第17章「地底世界」
Q.「最後の一撃」
main character:セリス=シェール
location:ドワーフの城・クリスタルルーム

 

「ふむ―――?」

 本拠地であるバブイルの塔へと帰還し、飛空艇を降りようとしたその時。
 ゴルベーザは何かを感じたように、不意に動きを止める。

「どうかしたの?」

 シュウがそれを振り返る。自然体で。
 他のSeeDはゴルベーザの力で、ガーデンへと送り返された。
 たった一人で、得体の知れない集団の懐に入るというのに、臆した様子は微塵もない。それは流石に “最高の傭兵” SeeDというべきか、それとも彼女特有の性格なのか。

「いや・・・どうやら、駄目元で仕掛けていたものが、目当てのものを発見したようだ―――奴らが来た時は、ついてないとも思ったが・・・運が向いてきたと言うことか」
「しかし、敵にはカイン=ハイウィンドが居るのだろう? 対抗手段がなければ、どうしようもあるまい」
「そうだな―――ルビカンテを使ってもいいが・・・」

 ゴルベーザは少しだけ黙考する。
 脳裏に、人形の見る状況を思い浮かべて。

(今、 “人形” 達はカイン達と交戦中か―――人形では奴らには勝てぬ。奴らが居なくなるのを待って忍び込む・・・・・・ダメだな。人形達が倒された後で、クリスタルを別の場所に移されては、それを追う術がない)

 彼はしばし悩んだ後、シュウの方を振り返る。

「一分でいい。カイン=ハイウィンドを押さえ込めるか?」

 ルビカンテを動かせば、万が一のことがある。
  “メテオ” で大半の魔物を失った今、もしもバロンがエブラーナと結託した場合、その軍勢を抑えきれるのは、現状ではルビカンテだけだ。

 シュウはゴルベーザの問いかけに、一瞬身を強ばらせる。
 だが、すぐに頷いて、

「倒す必要はないのね?」
「ああ。少しだけ時間を稼いでくれればいい。今、奴らは私の “人形” と戦っている。人形が倒された瞬間、奴らの気のゆるむ隙をついて、クリスタルを奪って撤退する」
「・・・随分と、セコい作戦ね」
「相手との戦力差を考慮した結果だ。例え相手の方が強力であろうとも、目的を達せられればこちらの勝ちだ」

 話を聞いて、シュウが苦笑する。
 その反論は憮然とした声で、フルフェイスで見えない兜の下の素顔がどうなっているのか、シュウは見てみたいと思った。

 自分よりも身長の高い、その兜の下から覗き込むようにして言う。

「ね、その兜、とって見せてよ」
「・・・戯れている余裕はない」

 シュウの視線を避けるようにそっぽを向く。

「もしかして照れてる?」
「馬鹿なことを・・・・・・行くぞ」

 ゴルベーザの手の中に、漆黒の剣が出現する。
 その反対側の、空いている手をシュウの方へと伸ばす。シュウはうやうやしくその手を取った。

「エスコート、お願いね」

 ふざけた調子で言うシュウに、ゴルベーザは無視しようとも思ったが―――シュウのその手がほんの僅か、細かく震えていることに気がつく。
 無理もない。相手は理不尽な “最強” だ。仲間を殺された怒りもあるだろうが、それと同じくらいの恐怖があるはずだ。
 それを、無理矢理押さえつけるのではなく、冗談で誤魔化している―――プロの傭兵ならではの精神制御法だった。

 だから、ゴルベーザはその “冗談” に付き合ってやろうとして―――

「・・・・・・すまん、どう答えるべきか思いつかん」
「そう言う時は “解りました、お姫様” とでも答えておけばよいのよ」
「わかりましたお姫様」
「もう少し、感情とか込められない?」
「・・・行くぞ」

 流石に付き合いきれなくなったのか、ゴルベーザは憮然と言い捨てて、途端にダームディアの形が崩れる。
 剣が闇となり、ゴルベーザとシュウの姿を包み込む―――・・・

 ・・・―――闇が消えた時、二人の姿はその場から消えていた・・・・・・。

 

