第19章「バブイルの塔」
R.「 “すみません、思わずツッコミました” 」
main character:バッツ=クラウザー
location:バブイルの塔

 

 突き出された刀の先。
 見れば、胸を貫かれたはずのセフィロスが立ち上がるところだった。

「・・・・・・っ。セフィロス!」

 回復魔法で傷を癒したのか、と思ったが、胸の穴は未だに開いたままだ。

「ほう。その状態でも生きているとは、ソルジャーというのはゾンビのようにタフだな」

 感心したようにカインが言うが、同じソルジャーのクラウドは信じられないように頭を振る。

「あ・・・ありえない。幾らソルジャーでも、あれだけの致命傷を受けて立ち上がるなんてことは・・・!」

 クラウドの見立てだと、セフィロスの胸に開いた傷は確かに致命傷だった。
 竜気を纏ったカインの槍は、その突進力と相まって、槍の径以上の大きさの穴を貫いていた。
 普通の人間ならば確実に即死。如何に強靱なソルジャーと言えども、魔法かなにかで癒すこともせずに動けることなどできないはずの深傷だ。そんな状態で動き回れるのは、それこそゾンビくらいなものだろう。

「フン、まあなんでもいい。何度でも立ち上がって来るというのなら、何度でも殺してやるだけだ」

 致命傷を受けたままで立ち上がることなどさして問題でもなさそうにカインは言う。
 しかし、当の相手は暫く虚ろな表情でカインを見つめた後―――

「・・・・・・」

 ふらり、とカインに背中を向けると、そのまま塔の奥へと。

「セフィロス!?」

 クラウドが名前を呼ぶが、セフィロスは何も反応しない。
 胸に穴が開いているとは思えないような動きで、進路上に立ち塞がる魔物達を斬り捨てながら、あっと言う間に走り去ってしまった。

「・・・っ!」
「けっ、面白ぇ!」

 クラウドはセフィロスが消えた先を睨付け、そしてサイファーもまた狂気じみた笑みを発し、セフィロスを追って走り出す。

「クラウド! 待て!」
「サイファー!? 貴方まで! ―――ああ、もう!」

 ヤンとキスティスが呼び止めるが、先程のセフィロス同様に何も応えずに、ぞろりぞろりと迫ってくる魔物達を蹴散らしながら走り去る。

「な、なんかもう滅茶苦茶ですねー」

 はあ、と嘆息しながら言ったのはロイドだ。
 しかしそれも仕方ないとも思う。セフィロスというイレギュラーが出現するとは夢にも思わなかった。
 もっとも。

(ま、なんだかんだで無事に塔の中に入ることはできたし、中に入ったら二手に分かれる予定だったから丁度良い、か)

 考えを切り替えて、ロイドはこれからどうするかを考える。

「とりあえず、クラウドさん達を追わないと。多分、あの二人では “セフィロス” には敵わないでしょうし」

 試練の山での出来事を、ロイドはセシルやロックから聞いていた。
 あの時、クラウドはセフィロスに手も足も出ずに、一方的に斬り捨てられたという。そしてクラウドとサイファーの実力は同レベルと考えれば、そんな二人がセフィロスと戦っても斬殺されるのは目に見えている。

「カイン隊長―――」
「断る。あんなヤツにもう興味は無い」
「・・・言うと思いました。なら、カイン隊長はヤンさんとセリスの三人で先へ進んで下さい」

 この三人ならばある程度のことは対処できるはずだ。
 そして残りのメンバーは。

「他の人達は俺と一緒にクラウドさん達を追いかけます」

 カインがやる気無いのなら、あの “セフィロス” とまともにやり合えるのはバッツしかいない。が、バッツではセフィロスを “倒す” ことはできないだろう。ならば、こちらにとれる行動は、バッツがセフィロスの相手をしている間に、何とかしてクラウドとサイファーを連れ出して逃げ出すことだ。そのためには人手が居る。

