第20章「王様のお仕事」
Y.「顛末」
main character:カイン=ハイウィンド
location:戦場

 

 

 

 はい、どーも。突然ですが、ろう・ふぁみりあです。

「ちょっとちょっと。なんで “いんたーみっしょん” でもないのに出張ってるの―――あ、アシスタントのティナ=ブランフォードです♪」

 いや、戦争シーンとか上手く書く自信が無かったんで、図を使って解説してお茶を濁そうかと。

「物書きが描写を絵に頼るようじゃお終いよね・・・」

 苦手なものは仕方ないでしょう。
 それを上手く工夫して、読者様に解りやすく表現する努力を認めて頂きたい。

「はいはい。それで努力の結晶がこれ?」

 

 

 はい、例によってペイントで頑張って描きました!

「色ムラありすぎない?」

 そう言う細かいところは目を瞑って下さい。
 当初はコレ、Javaとか使って紙芝居のよーに表現しようと思ったんですが、プログラム打ち込むのが面倒で断念。

「・・・アンタ、プログラムなんて使えるの?」

 本に載ってるのを丸写しするくらいはできますよ(笑)。

 ―――さて、図の説明ですが、右上の灰色なのがバロンの城と街ですな。
 予め言っておきますが、大きさ適当なので、 “部隊に対して城が小さすぎねえ?” とか突っ込まないでくだされ。

「青がバロン軍で、赤が貴族軍ね。大きさの違いで、戦力差があるのが解りやすいわね」

 バロン軍の中で、紺色のが竜騎士団で他の二つが陸兵団。
 貴族軍で、左下の一つだけ小さいのが、カルバッハ公爵の居る本陣ということでお願いします。

 さて、前回の更新で、カーライルさん率いる竜騎士団が突貫して、敵部隊の指揮官を倒しつつ突破しました。

「その後の図がこれね?」

 

 

 真ん中の貴族軍は指揮官の一人が倒れ、さらに士気崩壊で恐慌状態。
 他の指揮官―――カーライルさんが殺っちゃったのと同じような貴族さんですな―――が、パニックになって逃げ出そうとする民兵を抑えようとしますが、まあ下手に数が多い分、抑えきれるもんじゃないですな。

「あれ? 指揮官って一人だけじゃないの?」

 大部隊なんで、流石に一人だけじゃまとめきれませんて。
 貴族軍が部隊を三つに分けたみたいなことを書きましたが、あれは三方面から攻めたという意味で。
 上記の図で、大きい部隊は大隊になるのかな? いや一個師団とか中隊とか良くわからんのですけれども。

 それはさておき。
 両翼の貴族軍は、竜騎士団が突破する頃、ようやく陸兵団と接敵状態―――なんですが、中央舞台が崩壊したことで、あっさりと動揺が広がっていたり。

 大体、貴族側の思惑としては、数で攻めれば戦うことなく向こうは逃げ出すと踏んでいたのですな。それくらいの戦力差はゆうにあるんで。
 領民達もそう聞いていたので、貴族達に従っていたのにコイツは話が違うんじゃねえかと。

「竜騎士団から伸びてる矢印は、右翼の部隊を強襲したって意味?」

 そう。
 真っ正面の部隊を突破した竜騎士団は、間髪入れずに動揺広がる貴族軍に攻撃を仕掛けます。

「真っ正面からぶつかってあっさり突破できたものを、側面からぶつかれば」

 まー、さくっと奇襲成功しますわな。

 

 

 

 竜騎士団の攻撃を受けて、右翼部隊も士気崩壊。
 貴族達の制止の声も聞かず、民兵達は逃げまどいます。

 それを見た、戦っていた陸兵団の部隊は、方向転換してもう一方の部隊へ援軍に向かいます。

 ・・・まあ、二つの大隊が壊走状態になったんで、最後の一つも士気崩壊しかけてるんですが。

 

 

 ・・・てな感じで、バロン軍は10倍以上の軍隊(って言えるモノでもないんですが)を、殆ど被害もなく撃退。軽傷者が何人か出たくらい?

