第18章「あにいもうと」
L.「城内制圧」
main characterキスティス=トゥリープ
location:ドワーフの城・牢屋

 

「やあやあ、元気してるかね、同志諸君!」

 などと脳天気に陽気な声を上げながら入ってきたのは、赤い鎧の男―――ギルガメッシュだった。
 牢番をしていたドワーフは二人。
 その二人のドワーフは、突然の闖入者に戸惑う。
 その様子に、ギルガメッシュは「あ、いけね」と頭を掻きつつ、言い直す。

「やあやあ、元気してるかね―――ラリホー!」
「「ラリホー♪」」

 まるでドワーフたちは、ギルガメッシュが旧来の友人であるかのように陽気な声で応えた。
 ラリホー。それはドワーフたちの心を開く合い言葉(そもそも、根が陽気なドワーフは元々心はフルオープンに近いが)。

「こんな牢屋まで来るなんて、牢屋の中のニンゲン達に、なにか用事ラリ?」

 ドワーフその位置が聞き返すと、ギルガメッシュは「いやいや」と首を横に振る。

「俺はあんたらに用事があってきたのさ―――ええと」

 ギルガメッシュが口ごもると、二人のドワーフはそれぞれ名乗りを上げる。

「俺の名はロンメル」
「俺の名はドワッジ」
「「二人合わせてロンメルドワッジ!」」

 びしいぃ、とポーズ・・・らしきものを取るロンメルドワッジ。なかなか堂に入ったキメポーズだ、おそらく毎日練習していたに違いない。
 それを見て、ギルガメッシュは「おおお!」となにやら感動に打ち震える。

「いいなあ・・・決めポーズ。くぅ、俺様としたことがそういうのを全く考えてなかったぜ! 不覚ッ!」

 ガン! となにやら拳を握りしめて、近くの壁に悔恨を込めて殴りつける。
 そんなギルガメッシュの肩を叩くロンメル―――ちなみにドワーフの背は低く、ギルガメッシュの背は高いので、当然一人では届かない。そのため、ドワッジの肩にロンメルが立って、さらに背伸びをして肩を叩いた。・・・どうしても肩を叩いてやりたかったらしい。

「まだ遅くないラリ」
「俺達も協力するから一緒に考えるラリ」
「お前ら・・・有り難う」

 二人のドワーフに励まされて、感涙とか流したりするギルガメッシュ。

「いいラリ、気にするな!」
「なにせ俺達は―――朋友」
「朋友?」
「朋友」
「朋友!」
「朋友! 朋友!」
「「「朋友―――」」」

 がしいっ、と腕を組み交すギルガメッシュとドワーフ二人。

「それ、いつまで続くのかしら?」

 至極冷静な―――というかもっともな意見は牢屋の中から。
 男泣きで友情を確認し合うギルガメッシュを、冷めた目で眺めている。

 ギルガメッシュはキスティスを指さして、ロンメル達に尋ねる。

「誰アレ?」
「さあ?」
「知らないなら知らないで結構よ。それよりその赤い人? なにか用事があってきたんじゃないの?」
「おお!」

 ぽん、とギルガメッシュは手を叩き、ドワーフ二人に向き直る。

「すまねえ、俺としたことが本来の用事をすっかり忘れていたぜ」
「いいラリ。気にすんな!」
「なにせ俺達は―――朋友」
「朋友?」
「朋友」
「朋―――」
「それはもう良いから」

 的確なキスティスのツッコミに、ループに入りかけていたギルガメッシュは我に返る。
 ふう、とか息を吐き、汗も掻いてないのに、顎のしたを手の甲で拭う仕草をして、

「危ない危ない、俺としたことが同じネタを繰り返す所だったぜ」
「いいラリ。気にすんな!」
「なにせ俺達は―――」
「もう突っ込まないわよ」
「「「手厳しーーーーーっ」」」

 ちっ、とギルガメッシュは舌打ち。

「仕方ねえ。このネタは終了だ。というわけで次は―――」
「・・・・・・」
「突っ込んでくれよおおおっ!? 切ねぇだろおおおっ!」
「宣言したはずだけど?」
「くう、そのナイスなクールっぷり! ・・・アンタとなら世界を獲れそうだぜ・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・切ねー」

 宣言通り、あくまでもつっこまないキスティスに、ようやくギルガメッシュは諦めたようだった。
 彼は、二人のドワーフに向き直ると用件を告げる。

「なんか城の外で決闘が始まるらしいぜ? んで、そのための観客を集めてこいってさ。城中の連中が外に出てるぜ」
「決闘?」
「なんの決闘ラリ?」

 ドワーフたちの疑問に、ギルガメッシュ自身も首を傾げ。

「さあ・・・俺も良く解んねーんだが、バッツってヤツと、それから・・・リディアって言ったかな。その二人の兄妹ゲンカとかなんとか・・・」
「それ、面白いラリか?」
「さてねえ。まあ、ヒマ潰しにはなるんじゃねえか? 少なくともこんな辛気くさい牢屋に居るよりはマシだろ―――んで、どうする」
「「行くー!」」
「うっわ、ナイス即答。・・・だけど、ここの番はしなくていいのかよ?」

