第19章「バブイルの塔」
Q.「最強対最強?」
main character:クラウド=ストライフ
location:バブイルの塔
火花散る。
槍と長刀がぶつかり合い、激しい金属音が鳴り響く。
それは間断なく続きながら、じわりじわりと塔の中へと進んでいた―――「うお、やってるやってるー」
ひゅー、と下手な口笛吹いたのはギルガメッシュだ。
山の上で遠くを見るように、額の上に掌でひさしをつくり、周囲の魔物を巻き込みながら激しく激突する二人の戦いを眺める。その二人とha,勿論先行して塔に入ったカインとセフィロスの二人だ。
カインが跳躍するたびに周囲の魔物をはじき飛ばし、それを迎撃するためにセフィロスが剣振るえば、ついでに近くの魔物を切り刻む。すでに自らその二人に近づこうとする者はなく、魔物達は遠巻きにその戦いを眺めていた。二人の動きは未だに衰えていない。
その様子を見て、バッツに肩を貸して追いついてきたヤンが呟く。「互角か・・・」
「いや・・・よく見ろ」ヤンの言葉を否定するように、クラウドが険しい顔をして、戦い会う二人を見つめる。
魔物達が身を引いたことによって出来た円形の闘技場でカインはセフィロスに向かって何度も何度も飛びかかる。
だが、その度に。
八刀一閃
大人の身の丈ほどもある長刀から繰り出される、一瞬にして無数の剣斬に迎撃され、カインの攻撃は届かない。
結果、カインが一方的に攻撃を受け、セフィロスは無傷だった。
カインの方も、攻撃を受けているとはいえ、その殆どは身に纏う竜騎士の鎧と、槍で受けているために致命傷は受けては居ない。だが、鎧の隙間から僅かに露出した肌からは血が滲んでいる。
さらに、浅いとはいえ多くの傷から出血しているためか、それとも攻撃が届かない精神的なものなのか、カインは小さく息を切らし、その表情にも疲労の色が濃い―――ようにヤンは感じられた。「カインが押されている・・・?」
「当たり前だ」なにを馬鹿なことを言っている、とでも言いたげにクラウドが言い捨てる。
「アイツが戦っているのは最強のソルジャーだ。同じ最強と呼ばれていようとも、竜騎士なんかが敵う相手じゃ・・・」
「そこのツンツン頭ぁーっ!」いきなり大きな声が飛んできて、クラウドは身をびくりと震わせた。
見れば、カインがこちらの方を向いている。
まさか今の話が聞こえたのかと思っていると、しかしカインは全く別のことを尋ねてきた。「こいつは本当に “セフィロス” なのか!?」
「なにを今更! そいつがセフィロスでなくて―――って、戦闘中に余所見をするなー!」クラウドが思わず警告の声を飛ばしたのは、こちらを向いているカインの向こうで、セフィロスが動き出したからだ。
剣を振り上げ、跳躍し、先程塔の入り口で登場してきたように、空中から長刀の切っ先を真下へ向け、カインに向かって襲いかかる!
獄門
竜騎士のお株を奪うかのようなジャンプ攻撃。
長刀の切っ先がカインの脳天を狙い、誰もがその兜を割、カインの頭蓋骨貫く―――と、思った瞬間。「本当に “セフィロス” だというのなら、ならばツ」
言いつつ、カインは何気なくバックステップ―――つまり、後ろ向きに先程までセフィロスが立っていた方向へと跳躍する。
同時、セフィロスの刀が塔の床を貫いた。「ンツン頭! 貴様知り合いのようだな!?」
まるでセフィロスの存在など完全に無視したかのように、普通にカインは会話を続ける。
紙一重に見て、しかし有り得ないほど余裕を見せるカインに、クラウドは目を見開いて唖然とする。「おい、聞いているのかツンツン頭!」
何も反応しないクラウドに、カインが再び呼びかける。
その声に我に返り、クラウドは怒鳴り返す。「クラウドだ!」
「は?」
「俺の名前はクラウド=ストライフだ! ツンツン頭じゃない!」
「貴様の名前など知るか!」
「・・・っ!」まさかと思ったが、どうやらカインはクラウドの名前を覚えていなかったらしい。
というか眼中にすら無かったようで、下手すると先程「セフィロス!」と叫んだ時にようやく存在を認知したのかもしれなかった。
そのことに屈辱を感じながらも、クラウドは怒鳴り返す。「知り合いじゃない! そいつは俺の―――」
「貴様の事情もどうでもいい! 顔見知りならばそいつに言え!」
「・・・・・・なにをだッ!」
「さっさと本気を出」
神速
カインが話している間に、セフィロスが剣を大きく振り上げて、間合いの外から振り下ろす!