「終わってみると、本気であっけなかったわねー」

 ただ、これは貴族が間抜けだったというよりも、セシルさんが上手だったって事なんですが。

「そうなの?」

 はい。
 カルバッハ公爵の思惑としては、セシルさんが偽物の王だと噂を流し、騎士達の意志を挫く事によって、士気の下がった騎士ならば、張り子の虎でも戦わずして勝てると踏んだんですよ。

「セシルが偽物の王だという噂を流して、騎士達の意志が揺らいだ―――のは良かったけど、セシルの代わりにカインを立てることによって、騎士達の士気低下を防いじゃったんだよね」

 あと公爵の失敗は、敵のことばかり気にしていて、自軍の事を全く考えていなかったこと。
 とりあえず数を揃えてそれらしく見せればいいと考えて、実際に戦いになった時の事が、頭から抜け落ちていたんですよね。

 ・・・まあこれも、セシルさんの策略で決起を急かされたせいなんですが。

「そうか。セシルが毎日遊び歩くような駄目な王のフリして隙を見せたり、カインがクーデターを起こすなんて噂を流したのは、さっさと反乱を起こさせるためだったんだ。そうやって、貴族達の準備期間を削るために・・・」

 はいそのとーり。
 後、実はセシルさんが偽物の王って噂を流したのも、セシルさんだったりします。
 カルバッハ公爵としては、反乱直前にその噂を上手くコントロールして流し、最大効果を狙おうとしたのに、勝手に噂が広がっちゃったんで、それも反乱を急いだ一因になっていたり。

「ま、ともあれ、これで貴族の反乱も終わりね。お疲れ」

 はい、お疲れ様でしたー。

「って、ちょっと待てえええええええええええッ! まだ終わっとらんわああああああああああああっ!」

 おや、カルバッハ公爵。
 呼んでもないのに来ちゃ駄目ですよ。

「ていうか、見分けつかないから私と同じカギ括弧使わないでくれる?
『ええい、これで良いか!?』
「まあ、許して上げるわ」
『・・・こ、小娘如きが・・・!』

 で、なにか御用ですか?

『まだ終わっておらんと言うのだ!』
「終わってるじゃない。完璧に」
『くっくっく・・・そこが小娘の浅はかさよ・・・。この儂が、この事態を予測していなかったとでも?』
「予測してなかったから、あっさりと部隊は壊走したんじゃない」
『うるさい! こんな事もあろうかと、二つの策を仕込んでおいたのだ! これから我らの怒濤の逆襲が起こると思え!』
「起きるの?」

 起きませんよ。

『起きるのだッ!』

 

 

******

 

 

 ―――すでに大勢は決していた。

 バロン軍の10倍の人数で攻めた貴族軍は、竜騎士団の突破力の前に為す術もなく大隊二つが壊滅し、残る一つも味方の壊走する様を見て、指揮官の怒声も聞かずに兵士―――民兵達は勝手に退却していく。

 カーライル率いる竜騎士団が、最初に接敵してからまだ三時間と経っていない。
 あまりにも早すぎる決着であった。

「ひい、ひい、はあ、はあ・・・・・・」

 最初に竜騎士団の突撃を受けた部隊に居た民兵達が、バロンの城に背を向けて必死で逃げていた。
 もう、どれだけ走り続けているだろうか。すでに身体は限界だが、誰も止まろうとはしない。
 彼らの頭の中には、死にたくないという思いだけ。こんな所―――戦場になんか1秒たりとも長く留まりたくない。早く自分の田畑に戻って、いつもの生活に戻りたい―――そんな想いだけだ。

「何処へ行く?」

 民兵達の前方から声が聞こえた。
 見れば、数人の武装した男達が待ち受けていた。一瞬、バロンの兵士かと思ったが、すぐに違うことは解った。民兵の一人が、

「あんた、確か領主様に雇われた・・・」

 その男達の事を知っている者が仲間に居たことで、民兵達は安堵する。
 武装した男達は、貴族に雇われた傭兵だった。

「おい、何処に行くのかと聞いてるんだ!」

 高圧的な態度で傭兵達が怒鳴る。
 それを聞いて、安堵が不安へと変わる。貴族に雇われた者たちならば、逃げ出した自分たちを見逃しはしないだろう。この事が領主にばれたら、相応の罰を受けるに違いない―――
 だが、それでも死ぬよりはマシだと、民兵の一人が前に出る。

「ど、何処って・・・逃げるんだよ! 俺達がバロンの軍隊に勝てるワケねえじゃんか!」
「成程。勝てないから逃げるってわけか。そりゃあ仕方ねえなあ」

 傭兵達はあっはっは、と穏やかに笑う。
 こちらの言い分が通じたのかと、民兵が安堵したその時だ。
 いきなり傭兵は腰の剣を抜くと、前に出た民兵を斬りつけた! 突然の事で何の反応もできず、斬られ、声も出せぬままに地面に倒れる。

