第18章「あにいもうと」 
B.「譲れない想い」
main character:バッツ=クラウザー
location:ドワーフの城・城門

 

「お兄ちゃんっ!」
「リディア!」

 リディアはバッツの姿を見つけるなり、駆け足で飛びついてくる。
 飛んできた彼女の身体を、バッツは優しく抱き止めた。

「ごめんね、お兄ちゃん。さっきはいきなり蹴ったりして・・・」
「ハハハ、気にしてないぜ」
「ホントに・・・? 許してくれる?」
「可愛い妹のしたことだ。許すも許さないも無いぜ」
「嬉しい! お兄ちゃん、だーい好き♪」

 互いの温もりを確かめ合うように、強く抱きしめあうエセ兄妹。
 バッツは別れる以前とは全く違う、成長した妹の身体を確かめて。

「大きく、なったなあ・・・」
「お兄ちゃんのために、頑張って大きくなったんだよっ♪」
「リディア・・・?」

 不意にリディアがバッツから離れる。
 一歩ほど距離を置いて、リディアは両腕を広げて自身をみせる。

「お兄ちゃん・・・私を、見て・・・」

 成長した “妹” の姿に、バッツはしばし声を失った。
 息を呑み、漏れ出た感想は単純なものだった。

「綺麗に―――なったな・・・」
「そう、かな? 自分じゃ良くわかんないよ」
「綺麗になったさ。何処の誰よりも、お前が一番綺麗だよ、リディア・・・」
「本当に? ホントにそう思ってくれる?」
「ああ、もちろんさ。さすがは俺の自慢の妹―――」
「妹・・・?」

 バッツの言葉に、不意にリディアの表情が曇る。
 視線を反らし、顔をうつむかせ、淋しそうな口調で呟く。

「・・・結局、私はお兄ちゃんにとって ”妹” でしかないんだね・・・」
「リディア?」
「私はお兄ちゃんのために大きくなったんだよ・・・? 綺麗になったとしたら、それはお兄ちゃんに―――」
「待てよリディア! まさか、お前・・・・・・」

 ある想像―――いや、妄想であるとすら言える、一つの可能性に気がついてバッツは絶句する。
 だが、そのバッツの想像を肯定するかのように、リディアは瞳を潤ませ、顔を真っ赤にしてこちらを見つめてくる。震える唇が開かれるのを見て、バッツは直感した。ダメだ、これ以上リディアに言わせてはいけない。止めなければ、兄妹としての関係が壊れてしまう―――

 しかしバッツは止めることはできなかった。
 それどころか、身動き一つすることができなかった。絶望的な直感と、ある種の期待感に縛られて “妹” の言葉を待つ。

「私・・・お兄ちゃんの事が―――好き」

 時間が停止したような錯覚。
 人間は呼吸しなければ生きていけない生き物だ。だとすれば、バッツは死んでしまったのだろう。何故ならば、リディアの言葉を聞いた瞬間、バッツの呼吸は完全に停止してしまったのだから。

 時間も、呼吸も、思考も、バッツが体感する何もかもが完全停止する。
 どれほどの間 “停止” していたのかバッツには解らない。一瞬であっても、永劫であったとしてもおかしくはない。
 ただ、ハッキリしているのは、結局の所、死んではいないと言うことだけだった。

「お・・・」

 色々な物が動き出した中、肺が痙攣して上手く呼吸が出来ない。それでも必死で肺の空気を絞り出し、声を出す。

「・・・俺だって、リディアのことは、好きだぞ・・・?」

 その言葉は小さく、そして自信のないものだった。
 リディアのことを好きであること。そのことに対しては、自信を持ってはっきりと断言することが出来る。しかし、この言葉がリディアの求めるものでないことは、言う前から解っていた。だから、か細く尻すぼみの言葉しか出すことが出来なかった。

