第21章「最強たる者」
A.「死者蘇生」
main character:バッツ=クラウザー
location: “戦場”/ いんたーみっしょん
話は少し遡って。
貴族軍の先陣を、竜騎士団が蹴散らした後の話。
「・・・・・・っ」
戦いの騒ぎが遠くから響く中、バッツは “戦場” に立ちつくしていた。
・・・もとい、正確には “つい先程まで戦場であった場所” だ。今は近くで戦闘は行われていない。貴族軍―――民兵の殆どは戦意喪失して散り散りに逃げまどい、それらを蹴散らした竜騎士団も別の戦場へと向かっている。
辺りにはバッツと、彼が “護衛” している白魔道士団の面々と―――死体だけだった。
死体の殆どは竜騎士団に屠られた民兵であり、槍で突き殺されたか、破壊的な突進を身に受けて首があらぬ方向へ曲がっている者が殆どだったが、中には背中から剣で斬り殺されたような死体や、目立った外傷はなく、複数の足跡がついただけの死体もあった。
それらはおそらく、指揮官であった貴族に逃げようとするところを斬られたり、運悪く転倒し、起きあがる間もなく他の味方に踏み殺された者たちなのだろう。「・・・くそったれ」
それら死体を凝視しながら、バッツは誰に言うともなく毒づく。そう吐き捨てることしか、今の彼には出来なかった。
「『レイズ!』」
周囲ではバッツが “護衛” してきた白魔道士達が蘇生魔法を唱えている。
だが、それで蘇る者は、何故か殆ど居ない。いっそのこと、戦闘に参加できればまだ何か出来たかもしれない。
死ぬ前に誰か一人でも助けられたかも知れない。
だが、死んでしまった人間に対して、バッツ=クラウザーと言う旅人は、ただひたすらに無力だった。(・・・セシルのヤツは、何考えてやがるんだよ・・・!)
とりあえずの怒りは、この国の王へと向かった。
この戦い自体は貴族達が引き起こしたものだ。だから、その事に怒りを感じているわけではない。
セシルが、バッツを戦いの場ではなく、こうやって無用な “護衛” につかせた事に対して、怒りを感じていたのだ。
なにせ、周囲には敵の姿など無く、わざわざバッツが護衛する必要などない。だいたい、護衛がバッツ一人だというのも妙な話だ。(ロックのヤツ、デタラメ言ったんじゃないだろうな)
貴族達を欺くために、セシルはカイン達とは殆ど連絡を取らず、ロックが連絡役となっていた。
「こういうことは慣れてるんでね」とロックは苦笑していた事を思い出す。遠くを見れば、遥か彼方では砂煙を上げて民兵の大軍がバロンの街へと後進し、それをそれよりも見るからに少ない陸兵団の部隊が必死で押しとどめていた。
と、そこへ竜騎士団が乱入する。するとみるみる間に民兵達はちりぢりになり、あっけなく街とは反対の方向へと逃げていく―――「・・・これ以上はもう無理ですね」
ぽつり、と呟く声。
振り向けば、白魔道士団の長、クノッサス導師が死体を見下ろしていた。「無理・・・? 無理って、どういうことだよ!?」
バッツは大きく腕を振り回し、周囲に散らばって倒れている死体の群れを指し示す。
「あんたら白魔道士だろ! 死んだ人間でも、死んだ直後なら生き返らせることが出来るんだろ!? まだいっぱい死んでるじゃんかよ!」
「ここの者たちには、全て蘇生魔法を試しました。ですが、これ以上は無意味です」先程から、白魔道士達はエーテルでMPを補給しながら、必死で蘇生魔法レイズを行使し続けていた。
それで生き返ったものも居る―――が、それはほんの一割程度で、残りは蘇ることはなかった。「なんでだよ! なんで無意味って言うんだ!」
喚くバッツに、クノッサスは悲痛に表情を歪めた。
それを見て、バッツはハッとする。「悪い。アンタ達は頑張ってくれたんだよな・・・・・・俺みたいに、何も出来ない役立たずが偉そうに言えることじゃないよな」
「・・・いえ。ただ、蘇生魔法を成功させるには条件があるのですよ」
