謁見の間。
先程も通されたその場所に、ロイド達は集められていた。その場にいるのは、ロイドとカイン、ロック、フライヤの四人に、ドワーフ王ジオットを初めとするドワーフたち。そして、キスティスと三名ほどのSeeD達が集まっていた。
バッツとリディアは気を失ったまま、寝室を借りて休ませている。セリスとヤンはほかのSeeD達を別室に集め、何人かのドワーフたちと一緒にそれらを監視しているためにこの場にいない。
ギルガメッシュは暇潰しだとか何とか言って、城の中を散策しているようだった。「必要あるとは思えんな」
ロイドから事情を聞いたカインは、開口一番そう言いはなった。
―――あの “交渉” の後、キスティスはロイドの依頼の内容を聞いて、それを受けた。
さらに人質もすぐに解放された。
ロイドの依頼はそれほどの無理を言っているわけではない。すんなり受けて貰えると踏んではいた―――が、即座に人質を解放されるとは思っても見なかった。誠意を見せてくれたということなのだろうが、もしもロイドとジオット王の意見が食い違った場合、どうなるか解ったものではない。
もしも城を攻められ、同胞を殺された恨みを、この一件で刺激されたとしたら・・・もっとも、そうなったらなったらでキスティス達は即座に逃げ出すだろう。
ドワーフ相手に悠々と逃げ出すくらいの実力をSeeD達は持っている。
それを考えれば、キスティスのとった行動の意味は、ロイド達―――特にカイン=ハイウィンドを敵に回さないことが目的だったのかも知れない。「あら、それはご挨拶ね」
カインの言葉に反応したのはキスティスだった。
彼女はうっすらと笑みを浮かべてカインを見返す。「確かに私達は貴方に敗れたは―――けれど、あんな奇襲で私達の実力を計って貰っては困るわね」
「下らんな。なにが起こるか解らん戦場で、あれは奇襲だ卑怯だと言い訳するのが傭兵の流儀か?」
「あー、ちょっとストップストップ!」なにやら言い合いを始めたカインとキスティスの間に割って入る。
ロイドは非難がましくカインの方を見やり。「カイン隊長! どうしてそう、いちいち突っかかるんですか!」
「突っかかって来たのは向こうだろう」
「私は当然の反論をしただけよ」
「キスティスさんも! ・・・別に、今のはアンタ達SeeDを侮辱したワケじゃないッスよ」
「必要がない理由はアンタ達じゃなくて、ゴルベーザの方にあるって事だ」ロイドの言葉を受け継いだのはロックだった。
「俺達の相手―――ゴルベーザの戦力は大幅に低下してる。地上で奴らの四天王とか言う奴らを倒して、主力だった筈の魔物達も半分以上壊滅。だからこの地底ではわざわざエイトスくんだりからアンタ達SeeDを雇って来たと」
「成程。そしてそれも殆どがカイン=ハイウィンドに潰され、残った者たちはこうして捕虜になっている、と」僅かに自嘲込めてキスティスが言う。
「今のゴルベーザ達ならば、俺とアベルだけでも十分なくらいだ」
カインがそう言い捨てる。
それはあながち誇張でもない。人竜一体となったカインとアベルの力は一軍にも匹敵する。「ま、俺もカインに同感だな。ここでわざわざSeeDを雇う理由は無いだろ。素直にエイトスに返してやった方が後腐れ無くて済むんじゃないのか?」
ロックの言葉にロイドが頷く。
「・・・確かに、俺もさっきまではそう思っていた。SeeDを雇った時点で、もうゴルベーザ側に力はない、もう負けることはないってな」
「なら―――」
「けどよく考えてみろよ。それでも俺達は負けたんだぞ」戦力の大半を失いながら、それでもゴルベーザは目的―――この城にある闇のクリスタルを手に入れた。
戦局だけを見れば、カインがSeeDを蹴散らし、セリスが人形を焼き払い、さらにはゴルベーザを撃退し、勝利したようにも思える―――だが、実際は相手に目的を果たされたという意味では敗北なのだ。「少しでも生還する確率を上げようとするキスティスさんを見て俺は思い出したよ。身近にそんな人が居たことを」
「・・・お前は、ゴルベーザのヤツが、セシルと同じだとでも言いたいのか?」憮然とそう言ったのはカインだった。
対して、ロイドは首を横に振る。「同じだとは言いません。相手がセシル=ハーヴィなら俺は絶対に勝てませんから―――ですが、甘く見て良い相手でも無いと言うことです。一時とはいえ、カイン=ハイウィンドが仕えた相手でもある」
「あれはっ、ヤツのダークフォースに惑わされて」
「ただの雑魚にアンタが惑わされるとは思えませんね」
「む・・・」
「とにかく、ゴルベーザという男はこちらが優勢だからと言って、舐めてかかれる相手ではないと言うこと―――だから打てる手はなんでも打っておきたいんです」言いながら、ロイドは自身の胸に苦い敗北感が広がるのを感じていた。
それはゴルベーザではなく、セシル=ハーヴィに対するものだった。(・・・くそっ、セシル王なら・・・あの人ならむざむざクリスタルを奪われたりはしなかった)
思い出されるのはファブールでの攻防戦。
その頃、バロンの牢屋に入っていたロイドは聞いただけの話だが、普通ならば一瞬で決着が着いてもおかしくないほどの戦力差を、セシルは耐え凌ぎ、結局クリスタルを守りきった。セシルのダークフォースの暴走、まるで別人のように性格が変わったバッツの変異など、妙な要素もあったようだが、それらを差し引いても、尋常な話ではない。同じ事をやれと言われても、ロイドにはどうあがいても不可能だ。
(自分で言った通りだ。俺はあの人にはどうしたって勝てやしない)
だが、と心の中で思い直す。
(俺達の敵はゴルベーザだ。セシル=ハーヴィじゃない。だったら、俺に出来ることをやるだけだ)
決意して、ロイドはロックへ向き直った。
「ロック、頼みがある」
「あん?」
「エンタープライズで一旦、バロンに戻ってくれ」ロイドの言葉に、ロックは予想もしていなかったのか、目を丸くする。
「ちょっと待て。俺一人でか!?」
「いや、フライヤさんに護衛してもらう。空中なら竜騎士が適任だろうけど、カイン隊長は戦力としてはずせないから・・・」
「ふむ、確かにな」驚くロックとは対照的に、フライヤは納得したように頷く。
「もっとも、要らぬ護衛とは思うがな。飛空艇の速度なら、並の魔物は追いつけぬし、そもそも近寄ってくることもない」
「はい。だから念の為ってことです」
「ちょっと待て、話を進めるなよ! 俺とフライヤだけバロンに戻して、お前らはどうするって言うんだ!?」ロックの問いに、ロイドは「とりあえず落ち着け」と宥めて、
「さっき、飛空艇の機関部を確認したんだが、どうにも制御機関が地底の熱でオーバーヒートしたのが、出力低下の原因らしい。応急処置はしておいたから、なんとか地上に戻ることは出来ると思う―――けど、根本的になんとかしなけりゃ、また同じことの繰り返しだ。この先も飛空艇は必要になる、だから―――」
「だから地上に戻って、シドの親方に地底でも問題なく動かせるように改造してもらうって言うのか?」
「その通り。そして、お前が地上に戻ってる間、俺達は―――」ロイドはそこで言葉を切り、その場の面々を見回して間を置くと、一息に言い放った。
「ゴルベーザの本拠地―――バブイルの塔に攻め込む!」