「違うよ・・・」

 案の定、リディアは否定し、こちらを見つめてきた。少し顎を引いて上目遣いの視線。熱く、潤んでいた瞳には、はっきりと涙が溜まっていた。
 バッツにはそれが自分を責めているように見えた―――が、違うと言うことも解っていた。リディアは優しい子だ。自分の想いが届かなかったからと言って恨みに思うような人間ではない。
 ただ、堪えているのだろう。自分の “好き” と、バッツの “好き” の差違。些細な―――しかし決定的な感情の違いにわき上がる悲しみを堪えているのだ。

「私の “好き” はお兄ちゃん―――ううん、バッツのとは違う。私は・・・!」
「ダメだリディア! それ以上はいっちゃいけない」
「言わせて! 私はバッツのことを―――!」
「俺達は兄妹なんだッ!」

 それは悲鳴のようだと自分でも思った。
 実際、悲鳴だったのだろう。その悲鳴を聞いて、リディアは身を竦ませる。

 ぽたり・・・と、雫が落ちた。

「どうして・・・」

 ぽたり、ぽたり、と二滴三滴、透明な雫が地面に落ちて弾ける。
 それは、リディアが流す涙の雫―――

「どうして、私達は兄妹として生まれてしまったの・・・。兄妹なんかじゃなければ―――」

 注・バッツとリディアは兄妹じゃありません。

「 “お兄ちゃん” なんて欲しくなかったッ! 私がッ、私が今一番欲しいのは―――」
「リディア・・・!」

 たまらなくなって、バッツはリディアをその胸の中に引き寄せると、力強く抱きしめた。
 それが限界だったのだろう。バッツの胸に自分の顔を押しつけて、リディアは大声で泣き声を上げて、直後―――

「いい加減に戻ってこーーーーーーーーーーいっ!」

 ロックの声と同時に、バッツの頭が勢いよくはたかれた―――

 

 

******

 

 

「いってえええええええええええええっ!?」

 いきなり後頭部を叩かれて、バッツは我に返る。
 涙目で振り返ると、ロックがチョップの体勢で立っていた。

「何しやがる! 折角の良いところでッ!」
「気味悪ぃんだよッ! リディアの名前を出した途端、いきなり不気味に笑いだしやがってッ!」
「リディア・・・そうだ、リディアはどうした!? 俺達は兄妹だってことを、納得させないとッ」
「意味がわかんねーけど・・・あの女だったら、城の中へ―――」
「城の中?」

 バッツが首を傾げて―――不意に、自分がいる場所に気がつく。

「なんだこの城!? ・・・あ、飛空艇の上で見た」
「・・・今更気がついたのかよ」
「あれ、飛空艇―――って、なんで俺生きてるんだ? 落ちたよな?」

 その言葉を聞いて、呆れていたロックの表情が途端に不機嫌になる。

「お前、なんであんなことをしやがった?」
「あんなことって?」
「俺を助けたことだよ。てめえが死ぬかも知れなかったんだぞ! どうしてだ!?」

 問われ、バッツは少しだけ考える素振りをして―――それからきっぱりと答えた。

「知るかそんなこと」
「はあ!?」

 不機嫌を通り越して、もはやロックは怒っていた。
 強くバッツを睨付けるが、相手は全く動じない。

「アンタが落ちるって思ったら、勝手に身体が動いてた。理由なんて一々考えてられるかよ」
「お前、高所恐怖症じゃなかったのかよ!?」
「ンなこと忘れてた」
「死ぬかも知れなかったんだぞ! それとも死なない勝算でもあったのかよ!」
「あるわけねえだろ。俺は空なんか飛べねえし」
「・・・・・・っ」

 飄々としたバッツの物言いに、ロックは言葉を失うほど激怒する。
 そんなロックにバッツは続けた。

「俺の命なんて二の次だ。誰かが死ぬのを見過ごすくらいなら、俺が犠牲になった方が百倍マシ―――」

 がっ。

 鈍い音が城門前に響いた。
 その音に、周囲にいたボコ達がぎょっとしてロックを見る。

「いっ・・・てぇ・・・」

 バッツが殴られた頬を抑える。歯で切ったのか、口元から血が一条こぼれ落ちた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・・・・くっ・・・」

 ロックはそんなバッツを睨んだまま、荒く息を吐く。
 手がズキンと痛む。その痛みで、自分が目の前の青年を殴ってしまったのだと理解した。

(くそ・・・何やってるんだ、俺は・・・!)