「条件?」おうむ返しに尋ねると、クノッサスはこくりと頷いた。
「時間が惜しいです―――次の場所へ進みながら話しましょうか」
と、クノッサスは、竜騎士団の突撃で完全に指揮崩壊して民兵達が逃げまどい始めた、次の戦場へ足を向けた―――
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というわけで、クノッサス導師の代わりに、私こと作者がレイズについての説明。
いつもはティナさん辺りを呼んで、テキトーに解説するわけですが(こら)、今回はちょいと真面目にご高説。さて。
このFFIF世界には、死者を蘇らせる方法は幾つか存在します
その中でも、もっともポピュラーと言えるのが、死者の魂を呼び戻す “フェニックスの尾” と呼ばれるアイテムや、白魔道士の使う蘇生魔法 “レイズ” です。フェニックスの尾は希少であり、価値も高いんですが、しかし絶対に手に入らないというアイテムでもなかったりします
(ちなみに本物のフェニックスから採取したものではないんですが、そこら辺の詳細はまだ考え中)
レイズの方も、レベルの高い魔法ではあるんですが、数年修行した熟練の白魔道士ならば扱える魔法です。
(ただしアレイズは使える者が殆ど居ない。とゆーか居ない。テラさんとかクノッサス導師とかの若い頃なら辛うじて使えたかも知れないという超高レベル。双子が使えたのは合体魔法で、なおかつエニシェルさんがサポートしたため。それでも成功率は一桁台でしたとか)ただ、誰でもなんでも無条件に復活させることができるというわけではありません。
まず最初に、実はこれらのアイテムや魔法は “死者を蘇らせる” モノではなく、肉体から離れてしまった “魂” を呼び戻すためのものであります。
あまり違いが無いように思えるかも知れませんが、このために色々と条件が必要となってきたりします。
条件1。
肉体の損傷が少ないこと。極端な話、頭が吹っ飛んだ状態で魂だけを呼び戻しても、即座に死んでしまいます。頭なくした状態で人間は生きられません(当たり前)。
フェニックスの尾もレイズも、魂を呼び戻すと同時に “ケアル” 程度の治癒も行う(正確には肉体に魂が戻り、生命活動が戻ったショックで自然治癒能力が刺激されてうんたらかんたらとか考えていますがゴメンそこら辺はあんまり深く考えてません)ので、それで回復できる程度の損傷ならば問題ない―――但し、蘇った直後は重傷状態なので、早いうちに手当てしなければ、やっぱり死にます。ちなみに死者に回復魔法は効果がないため、魂が戻らない状態で肉体を治癒することは出来ません。
そのため、酷い損壊であれば、肉体を完全に元通りにする “アレイズ” でなければ復活は不可能です。
条件2。
魂が戻れること。前にも書いたと思うんですが(書いてなかったらごめんなさい)。
人間の魂は、死ぬと肉体から離れ、星―――ライフストリームに “還り” 、そしてその中で分解し、他の分解した魂と結合して、新しい一つの魂となって生まれ変わる―――というのが、この世界のシステムだったりします。
早い話、ライフストリームの中で分解された魂は、二度と全く同じ魂となって戻ることは有り得ない。先程バッツさんが言ったように “死んですぐなら生き返らせることができる” というのは、 “ライフストリームに還る前だったら、魂を呼び戻せる” という意味だったりします。
もっとも、バッツさんを含め、一般の人間はそんな意味など知らないし、そもそもライフストリームの事すら知らないんですが。
条件3。
魂が戻る気があること。そして一番重要なのがこの条件。
普通に考えれば、生き返るなら生き返りたいに決まってるじゃん、とか思うかも知れませんが、ちょっと想像してみてください。あなたは二度も死んでみたいと思いますか?
