第20章「王様のお仕事」
P.「罠を安全に突破する方法」
main character:ロック=コール
location:バロンの街
「ところで、カインの屋敷で何をしていたの?」
金の車輪亭へと続く西街区の中央通り。
そろそろ昼も近く、行き交う人間も多い。中にはロックとセリスのように仲睦まじく腕を組んで歩いているカップルもちらほら見える。(・・・って、別に俺とセリスはカップルってわけじゃ・・・!)
「・・・聞いてる?」
「あ―――ああ、聞いてる聞いてる! ええと、カインちで何やってたかって? そりゃ掃除したりメシを作ったり・・・」
「えっ・・・」唐突にセリスは眉をひそめて立ち止まる。
腕を組んでいるロックも、当然足を止めた。「・・・ちょっと待て、お前なんか変なこと考えてないか? 掃除とかしたのは成り行きで―――」
「違う! ロック、あれって・・・!」
「あん?」人混みの向こう、見覚えのある女性の姿があった。
「あれ? ローザ?」
変装のつもりなのか、帽子とサングラスを身に着けているが、間違いなくそれはローザだった。
彼女が、見覚えのない男と二人で腕を組んで歩いている。
何処にでも居る普通の金髪の男。その服装も、そこらを歩いている街の若者と似たり寄ったりの服装だ。ローザと同じ帽子とサングラスを身に着けているペアルックで、如何にも恋人同士といた様子で、遠目でも解るくらいに楽しそうに談笑しながら歩いている。「・・・ローザ、今日はセシルと一緒にデートだって言ってたのに・・・」
そう言って、今朝早く嬉しそうに城へ向かったのを覚えている。
その後、セリスもフライヤ達と一緒に城へ向かったが、城の門で竜騎士達と遭遇したため、クラウドのお見舞いに行ったフライヤ達とはすぐに別れて街に戻ったのだ。そのため、ローザともセシルとも出逢うことがなかったので、てっきり二人とも普通にデートでもしているのかと思っていたのだが。友人が自分の知らない男と楽しそうに歩いている―――というのは、なんだか裏切られたような気分だ。
「・・・ロック、予定変更。あの二人の後を―――」
「はいストーップ」
「きゃっ!?」腕を放し、ローザ達の後を追いかけようとしたセリスを、今度はロックの方から強引に肩を抱き寄せて留める。
「ロック!」
ローザ達に気取られぬように、声を抑えて非難の声を上げる。
そんなセリスに、ロックはちっち♪ と指を振り。「他人のデートの後をつけるってのは野暮ってもんじゃないか?」
「なにカッコつけてんの! あのローザがセシル以外の男と仲良さそうに歩いてるのよ! ・・・それも、私に嘘までついて・・・・・・気にならないの!?」セリスが一番気にしているのは “ローザが浮気をしている” ということではなく、 “自分に嘘を吐かれた” という部分だろう。
そのことに気がついて、ロックは苦笑する。「よく考えてみろよ。浮気なんて、おいそれと人に話せるようなものじゃないだろ。特に仲の良い友人にはな」
「・・・そういうもの?」
「そーゆーもんだ。・・・つーわけで、あっちはあっちでこっちはこっち、楽しく行こうじゃないの」
「え、ええ・・・」釈然としないまま、しかし反論も思いつかず、セリスはロックに肩を抱かれたまま、ローザ達が向かう方向とは別―――金の車輪亭へと向かう。
少々未練がましく、ローザ達の方を何度か振り返りながら。
******
「いらっしゃいませー♪ 2名様ですね―――って、なんだロックとセリスじゃねえか」
ようやく辿り着いた金の車輪亭で、二人を出迎えたのは看板ウェイトレスのリサ―――ではなく、バッツだった。
いつものくたびれた旅装束ではなく、ウェイターの格好をしている。
似合っているような似合っていないような微妙な格好に、ロックは微妙な顔をして問いかけた。「お前、なにやってんだ?」
「ウェイター」
「それは見りゃ解るけどよ。なんでまた・・・」
「暇なんだよ。だからもののついでってヤツだ」
「はあ?」事情が上手く飲み込めず、ロックは首を傾げる。
