第19章「バブイルの塔」
P.「道を開く者」
main character:バッツ=クラウザー
location:バブイルの塔

 

 

「・・・ッ」

 目が合う。
 その瞬間、クラウドの身体が強ばった。
 頭は怒りで熱くなっている。けれどその反面、身体はつい先日、試練の山で斬り捨てられた記憶が蘇り、冷たい汗が流れていた。

「おいてめえ、立ち止まってんじゃねえっ!」

 魔物の群れをガンブレードのトリガーを引いた一撃でなぎ倒し、サイファーが怒鳴る。
 その声に押されるようにして、クラウドは剣を握りしめ、固い身体を無理矢理動かし、セフィロスに向かって足を出す―――が。

「邪魔だ」

 声は後ろ―――の上の方から。動じ、クラウドの肩に重く固い何かが乗る。

(足―――)

 それが竜の翼を象った鉄靴だと気づいた時には、クラウドの肩は踏み台となって、それが跳躍する。

「ぐおっ!?」

 踏み台になったクラウドは、その肩にとんでもない衝撃を受けた。
 骨が軋み、後ろに大きくよろめき―――ソルジャーだったからこそ、その程度で済んだ。普通の人間なら骨が粉々に砕けていただろう―――自分を踏み台にした青い影を目で追う。

「カイン=ハイウィンド!」

 クラウドが名を呼ぶが、青の竜騎士の耳には届かない。
 塔の中へと撤退する魔物たちの頭上を飛び越えて、一気にセフィロスの元へ跳躍。するだけではなく。

 

 ドラゴンダイブ

 

 青い闘気―――竜気を全身と槍に纏わせ、勢いのままに槍を突き出す。
 途中、空を跳ぶ魔物を何体か貫き、はじき飛ばすがその勢いは衰えず、むしろ身に纏う青はますます勢いを激しくして、セフィロスへと突撃する。

 だが。

 

 八刀一閃

 

 セフィロスの身の丈ほどもある長大な刀が閃き、無数の斬撃が迫るカインを襲う。
 一つ一つの斬撃が、カインの竜気を散らし、その勢いを削ぎ、ついには―――

「―――ちっ!」

 突撃の耐性を崩し、カインはセフィロスの一撃を槍を盾にして受け止める。
 すでに勢いはなく、カインは空中で刀を止めた状態で一瞬止まり、そのまま魔物の群れの中に落下する。

「フン―――」

 しかしカインは地面には着地せず、手頃な魔物の頭を踏みつけると、そのままセフィロスの脇をすり抜けるようにして塔の中へと飛び込む。
 セフィロスの背後に向かって槍を構えた―――ところでセフィロスもカインを振り返った。

「最強のソルジャーか・・・戦ってみたいとは思っていた」
「・・・・・・」

 最強と最強が対峙する―――・・・

 

 

******

 

 

 カインが塔の中に飛び込み、続いてセフィロスがそちらを振り返って、塔の中へと消えていく。
 それらを見送って、キスティスがぽつりと呟いた。

「あらら。置いて行かれちゃったみたいね」

 その隣ではクラウドが、セフィロスの消えた塔の入り口を凝視する。

(俺は眼中に無いとでも言いたいのか・・・セフィロス!)

 怒りを噛み締め、クラウドはセフィロスを追って前へと進もうとする。
 だが、その途端に、先程まで塔の中へと向かっていた魔物の群れの流れが止まる。
 何故、と思いかけて即座に理由が解った。塔の入り口。そこでカインとセフィロスが戦い始めた、そのためにそれ以上魔物達が塔の中へ入れずに、留まってしまったのだろう。

 そんな状況に、ロイドが嘆息する。

「こいつは予想外ッスねー。もう少しで塔の中なのに」
「どうする? 全員蹴倒していくか?」

 向かってくる魔物の一体を、言葉通りに蹴倒しながらヤンが問う。

「いや・・・それじゃ時間もかかるし消耗も激しいッス。転移魔法はどうッスか?」

 と、ロイドはキスティスとセリスに視線を投げかけるが、キスティスが首を横に振った。

「できないことはないけれど、どうなっているか解らない場所に転移するのはゾッとしないわ。塔内で戦ってるであろう二人の間に割ってはいるような形になったら最悪でしょ?」
「宙を行くのはどう? 浮遊魔法なら―――」