どんな死に方をするにしろ、死ぬというのは苦痛にまみれたものだと思います。いやこれ書いてる当人も死んだ覚えはないので、あくまでも想像なんですが。
で、そんな死ぬほど辛い思いして死んだ後、その苦痛から逃れた時、「戻って人生やりなおせー」とか声をかけられて、もう一度生き延びて同じ苦しみを味わう覚悟はあるだろうか?白状しますが、私はちょっと自信ないッス。
明日がスパロボの新作の発売日で、しかもバー○ードファイターが参戦(絶対に有り得ない)するというなら生きることを選びますが。多分(それもどーなのか)。逆に苦痛を感じることなく、安らかに死んだ場合ってのは、心残りというものが殆ど無いわけで。
だから、生き返らせてもらってまで、生き延びる必要ないと思うかと。
私も、このFFIFを書き終えて、好きなゲームや漫画やラノベのシリーズも一段落ついて死んだなら、多分、戻る気ないと思います(だからそれはどーなんだ)。早い話。{死の苦痛 > 心残り} だった場合、レイズやフェニックスの尾を使っても蘇ることはない。
そして今回、白魔道士団のレイズが効果を成さなかったのは、主にこれが理由だったりします。迫り来る、龍の鎧に身を包んだ死神。
避けることもできず、抗うことも出来ず、ただ串刺しにされるのを待つしかなかった恐怖。或いは、まるで砲弾のような突進に身体を押しつぶされ、肉が潰れ骨が砕かれ、自分の身体が壊れていく音を聞きながら死んでいく恐怖。
そんな恐怖を感じながら死んだ直後。
肉体に戻って生き延びろ、と言われても、はいそーですかと言えるわけがない。生き返った一割方の者たちも、竜騎士団に殺されたものは殆ど復活せず、背中から貴族に斬られたり、仲間に踏み殺されたりして “何がなんだか解らないうちに死んでしまった” 者たちばかりだった、と。
さて、最後にちょいと余談。
以前、 “レイズ” で失った肉体を蘇生できる、見たいなことを書いた覚えがありますが、それは無しにしてください(ぉぃ)。
上記の通り、レイズは “単に魂を呼び戻すだけ” という魔法になりましたので。ではではっ(脱兎)。
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「『レイズ』!」
新たな戦場で、白魔道士達の声が響き渡る。
バッツ達がここへ到着する頃には、すでに決着は付いていて、民兵達は撤退し、竜騎士団も陸兵団も、新しい戦場へと向かっていた。
けれど、ここはまだ戦場だった。「こっちは息を吹き返した! 誰か、回復魔法を頼む!」
「解りました」
「! ・・・そっちの方は・・・・・・」
「無理でした。2回、頑張ってみたんですが・・・」悔しさを塗りつぶすように無理矢理微笑んで、女白魔道士が答え、回復魔法の詠唱を始める。
その詠唱の声が震えていたことに他の誰もが気づいていたが、それを慰めるようなことはしない。そんな余力はないし、余裕もない。皆、絶望的な想いを抱きながら、それでも僅かな希望を望み、やるべき事をやり続けている。
それを、バッツはただ見つめることしかできなかった。
(くそ・・・俺は・・・俺は・・・・・・!)
一番最初の戦場に比べれば、死体の数は少なかった。
貴族軍の先陣を潰したことが、衝撃となって他の民兵達に動揺を与えていたようだ。お陰で、竜騎士団の姿を見るやいなや、殆どの民兵は逃げ出し始めていた。だが、それでも犠牲がでなかったわけではない。
バッツは足下に倒れた、一人の民兵―――いや、ただの民の死体を見る。
兵士として訓練されたわけではないことは一目でわかる。
頭の回らないバッツでもすぐに理解できた。彼らは、単に数合わせのために貴族に連れられて―――そして死んでしまったのだと。「死ぬ必要なかったろ・・・? まだ生きたかったんだろ・・・? だったら―――」
それ以上は言葉にならなかった。できなかった。
クノッサス導師から、復活しない理由は聞いて理解した。
それはそうだ。苦しんで死んだ直後に、もう一回死ぬために生きて見せろなんて言えるわけがない。(俺は・・・無力だ・・・)
力無く認める。
「『レイズ』!」
割と近くでクノッサス導師の声が聞こえた。
うつろに目を向ければ、クノッサスが魔法をかけているのは、壮年の男だった。歳は―――バッツの父親が死んだ歳と同じくらいだろうか。父とは似ても似付かなかったが、なんとなく死んだ時の姿がダブる。と―――「・・・・・・?」
ふと、バッツはあることに気がついた。
男は、胸元が赤く染まっていた。おそらく、竜騎士の槍に貫かれたのだろう。
例え魂が戻っても、下手すれば再びすぐ死んでしまうほどの怪我だ。なのでクノッサスの表情もどこか諦めたような様子があった。男は胸を貫かれた状態で、仰向けに、大の字になって倒れていた。その投げ出された両腕の内、バッツに近い方の手が握りしめられ、何かが握られていた。バッツが気づいたのはそれだ。
