第19章「バブイルの塔」
L.「アルテマの塔」
main character:ロイド=フォレス
location:地底・バブイルの塔
地上でマッシュが燃やされたりエッジが燃やされたりミストの呼びだした巨人がやっぱり燃やされたりしていた頃。
ロイド達はその真下―――地底に立つバブイルの塔のすぐそばに居た。
塔の入り口からは死角となる岩陰に潜み、周囲に響き渡る砲撃の音を、息を潜めて聞いている。「おい、まだかよ?」
焦れたように問いかけたのはギルガメッシュだった。
「早く突入した方が良いんじゃねえか?」
「落ち着いてください。まだ始まったばかりッスよ」苦笑しながらロイドが宥める。
まだドワーフの戦車隊が最初の砲撃を開始してから5分と経っていない。「この作戦は一番最初が肝心なんですから。もうちょっと落ち着いてくださいよ」
赤い鎧の戦士を宥めながら、ロイドは数日前に話し合った作戦を思い返していた。
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ロックとフライヤが、飛空艇の改良のためにバロンへと飛び立ったその後。
バッツやクラウドなど、負傷者達の回復と、ドワーフたちの戦車の整備など、戦闘準備が終えるのを待って、バブイルの塔へ進撃した。幸いと言うべきか、ドワーフの秘薬や回復魔法も手伝って、負傷者の方は一日寝ただけでほぼ全快した―――が、問題はドワーフたちの戦車の方だ。
赤い翼に叩きのめされた戦車の殆どはまともに動かすこともできない状態で、一日二日では完全な修理は不可能。しかしここで戦車隊が完全編成できるまで待てば機を逃す。
クリスタルを奪われてしまったが、しかしそれもゴルベーザ側にとってはギリギリの辛勝と言ったところだ。
今のゴルベーザ陣営に余力はない。だから今が攻める好機だと見たロイドは、強引な作戦を打って出ることにした。「戦車がまともに動かないのなら、砲台として使わせて貰いましょう」
ドワーフの城での作戦会議で、ロイドはそう提案した。
戦闘機動は不可能でも、少し手を加えれば動かすことくらいはできるものは少なくない。
ならば、戦車はその頭に着いた砲台を運ぶだけのモノだと割り切って使用する。「戦車隊はバブイルの塔周囲を半円形で取り囲むように進軍。有効射程位置に着いたなら、その場で足を止めて砲撃開始」
「しかし、あの塔は我々の持つ技術よりも数段上のものだ。如何に我らドワーフ戦車隊の破壊力が優れていようとも、あの塔には傷一つ付けることは敵うまい」反論したのはドワーフ王ジオットだった。
その王の言葉に、ロイドはふとあることが気になった。「ジオット王。貴方の口ぶりだと、あの塔についてお詳しいように聞こえます」
ロイドが問うと、王は「うむ」と頷いてから語り始めた。
「・・・バブイルの塔がいつ作られたものなのかは誰も知らぬ。どんなに古い歴史書を紐解いても、それが誰の手によって作られたものなのか記録されて居らず、またどんな古い時代の書にも、その塔は名を変えながらも存在する」
「名を?」口を挟んだのはキスティスだった。
―――ちなみにドワーフの城の会議室に居るのはロイドとジオット王にキスティス、それからセリスとヤンの四人だけだった。
リディアはどうでもいいと言わんばかりに何も言わずに散歩に出かけ、バッツとギルガメッシュはそれに付き合う。クラウドは「逃げんじゃねー!」と熱烈再戦希望のサイファーから面倒くさそうに逃げ回り、カインはアベルに乗って「戦いまでには帰ってくる」などと言い残してフリーダムに飛び去った。つまり。
自然と残ったのがこの5人だったと言うわけだ。
ロイドにしてみれば、一応この部隊の隊長であるカインには残っていて欲しいところだったが。(まあ、あの人にそーゆーのを期待するだけ無駄ッスね)
セシルも割と “赤い翼” の訓練計画や経理などの事務仕事を殆どロイドに丸投げしていたが、カインは事務関係は自分の副官に丸投げした上に、竜騎士団の作戦内容をセシルやロイドに立てさせた。
カイン曰く、「俺よりもお前達の方が有用な作戦を考えられる」と。何度も述べたがカイン=ハイウィンドは決して槍を振り回すしか能の無い男ではない。
やろうと思えば、少なくとも作戦の一つも立てられないお馬鹿ではない。
現に、一度ロイドが冗談のつもりで穴だらけの作戦立案して持っていったら、その全てを指摘された挙句、ロイドも見落としていた穴まで指摘された。しかも。「俺は冗談は嫌いなわけではない、が。他人にコケにされて喜ぶ阿呆でもない」
冷たくそう言い捨てられて、槍を喉元に突き付けられた。
意訳すると、 “次に同じようなことをしたら刺し殺す” 。繰り返すが、カイン=ハイウィンドは槍を振り回すだけが能の人間なだけではない。
単に、飛竜に乗って槍を振り回すことしか興味がないだけだ。さて、話は戻って作戦会議。
「ほう、バブイルの塔に別の名が? それは初耳だな」
ヤンが興味深そうに言う。
