第20章「王様のお仕事」
H.「門の前」
main character:バッツ=クラウザー
location:バロンの街・フォレス邸

 

「―――ここ、って・・・・・・」

 門の前。
 リサがここだと言った、その屋敷を眺めてバッツはぽかんと口を開けた。

 鉄棒で編まれた巨大かつ優麗な門。その向こうに広がる広大な庭。さらにその向こうにそびえ立つ城と見まごう屋敷。
 流石にバロンの城と比べれば小さいが、今まで歩いてきた中で見かけた屋敷の中で、断トツに巨大な屋敷だった。

「・・・まぢ? ローザの家よりも広いっつーか、広すぎるじゃんか!?」

 思わずバッツが叫ぶ。
 リサはふふふ、と引きつった笑いを浮かべ、

「び、びびるでしょー。私が一人で来るのに気後れる気持ち、解るでしょ?」
「まあ・・・な」

 色々な場所を旅してきたバッツでも、気後れするくらいだ。
 この屋敷よりも広大な場所や、巨大な城などの建物は見たことは何度もある。
 だが、単なる一個人―――というか、一貴族の持ち物で、これほどまでに大きい屋敷は見たことがない。

 バッツとリサが、笑いになっていない笑いを浮かべていると、サイファーが「ハッ」と鼻で笑い飛ばす。

「こんな程度の屋敷でなにまごついてんだよ!」
「・・・アンタ、足、震えてるけど?」
「ふっ、震えてなんかいねえよッ!」

 何か誤魔化すように、サイファーは足をダンダンダン! と地面に叩き付けるように踏みならす。
 と―――。

「・・・あの、何か御用でしょうか?」

 澄んだ声が聞こえ、バッツ達三人は振り返る。
 みると、門の向こう側に、身なりの良い姿をした少年が佇んでいた。

 年の頃は14、5と言ったところだろうか。
 金髪で、女の子と見まごうばかりの可愛らしい顔立ちをしている。
 だが、なんとなく見知った顔に良く似ていると、三人は思った。

「あ、あの・・・私っ、リサ=ポレンディーナといいましてっ」

 うわずった声で、リサが自己紹介をする。
 その名前を聞いて、少年は「ああ」と顔をほころばせた。

「もしかして、兄様の恋人の・・・」
「は、はいっ。おにーさまの恋人させてもらってますっ!」

 何故か直立不動で答えるリサ。
 それをバッツが肘でつつき、

「おい、なんだよそのノリ。相手はガキだぜ?」
「う、うっさい。お子様だろうが赤ん坊だろうが、相手は有力貴族よ!? 緊張するのが当たり前でしょうが!」
「そんなもんかあ?」
「・・・アンタだって、さっきまで屋敷の大きさにびびってたじゃない!」
「そりゃあ、こんな屋敷見たことなかったしなあ。・・・だけど」

 と、バッツは金髪の少年を見やり。

「こんくらいのガキはどこにでもいるだろ」
「いないっつーの! こういう人種はこういう場所でしか生息できないんだから! 天然記念物なのっ!」
「お前、さりげに凄いこと言ってないか・・・?」

 などと、リサとバッツが言い合っていると、門の向こうからおずおずと少年が声をかける。

「あの・・・それで? あなた方は、兄様に会いに来てくれたんですか?」
「の前にひとつ聞くけどさ、お前はロイドの弟でいいのか?」
「お馬鹿ぁーーー!」

 リサは反射的に手を振るう。
 とんできた張り手を、バッツはスウェーでかわして迷惑そうにリサを見返す。

「なんだよいきなり」
「 “お前” とか “ロイド” とか口の利き方がなってないにも程があるっつーの!」
「んなこと言われてもなあ・・・」

 バッツが困ったような顔をしてみせると、少年はクスクスと笑い声をたてる。

「面白い人達ですね」
「おい待て。そこは訂正が必要だろ。面白いのは俺じゃなくって、リサだけだ」
「あんたねぇ・・・」

 自分を指さしてくるバッツの指を、リサは払いのける。
 と、少年はひとしきり笑い終わり、バッツ達に向かって軽く一礼してみせた。

「お察しの通り、僕の名前はルディ=フォレス。ロイド=フォレスの実弟です」

 礼儀正しく挨拶をする少年―――ルディに、バッツはきさくに手を挙げてみせる。

「俺はバッツ=クラウザー。ただの―――ロイドの知り合いだ。んで、こいつが・・・」
「ケッ!」

 バッツがサイファーを紹介しようと手で示すと、サイファーは迷惑そうにそれを振り払う。

「俺は単なる付き添いだ。名乗る必要もねえだろ」
「とか言ってるのがサイファー・・・下の名前なんだっけ? ないんだっけか?」
「勝手に紹介してるんじゃねえ!」

 サイファーが白いコートの中に隠していたガンブレードを抜きはなってバッツに斬りかかる。
 いきなり斬りかかったサイファーに、ルディは思わず目を見開いたが、バッツはさっきのリサの張り手同様、軽くひょいっと回避する。