「な・・・なにを・・・!?」

 他の民兵達があとずさる。
 傭兵は血の付いた剣をちろりと嘗めて、にやりと笑う。

「逃げるんだったら―――殺すしか仕方ねえなあ」
「な、なんでだ!? あんたら味方じゃないのか!」
「味方だよ。敵前逃亡なんて情けねえ真似をするてめえらを奮い立たせてやろうってんだよ」

 笑いながら、傭兵達は民兵達へと歩み寄っていく。

「死にたくねえから逃げるんだろ? だから殺すんだよ。逃げると殺されるって思えば、戦うしかないだろう?」
「め、滅茶苦茶だ・・・!」

 民兵達は身を翻して逃げようとする―――が、そこで足を止める。
 立ち止まった背中を見て、傭兵達はくっくっくと笑った。

「どうしたよ? 逃げないのか―――戦場にさ」
「う・・・ううう・・・」

 戦場から逃げれば傭兵が、傭兵から逃げようとすれば戦場が。
 どっちに逃げても戦いは避けられない。

「逃げないんだったら、殺すしかねえなあああああ!」
「う、うわあああああああっ!」

 傭兵達の脅しに、民兵は逃げ出す―――いや戦場へと駆け戻ろうとする。

「そうだよ、戦え! 戦って勝ちゃあ生き延びられるかも―――ごえっ!?」
「ううううっ! ・・・あ?」

 追いかけてくる傭兵の一人が変な声を上げたのを聞いて、民兵達は振り返った。
 と、見れば傭兵の一人の胸に何か細長いものが突き立っていた。槍だ。
 その一撃で、傭兵は絶命しているようだった―――が、槍が地面に突き立って、そのまま立ちつくしている。

「な、なんだ・・・?」
「空の上から、槍が―――」

 他の傭兵達が困惑し、空を見上げた―――その瞬間。

「っごあああっ!?」

 鉄靴の尖った踵が、別の傭兵の脳天に食い込む。
 頭蓋が割れ、中身を零しながらまた一人絶命する。

「てっ、てめえはっ!」

 空から降ってきたのは竜騎士だった。
 深い青の竜騎士の鎧に身を包んだ、最強の竜騎士―――

「カ、カイン=ハイウィンド・・・!」
「フン・・・」

 カインは傭兵達を見回しつつ、先に放った槍を傭兵の死体から引き抜く。
 つっかえ棒になっていた槍が抜けたことで、傭兵の身体がどさりと地面に倒れるが、そちらには目もくれない。

「―――督戦隊、か」

 ぼそり、と呟く。
 リックモッドから伝えられた、セシルの伝言がそれだった。

「士気崩壊を防ぐため、脱走兵を殺し、兵士達に逃げる恐怖を与え、死ぬまで戦わせることを目的とする部隊―――成程、元々士気の低い民兵に使うには効果が高い」

 言いつつ、戦場に戻ろうとした民兵達をちらりと振り向く。

「・・・行け」
「は・・・?」
「逃げろと言っている―――安心しろ。こいつらには手を出させん」
「は・・・はいぃっ!」

 民兵達は、カインの言葉に頷いて、必死で逃げようとする。

「なっ、逃がす―――がっ!?」

 武器を抜き、逃げようとする民兵に襲いかかろうとした傭兵の一人を、カインの槍が貫いた。

「・・・聞こえなかったか? 俺は手をださせんと言ったんだ」

 ずぶり、と槍を引き抜き、カインはフッ、と冷笑を浮かべる。

「俺が手を出させんと言ったら、それは絶対だ」
「く、おおおおおおっ!」

 傭兵が二人がかりでカインに襲いかかる―――が、振るった武器はそれぞれ空を切った。

「なっ!?」
「何処だ!?」

 いきなり目の前から消えた竜騎士の姿を傭兵は追う。

「馬鹿! 上だ!」

 別の傭兵が叫ぶがあまりにも遅い。
 跳躍したカインの槍が、片方の傭兵を串刺しにする―――直後、カインはもう一方の傭兵の目の前に着地する。

「う、うわわわわわっ!」

 慌てて傭兵は剣をカインに向かって振り下ろす。
 槍はもう一人の傭兵に突き刺さっている―――が、カインは特に慌てもせずに、

 

 双竜剣

 

 腰に差してあった剣を、居合いの要領で抜き放つ!
 傭兵の剣がカインに届くよりも早く、その傭兵は斬り飛ばされていた。

 カインは剣を片手に持ち、その反対側の手で槍を抜いて傭兵達を見回す。

「さて―――次はどいつだ?」

 

 

******

 

 

