第20章「王様のお仕事」
U.「偽物の王」
main character:セシル=ハーヴィ
location:バロン城・謁見の間

 

 ―――なにかがある。
 謁見の間で、王の傍らに控えながら、ベイガンはそう思っていた。

 ここ数日、セシルが大人しい。
 逃げも隠れもせずに、普通に王としての職務を全うしている。
 たまにローザが訪れても、特に何処かへ行く気配も見せず、ローザもあまり騒ぐことなく、セシルと一緒にしばらく談笑するだけで街へ戻っている。

 それは喜ばしいことなのだが、ベイガンはなにか嵐の前の静けさのような気がしてならない。
 セシルが大人しいのは何かの前触れ、というか前フリであり、どうせまた眉尾をつり上げて追いかけ回すハメになるのだろうと確信していた。

 そんなベイガンの視線を受けながら、当のセシルは苦笑する。

(・・・ベイガンが人間不信になったら、それは僕の責任かなー)

 玉座に腰掛けて、こちらを睨むように見つめてくるベイガン―――本人は、そのつもりではないのだろうが、自然と目つきが鋭くなっている―――に語りかける。

「さて、ベイガン。次の予定は?」
「ハッ! 次は―――」
「陛下ぁっ!」

 ばぁん! と謁見の間の扉が乱暴に開いて、そこから暗黒騎士の長が姿を現わした。
 来たか―――と、セシルは声に出さずに呟き、それから表情を険しくして立ち上がる。

「何事だ! 騒々しい!」

 現れた暗黒騎士―――ウィーダス=アドームは、先々代の時から暗黒騎士としてバロンに仕える、騎士の中では一番の古株である。
 年齢は50を半ば過ぎた頃だが、その精力的な容姿はまだ30代と言っても通じるほどだ。
 流石に体力は衰えたが、暗黒騎士団最強の暗黒剣 “髑髏の剣” を制御するその精神力は未だ健在である。セシル、セリスと辛酸を嘗めさせられたが、それは相手が規格外だったに過ぎない。
 ダークフォースは魔法と同じく、精神力で制御する力だ。心が折れれば、力に呑み込まれて暴走してしまう。むしろ敗北しながらも、頑強な精神を保ち続けていることこそが、彼の強さを裏付けている。

 彼は、普段は兜で隠れている青い髪を振り乱しながら、セシルの目の前で膝をつく。

「無礼を承知で意見を申し上げます! 先日、この剣を勝手に持ち出しましたな!?」

 そう言って、手にしていた剣を鞘のついたまま地面に立てた。
 それは、数日前にセシルが持っていた黒いショートソードの暗黒剣で、その後ベイガンが暗黒騎士団に返却していたものだ。

「ああ・・・それがどうかしたかい?」

 立ったまま、セシルはウィーダスを見下ろして、どうでもいいように言う。
 そんなセシルを、ウィーダスはキッ―――と睨み上げて、

「 “どうかした?” ・・・陛下も暗黒剣の使い手であるならばお解りでしょう! 暗黒剣に込められたダークフォースはとても危険なモノであると言うことを!  いかに練習用の剣とはいえ、素養のない人間が触れれば精神を蝕む恐れがあります! 故に、暗黒剣は我ら暗黒騎士団の元で、厳重に管理されておるのです!」
「そんなことは知っている」
「知っているならば何故、断りもなく勝手に持ち出したのですか!?」
「勝手に・・・?」

 そのウィーダスの激昂に、ベイガンは意味が解らずにきょとんとする。
 と、セシルは忌々しげに舌打ちすると、ウィーダスをにらみ返した。

「うるさいな・・・僕は王だぞ。暗黒剣を勝手に持ち出そうと、別にいいじゃないか」
「陛下! 何故、暗黒剣の恐ろしさをお解りにならないのですか! 何度でも繰り返しますが―――」
「うるさいうるさい! その男をつまみ出せ!」