と、そんなバッツに、別のウェイターから怒声が飛んでくる。「おいこらてめえ! 遊んでるんじゃねえ!」
随分ガラの悪いウェイターだなと思ってみれば、それも見覚えのある顔だった。
「あれ・・・アイツは確か・・・」
「サイファー? なんで奴までここにいるのかしら?」昼時だからか、店は盛況だ。
最近改築して、新しくそこそこ広い店内を、バッツとサイファーの二人で回しているようだった。
考えてみれば、昼時に飲食店来ても混んでるだけだよなー、全然落ち着けないじゃん。とか思いつつ、ロックは疑問を口にする。「そういえばリサは?」
「そっちの隅のテーブルに居るぜー」客の呼び出しに応えながら、バッツが指さす方向を見れば、確かにリサは四人がけの丸テーブルに一人で座り、ぼーっと店内を眺めていた。
テーブルの上には飲みかけのジュースとビスケットが置いてある。ちなみにウェイトレスの服装ではなく、普段着だ。「おーい、リサ? こんな隅っこでなにしてるんだよ」
「なんだ、ロッ君か。今日は何? セリスとデート?」
「人の名前を略すなよ」気の抜けた様子で反応するリサに、少し戸惑いながら、ロックはリサと同じテーブルに座る。セリスもロックの隣りに腰掛けた。
「だって、ロック君って言いにくいし。なんでそんな名前なのよー」
「親が付けたんだよ。俺が知るか―――っていうか、なんか暗いな。具合でも悪いのか?」
「べっつにー」やはり気のない返事をして、ビスケットを口にくわえる。
そんなリサを見て、セリスがふと思いついたように尋ねた。「もしかして、ロイドとなにかあったの?」
ぱりん、とビスケットが割れて、テーブルの上に落ちる。が、リサはそれに構わずセリスを凝視する。
「ど、どうして解ったの?」
「え? いやなんとなく。以前、ローザがらしくなかった時と雰囲気が似てたから」
「ああ、あの時ね・・・」一ヶ月前のセシルとローザの追いかけっこ。
それが原因で、この店も改築するハメになったのだ。「・・・あの時のローザよりはマシなつもりだけどね〜。ただちょっと気疲れって言うか・・・気力が沸かないっていうか・・・」
「どーせ、ロイドに会いに行って、ロイドにキッツイこと言われて帰ってきたんだろ」
「って、なんでそんなことまでわかるんだよっ!?」リサは思わず声を上げて、ばんっと机を叩く。
ビスケットが皿から散らばり、ジュースが小波を立てる。飲みかけでなかったら零れていただろう。その、皿からおちたビスケットを掴み、ぱくりと食べつつ、ロックは答える。
「街の中じゃ、あそこが一番黒いんだよ。推定黒幕のカルバッハ公爵家は、バロンの街じゃそれほど大きな権力を持っちゃいない。となれば、こっちの本命は西街区のまとめ役のフォレス家ってことになる」
「・・・なんの話をしているの?」意味が解らず、リサは困惑する。
もぐもぐと、ビスケットを呑み込んで、ロックは続けた。「今、ロイドん家は一番ヤバイって話だ―――まあ、下手に騒ぎを起こそうとはしないだろうが、ロイドがお前を二度と来ないように突き放す気持ちは良く解る。俺がアイツの立場でも同じ事をしただろうさ」
「ヤバイって・・・ああ、そう言えばバッツが殺気を感じたとか言ってたっけ・・・?」
「なんだ、あいつらと一緒に行ったのか」ロックは後ろの方で忙しなく働いているバッツ達を見やる。
リサは、ロックの話を聞いて、少し元気を取り戻したのか、うん、と笑顔で頷いて、「昨日、丁度店にいたからね。ほら、フォレス家って大きいじゃん? 一人で行くのはちょっと・・・」
「成程。それで、あいつらリサの代わりにバイトしてるってワケか」ロックはウェイター姿のバッツやサイファーを見やる。
おそらく、ロイドに手酷く振られたリサを心配しにやってきて、リサの代わりに働くと言い出したのだろう。
バッツはともかく、サイファーがそういう性格だったとは、少し意外だったが。リサは苦笑して頷く。