 苛立つ。その苛立ちが、バッツに向けられたものか、自分に向けられたものか、それともその両方か―――それすらも解らず、苛立ちが膨れあがっていく。
 手が痛む。バッツが「自分が犠牲になった方がマシ」といった瞬間、怒りすらも吹っ飛んだ。頭が真っ白になって、気がついたら手が痛かった。
 ズキンズキンと、手の痛みは加速する。もう一方の手で触れてみる―――が、触れられている感覚がない。この熱い地の底にありながら、ハッキリとした熱を感じる。割とダメージは深い。骨が折れていることは無いとは思うが、ヒビくらいは入っているかも知れない。

(何やってるんだ、俺はッ)

 最低だ、と思う。
 自分を命がけで助けてくれた恩人に対して、散々怒鳴った挙句に殴り飛ばした。しかもそのせいで自分の利き腕がイカれた。
 最低だ、と胸中で繰り返す。
 感情に任せて暴力を振るうなんて、一流のトレジャーハンターがやっていいことではない。

(とにかく、落ち着こう。それから、バッツに謝って―――)

「悪かったよ」
「・・・っ」

 聞き間違いかと思った。
 そう思いたくなるほど愕然として、ロックはバッツを凝視する。バッツはこちらとは目を合わさずに、痛む頬を抑えながら、もう一度口を動かす。

「悪かった」
「・・・っ、なんで、だよっ!」

 止めろ、と心の中で僅かに残った冷静な部分が叫ぶ。
 だが、そんな制止も熱くなった心は止められない。
 膨れあがった感情を抑えることなど最早不可能だった。ロックは無傷の方の手で、バッツの胸ぐらを掴み上げる。いきなり掴まれて、バッツが驚いたような顔をしてロックを見返した。

「おわっ!?」
「なんでお前が謝るんだよッ!?」

 ロックが怒鳴りつける。
 バッツは首をかしげた。

「さあ・・・?」
「ふざけてるのかてめえはッ!」

 だんっ、と力任せにバッツの身体を地面に叩き付ける。
 怒りが止まらない。理不尽に怒っていると自覚している―――それでも止まらない。地面に叩き付けられて、バッツが「げほ」とむせる。そんなバッツを心底叩きのめしたいと思った。踏みつけて、蹴り飛ばしてタコ殴りにすれば、多少はこの気も晴れるに違いない。

 なんでこんなに激怒しているのか、それこそ解らない。
 だけどそんなことはもうどうでも良い。とにかく、この究極のバカヤロウを痛めつけたいという欲求に抗いもせずに、ロックは足を振り上げる。

「クエーーーーーーッ」

 ボコが抗議の声を上げる―――が、そんなことも気にならない。
 まずはバッツの鳩尾めがけて足を踏み込もうとしたその時。

「・・・アンタの言うとおりだと思った」
「は・・?」

 ぽつり、と呟いたバッツの言葉に、ロックは動きを止める。
 バッツは地面に叩き付けられた状態のまま、寝ころんでロックを見上げていた。

「俺は、やっぱり馬鹿だから。下手に考えても何も解りゃしない」

 だから、とバッツは言う。

「身体が勝手に動くのに任せた―――今から理由を考えるとしたら、きっと俺はアンタに死んで欲しくないって・・・いや、違う。俺は、俺の目の前で誰にも死んで欲しくないんだ」