 セシルが命ずると、謁見の間に控えていた近衛兵達が、ウィーダスを捕える。
 ウィーダスは特に抵抗することもなく、兵達に引き摺られながら「陛下ぁぁぁぁぁっ!」と、怒号を上げていたが、扉の外に追い出されると、何も聞こえなくなった。
 ふう、と嘆息して、セシルは玉座に再び腰掛ける。

「―――愚か者め。ベイガン、ウィーダス以下、暗黒騎士団にしばらく謹慎だと命じろ。カイン同様、命令あるまでじっとしていろとな」
「はあ・・・それは良いのですが」

 普段ならば、異論のひとつでも上げるはずのベイガンは、しかし気のない返事を返して、セシルに近づくと、他には聞こえないように小さな声で囁いた。

「・・・今度は何を企んでいるのですか?」
「なんのことかな?」

 セシルは厳しい表情を崩さない。
 が、その口元は明らかに笑っていた。

「・・・件の暗黒剣、ウィーダス殿に返却したのは私なのですが」

 セシルが金髪のカツラをかぶって変装して、ローザと浮気ごっこをしていた時の話である。
 フォレス家が雇ったという傭兵を脅すために使った練習用の暗黒剣を、ベイガンはセシルから受け取って、それを直接ウィーダスに手渡ししている。
 その時のウィーダスは、今のように激昂する様子もなく、「話は聞いている」と答えて、普通に剣を受け取っていた。

「だいたい、数日前の話を、今更怒鳴り込んで来るというのも・・・」
「まあまあ。後になれば解るから。それよりも―――」

 と、セシルは今し方、ウィーダスが追い出された扉を見やる。
 その扉がゆっくりと開かれた。

「―――お客さんだ」

 

 

******

 

 

 現れたのはカルバッハ公爵とその使用人のアレス。それからトロイア大使として各領地をまわっていたファスの三人だ。
 カーライルとエニシェルの姿は見えない。
 その二人は、城に来る前に別れ、カインの屋敷へと向かっていた。

「お初にお目に掛ります、陛下」

 公爵が前に出て、うやうやしく礼をする。
 しかしファスはともかく、使用人のアレスは直立不動のまま、王であるセシルに向かって頭のひとつも下げない。
 そのことを、セシルは疑問に思ったが、それを指摘する前にカルバッハ公爵が名乗りを上げる。

「私はバロン南部の領域を納めるジェスター=ウォル=カルバッハと申します」
「ああ、名前は聞いて知っているよ。現在、バロン全域のほぼ3分の1を領地として持っている、最大有力貴族だね」

 バロンの国の領地で、王が直接支配しているのはこの城とバロンの街だけである。その他は、それぞれ貴族達が王に領地を与えられ、支配しているのだ。
 ただ例外として、貴族以外の者が納めている村―――召喚士の村であるミストの村や、砂漠に囲まれたオアシスの村、カイポなどが存在する。

「知っておられるのならば話は早い。今日は一つお願いがあって参りました」
「なにかな?」
「その玉座を明け渡して頂きたい」
「なっ・・・!?」

 と、驚いて絶句したのはベイガンだった。
 セシルは特に驚いた様子もなく、微苦笑を口元に浮かべる。

「少し前に娘も来て結婚しろと迫ってきたけれど、成程。娘も娘なら親も親だ」
「私の娘は少々我儘なのが悩みの種でしてな。いやはやあの時は冷や汗をかきました。娘が勝手に城へ赴き、王に婚姻を迫ったなどと聞いた時は」

 そう言いながらも、カルバッハは苦笑を浮かべる。

「お陰で、陛下もこちらの動きに勘づかれたようですが―――」

 と、公爵は傍らのファスを見る。
 意味が解らないのか、ファスはきょとんとしたまま、事の成り行きを眺めていた。

「しかし、我々の方が早かったですな―――チェックメイトです。陛下」
「ええと―――」
「な・・・な・・・な・・・な・・・」

 セシルがなにか返事をしようとした時、ベイガンが口をパクパクさせて苦しそうに声を漏らす。
 顔を真っ赤にしているところを見ると、どうやら怒りのあまりに声が出ないらしい。