幾ら長い刃でも届かないはずの距離だが、その一振りで空気が歪み、見えざる真空の刃が生み出され、カインに向かって一直線に飛ぶ。
だが。「せと! 出なければ勢」
不可視の刃を、まるで見えているかのように、カインは横に身をズラして回避する。
「い余って、さっさと殺してしまうぞ!」
相変わらず、目の前に何も無いかのように、カインはクラウドに怒鳴りつける。
クラウドは目の前の光景を理解できなかった。
“最強” のセフィロスを相手に、それを無視して会話を続けるカインが、まるで夢か幻のようにも思えた。―――いや、それよりも今ヤツは何と言った?「本気を・・・出せ、だと?」
軽く混乱しながら、吐き捨てるようにカインへ怒鳴り返す。
「な・・・にを言ってるんだ! さっきからセフィロスに手も足も出ない癖に!」
「・・・・・・」クラウドの言葉に、カインは押し黙り・・・・・・ゆっくりとセフィロスの方へと、ようやく視線を戻した。
「貴様も、同じ意見か?」
「・・・・・・」カインの問いに、セフィロスは何も応えない。
そもそも、さきほどから一言も発してはいなかった。その様子に、カインはやれやれと嘆息した。
虫でも追い払うかのように、軽く手を振りつつ、「・・・もういい、興味が無くなった。失せろ」
その言葉にセフィロスは無反応―――だが、代わりにクラウドが、
「なんだ・・・あいつ、さっきからなにを―――」
「あのー・・・」後ろから、声。
振り返れば、ロイドがおずおずと手を挙げていた。「なんだ?」
「や、あのセフィロスって人と知り合いなら忠告して上げた方が良いですよ? ―――さっさと逃げないと死ぬって」
「は?」
「いやいや、勘違いしているかもしれませんが、カイン=ハイウィンドの実力はあんな程度じゃない」
「アイツの実力がどうかは知らないがな。セフィロスは最強のソルジャーだ。誰にも負けやしない!」そう、クラウドが言い切った瞬間。
セフィロスが動いた。
縮地
長身を、高速で滑らせるようにカインへと接近させる。
そんなセフィロスに対して、カインは一言。「そうか」
「!?」その一言で、セフィロスの動きが止まった。
まるで、金縛りにあったかのように動きを止め、後ずさる。
対し、カインは冷笑を浮かべ、さらに唇を動かす。「死にたいんだな?」
ズドン!
まるで大砲のような音が塔内に鳴り響く。
それはカインが地面を蹴った音だ。ドワーフの城でも同じような音を立てて、床を蹴り砕いていたが、この塔はどんな材質でできているのか、傷一つついていない。先程のセフィロスの “獄門” も同様だ。しかし床が砕けない分、ロスが少なく、ドワーフの城よりもさらに速度が速い。
蒼い弾丸となって、カインはセフィロスへと突進する!
八刀一閃
先程と同じように、セフィロスの刀が閃き、カインを迎撃する。
一瞬に放たれる無数の斬撃が、カインの鎧を斬打してその勢いを削ぐ。弾丸のようだった勢いも、瞬く間にその勢いを殺され、失速して止まる―――「何度やっても―――」
無駄だ、とクラウドが呟きかけたその瞬間。
ズドン!!
止まりかけたカインが、即座に地面を蹴った。
それは最初よりもさらに強く。「・・・!」
再びセフィロスが迎撃しようとするが、攻撃を放った直後だ。 “無拍子” の使い手でもなければ、瞬時に次の攻撃に移れるはずもない。
「貫け」
ドラゴンダイブ
蒼い竜気を身に纏ったカインの槍が、セフィロスの胸元を貫いた―――
******
「・・・フン」
カインは槍を引き抜くと同時に、セフィロスの身体を蹴り倒す。
180cm越えのカインよりも長身のセフィロスはあっさりと倒れ、槍を貫かれた穴から血を流したまま動かない。「え・・・・・・?」
それを見て、誰よりも呆然としていたのはクラウドだった。
「ま・・・けた? セフィロス・・・・・・が?」
そこが敵の本拠地でなければ、クラウドは膝を突いていたかも知れない。
いや、全身から力が抜けて、今にも膝を突きそうだった、が。「ハッ、なんだよ。セフィロスってのも大したことねえなあ!」
嘲笑。
振り向くと、サイファーがガンブレードを肩に担いだまま笑っていた。「最強のソルジャーなんて大層な肩書きがついているからどんなもんと思ったがよ。あれか? そのサイキョーってのは、作り話かぁ?」
「・・・この野郎ッ!」クラウドの全身に力が戻り、サイファーに掴みかかる!