 ギルガメッシュが尋ねると、ロンメルが胸を張って言う。

「大丈夫大じょーぶ! ここの牢屋はアダマンタイト製。ちょっとやそっとじゃ破れないラリ」
「アダマンタイトかー。・・・って、牢獄には過ぎた代物じゃねえか」
「ドワーフは力が強いラリから、それくらいしないと牢屋の意味がないラリ」
「なるほどなー」

 納得しながら、ギルガメッシュとドワーフたちは牢屋を出て行く。
 後は、囚われたキスティス達が残された。

 ギルガメッシュ達の足音が遠ざかり、耳を澄ましても完全に聞こえなくなった頃。
 キスティスはぽつりと呟く。

「確かに、この鉄格子を破ることは難しいけれど」

 一拍、おいてキスティスはぽつりと呟いた。

「 “テレポ” 」

 その言葉を口にした瞬間、キスティスの身体が光に包まれて消える。
 同時、鉄格子の外に同じ光が現出し、その光の中からキスティスが姿を現す。

「別に牢屋を出るのに、鉄格子を破壊しなければいけない、なんて法はないしね」

 武器の類は全て取り上げられたが、流石に頭の中身まではとられない。
 キスティスと同様に、他のSeeD達も次々に牢屋の外へと転移する。中には転移魔法を持たない者も居たが、そう言った者たちは使える者と一緒に外へ出た。

「これからどうするんですか?」

 そう聞いてきたのは、ニーダだった。
 悠長な質問だと思ったのか、苛立ったように他のSeeDが声を上げる。

「どうするもなにも無いだろう。さっさと逃げないと―――」
「私も逃げたい所なんだけどね」

 SeeDの言葉を遮って、キスティスは苦笑する。

「逃げるにしても何処へ逃げればいいのか―――そもそも、ここが何処なのか正確な位置が解らない。正確な自分の居場所がわからなければ、どうやって何処へ逃げれば解らない。だから、まず情報が欲しいわね」

 SeeDはプロの傭兵だ。
 そしてプロは、思いつきや衝動だけで行動はしない。
 情報を得、その情報と自分の能力を照らし合わせて行動を決定する。

 先程、声を上げたSeeDも本来はそうしなければならないのだが、慣れない場所、慣れない状況で混乱しているのだろうか。

(そんなんじゃ、SeeDの資格を剥奪されるわよ)

 心の中だけで呟いて、キスティスはこれからどうするのかを口に出す。

「というわけで、手っ取り早く情報を得るために」

 にっこりと、彼女のファンクラブ―――トゥリープFCの会員が見たら卒倒しそうな極上の微笑みを浮かべて彼女は告げた。

「―――この城を制圧しましょうか」

 

 

******

 

 

 そうして城はあっさりと制圧された。

 何せ、ジオット王以下、殆どのドワーフたちが外に出払っていたのだ。
 障害らしい障害は無く、本当にあっさりと制圧完了した。

 制圧、とは言っても実際にキスティス達が制圧したのは医務室だった。
 牢破りした後、牢屋のすぐ近くにあった倉庫から、取り上げられた武器を回収した。
 その後、城に攻め込んだSeeD達からの情報を統合して、おおよその城内の位置関係を把握。サイファー達、怪我して治療を受けているSeeD達と合流するために、医務室へと向かう組と、ジオット王を捕虜として抑える組とで二つに分かれた。

 本当ならば、ジオット王さえ抑えれば完璧だったのだが、玉座へと向かった組は、王が城内にいないことを知る。
 逆に、城内のドワーフたちは殆ど出払っていたが、医務室は例外だった。怪我人も、それを治療する医者も残っていた。
 探せば他の場所にもドワーフたちは居るだろうが、今、城内で人口密度の一番高いのはこの医務室だ。そのため、玉座ではなくこの医務室を制圧することにした、と言うわけだ。

「サイファー、具合はどう?」
「・・・チッ」

 医務室のベッドで寝かされていたサイファーは、こちらを見下ろしてくるキスティスには応えずに、舌打ちと共に視線を反らした。
 クラウドから受けた傷は、やはり軽いものではなかったらしい。全身を包帯でぐるぐる巻きにされて、身動きが殆ど取れない状態だ。そんな状態で意識を取り戻しているのは凄いのだが、痛みがあるのだろう、平気そうなフリをしてはいるが、額にはびっしりと脂汗が滲んでいた。