「何を言っているのだ貴様はああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 謁見の間全体に響き渡るほどの怒鳴り声。
 すぐ傍に居たセシルは、顔をしかめて耳を塞いだ。
 だが、そんな事にも気づかずに、ベイガンは血走った目を見開いて公爵を睨付ける。

「まだ小娘の戯言ならば許せたが、仮にも領地を任されている貴族が冗談でも言って良いことではないぞ!」
「ハッ! 貴様こそ黙るがいい! この場は魔物の居て良い場所ではないぞ!」

 実はベイガンが半分魔物となってしまったということは隠していない。
 あまり大っぴらにしているわけではないが、少なくとも騎士達は殆どの者が知っている。「無理に隠せば、暴かれた時に問題になる」と、セシルが言い、ウィルも同意した。
 魔物という事で、不快な反応を示す者も中に入るが、元々ベイガンの忠義は誰もが知るところだった。だから事情を知れば納得し、同情する者はいても、嫌悪する者は殆ど居なかった。

 だから魔物と蔑まれようと、ベイガンは動じない。
 自分の腰の剣に手をかけ、さらに怒鳴る。

「私を罵倒するのは勝手だが、王への翻意は見逃せん! 今すぐその首跳ね飛ばしてくれるわ!」
「ほう。貴様にやれるのか?」

 言いつつ、カルバッハ公爵は胸から短剣を取り出す。
 そんなもので戦うつもりか、とベイガンはあざ笑ったが、次の瞬間凍り付いたように動きを止めた。
 公爵は、手にした短剣の切っ先を、傍らのファスの首元へと向ける。

「これでも私に手を出せるかね?」
「ひ、卑怯な!」
「フン。私もこんな手は使いたくはないが、これもこの国のため」
「国のためだと・・・? 反逆者如きが何を言うか!」
「黙れと言ったぞ魔物!」

 短剣をさらにファスの首元へ近づける。
 ひ、とファスの口から小さく悲鳴が漏れた。

「ベイガン、とりあえず君は下がれ」

 それまで黙っていたセシルが告げる。
 ベイガンは王を振り返り、

「しかし陛下―――」
「下がって、黙っててくれ。君はどうも感情に走りすぎる」
「とゆーか陛下が落ち着きすぎです! ファス殿が人質に取られているのですぞ!」
「そんなの僕の知った事じゃないな」
「へ、陛下!?」

 ベイガンが唖然とする前で、セシルは玉座を立ち上がると、公爵とファスの元へと歩み寄る。

「動くな!」

 あと数歩、というところでカルバッハが怒鳴る。
 セシルは苦笑して両手を上げて見せた。

「そんなに怯えるなよ。僕は丸腰だよ?」
「貴様が暗黒剣を召喚することは知っている」
「ああ、結構調べられてるんだ」

 参ったなあ、とセシルは苦笑。
 そんなセシルの様子に、カルバッハは混乱する。

(・・・なんだ、この余裕は。こっちは人質を取っているというのに・・・!)

 知った事じゃない、とセシルは言ったが、実際そんなはずはない。
 ちょっと見には単なる小娘だが、ファスは一応トロイアの大使だ。殺されれば国家間の問題にもなるし、第一そうでなくとも幼い少女を見殺しにしたという風評が立てば、民の反感を買うことになる。セシルとしては、絶対に守らなければいけない娘の筈だった。
 なのに、セシルはまるでファスが殺されても構わないような態度を見せる。

「それで? 話の続きは?」
「な、なに・・・?」

 唐突に話を促され、混乱した状態のカルバッハはさらに困惑する。
 公爵の混乱を見て取って、セシルは「仕方ないなあ」と言う風に肩を竦めた。

「ここで僕が脅迫に屈して玉座を明け渡したとする。でもそれで騎士達は納得するかな? トロイアの大使を人質に取り、強引に玉座を奪い取った人間を王と認めるはずがない。すぐにクーデターが起きて、三日天下はそれでお終いだ―――まさか、そんな間抜けな筋書きを妄想していたワケじゃないよね?」