「―――いえ、私も塔の先へと進むわ」

 と、言ったのはキスティスだ。
 それはロイドにとって意外な言葉だった。

「貴女はサイファーさんを追いかけたいとばかり思っていましたが」

 ロイドがそう言うと、キスティスは苦笑して。

「まあ、心配ではあるけれど。ただ、この塔の技術はフォールスのものより、どちらかというと私達の技術に近いわ」

 確かに、ロイドもこの塔を見た時から同じことを思っていた。
 この塔はフォールスでは到底成し得ないような技術で作られている。材質一つ取ってもそうだ。カイン=ハイウィンドの脚力で傷一つ無く、歪みすらしない床など、ミスリルかアダマンタイトの二つくらいしか思い当たらない。
 しかし床の材質はそのどちらとも違う。見たこともない金属だ。

「もしかしたら進んだ先にこちらの知識が必要になるかも知れないでしょう? 例えば、電気錠の開け方なんて解る?」
「 “電気錠” という単語自体、今初めて聞きました」
「フン、開け方が解らないのなら破壊すればいいだけだ」

 こともなげにカインが言うが、ロイドはその足下を見て。

「その床と同じ材質でドアや壁が作られているとしたらどうッスか?」
「・・・む」

 カインはその硬さを確かめるかのように軽く床を踏む。
 先程の跳躍はほぼ全力だった。
 普通の床や地面などでは、その衝撃に耐えきれずに砕けてしまうのだが、この床は傷一つついていない。厚さにも寄るが、カインの全力の一撃でも同じ材質の壁を打ち破れるかどうかは疑問だった。

「そんなワケで、サイファーのことは任せても良いかしら?」
「・・・そうですね。そう言う意味なら、エイトスの人達は別れて貰った方が良いかもしれません」

 ロイドが頷く。

「ブリットもそっちの方に行ってくれる?」

 不意にリディアが言う。

「私とブリットは “誓約” によって繋がってる。二手に別れた後、連絡を取り合えたほうが便利でしょ」
「そうだな・・・バッツがいればリディアを守ってくれるだろうし」

 ブリットもそう言って頷く。

「ああ、任せとけって」

 ようやく先程のショックから回復したのか、バッツが胸を張って言う。
 だが、リディアはそこに水を差すように、

「別にバッツに守って貰おうなんて考えてないわよ。自分の身くらい、自分で守れるし」
「う・・・」

 お兄ちゃん、再びショックを受けて気落ちする。
 そんなバッツにさらに追い打ち。

「どうせバッツは誰かを守るなんて、器用なことできっこないんだから。余計なこと考えない方がいいよ?」
「あううう・・・」

 ボロクソに言われて、お兄ちゃん涙目。

「うっわ、泣かないでよ。気持ち悪いなあ」
「た、確かにそりゃ事実かも知れないけどさ。そ、そこまで言うこと無いだろぉ・・?」
「事実は事実でしょ。―――だからさ」

 ふ、と微笑んで、リディアは付け足した。

「バッツはバッツの行きたい道を前へ進むことだけ考えればいいのよ」
「・・・そうだな・・・俺は民を守るお偉い騎士様でもなくて」
「ましてや物語に出てくる英雄や勇者なんかでもない―――」

 と、そこで二人はまるで示し合わせたように口を揃えて。

「「 “ただの旅人” なんだからっ!」」

 などと言って二人してポーズなんか取ってみたり。

「―――おっし、決まった」
「うんうん、タイミングばっちり!」

 周囲が呆気にとられている中、二人はとても愉快そうにはしゃぎながらハイタッチ。
 ・・・なにこの寸劇。

「い、何時の間に打ち合わせしてたんですか?」

 思わず書いている作者さえ唖然としてしまう呼吸の合い具合に、ロイドが思わず尋ねると、二人は揃って首を横に振る。

「そんなんしてねーよ」
「するヒマなんてなかったし。アドリブだし」
「・・・そですか」

 当然のことのように言う二人に、ロイドはそれ以上言葉を失う。

「というか、仲いいのか? あの二人」

 つい先日、ガチでバトルしたとは思えない二人のコンビネーションにセリスが呟くと、それを聞いたヤンが苦笑して。

「まあな。仲が良い、というのなら、私はあの二人以上に仲の良い兄妹を見たことがない」

 


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