 

******

 

 

 迫る人形の一体をセリスは斬り捨てる。
 吹き飛びながら、胴体と首が別れる―――が、それでも人形は動きを止めない。

「キャッホーッホ! 人形を斬ってもムダムダさー♪ だって痛みも感じないから」

 二つになった人形の、頭と胴体が宙に浮かんで一つにくっつく。
 しかし完全に接合したわけではなく、首が半分ほど不気味にズレていた。

 そして、他の五体の人形達と一緒に、セリスに向かって突進する。
 単調な突撃だ。
 セリスはそれを身体を反らして回避したり、剣を振るって打ち払う―――人形達の数は多くても、速度はそれほど速くはない。凌ぎきることは難しくはない、が・・・

「・・・剣は通用しない、か」

 野球のボールを打ち返すように、何度か迫る人形達を斬り飛ばす―――斬れてはいるが、ダメージにはなっていないようだった。

「無駄だっていったよ〜!」

 人形の一体の体当たりが、セリスの肩を掠めた。
 痛みに顔をしかめるが、すぐに体勢を立て直すと、続けてきた別の人形を剣で打ち払う。

「やはり一人では・・・」

 セリスの後ろで、ヤンが呟く。
 だが、カインはいつもの冷笑を浮かべ、

「よせよせ、みっともない。人形遊びはお嬢さんの特権だ。いい歳した男がやるものではない」
「巫山戯ている場合か!」
「本当のことだろう。それに、そろそろ―――」

 カインが言いかけた瞬間。

 ぼうっ!
 と、クリスタルルームが赤く染まる。
 なんだ!? と思ってヤンが見れば、人形の一体が燃えるところだった。クリスタルルームが赤く染まったのは、その炎の色が部屋中に反射したためだ。

