第19章「バブイルの塔」
O.「降ってきた “最強”」
main character:ロイド=フォレス
location:地底・バブイルの塔
“赤い翼” の爆撃の雨の中、ドワーフとSeeD、それから魔物の双方とも撤退を開始していた。
ドワーフたちは戦車を捨て、散り散りになって逃げ出す。
SeeD達の何人かが転移魔法を使って避難させていくが、逃げ遅れるドワーフたちもいる。空から落下して、地面で爆発を起こす爆撃の威力は、戦車砲のそれよりも威力が高い。
打ち出す、という仕組み上、戦車の砲弾には大きさの点で制限がある。砲弾が大きければ大きいほど、当然のように砲塔も大きくなり、必要な火薬の量も増えていく。そしてあまり大きすぎては重すぎて戦車が動かない。だが、飛空艇からの爆撃は上から落とすだけだ。
砲塔や火薬を必要としない分、飛空艇に積載可能ならばどれだけ大きくても構わない。極端な話、飛空艇の倉庫に詰め込められるだけ火薬を詰め、その飛空艇を墜落させることによって超巨大な爆弾とすることもできるのだ。「ラリーーーーーーーーーーーっ!」
また一つ、飛空艇から爆弾が落とされ、ドワーフの数人が宙を舞う。
魔物以上に頑丈なドワーフは、頭の上に爆弾が直撃でもしない限り、一発程度なら耐えられる。
しかし吹っ飛ばされて身動き取れなくなったところを、別の爆撃が襲えば―――・・・「・・・・・・」
飛空艇の爆撃に吹き飛ばされるドワーフたち。
ドワーフ王ジオットは、その光景を、戦場からは少しばかり離れた高台の上から眺めていた。王である彼は、飛空艇が出現した時に、SeeD達の手によって一番最初に転移魔法で避難させられた。
それからずっと、爆撃の雨に晒されている自分の配下の者たちを眺めていた。「ドワーフ王」
背後から声をかけられる、が、ジオットは振り向かない。
その声には聞き覚えがあった。ジオットを逃がしてくれたSeeDの一人だ。「戦場から離れているとはいえ、ここは危険です。早く城の方へお戻りに―――」
「いや・・・ここでいい」遠目に見る、爆発に舞うドワーフたち。
その姿から、彼は目を反らそうとはしない。王たる者、先陣を切ることはあっても、殿<しんがり>となることは許されない。
何故ならば、どんな負け戦であっても、王が生きている限り完全敗北にはならない。故に、逃げる時に王は一番最初に逃げなければならないのだ。そんな王にとって、せめてできることはこうして部下達の傷つく姿を目に焼き付けることだった。
「・・・・・・」
その背後に控えるSeeDの青年も、それ以上は何も言う気はないようだった。
ただ、背の低いドワーフ王の後ろ姿を眺め見て思う。
SeeDとして今まで何度も戦ってきたが、それは傭兵として依頼された任務に従ってきただけだ。だが、もしも自分で依頼主を――― “王” を選べるのだとしたら・・・(こういう王様に仕えるってのも悪くないかもしんないな)
思いつつ、彼は王の視線の先のさらに先、地の底から地上を抜け、天空へと伸びる巨大な塔の麓を見る。
そこには、この任務の主役達が、魔物達に紛れて塔へと進入しているはずだった―――
******
ブレイバー
ざむンッ!
