた本人が解説席に向かって怒鳴った。

「な―――嘗めるも何も、ロックの言ったとおりだぜ! こいつの攻撃は俺には―――」
「そうだったな」

 通用しない、と言おうとしたバッツを、カインの一言が遮った。
 バッツは反射的にカインの方を振り向く。なにか、得体の知れないなにかを感じ取ったからだ。

(なんだ・・・こいつ―――?)

「俺は最強だ――― “最強” でなくては意味がない」

(こいつ―――なにか、違う?)

 見た目は、さっきまでのカインと何が変わった訳でもない。
 ただ、その表情が―――口元が笑っていた。

「なにが可笑しいんだよ」
「・・・・・・」

 カインは答えない。
 代わりに、というように解説席からセシルが言う。

『もう一度繰り返すよ、バッツ。 “最強” あまり嘗めない方が良い・・・・・・でないと―――』

 次の言葉を、何故かバッツは予測できた。

『―――死ぬよ?』
「うるせえよ!」

 何故自分がこうも苛立っているのか―――焦っているのか理解できずに、バッツはセシルの言葉を一蹴すると、エクスカリバーを握る手に力を込めた。

「死ぬだと・・・? できるもんならやってみやがれ―――」

 言葉を言い終えると同時、バッツは動き出す。
 無拍子でカインの死角―――カインの横手に飛び込んで、そのまま “奇襲” する。

(さっきまでとなにが変わるって言うんだ? ―――なにも変わらねえ!)

 バッツはカインに向かって踏み込み、同時に振り上げた剣を振り下ろそうとする。

(・・・?)

 変わっていた。
 先程までならば、すでにカインは反応して、跳躍しようとしていたはずだ。
 なのに、まだカインは動こうとしない。

 このままでは、初めてエクスカリバーの一撃が決まる―――そう、バッツが思った瞬間。

「ッ!」

 バッツは動きを止めていた。
 理由は解らない。いや解っている。ヤバイからだ。とてつもないヤバイ。
 ヤバイ、という漠然な危機感。そしてその感覚は間違っていなかった。

「・・・・・・」

 ジロリ、とようやくその時になってカインが横目でこちらを睨んだ。
 そして、その直後―――

 

 ずだムッ!

 

 カインの足下の地面が大爆発を起こすと同時―――

「が・・・・・・あ・・・・・・っ・・・・・・・?」

 カインの棍が、バッツの身体の中心を捉え、打ち抜いていた―――

 

 


INDEX

NEXT STORY