「炎・・・魔法か!」
「剣が通じぬならば燃やせばいい―――ただそれだけのことだ」

 ふん、とセリスは言い捨てる。
 その視線の先では、人形が一体、炎に包まれてのたうち回っていた。

「熱い、熱い、熱いぃぃいぃいいぃいいいぃ!」
「火を消せ火を消せ」
「燃えちゃう燃えちゃう」

 燃える人形を、別の人形が燃えていないパーツを掴んで、振り上げ、何度も何度も床へとたたきつける。
 ビキィ、と少し皸が入るほど強く打ち付けて、ようやく火が消えた。

「よくもよくもよくもぉぉぉぉっ!」

 燃やされた人形が怨嗟の声を上げる。
 表面を蝋で固められていたのか、どろりと溶けて不気味さを増していた。

 セリスは冷たく微笑して、

「まだ燃やされ足りないか?」

 その一言に、人形達は怯えたように後退する。

「熱いのはイヤー!」
「こうなったら仕方がない」
「本当の力を見せるしか」
「見て驚け泣きわめけ!」
「カルコブリーナの真の力」
「合体だー!」

 六体の人形が寄り添うように集合する。
 うぉん、と耳障りなノイズが響いたかと思うと、黒い闇が人形達の身体から吹き出し、それが人形達を包み込む。

「・・・何をする気だ!?」

 闇は高く肥大して、その高さはセリスの身長の倍を、優に超える。
 黒い闇が薄まっていき、次第に消え去る―――その後に、巨大な一体の人形が出現していた。

『キャホホホホホホ! これが我らの力。思い知れー!』

 ぐおん、と巨大な人形がその手を拳に握り、振り上げる。
 その狙いはもちろんセリス。勢いよく、振り下ろした。

「ちっ!」

 真上から押しつぶすようにして振り下ろされた拳を、セリスは横っ飛びに回避する。
 その拳圧だけで風が生まれ、セリスの身体を軽く浮かす。

「ちいっ――― 『ファイア』!」

 回避しながら詠唱していた魔法を解き放つ。
 炎が巻き起こり、巨大な人形を包み込む―――しかし。

「効かない!?」

 炎は即座に消え去って、人形には焦げ目一つついていない。

『お返しだー!』

 人形が怒った口調で言うなり、その口から紅蓮の炎が噴き出される。
 不意の反撃に、避けることも出来ずにセリスの身体が炎に包まれる。

「セリス!」
「―――なめた、真似を」

 ヤンが叫ぶと同時、セリスを覆っていた炎が消える。
 どうやら魔法に属する炎だったらしい。枯れ木ならば一瞬で炭化しそうな火力ではあったが、魔法抵抗力の高いセリスには大したダメージにはならなかったようだ。
 しかし、それでも無傷というわけにはいかない。髪は少し縮れ、肌も少しすすで黒ずんでいる。軽い火傷も何カ所かあった。

「・・・燃やす」

 まともに反撃を喰らったことが原因か、それとも髪を焦がされたことが気に食わなかったのか。ともかく、セリスが怒りを顕わに人形を睨付けながら魔法詠唱を開始。

“猛狂う業火は煉獄の怒り・・・出来損ないの人形よ、炎獄へと沈め―――”

 セリスの魔力が高まる!
 対し、人形は『キャホホホ♪』と高笑いするだけで、なにも邪魔しようとはしない。

『無駄だっていうのが解らないのかなー?』
「―――『ファイラ』ッ!」

 人形の軽口を無視して、セリスは魔法を放つ。
 炎の嵐が人形を取り囲み、その炎の中へ人形が呑み込まれる。

 ―――だが。

『キャホホホホ!』

 炎は唐突に掻き消える。
 後に残ったのは無傷の人形。

『だから言ったでしょ。無駄だって』
「・・・・・・」
『そうら、お返しだよー。今度はもっともっと熱いよー』

 人形の口から炎が放たれる。
 宣言通り、さきほどの炎よりも威力が高いのを感じる。

 そしてそれは、セリスには解っていたことだった。

(・・・あの人形、属性攻撃を吸収して倍返しする能力を持っているようね・・・)

 原理は異なるが、同じ魔法吸収系の能力を持っているセリスは、最初の反撃で敵の能力に気がついていた。
 セリスの魔封剣は、相手が魔力を放って、それが “魔法” となる寸前の魔力を吸収する能力だ。
 それに対して人形がやっているのは、 “属性” を吸収し、体内で自分の魔力―――ダークフォースと組み合わせ、増幅、倍加させて跳ね返す。

 セリスは炎系の魔法しか使っていないが、他の属性―――氷や雷なども同様に跳ね返してくるだろう。
 ならば、無属性魔法か物理攻撃で攻めるしかない。

 普通ならば。

「確かに熱そうだ、が」

 セリスは怒りの代わりに冷笑を浮かべる。
 そして手にした剣を迫り来る猛炎の中へと突き入れた。

 

 魔封剣

 

 魔法の元となる魔力が剣へ吸収される。本来なら、魔力が奪われれば魔法の炎はただの炎へとなる。物理法則に従って、可燃物がなければ炎は燃え続けることが出来ずに消失するはずだった。
 だが、セリスは魔法をそのまま持続させる。魔力と同時に魔法のコントロールも奪う―――魔封剣の応用だった。

『炎が・・・』
「さて、行くぞ? ――― “翔べ!”

 セリスは宣言すると、軽やかに床を蹴る。
 同時、ごく短い浮遊魔法の詠唱。あまりにも短すぎる詠唱のため、魔法は不完全な効果しか現さない―――が、僅かでも重力の束縛から解き放たれる。それだけで十分だった。

 不完全ながらも浮遊魔法の恩恵で、セリスの身体は人形の肩の上まで飛び上がる。
 そして、身体を捻り、腰を回転させ、円運動で勢いの乗った炎の剣を人形に向かって叩き付けた!