「本当は動いていたほうが気が紛れるんだけどね。・・・でもあの二人、私に休んでろって言って聞かなくて。・・・それに」
「それに」
「サイファー君はともかく、バッツは昨日今日手伝っただけなのに、何年もバイトしてきた私よりも手際が良すぎて、それで余計にへこむんだけど・・・」
「まあ、アイツは器用だからなあ・・・・・・馬鹿だけど」余計な一言を付け加えて、ロックはリサに向き直る。
「だがまあ、一人で行かなくて正解だ。さっきも言ったとおり、まだ事を荒立てたくないはずだから、心配はなかったかも知れないけどな―――でも、何か変なものでも見ちまったら、口封じされてた可能性だってある」
「く、口封じって・・・まさか、そんな」引きつった笑いを浮かべるリサに、ロックはなにか違和感を感じて―――ようやく、自分とリサとの危機感の差異に思い至る。
「あれ、もしかして知らないのか? 貴族達が反乱起こすかもって噂」
リサがバイトをしている金の車輪亭は、宿屋兼食堂であり、夜には酒場にもなる。
人が集まり話が弾む、早い話が噂の中継点のような場所だ。だから当然、この話は知っているとロックは思い込んでいたのだが。「いや、噂は聞いてたけど・・・でもあくまでも噂でしょ? 今までだって、貴族が不満を持ってる、だの噂は流れてたけど、何も起こらなかったし、第一反乱なんて起こしたって成功するはずないじゃない」
エブラーナとの戦争以降、王が国を治めるのは変わらないが、その下に居る貴族と騎士はほぼ完全に決別していた。
それまで、貴族がバロンの各領地を治め、騎士がそれを守っていたのが、騎士達は貴族に反し、王の命令しか聞かなくなってしまっていた。早い話、今の貴族には武力がない。
自分の領地を守るのも、私財を使って雇い入れた流れの傭兵や、領民に訓練を施して作り上げた私兵である。だが、それは代々民を守るために力を磨いてきた騎士達に比べれば、あまりにも頼りなく無力であった。だが、そんな貧弱な守備では、野盗や山賊の襲撃に耐えられない領地も出てくる。
そこで当時のバロン王オーディンは、それぞれの貴族達が治める領地と領地の境に砦を建設し、騎士達―――主に陸兵団―――を配備し、魔物達の襲撃に備えさせた。貴族達は、これで以前と元通りであると安堵したが、しかし騎士達は決して貴族達の屋敷や財産を守ろうとはせず、あくまで領民達を守るためだけにしか出撃することはなかった。
結局、貴族達は自分たちを守るため、傭兵や私兵を雇わなければならず、その費用を領民達から絞り上げ、領民達は王に陳情するという流れが生まれ、オーディン王一人では処理できないほどの陳情が溜まってしまったというわけだ。その後、セシルの発案による魔物掃討作戦により、魔物の数は激減して騎士達の出撃も減り、貴族達は兵を雇う必要も薄れたが、未だに防衛費として領民達から絞り上げてる貴族も居るらしい。
話が反れたが、結論から言うと、貴族達には兵力が無く、仮に反乱を起こしてもあっさりと鎮圧されてしまうだろう。
だから今まで貴族達は反乱を起こさなかった。「それが成功する可能性が出てきたとしたらどうだよ?」
「・・・どういう意味?」
「今までは騎士が王に忠誠を誓っていたから、貴族達は反乱を起こせなかった。だが、騎士達が王を見限ったとしたら? 騎士に守られていない王ならば、簡単に討ち果たせる―――そうは考えられないか?」
「騎士達が王を見限る?」
「今のバロン王は、いつの間にか暗殺されていたオーディン王の代わりに、唐突に王となった。事情を知らなければ王位をかすめ取った簒奪者と呼ばれても良いはずなのに、誰もそうは言わない。それはセシル=ハーヴィが正統な王位継承者だからだ」
「・・・まさか」リサはあることに思い至る。
「セシルが王位継承者ではないとバレたら・・・」
それは、以前にも感じた不安。
誰にも聞かれないよう、それを小声で口にすると、ロックは頷いた。「多分、貴族達はセシルに継承権が無いことに気がついてる」
「じゃあ・・・」