地の底からそびえ立つバブイルの塔は、フォールスに住む者ならば、実際に見たことはなくともその名を知らぬ者は居ない。
子供の頃から知っている塔の名に、別の名前があるというのは興味がある。「うむ。バブイルの塔―――かつては “アルテマの塔” と呼ばれていたと・・・」
「アルテマ!?」驚いた声を上げたのはセリスだった。
がたんと椅子を蹴倒すようにして立ち上がるほど驚いた彼女は、不意に我に返ると、倒れた椅子を起こして座り直す。「・・・すまない、少し驚いたものでな」
「いや、少しってレベルじゃなかったッスよ? なんなんですか、そのアルテマって?」セリスが反応したところをみると、おそらく魔導―――魔法に関するものだろう。
「究極魔法アルテマ―――封印されし四大魔法の一つだ」
「四大魔法・・・?」
「そう。フレア、ホーリー、メテオ、アルテマ―――・・・あまりにも強力すぎて封印されてしまった4つの禁術。そのなかでも最大最強威力を誇るアルテマは、一つの地域を吹き飛ばすほどの威力があるという・・・」
「一つの地域って・・・フォールスで言うなら、西はエブラーナから東はファブールまでがごっそりと?」ロイドが冗談めかして言うと、セリスは神妙に頷く。
「・・・まあ、実際の威力については眉唾だが。なにせ、その魔法が使われた記録は残っていない―――少なくともガストラ帝国が集めた資料の中では、な」
もっと魔法に詳しい―――例えばミシディアや、ファイブルにある古代図書館ならばもう少し詳しい話が乗っているかも知れないが、とセリスは最後に付け足した。
セリスの言葉にジオットは一度頷き、そして首を横に振る。「だが今はそのアルテマは関係ない。1000年の昔に “のばらの英雄” が解放し、塔からは失われている」
「 “のばらの英雄” というのは初耳だが、アルテマの封印が解かれているというのは私も知っている―――もっとも、強大な魔法故に1000年経った今も扱える魔道士は現れていないようだが」ジオットの言葉をセリスがフォローする。
「それで? 究極魔法が無くなった今、その塔になんの意味があるのかしら?」
問いかけたのはキスティスだ。
その疑問は他の面々も同じだったようで、皆の視線がジオットに集中する。「あの塔をいつ誰が作ったのかは解らない。だが、どういう者たちが作ったのかは解っている」
「どういう意味?」
「セトラの民と自らを名乗る人間達だ。我らはクリスタルをその人間達から託されたと言われている」
「セトラの民、か。聞かぬ民族だが・・・」ヤンが周囲を見回せば、それは誰も同じだったようで、全員が怪訝そうな表情を浮かべている。
「我らドワーフも詳しい事は知らぬ。ただ彼らは、塔を使い天へ昇る際に、我らドワーフの先祖に4つのクリスタルを託した」
「それが闇のクリスタルか・・・」ふむ、とロイドは考える。
地上にあった4つのクリスタル。それはおそらく、バブイルの塔へと入るための “鍵” だったのだろう。何故なら、ゴルベーザ達は4つのクリスタルを手に入れるまで、バブイルの塔そのものには見向きもしていなかった。カインの話では、一度は塔のすぐ近く、エブラーナまで来たというのに立ち入ろうともしなかったという。(なら、地底の闇のクリスタルの意味は、やっぱり・・・)
今までの話を総合すると、クリスタルとは “月へと至る鍵” だという。
そして今、ジオットはセトラの民は塔を “使って” 天に昇ったといった。つまり―――「闇のクリスタルとは、塔に秘められた月へ至る装置を起動させるために必要な “鍵” ってところッスかねー」
「そんなところだろうが、問題は―――」
「―――その月になにがあるかということよね」セリスの言葉の後半を、キスティスがさらって言う。
自分の言葉をとられて、セリスは少しムッとした表情を見せるが、大人げないとでも思ったのか、すぐに表情を消す。そんな彼女にキスティスは微笑みながら、「随分と脱線したようだけれど、そろそろ本題に戻しましょう?」
「ですね。さて、どこまで話しましたっけ?」
「まだなにも話していない。ロイド、お前が塔に向けて砲撃を開始すると言ったところまでだ」ヤンが言うと、「そうでした」とロイドは頷いた。
「しかし、さっきも言ったが戦車の攻撃は塔には通用せん。それでどうするつもりなのだ?」
ジオット王が同じ問いを繰り返す。
ロイドは一つ頷いて、「我々の目的は塔を破壊することでは無いッス。塔を攻撃していれば反撃して来るでしょう?」
「解った。つまり、戦車隊が敵の攻撃を引き寄せているうちに―――」
「―――少数で侵入する、と」
「・・・・・・」またも自分の言葉を奪ったキスティスを、セリスが不機嫌そうな顔で睨む。
女二人のやや険悪な雰囲気は置いておいて、ヤンが懸念を口にする。「しかし、反撃してこなければどうする? 戦車の砲撃も通用しない塔の中に篭城されてしまえば、手も足も出ないだろう」
「そうなればまたその時に考えますよ―――まあ、多分大丈夫だと思いますけどね」
「その根拠は?」
「あっちにはまだ “奥の手” がありますから―――」