 真っ直ぐに見上げてくるバッツの瞳。
 それを、見返すことが出来ずに、ロックは視線を反らす。

「誰かが目の前で死ぬくらいなら、自分が死んだ方がマシだって言うのは俺の本音だ―――それが間違いだとも思っちゃいない」
「・・・・・・っ」

 さっきと同じ事を繰り返されて、ロックは何かを堪えるように歯ぎしりする。
 そんなロックに、バッツは変わらない口調のまま、淡々と続ける。

「だけど、その俺の本音がアンタの “何か” を傷つけたってことは解った。だから謝らなきゃいけないと思ったから、謝った―――そんだけだぜ」

 バッツの言葉が終わると同時、ロックの膝ががくりと地面に落ちた。
 膝をついたまま、手を地面について四つん這いの格好になる。
 頭の位置が同じくらいまで下がってきたロックを見て、バッツが不安そうに声を掛ける。

「おい、大丈夫か? なんか俺、マズイことでも言ったかよ」
「俺だって・・・助けたかった・・・!」
「は?」
「あいつを・・・助けられたら―――俺だって」
「ロック・・・?」

 ブツブツと呟くトレジャーハンタの名前を呼ぶ。
 すると、彼はゆっくりと顔を上げ、バッツの方を見る―――その表情は、なんだか今にも泣き出しそうで、バッツは言葉を失った。

「悪かったよ」
「へ?」
「今、どうかしてるんだ、俺―――殴ったりして、悪かった」
「や、別に気にしちゃいないけどさ。痛かったけど」
「でも、頼む」

 ロックはバッツに向かって頭を下げた。
 額が地面に触れるほど頭を下げるロックに、バッツは戸惑う。

「な、何をだよ?」
「頼むから・・・もう二度と俺を命がけで助けようなんて思うな! 今回は助かったから良いけど、もしもお前が死んだとしたら、俺は・・・ッ」
「・・・・・・」
「俺にこれ以上、なにも背負わせないでくれよッ」

 頭を下げて叫ぶロックをバッツは見下ろす。
 その表情は、不安から困惑へ、困惑から苦笑に、そして苦笑から―――にやり、と不敵に笑った。

「ヤだね」
「・・・っ」

 伏せた顔の下で、息を呑む声が聞こえた。
 構わずに、バッツは続ける。

「もしもさっきと全く同じ状況になったら、俺は迷わずに飛び出すぜ。死のうが生きようが関係ない。俺がどうなっても、絶対にアンタを助けるさ」
「バッツッ!」

 ロックが顔を上げる。表情を怒りに染め、睨付ける。
 だが、バッツはどこ吹く顔で、その怒りを受け流す。

「アンタの過去に何があったかは知らないがな。アンタが背負いたくないと嘆くように、俺だって誰かが死ぬのを見るのはイヤなんだ。何も出来ずに、誰かを失うなんて二度としたくねえんだよッ」

 言い返され、ロックは気圧された。
 怒りは勢いを失い、何も言えなくなる。
 ロックと同じように、バッツにも拭いがたい辛い過去はある。後悔を背負っているのは自分だけではないと、今更ながらに気づかされる。

 しかし、愕然とするロックとは対照的に、バッツは笑みを浮かべたままだ。
 彼は、指を一本立てて、ロックに提案する。

「すげえ良い方法があるんだが、教えてやろうか?」
「は・・・?」
「さっきみたいな場面で、アンタが何も背負わずに、そして、俺も何も失わなくて良い方法」
「・・・そんな都合のいい話があるかよ」

 ロックが言い捨てると、バッツは「ちっちっち」と指を振った。

「めっちゃくちゃ簡単な方法があるんだってば」
「どんな方法だよ?」
「なに、単純なことさ。アンタが落ちなきゃ良い」
「―――は?」

 きょとんとするロックに、バッツは「わからないのかよ?」とからかうように言ってから、

「だから、さっきはアンタが落ちそうになったから、俺が助けて逆に俺が落ちたわけだ―――んで、それをアンタは気に入らないと」
「あ、ああ・・・」
「じゃあ、話は簡単だ。次、似たような事があったら、落ちなきゃいい―――な? 簡単だろ」