 セシルが問うと、ようやく混乱が収まったらしく、公爵はふっ・・・と息を漏らすように笑みをこぼした。

「王と認めるはずがない・・・か。それは貴様のことだ、セシル=ハーヴィ!」

 セシルの名前を呼び捨てにして、玉座の方ではベイガンが「おのれ、陛下の名前を呼び捨てにするとは・・・」と怒りの声を漏らしていたが、それは無視しておく。

「僕が・・・どうかしたかい?」
「とぼけるな! 貴様が先王オーディンの実子というのは真っ赤な嘘だということは解っている!」

 公爵の台詞に、謁見の間を警護していた近衛兵達にざわめきが走る。
 そのざわつきを耳心地良く聞きながら、カルバッハ公爵はさらに続けた。

「まんまと騙されるところであったわ! 自分が親無しであることを利用して、オーディン様が父であるなどとでっち上げおって! スラム育ちの糞餓鬼が!」

 貴族の割には随分口汚い言葉を使うんだなあ、とか思いつつ、セシルは苦笑。
 背後では、ベイガンの殺気が高まるのが、振り向かずともはっきり解る。が、調子に乗っているカルバッハは気づかない。
 そんな公爵に、セシルは尋ねる。

「証拠はあるのかい? 僕が先王の遺児ではないという証拠」

 そんなものはない、とセシルは思っていた。
 セシルがオーディンの息子という証拠もないが、その逆もない。 “言ったもん勝ち” の話だ。
 だが、カルバッハ公爵は、そう切り替えされるのを計算済みだったのか―――というか、ようやくセシルが思った通りの反応してくれたことに安堵したようにも見えた―――不敵に笑う。

「証拠? そんなものは必要ない! 何故なら―――」

 短剣を持った反対の手で、背後のアレスを指し示す。

「この方こそが正真正銘、オーディン王の遺児、アレ―――」
「あ、隙あり」

 カルバッハの視線がアレスに向かった隙をついて、セシルは素早く踏み込むと、短剣を握っていたカルバッハの腕を掴んで捻りあげる。
 かしゃん、と短剣が床に落ちて、公爵が悲鳴をあげた。

「ぐああっ!?」
「ごめんよ、ファス。怖かったかい?」
「いだっ、い゛ーーーっ。腕、うでーーーーーっ」
「ううん。ちょっとびっくりしたけど、セシルが何とかしてくれるって思ったから」
「折れっ、折れる! 腕がっ」
「そうか―――」
「あ゛ーーーーーーーーーーーっ!」
「・・・って、五月蠅いなあ」

 セシルが公爵の腕を放す。
 するとカルバッハ公爵は転がるようにセシルから距離をとって涙目で睨付けてきた。

「ぐ、ぐううう・・・・・・き、さ、まあああああ」
「あー、ごめん。一番の盛り上がり処を潰しちゃって―――それでなんだっけ? オーディン王の実の息子が彼だって。ふーん」

 どうでもよさそうに言って、セシルはアレスを見る。

「確かに顔立ちはオーディン王に似ている気がするね」
「当然だ! 正真正銘の―――」
「でもまあ、世の中には似た人間って言うのは3人居るって言うしね」
「ええい、人の話を聞けえええええええっ!」

 カルバッハ公爵、絶叫。
 まあ無理もないかも知れない。彼としては、オーディン王の実子を連れて乗り込んできて、格好良く立ち回るつもりだったのだろう。
 だというのに、乗ってきたのはベイガンだけ。標的であるセシルは全然気乗りしない様子で、しかもあっさりと人質も奪い返されてしまった。