「貴族が決起する寸前にそれを暴露しちまえば、騎士達は守るべき存在を見失う。最低でも、動揺、混乱は避けられない。その隙を突いて王を倒せば、貴族の天下だ」
「・・・そう上手く行くかな?」と、反論したのはそれまで黙っていたセリスだった。
「仮にセシルを打倒できたとして、そのまま貴族の誰かが王位につけば、それこそ簒奪者だ。騎士達は黙ってないでしょう?」
「そうだな。貴族が王位につけば、な」含みのあるロックの言葉に、セリスは怪訝そうな表情を浮かべ―――すぐに理解する。
「なるほど、セシルと同じか」
「そういうこと。誰かを先王の忘れ形見として即位させればいい。オーディン王は若い頃に国を飛び出して、あちこち放浪していた空白期間がある。その時にできた子供だと称して、ついでに適当な証拠をでっちあげればいい―――現に、セシルがそうだしな」そう言ってから「だが」とロックはにやりと笑う。
「セリスの言っていることも的はずれってわけじゃあない」
「?」
「カインが陛下の下した処遇に我慢ならずに、反旗を翻そうとしている―――って言ったらどうする?」
「えっ!? カインまで反乱を起こそうって言うの!?」
「リサ、声が大きい!」セリスが言うと、リサは慌てて口を押さえた。
「カインだってセシルに継承権が無いことを当然知ってる。それを貴族に先んじて騎士達に暴露して、自分の味方につけてしまえば―――ただでさえ、 “最強” のカイン=ハイウィンドは騎士達の羨望でもある。クーデターはあっさり成功するかもな」
「だけどそれはないわね。カインはセシルを裏切らない。セシルがカインを裏切らないのと同じように、ね」根拠はない。しかしセリスは確信を持ってそれをいいきれる。
強いて言うなら、根拠は女の勘、だろうか。「大体、その話はどこから出てきたの? 確かロックは、昨日今日とカインの屋敷に居たのよね?」
「ああ、本人から聞いた」
「もしもその話が広まれば貴族達は慌てるでしょうね」
「そだなー、自分たちが立とうとした直前に、騎士に先に王位を奪われちゃ意味がない。なんとしても先手を打とうと考えるだろうな」
「・・・解らないわ」セリスが難しい顔で呟く。
「セシルがカインとロイドを城から追い出した理由がそれだとして、なんでセシルはわざわざそんなことをするのかしら?」
「罠だよ」
「罠?」
「例えば、目の前に罠があるとする。落とし穴でも地雷でも、張ってあった糸に触れると矢が飛んでくる仕掛けでもいい。その罠を、一番安全に乗り越える方法ってなんだと思う?」ロックの問いかけに、セリスは少し考えてから。
「罠を解除する?」
「それよりももっと単純で簡単な方法があるんだよ。罠を作動させちまえばいい」
「はあ? そんなの全然安全じゃないじゃん」リサがなにいってるの? とロックを見るが、一方でセリスは納得したように頷く。
「・・・そっか。罠は1回発動すればそれで終わり・・・」
「誰かが仕掛け直すまで、な。・・・まあ、魔法の罠とか世の中には幾らでも例外はあるけどそれは置いといて」落とし穴だった棒でつついたあと、できた穴に板でもかけて橋にすれば安全に渡れる。地雷や弓矢の罠だったら、遠くから石でも投げて発動させればそれで終わり。
罠を下手に解除するよりも、安全を確認して発動させてしまったほうが早くて確実だ。「セシルがやろうとしているのもそういうことね」
「あの・・・途中からよくわかんなかったんだけどー」えへ、と困ったようにリサが言う。
そんな彼女の頭を、あやすようにロックは手伸ばしてポンポンと叩いて。「ま、兎に角、ロイドはお前のことを嫌ってなんかないってことだ。大切だからこそ、危ない目にあわないように突き放したんだ」
自分の頭を撫でるロックの手をリサは両手で掴むと、祈るように自分の顔の前にもってくる。
「・・・信じて、いいの?」
「ん?」
「ロック君の言ったこと・・・ロイド君のこと、信じても良いの?」問われ、勿論だと頷きかけて―――ロックは「んー」と天井を仰ぐ。
「こ、答えてよ!」
「答えて欲しいのか?」