 バッツの言葉を聞いて―――もしかしたら、何かの深い揶揄でも含まれているのではないかと頭の中で反芻して―――しかし結局、バッツは言葉通りの意味で言っているのだと理解して。

「はぁ・・・・・・お前―――いや、悪ぃ。今更だよな」
「なんだ? 意外な俺の頭の良さに驚愕したか?」
「馬鹿さ加減に驚愕してんだ、この大バカヤロウッ!」

 いきなり目の前で怒鳴られて、バッツは後ろにひっくり返った。

「それができりゃあ誰だって後悔なんかしねーっての!」
「できないのかよ?」
「はあ?」

 ひっくり返ったバッツは、よっこらせと起きあがる。
 そして、ロックを睨付けて。

「落ちて、そして助けられて後悔するって言うのなら、そもそも落ちなきゃ良い。死ななきゃ良い。そんな事も出来ないって言うのかよ!」
「死ななきゃ良いってなぁっ! ンなこと言っても死ぬときゃ死ぬんだッ!」
「俺は死なねえッ!」

 バッツは、自分の腰にある剣を手で触れる。
 その剣は行く手を切り開くための剣―――どんなことがあっても、生き続けるための力。

 バッツの言葉にロックは再びカッとなる。

「ふざけんなっ!」
「ふざけてるのはどっちだよッ!」
「なんだと!」
「 “死なない”ってことも出来ないようなヤツが、死人を生き返らせるって、本気で思ってるのかよ!」
「・・・・・・っ!」

 一瞬、言葉が詰まる。

「うるせーよ・・・っ。てめえに何が解るって言うんだッ」
「だから解らねえって言ってるだろがッ!」
「何にも解らないヤツが偉そうに口出しするんじゃねえッ」

 言い捨てて、ロックは立ち上がる。

「何処に行くんだよ?」
「お前の知った事じゃねえだろ」

 そのまま、ロックは城の中へと向かう。

「待てよ!」

 と、バッツはそれを追いかけようとして―――ロックと入れ替わるように、城の中から出てきた者を見て足を止めた。

「リディアああああああああんっ!」
「寄るな」

 城の中から出てきたリディアに、バッツは満面の笑みを浮かべてダイブする。
 それに対してカウンター気味に、リディアは手にしたロッドを突きだした。めきょ、とロッドの先端に付けられた宝玉がバッツの顔面にめり込んで、そのまま地面に倒れ落ちた―――

 

 

******

 

 

 ―――リディアああああああああんっ!

 背後から聞こえた声に、ロックは嘆息する。
 愛する “妹” の名を叫ぶバッツの声には、さっきまでの険呑とした雰囲気は微塵もない。おそらくすでにロックのことなど頭の中から消え去っているだろう。

「・・・あのバカヤロウ」

 しつこく追いかけて欲しいなどとは絶対に思わないが、こうもあっさり忘れ去られるとそれはそれで腹が立つ。
 戻ってもう一発ブン殴ってやろうか―――と思った瞬間、ズキリ! と激しく拳が痛んだ。

「づっ・・・」

 力任せにバッツを殴りつけた結果がこれだ。
 さっきまでは頭に血が昇っていたせいか、痛みを感じる暇もなかったが、だんだんと頭が冷めてくるに従い、手の痛みが激しくなってくる。

(鎮痛薬かなんか・・・せめて、冷やさないと・・・)

 こういう時に魔法の一つでも使えればいいと思いながら、城の中を歩く。
 さて、医務室は何処だろう―――と、思ったその瞬間。

「どうした? こんなところで何をしている?」

 聞き覚えのある声が聞こえ、そちらの方を振り向くと―――

「レイチェル・・・?」

 彼女を見て、思わず “彼女” の名前を呟く。

「その名前、いつかどこかで聞いたわね」

 ロックの呟いた名前を聞いて、彼女―――セリスは苦笑を返した。

 


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