 リディアが提案するが、即座にセリスが否定する。

「止めておいた方が良いな。この状態で宙に浮かべば、格好の的だ。特に流れが停滞した今、こちらに興味を移す魔物が―――増えてくる!」

 ザシュッ、と襲いかかってきた魔物を斬り捨てつつセリスが言う。

「じゃあ、どうしろって言うの!?」

 自分の意見を否定されたのが癪なのか、それともセリスの事が気に食わないだけなのか、リディアは苛立ちを隠そうともせずに怒鳴る。

「・・・やはり、斬り捨てていくしかないだろう」

 剣を一閃させながらブリットが言う。
 自分と同じゴブリン族が向かってきたが、躊躇うことなく彼は剣を振るった。

「・・・だったら俺がやるよ」

 ぽつりと呟いたのは、それまで黙っていたバッツだった。

「やるって・・・なにを―――」
「消耗するのは避けたいんだろ? だったら―――」

 バッツはエクスカリバーを構え、塔の入り口を見据える。
 そしておもむろにその言葉を放つ。

「―――その剣は疾風の剣」
「・・・斬鉄剣か!」

 ヤンが叫び、仲間達に呼びかける。

「皆、バッツを魔物達からガードしろ! ―――但し、間違ってもバッツの前に立つなよ!」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 ヤンが指示を出した瞬間、魔物達は本能で危機を感じ取ったのか、一様にバッツに狙いを定め、襲いかかる。

「させないッ!」

 それを、リディアとセリスの魔法や、キスティスのムチが牽制し、それらをかいくぐってきた魔物達をヤンとギルガメッシュが撃退する。

「・・・セフィロス・・・!」

 クラウドは尚も前に出ようとする―――が、それの首根っこをヤンが掴み、強引に引き戻した。

「前に出るなと言った!」
「うるさい! 俺は―――」

 クラウドが、邪魔をするヤンにくってかかろうとしたその時。

「究極の速さの前には、あらゆるものが斬られぬことを許されない―――」

 最強にして無敵の秘剣が発動する!

 

 斬鉄剣

 

 気がつくと、バッツの気配が消えていた。
 気配のない違和感に、クラウドが振り返るとその場にバッツの姿は無く。

「―――悪い、な」

 そう呟いたバッツは塔の入り口に立っていた。
 表情を暗く、俯かせて手にした剣を腰の鞘に収める。同時。

 一閃。

 塔の入り口に立つバッツに向かって続いていた魔物の列が二列ほど、斬り裂かれて地面に倒れる。
 まるで奇跡のように魔物の群れの中に道ができる。

「なんだ・・・と・・・?」

 クラウドが凍り付いたように立ち止まり、バッツを凝視する。
 それは他の面々も似たような様子だったが、いち早く我に返ったのはヤンだった。

「なにをぼーっとしている! 駆け抜けろ!」

 バッツが斬り裂いた “道” を、再び魔物達が同胞の死骸を踏み散らし、埋めようとしていた。
 そこに向かって、ヤンが駆け出す。
 それは斬鉄剣の速さには及ばないものの、それは風の如く疾風の如く。風神の加護を身に纏い、ヤンは疾走し、群がり始めた魔物達に向かって蹴りを放つ。

 

 風神脚

 

 疾風の蹴りが魔物の群れを再び蹴散らした。
 そのまま、ヤンはバッツの元まで駆け抜ける!
 他の仲間達も、ヤンに続いて、魔物の道を駆け抜けてくる。

「―――大丈夫か?」
「あ? ・・・あ、ああ・・・・・・」

 にやり、とバッツは笑ってみせるが、その笑みには力がない。
 それは斬鉄剣という秘技を使ったが故の消耗ではない。魔物とはいえ、生命を奪ってしまったがために心が軋んでいるのだとヤンは知っている。

「すまん。辛い思いをさせた」
「・・・俺がやらなきゃ、もっと辛いことになってたさ」

 誰かが “道” を作らなければ、魔物の群れを全滅させなければならなかったかも知れない。
 仲間達も傷ついて、最悪、誰か力尽きていたかも知れない。
 それが解ったからこそ、バッツは剣を振るった。

「あいつの―――・・・セシルのことが少しだけ解ったような気がする」

 力無い声で、しかし確かな意志を込めた声でバッツは呟く。

「きっとあいつは、いつもこんな事ばかりしてたんだ。少しでも辛いことを少なくするために何かを傷つけて、何かを傷つけないために自分で苦しんで」

 そう呟くバッツの表情には、徐々に力が戻ってきていた。
 ―――その頃には、他の仲間達も追いついてきた。

「大丈夫か?」

 と、ヤンがもう一度バッツに問いかける。
 バッツは頷き、

「あいつはどんなに辛くても苦しんでも、きっと途中で立ち止まったりしない―――俺だって・・・!」

 その声には力と意志があり、バッツは塔の中へと足を進めた―――

 

 


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