 一分後―――傭兵達は全滅していた。

「・・・・・・」

 剣の血を拭い鞘に収め、カインは嘆息する。

(・・・しかしセシルのヤツ。よくも気づいたものだ)

 貴族が民兵を使うのは読めたが、督戦部隊までは読めなかった。
 しかし言われてみれば、無理矢理徴兵されて士気の低い民兵を使うならば効果的だ。
 もしもこの事に気がつかなければ、民兵達は逃げられずに戦い続け、史上に名を残すような虐殺劇が起きていたかも知れない―――それに、バロン軍にも少なくない被害は出ていただろう。死にものぐるいの人間ほど、怖いものはない。

「・・・しかし貴族というのは本当に度し難いな」

 民兵を戦に使うことだけでも許し難いというのに、督戦隊まで使うとは。
 貴族達は領民を道具にしか思っていないのか。

 結構、傍若無人な所のあるカインだが、騎士の誇りは持っている。
 騎士の誇りとは、王に己の剣を捧げ、その威となって護るべき民達を護るということだ。
 そしてそれは、本来ならば貴族達も同じ筈だった。

「フン、まあいい。この戦いが終わったら、カルバッハ公爵はお終いだ。それに賛同したほかの貴族共も―――うん?」

 ふと、何か声が聞こえて、カインは言葉を止める。

「う・・・あ・・・あ・・・・・・」
「なんだ・・・?」

 呻き声。
 傭兵達のものではない。傭兵達は皆、確実に殺している。
 ならば誰だと、周囲を見回すと―――

「・・・さっきと同じ、民兵か・・・?」

 傭兵に最初に斬られた民兵を見つけた。
 どうやらキズは浅かったらしく、まだ息はあるようだ―――が。

(駄目だな、これは)

 様子を見てカインは断言する。
 もう少し早く見つければ手の施しようもあったかも知れない。或いは回復魔法でも使えれば。
 だが、魔法の使えないカインにはどうしようもない。

「・・・せめて、名前を聞いておいてやる。お前の名前は?」

 カインは民兵の傍に跪き、耳を寄せる。

「あ・・・あ・・・あ・・・」
「貴様の家族に名を伝えてやると言っているんだ。死ぬ前にさっさと言え」

 乱暴な言い方だが、カインなりの優しさだった。
 父親が行方不明になっているカインは、家族が帰ってこない苦しさを知っている。死んだという確証もないまま家族を待つのは、どんなに辛いことか知っている。
 死んだとはっきり解れば諦めきれる。だが、 “生死不明” ならばいつまで経っても、残酷な期待から逃れられない。

「い・・・・・た・・・・・」
「イタ?」
「・・・・・い・・・・・・いた・・・・・・い」
「・・・痛い? そうじゃない、名前を―――」
「た・・・す・・・け・・・・・・・・・・し・・・に・・・た・・・・・・・・」
「・・・・・・」

 それきり何も言わなくなる。意識はもう無いのだろう。
 まだ辛うじて息はある―――が、数秒と立たないうちにそれも終わる。

「仕方ない、か」

 はあ、と嘆息して、カインは掌を広げ、男の腹―――斬られた場所だ―――に添える。

「失敗しても駄目元だ。恨むなよ」

 呟く、と同時にカインの身体に青白いオーラが立ち上る。竜気だ。
 竜騎士達はこの “竜気” を使って熱を操り、その熱エネルギーで瞬間的に尋常ではない脚力を生み出したり、または相手の熱を奪い取って己のエネルギーにすることができる。

「他人に対して攻撃以外で使ったことはないが―――」

 ぐんっ、とカインの竜気が民兵の身体に移る。
 自分に対してならば、体内で熱をコントロールできるが、他人に対してそう上手くできるか解らない。
 下手をすれば、血液が沸騰して血管が破裂する可能性だってある。

「さて―――どうだ?」

 と、見守るカインの目の前で、

「は・・・あ・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・」

 死にかけていた男の顔色は、みるみるうちに良くなって、息づかいも確かなものになっていく。

「ほう、成功したか。やってみるものだ―――ん?」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・っ」
「なんか・・・顔が赤過ぎるな。息も荒い―――」

 何気なく男の額に手を当てる。
 やたら熱かった。

「・・・熱が高すぎる。そうそう、上手くはいかんな」

 カインが呟くと、男の鼻からどろりとした赤いものが流れる。
 その鼻血を見て、危機感を感じてカインは空を見上げて叫んだ。

「アベル! リックモッド達を回収してさっさと戻るぞ!」

 その声に応え、空を旋回していたカインの愛竜が降下してきた―――

 