「セフィロスはあんなもんじゃない! あんなもんじゃ!」
「ケッ、なんだてめえはッ!」
「やめなさい二人とも!」
「やめんか貴様ら!」キスティスとヤンが二人の間に割って入る。
ヤンに羽交い締めにされ、クラウドがサイファーから離れる。「・・・ああ、そう言えばテメエもソルジャーだったよなぁ? なんだよ、お仲間がやられて悔しいってか?」
「仲間なんかじゃない!」クラウドはヤンの羽交い締めを強引にはがすが、少しは頭が冷えたのか、もう一度サイファーへ掴みかかろうとはしなかった。
「セフィロスは俺よりも強いんだ! お前なんか、この俺に負けたくせにィ!」
「ンだとこのやらあああああああっ!」
「だから止めなさいサイファー!」
「場所を考えろっつーのッ!」今度はサイファーが掴みかかろうとするのを、キスティスとロイドが二人がかりで止めようとする。
と、それまで黙っていたリディアがぽつりと呟いた。「ていうか、来るわよ。敵」
その言葉通り。
今までカインとセフィロスの戦いに気圧され、動きを止めていた魔物達が一斉に動き出す。
その殆どは塔の内部へ戻ろうとしていたが、あとの何割かはこちらに向かって襲いかかろうとしていた。「くっ! 体勢を立て直して―――」
「邪魔だあああああああああっ!」
リミットブレイク
晄ッ。
と、クラウドの身体が淡く碧く輝きを放つ。
そして、背に負っていた巨大な剣を大きく振り上げた。「クラウド!? ―――ふせろおおおおおおおおおおおッ」
ヤンの絶叫に、仲間達はクラウドを残して全員伏せる。
そのことを確認してかしないでか、振り上げた巨大な剣を振り下ろし―――まるでゴルフのスイングのようにもう一度振り上げる!
画龍点睛
轟ッ!
巨剣から生み出された突風が周囲の魔物達を吹き飛ばす!
その威力に、後続の魔物達も動きを止めた。「ク、クラウドォ! 何考えている、味方を巻き込むところだったぞ!」
ヤンが怒鳴るが、クラウドは全く聞いていなかった。
「おおおおっ! セフィローーーーーース!」
動きを止めた魔物達の間を、クラウドは駆け抜けて、カインとセフィロスの元へとたどり着く。
先程の戦いの余韻か、魔物達はその場から退いたままで、ぽっかりと空間が空いたままになっていた。
カインの目の前で、セフィロスは胸に穴を開けたまま動かない。「っ・・・本当に、死んで」
「だから言っただろう」至極つまらなさそうに呟いたのはカインだ。
「勢い余って殺してしまうと」
はあ、とどうでも良さそうな溜息を吐いて。
「最初は罠かとも思ったんだがな。だから踏み込まないでいたんだが―――フン、こんなことならさっさと殺しておくべきだったか。鎧が無駄に傷ついた―――」
「・・・くっ」カインの言葉を聞きながら、クラウドはわけのわからない気持ちが胸にわき起こるのを感じていた。
(クソッ・・・なんだ、この気持ち。セフィロスは・・・仇のはずだ。殺しても殺したりなり男のはずだ。そいつが死んだ、殺された・・・なのに―――)
クラウドはセフィロスの亡骸を泣きそうな顔をで見下ろす。
(―――なんでこんなに泣きたくなるほど悔しいんだ・・・!)
自分で仇を取れなかったためなのか、 “最強” で在るはずの存在が倒されてしまったためか、それともその両方か―――
クラウドは、剣を持っていない方の腕で自分の胸を抱き、歯を軋ませるほどに噛み締める。「・・・おい」
不意に、カインが何かに気づいたように声を出す。
だが、クラウドは気づかない。カインの声が届かない。
カインは仕方ない、とばかりに吐息して。それから足を振り上げて。蹴った。クラウドを。思いっきり。
「ぐあああっ!?」
思いっきり蹴飛ばされて、思いっきりクラウドは吹っ飛んだ。
「なんだっ!?」
クラウドが振り返る―――その目の前に、銀の刃がカインとの間に線を引くかのように横に突き出されていた―――