「えっ?」
「ロイドのこと。アイツの事は信じても大丈夫だって、そう保証して欲しいのか?」意地悪いなー、と自分でも思いつつロックが尋ねると、リサはすぐにその意味に気がついて、掴んでいたロックの手を突き放す。
「っ・・・別に!」
勢いよく言葉を放って、リサは席を立った。
「ロッ君に保証なんかされなくったって、あたしは元からロイド君のこと信じてるもん!」
「だから略すなって・・・」苦笑するロックに、リサはくすっと笑う。
「・・・ありがと」
「元気になったか」
「うん―――お礼になにか奢るよ。なにがいい?」
「とりあえず飲み物欲しいかな。喋りながらビスケット食ってたら、流石に喉が渇いて・・・」
「って、あーーー! あたしのビスケットが無くなってる・・・!」
「いや、食欲無さそうだったから、食べてやったぜ」
「誰も頼んでないでしょ!」不機嫌そうに言って、それからセリスの方に視線を投げる。
「セリスは? なにか頼む」
「え? ええと・・・適当で良いよ。ちょっとお腹も空いてるし、なにか食べられるもの」
「りょーかい」そう言って、リサは残っていたジュースを飲み干すと、空になったグラスと皿を持って厨房の方へ向かう。
「おいおい、リサ。休んでて良いって言ったろ?」
「じゅーぶん休んだよっ。そういうバッツこそ休憩しなさい。代わりにあたしがはいるから」
「俺は別に―――」
「駄目。・・・・・・気を使ってくれるのは嬉しいけど、働いてたほうが気分転換にもなるのよ―――ほら、サイファー君も。お客さんも減ってきたし、あたし一人でも大丈夫だから」などとリサやバッツ達のやりとりが聞こえてくる。
それを聞きながら、ロックは苦笑した。「てか、リサも割と可愛いところあるんだなー。ロイドのことであんなに気落ちするなんてさ」
「・・・・・・」
「ど、どうしたセリス? なんか・・・怒ってない?」
「別に」否定するが、ロックから視線を反らして、口を尖らせている。
明らかに不機嫌そうな様子だった。「なんだよセリス。俺がリサのこと可愛いって褒めるから妬いてるのかー?」
「多分、そうよ」
「って、んなわきゃねーって・・・・・・はい?」思っても見なかった反応に、ロックは硬直する。
そんなロックに、セリスはやや顎を引いて、頭をロックの方へ向けた。「ええと、セリスさん? これはどういう意味でしょうか?」
「さっき、リサにはやったでしょう」
「それって―――」ポンポン、とリサの頭を撫でたことを思い出す。
「いやちょっと待って下さいよセリスさん」
「なに? リサにはできて私にはできないの?」
「いやその・・・恥ずかしいし」
「・・・・・・ふーん」不機嫌度、さらにアップ。
直感的にヤバイものを感じ取って、ロックは慌てる。「え、ええと・・・ああ、そういえばセリス、なにか聞きたいことがあるって―――」
「・・・もういい」セリスはさっと立ち上がり、そのまま店を出ようとする。
「お、おいセリス!?」
ロックも立ち上がり、を引き留めようとするが、その瞬間セリスがこちらを振り向いた。
「・・・・・・」
氷のように冷たい目つき。
その視線に心臓を射抜かれたような気分になって、ロックは息を止める。「・・・・・・フンッ」
その隙に、セリスは踵を返すと、あっさり店を出て行く。
後には立ちつくしたままのロックが残される。「はいよ、お待たせー・・・って、あれ? セリスは」
リサが料理をテーブルに運んでくる。
ロックはなんとなく気まずい笑みを浮かべて、「いや・・・なんか怒って出て行ったんだけど」
「・・・フラれたってこと?」
「いや、いや! フラれたとかそう言う以前に、別にナンパしたわけでもそーゆー関係でもなかったし!」
「あれー、そうだんだ。あたしはてっきり」
「て、てっきり!? てっきりなんだよ?」
「折角、気を利かせて二階の一番端の寝室をキープしといてあげたのに」
「いらんお世話だあほーーーーーーーーーっ!」まだ少しばかり騒がしい店内に、ロックの怒声が響き渡った―――