 

******

 

 

「公爵! 我が軍が総崩れとなって撤退してきます!」

 報告を聞いて、カルバッハ公爵は表情を紅潮させて唇を噛む。

「なにが・・・何が間違っていた・・・!?」

 つい数時間前まで、勝利を確信していた。
 確実に勝てると信じて疑わなかった。
 だというのに、今や完全に負け戦だ。

「傭兵共は何をしている! こういう時のための督戦部隊だろう!」

 民兵が敵前逃亡することは、可能性として考えていた。
 だからこそ傭兵達を督戦部隊として配備し、逃走による部隊の崩壊に備えていたのだが。
 その効果も全くなかったのか、貴族軍は留まることなく逃げ続けていた。

「大体、何故騎士共は戦える!? 何故、王が偽物だと知っていて士気が落ちぬのだ!?」

 カルバッハは、騎士達がセシルでは無く、カインに従って動いていることを知らなかった。気づきようもなかった。
 だからこそ、訳が解らず混乱する。

「・・・ぐぐぐ・・・・・・フォレスからはまだ連絡はないのか!?」

 もう一つの策として、バロンの街に雇った傭兵達を潜り込ませていた。
 こちらが戦闘開始すると同時に、街中に火をつけ、その混乱に乗じて空っぽの城を攻め落とす。
 そう簡単に城を落とせるとは期待していなかったが、それでも街に火がつけば騎士達は動揺するだろう。その隙をついて仕掛ければ、民兵とはいえ数で勝るこちらの勝利は間違いないはずだった。

 なのに、街の方は火事どころか、煙一つ上がっていない。

「なにが・・・何が起っているというのだ―――」

 最終的には茫然自失となって、言葉を失う。
 と、そんなカルバッハに、側近がひそひ草を持ってやってきた。

「公爵、フォレス邸から連絡が―――」
「おお!」

 それが希望だと言わんばかりに、カルバッハは目を輝かせて、ひそひ草に顔を近づける。
 側近が、青ざめた顔をしていたことに公爵は気づかなかった。

「フォレス! 一体、どうなっている!? 街の方は―――」
『やあ公爵、ご機嫌は如何かな?』

 草の向こうから聞こえてきた声は、カルバッハが今、最も聞きたくない声だった。

「セ・・・シル・・・王―――!?」

 

 

******

 

 

 ―――ほら、起きなかった。

『ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・・・・』
「ねえねえ。カインに助けられた(?)民兵が気になるんだけど・・・あの人助かったの?」

 一応は。
 あの後、40度以上の熱を出して三日三晩寝込んだようですが、一応回復しました。

「・・・あれ? 魔法で熱下げたりできないの?」

 できません。
 冷気系魔法で外から冷やすことはできますが、魔法でぱぱーっと病気治して熱を下げることはできません。
 ケアル等の回復魔法を使うと、体力は回復するんですが、病原菌まで元気になっちゃうからとかそんな理由で。

 この世界 “レイズ” や “フェニックスの尾” があるんで、死んだ直後の人間は割とあっさり生き返れるんですよ。
 ただし、病死や老衰による自然死は無理です。

「病死はさっきの説明で、まあ納得できるけど、老衰も?」

 老衰の場合、ゲーム的に言うと最大HPが減っていって、最終的には0になるって感じですかね。
 最大HPが0なら、どんだけ回復しても0以上にはなりません。

「じゃあ、FF4の “金のりんご” とか、HPアップのマテリアとか使えば・・・」

 金のりんごを使えば寿命は延びますな。
 ただ、HPアップのマテリアは、あれって確か最大HPの割合じゃなかったっけ?

「ならG.F.のHPジャンクションは?」

 それならオーケー。
 ・・・ただ、G.F.外した瞬間に死にますが。
 他にも最大HPが増えるアイテムなら寿命は延びます。金銀のりんご以外に、そんなアイテムあったか覚えてないけど。

「HP200とか」

 それは違うゲームです。

『そんなことはどうでも良いわあああああああっ!』
「きゃあっ!?」

 あ、まだ居たんですか。

『居るわい! とゆーか、街の方では何が起きたと言うのだ!? 何故、フォレスではなくセシルがひそひ草を使っている!?』

 はい、では次回はバロンの街での出来事です。
 とは言っても、もう予想はついているとは思いますが。

「前々回のラストで暗黒騎士団が配置についた、とか言ってたもんねー」
『ぐううううううううううう・・・・・・』

 

 


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