「ガンブレードとかいう一風変わった武器が好きなSeeDとか言う傭兵。ロイドとはあんまし関係ないけど、ヒマそうだから連れてきてやった」
「ヒマじゃねえよっ!」

 ぶるん、ともう一度ガンブレードを振るうが、バッツは容易く避ける。

「ちょっと! 危ないじゃんか!」

 リサが抗議の声を上げるが、サイファーは無視してバッツに連続で斬りかかる。

「さっきの続きだ! 今度こそブッタ斬ってやるッ!」
「あー、それ無理」

 次々に放たれる斬撃をバッツはひょいひょいっとかわしていく。
 偽物とはいえ、セフィロスの連撃を悉く回避したバッツだ。サイファーの剣が当たるはずもない。

「ちょっとおー! アンタ達、遊んでんじゃないわよ! ここに来た目的を忘れたの!?」

 リサが叫ぶ。
 サイファーはまたもや無視したが、バッツは思い出したように「おお」と声を上げて。

「忘れてた。じゃ、終わりにすっか」
「だありゃあああああっ!」

 サイファーの、渾身の振り下ろした一撃を僅かに身を反らして避けると、そのまま懐へと踏み込む。

「このっ―――」
「ほら」

 サイファーが剣を引く―――よりも早く、バッツがサイファーのあごをぽかん、と軽くかち上げるように叩く。
 打撃と呼べるほどの攻撃ではない一撃。かち上げた、とはいえ顎が上を向くこともなく、軽くサイファーの頭が揺れた程度だ。
 が、それだけでサイファーは動きを止め。

「な・・・・・・ッ!?」

 かくん、と膝を折って地面についた。

「て、めえ・・・何しやがった」
「軽く脳味噌揺らしてやっただけだ。脳震盪ってヤツ」

 簡単に説明すると、バッツは門の前まで戻る。
 脳震盪とはいえ、軽いものだったらしく、サイファーも少しだけよろめきつつすぐに立ち上がる。
 そして、バッツの後ろ姿に向かって、ガンブレードを振り上げるが―――

「・・・ケッ」

 悪態をつくと、再びガンブレードをコートの中へとしまい込んだ。

「次こそブッ殺してやる・・・!」

 バッツの背中を睨付けるが、当のバッツは気づいてないのか無視しているのか無反応。
 門の向こうで唖然としているルディに向かって口を開く。

「おう、なんだ? 声も出ないほど面白かったか?」
「いや、その・・・大丈夫なんですか、そっちの人」

 おそるおそると言う感じでサイファーを見る。と、それに気づいたサイファーがルディをにらみ返し、少年はびくりと身を竦ませた。
 だが、バッツはにこにこと笑って。

「大丈夫大丈夫、敵以外には斬りかからないと思うし」
「ええと・・・それ、安心できるんでしょうか・・・」

 はあ、とルディは溜息を吐く。

「・・・それで、兄様に会いに来てくれた、ということでいいんですよね?」
「おう。な、リサ」
「あ、はい。ロイド・・・さんのことが心配で・・・」

 相手が大貴族ということで、まだ気後れしているのか、思わずさん付けだった。
 と、バッツとリサの言葉に、ルディは表情をほころばせる。

「ありがとうございます。兄様も喜ぶと思います。・・・陛下の命令とはいえ、突然、ここに帰ることになってしまって、兄様ずっと鬱ぎ込んでいましたから・・・」

 今、門をあけますね。と、ルディが言って、懐から鍵を取り出すと、内側から門の鍵を開ける。
 それから、少年は両手で門を掴んで、自分の体重を乗せて引っ張り開ける。
 人が一人分入れる程度まで門を開き、ルディは力を込めたせいで真っ赤になった顔に笑顔を浮かべてバッツ達を招き入れた。

「それでは、どうぞ―――」

 


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