クラウドの巨剣の一撃が周りの魔物達を薙ぎ払う。
「って、あぶ、あぶ、危ないッスよ! 今、眼前を剣が掠めましたって」
「当てないようには気をつけた」
「そもそも混戦状態で、そんな馬鹿でかい剣を振り回すなー!」ロイドの抗議の声に、クラウドは我関せずと、再び剣を振り回す。
その勢いで魔物が怯んだ隙を突き、青い影が魔物の群れを貫いた。
ドラゴンダイブ
青い闘気を纏った竜騎士の一撃に、魔物達の十何匹かがまとめて吹っ飛ばされる。
その一撃でできた道を、仲間達が走り抜けた。「・・・てゆーか、あんまり無闇に殺すなよ。こっちに向かってくる奴らだけでいいじゃんか」
不機嫌そうに言ったのはバッツだった。
何かが傷つくことに嫌悪を感じる彼は、魔物が死ぬことにすら忌避感を抱く。例えそれが自分を殺そうと牙を剥いて襲いかかってくる魔物であろうとも。「同感だな」
と、バッツの言葉に同意したのは意外にもセリスだった。
彼女は自分に襲いかかってきた黒い巨大なトカゲを切り伏せながら、暴れ回るカインとクラウドの二人を冷ややかに見やり、「まだ塔にすら辿り着いていない。そんなに飛ばせば後でバテるぞ」
同意、とは言ってもバッツのニュアンスとは少しばかり違うようだった。
ちなみに今、セリス達は魔物の群れが塔の中へと逃げ帰る中、その流れに乗って進んでいる。
魔物達は先程の命令に絶対服柔なようで、群れの中に紛れた人間達には目もくれず、我先にと塔の中へ戻ろうとする。
ただ、中には魔物としての本能がゴルベーザの洗脳を上回るモノも居り、時折、牙を剥いて襲いかかってくる。
それに対して、ヤンがロイドを、ブリットがリディアをそれぞれガードして、カインとクラウド、それにサイファーが反撃とばかりに攻撃を仕掛ける。その他の者たちは、セリスと同じように襲いかかってくる魔物だけを迎撃していた。「フッ・・・安心しろ。お嬢さんと違って、この程度でバテたりはしない」
セリスの台詞が聞こえていたらしい。
次々と魔物達を屠りながら、カインがそんなことを言う。対し、セリスは舌打ち一つ漏らし、「・・・あとで力尽きても助けてやらん」
などと返してみるが、実際、カインが力尽きることはないだろう。
雑魚が相手ならば “竜剣” によって永久に戦い続けて居られるような男だ。「はいはい、そこケンカしないの。もうすぐゴールよ!」
「どっちかっていうとスタートって感じですけどね」キスティスの言葉に、ロイドが苦笑する。
その二人の言葉通り、塔の入り口は眼前に迫っていた。「・・・へぇー、間近でみるとかなりでっけーなあー!」
脳天気な声で感想を口にしたのはギルガメッシュだ。
ギルガメッシュの言うとおり、巨大な塔だ。その入り口の大きさは、バロンの城の城門よりもさらに大きい。「・・・こりゃ、塔の中を探索するのは骨が折れそうッスね」
ロイドが苦々しく呟く。
(・・・ロックをバロンに戻したのは失敗だったか―――)
トレジャーハンターとして数多の迷宮を渡り歩いたロックならば、こういった塔の探索もお手の物だろう。
だが、部隊の中で飛空艇を扱えるのはロイドとロックの二人だけだ。そしてロイドは実質上、この部隊の指揮官である(本来の部隊長であるはずのカインは、鼻から自分が部隊を率いるつもりはない)。
だから飛空艇を修理にバロンに戻すには、ロックに頼むしかなかったのだが。(焦って飛空艇を戻さなくても良かったかも知れなかったしな。果たしてどっちが正しかったのか―――)
などとロイドが悩んでいると、
「へっ、一番乗りだ―――」
サイファーが魔物をガンブレードで蹴散らしつつ、塔の入り口に一歩踏みだそうとした―――その瞬間。
「下がれぇぇぇええええええええええっ!」
いきなりバッツが絶叫した。
その叫びに、一瞬、サイファーの動きが止まるが、即座に何かを感じ取ったかのように身を低くして後ろに跳び退る。
獄門
サイファーの頭上から何かが降ってきた。
それは長大な刃を地面へと突き立て、その衝撃で周囲を吹き飛ばす!「ぐお・・・っ!」
それはサイファーも例外ではなく、刃に穿たれた地面の欠片ごと、魔物と一緒になって吹っ飛ばされた。
「あ・・・アイツ、なんで・・・」
それを見て愕然と声を震わせたのはクラウドだった。
動きを止め、空から降ってきたそれ―――銀髪で長身の、クラウドと同じ色の瞳をした青年を凝視する。息を呑むクラウドの隣で、キスティスの表情が険しくなる。
「その顔、見たことがあるわ―――写真で、だけれど」
「なんだよ、知ってるヤツか?」バッツが問いかけると、キスティスは強ばった笑みを浮かべて頷く。
「ええ、超有名人よ。貴方だって名前くらいは聞いたことがあるはず―――カイン=ハイウィンド、レオ=クリストフと並ぶこの世界 “最強” のソルジャー―――」
「まさか」最強のソルジャー、というフレーズで思い当たる人間は一人しか居ない。
その名は―――「セフィロォォォォォォォォスッ!」
クラウドがその名を絶叫する。
その名を聞いて、銀髪の青年―――セフィロスは、長大な刀を地面から引き抜くと、うっすらとした感情のない笑みを浮かべてクラウドを振り向いた―――・・・