「おのれおのれおのれぇぇぇぇぇ・・・」

 呪詛のように唸る公爵は無視して、セシルはアレスに問いかけた。

「それで? 君は本当にオーディン王の息子なのかい?」
「だからさっきから何度も―――」
「黙ってろ」
「・・・・・・!」

 騒ぎ立てるカルバッハ公爵を、セシルが一瞥すると、その気迫に押されて言葉を失う。
 静かになったところで、セシルは改めてアレスに問いかけた。

「本当にオーディン様の息子なのか?」
「わ、私は―――」

 セシルの視線に射抜かれ、アレスは思わず避けるように視線を足下に落とす―――が、すぐに顔を上げると、真っ向からセシルをにらみ返す。

「―――私は先王オーディンの息子、アレックス―――偽りの王よ、即座に玉座を明け渡せ!」

 その声は僅かに震えていたが、言葉には威厳があった。
 場がシン・・・と静まりかえり、怒り爆発寸前だったベイガンさえもその威に呑まれ、アレス―――いやアレックスを凝視している。

「成程。そうか、オーディン様の息子か・・・」

 しみじみと納得したように呟くセシルに、カルバッハ公爵は我が意を得たりとばかりに、声を張り上げる。

「そうだ! オーディン様より直々に託され、今まで我が領で保護してきたのだ! その証拠ならば―――」
「なら殺すしかないか」
「―――幾らでもある・・・は?」

 そのセシルの言葉はあまりにもあっさりし過ぎていて、単語の意味がすぐには理解できなかった。

「オーディン王の息子が生きていると都合が悪いしね」
「・・・実際に、先王の息子かどうかは疑問ですが―――このままにしておくわけにはいきますまい」

 ベイガンも剣に手をかけながら、ゆっくりと近寄ってくる。
 そして、周囲の近衛兵達に向かって叫んだ。

「その二人を捕えよ! 抵抗するならば殺しても構わん!」

 ベイガンが叫ぶが、しかし近衛兵達は動かない。

「どうした! 何故、命令に従わん!?」
「しっ、しかしベイガン様! もしも本当に、セシル王が偽物であり、その方が本物ならば―――」

 近衛兵の一人が伺うように言うのを見て、カルバッハが哄笑を上げる。

「うわーっはっはっは! どうやら兵達は、アレックス様を本当の王だと認めているらしい」
「何を馬鹿な・・・!」
「構わないよ、ベイガン。二人程度ならば僕一人で始末できる」

 そう言って、セシルが公爵とアレックスに近づく―――が、二人は動ぜずに、アレックスは懐から不思議な色をした石を取り出して頭上に掲げた。
 ゆっくりと迫るセシルを見て、笑いながら公爵は告げる。

「あわよくば―――とも思ったが、今日は顔見せに過ぎぬ。いずれ、貴様を玉座から引き摺り落としてくれるわ! 首をあらって待っていろ、偽王よ!」
「逃がすと―――」

 ―――思うか、とセシルが続ける前に、アレックスの掲げた石が虹色の光を放つ。
 そのまばゆさに思わず目を覆い、光が収まった後を見れば、二人の姿はすでになかった。

「・・・テレポストーン―――逃げられたか」
「すぐさま追いましょう!」
「いや・・・魔法で逃げられてはどうしようもない。今は奴らを追うよりも・・・・・・」

 セシルは周囲の近衛兵達に向かって叫ぶ。

「いいか! 解っていると思うが、今あった出来事は他言無用だ。もしも一言でも漏らせば厳しく罰する! 良いな!」
『・・・・・・』

 近衛兵達は、しかし答えない。
 それを見たベイガンが、怒鳴りつける。

「返事はどうした!?」
『は・・・ハッ!』

 ようやく返事をした兵達を見て、しかしベイガンは一抹の不安をぬぐえなかった。
 セシルもベイガンと同じ胸中なのか、難しい顔をして呟く。

「・・・なにか切り札を持っているとは思っていたけれど、まさかオーディン様の息子とはね・・・」
「陛下・・・」
「セシル・・・」

 不安そうにセシルを見るベイガンとファス。
 ふとセシルは顎を上げて天井を見上げる。

「・・・雲行きが、怪しくなってきたな―――」

 

 


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