なんとなく興味を示し、バッツは男の死体に近寄ると、その両手を開く。
硬く握りしめられていたために、完全に開くことは出来なかったが、ほんの僅か手をこじ開けた中を見て―――バッツは男に向かって反射的に叫んでいた。「生きろッ!」
それはさっき言おうとして言えなかった言葉。
それを、バッツは躊躇いなく口にする。「おいこらふざけんじゃねえぞ馬鹿野郎! 何が生き返りたくねえだ? 同じ苦しみを味わいたくないだとう? そんなこと知ったことかよ! もう一度生き返ってもう一度死にやがれッ!」
「お、おい、お前・・・?」近くにいた、クノッサスとは別の白魔道士が、何事かとバッツの肩に手をかける―――が、バッツはそれを見もせずに振り払うと、今度はクノッサスが魔法をかけ続けているのにもかかわらず、死体の胸元を掴み上げ、苦悶の表情で命を失ったその顔に自分の顔を突き付ける。
「てめえがどんだけ苦しんで死んだかなんて知ったこっちゃねえけどな! てめえが今楽にしてる分、他の連中が苦しむってこと解ってて死んでるのかくそったれ! そうやっててめえの大事な誰かが嘆いて悲しんで辛くて苦しんでるの解ってて、楽できるって言うならそのまま死んじまえ! 聞こえてんのかこらああああああああああああっ!」
「おい、やめ―――」たまらなくなって、白魔道士がバッツを抑えようとした瞬間―――
「がは・・・・・・っ」
いきなり死体が血を吐いた。
否、死体は血を吐いたりしない。つまり―――「魂が戻った! 誰か回復魔法を―――!」
魂が戻ったはいいが、やはり胸の傷は致命傷だった。
このままでは即座に死んでしまう。クノッサス自身と、バッツを取り押さえようとしていた白魔道士が慌てて詠唱を開始するが―――(ま、間に合いませんか―――む!?)
クノッサス達が新たな絶望を感じた瞬間、バッツが素早く懐から小瓶を一つ取り出すと、その蓋を噛んで引き抜いて、男の胸の傷に向かって瓶の中身をぶちまけた。
(これは・・・ポーション!?)
ケアルと同等の効果をもたらす魔法薬である。
流石に重傷を一気に治すほどの力はないが―――「「『ケアルラ』!!」」
クノッサスと白魔道士、二人の魔法が同時に発動し、男の身体を優しい治癒の光が包み込む。
「う・・・あ・・・・・・?」
男は呻き声を上げてぼんやりと半目を開ける―――が、すぐに目を閉じた。
「おいっ!?」
バッツが焦って声をかけるが、それをクノッサスが制した。
「心配は要りません、もう彼は大丈夫です」
「そ、そっか・・・・・・」ほっ、としてバッツは男が握っていた拳をみやる。
生き返ったせいか、男の手からは力が抜け、握られた拳は開かれていた。その掌に乗っていたのは、あり合わせの布で作られた小さな人形だった。辛うじてウサギと解る程度の、何ともちぐはぐな形をした人形であり、これを作ったのは、幼い子供かよっぽど不器用な人間だろう。何にしろ―――「人形・・・作ったのは娘さんでしょうかね」
「多分な。お守り代わりに持ってたんだろうけど―――・・・そんなものを渡してくれる人間が居るなら、誰か一人でも悲しんで苦しむ人間が居るなら、 “楽になる” なんて理由で死んじゃ、絶対に駄目だろ」
「そう・・・ですね」クノッサスは頷き、立ち上がると、周囲の白魔道士達に向かって声をかけた。
「皆さん! 二人一組になり、一人は “レイズ” を! もう一人は声をかけ続けなさい! 言葉はなんでも良い、ただ “生きろ” と言う意味の言葉を、どんな言い方でも良いから―――」
どうやらバッツの言葉を聞いていたらしい。なんの反論も質問もなくクノッサスの指示に従い、白魔道士達は即座に二人一組になり、言われたとおりに行う。
「・・・って、おい。別に今のは、俺が叫んだから生き返ったとは・・・」
「さて、どうでしょうかね」クノッサスにも本当の所はどうかは解らない。
それでも―――(陛下が彼を “護衛” に付けた理由は、なんとなく解った気がします・・・)
バッツ=クラウザーは魔法を使えない。
護衛と称しても、危害を加えるような存在は周囲には居ない―――早い話、ただの役立たずだ。けれど、魔法は使えずとも、なにもできなくても、 “生きて欲しい” と望む想いは、この場の誰よりも強い。
そして、その想いこそが、今のクノッサス達に一番必要な “意志” であったのだ。「さあ、まだ戦いは終わりません! バッツさん、貴方にも手伝って貰いますよ!」
「お・・・おう!」クノッサスの言葉にバッツは頷いて、新たな相手へと向かった―――
******
結果として、クノッサス達が蘇らせたのは、全体の死者の半分にも満たなかった。
それでも、当初予想されていたよりは遙かに多い人数ではあった―――