 キスティスは嘆息して―――それでも、教え子の様子にほっと安堵する。
 それから、サイファーの隣りに並んでいるベッドを見やる。そこには何の因果か、クラウドがすやすやと寝息を立てて眠っていた。

「神羅のソルジャー・・・か」

 サイファーを瀕死まで追い込んだ青年―――だが、特に憎しみを覚えることはなかった。これでサイファーが殺されていれば話は別だったのだろうが、幸い生き延びている。
 キスティスが眠るクラウドを見て想うのは疑問だった。世界でも最大といえる、セブンスの大企業―――神羅カンパニー。
 一企業とはいえ、そこら辺の国にも引けを取らないくらいの規模を持つ神羅には、独自の軍事力を備え持っている。その中でも、最も有名なのが “ソルジャー” と呼ばれる強化人間達のことだ。

 同じく戦闘のプロフェッショナルとして、キスティスは自分たちが劣ってるとは思わないが、それでも個体戦闘力では敵わない。
 カイン=ハイウィンドや、レオ=クリストフなどの “規格外” と比べるのは論外だが、1対1の戦闘ならばこの地上でソルジャーに勝てるものなど、殆ど居ないはずだ。

 それだけの戦闘力を有したソルジャーである。
 当然、神羅の管理も厳しい。
 つまり、神羅に関係なくこんな場所に居る筈はない。キスティスが疑問に思うのは、クラウドというソルジャーがここに居る理由だった。普通に考えれば、神羅の任務なのだろうが―――

(ま、その辺りは今は気にしないでおきましょう)

 今、キスティスがしなければならないことは、神羅の目的を推測することではなく、現状把握することだった。
 何せ、自分たちの依頼主がこの城にあるクリスタルとやらを欲している、という意外は殆ど何も解らない状況。そもそも、この場所が地上ならばともかく、地底世界ときた。地底の世界など、お話の中のものとばかりキスティスは思っていた。

(・・・歴戦のSeeD達が混乱するのも無理はないわね)

 キスティスは嘆息する。
 彼女自身、状況について行けていない。それでも冷静で居られるのは、他のSeeD達が浮き足立ってくれているお陰かも知れない。
 それと。

(貴方だったら、やっぱりどんなときでも変わらずに冷静なんでしょう? ね、スコール)

 この場にはいない教え子の顔を思い浮かべて、彼女は表情をゆるめた。

「どしたんですか、キスティス教官?」
「な、なんでもないわよ!」

 いつになくゆるまった表情を見て、ニーダが声をかける。
 キスティスは顔を真っ赤にして首を横に振った。

 と―――

「お、俺達をどうする気ラリ!」

 耐えかねたように捕虜として捕えたドワーフの一人が叫ぶ。
 捕虜、とは言っても拘束などはしていない。する必要もない。キスティスにしてみれば、逃げたければ逃げて貰っても構わなかった。何故なら、怪我をして一人では身動きできないドワーフも居たのだから。人質ならば、そういった者たちだけで十分だった。

「こ、殺すのかー!?」

 声を震わせて叫ぶドワーフに、キスティスはいいえ、と首を横に振る。

「そんなことはしないわよ。―――してないでしょう?」

 キスティスは牢屋から出る前に、他のSeeD達に「もしドワーフたちと戦闘になっても絶対に殺したりしないこと。なるべく傷つけないように、魔法で無力化しなさい」と、厳命していた。
 そのキスティスの言葉に、SeeD達からは反論の声も上がったが、「生きて帰りたいなら指示に従って。従わないなら死んで貰うことになるわよ?」とにっこり微笑まれてSeeD達は言葉を失った。

 実際の所、SeeD達はキスティスの命令に従う必要はない。
 キスティスは今回の作戦の指揮官というわけではないし、教官という立場ではあるが、SeeDとしてならば同じ他のSeeD達と対等な立場だ。
 だが、現時点で主導権を握っているのはキスティスだった。このよく解らない状況の中で、キスティスだけが能動的に動いている。百戦錬磨のSeeD達でも、彼女に頼ることしかできなかったのだ。

「じゃ、じゃあ、どうしてこんな事を・・・クリスタルはもう奪われたのに!」
「あら、そうなの?」

 それは初耳だった。
 もっとも、ずっと牢屋にいたのだから仕方がない。

(なんだかんだで目的は達成したのね。・・・ということはこれで任務完了?)

 それならばますます、依頼主であるゴルベーザがキスティスたちを助けに来てくれることはないだろう。
 そもそも、依頼主にそういうことを頼る方がどうかしている。立場があべこべだ。

「まあ、安心しなさい。とりあえず、貴方達に危害を加える気はないわ。―――その代わり」

 キスティスは、先程声を上げたドワーフに向かって言う。

「伝言を頼まれてくれないかしら? ――― “赤い翼” の副長、ロイド=フォレスって人に、ね」

 

 


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