 

 スピニングフレイム

 

 炎に燃える剣は人形の肩に食い込み、そのまま胸の辺りまで到達して―――止まる。
 剣が人形の身体にがっしりと食い込んで、抜けない。セリスは一瞬だけ剣にぶら下がり、すぐに手を離して地面に降りた。

「やったか!」

 ヤンが歓声をあげる。
 まず致命傷な一撃だ。相手が人間ならば、これで勝負はついただろう。
 だが―――

『キャホホホホホホホ!』

 人形の甲高い、耳障りな声がクリスタルルームに響く。

『ご苦労さん。だけど、こんなもの痛くも痒くも熱くもないもんねー!』

 剣を胸に食い込ませたまま人形は笑う。
 笑い声とともに、剣に纏っていた炎も消えた―――どうやらまた人形が吸収したらしい。

「あれでも倒れないのか・・・!」

 ヤンが戦慄する―――が、セリスは冷淡な顔で人形を見上げた。

「―――貴様の能力には欠点がある」
『キャホ?』
「反射魔法などとは違い、属性を吸収してから反射するまでに時間がかかるということ。吸収した攻撃を、倍加させるためのタイムラグ―――でもその最中に致命的な攻撃を受けたらどうなると思う・・・?」
『何を言って―――うん!?』

 ふと、人形は気がついた。
 自分の胸に刺さっている剣―――その剣から、高い魔力を感じることを。

『ま、まさか―――』
「自らの炎に焼かれて消えろ」

 スッ―――と、セリスはさっきまで剣を持っていた手を持ち上げる。
 指と指を摺り合わせ、そして―――

『や、やめろ―――』

 人形が悲鳴をあげ、セリスに向かって手を伸ばす。
 だが、それよりも早くに、セリスは “パチン” と指を鳴らした。
 その瞬間、人形の胸に刺さっていた剣に込められた魔力が暴走、剣が吹き飛び―――爆発する。

 

 ファイナルストライク

 

『ギャ、アアアアアアアアアアアアアアッ!』

 爆発自体は大した威力ではなかった。
 少なくとも、巨大な人形を完全に破壊できるほどの威力ではない。
 だが、人形の中で増幅していた炎の力が、魔力の爆発に連鎖するようにして暴走。人形内部から炎が吹き出て、炎が内側から人形を燃やし尽くす。

 それを見つめ、届かぬと思いながらもセリスは告げる。

「冥土の土産に覚えておけ。これが私の――― “奥の手” だ」

 フン、と息を吐いて、後ろの二人を振り返る。
 すると、カインがからかうような笑みを向けて、

「お人形遊びは楽しかったか?」
「ああ、童心に返ったようだった」

 皮肉に対してトゲのある返答。
 仲悪く、にこにこと笑顔で険悪ににらみ合う二人を見て、ヤンは取りなすように。

「しかし、確かにカインの言うとおりだったな。侮っていたつもりはなかったが、まさかセリス一人で倒してしまうとは!」
「「貴様には無理かもしれんがな」」

 声を揃えて即答が返ってくる。
 ヤンは嘆息して、

「・・・何故、息ピッタリに私が貶められねばならんのだ」

 肩を落とすヤンを無視して、カインはクリスタルへと向き直る。

「しかし、人形を倒したとはいえ、おそらくこの場所はゴルベーザに知られてしまっただろうな。念のため、どこかへ隠していた方が良いかもしれないが・・・」

 もっとも、それは時間稼ぎにしかならないとカインは解っていた。
 理屈は解らないが、ゴルベーザの四天王はクリスタルの在処を若干探知できるらしい。セシル達に破れて、四天王は殆ど身動きできない状態のはずだが、いつ復帰してくるかもわからない。

 カインはクリスタルルームの入り口を振り返る。
 何をやっているのか解らないが、ドワーフたちはまだ辿り着かない。

「・・・・・・いっそのこと、クリスタルは奪われたことにして、バロンへと持ち去るか・・・?」

 クリスタルは手で掴めるほどのひし形に似た結晶だ。
 兜を脱いで、その中に隠せないこともない―――と、カインが思ったその時。

「それでは・・・困るな」
「「「!?」」」

 いきなり虚空に声が響いたと思うと、人形が焼け崩れた辺りに黒い闇が出現する。

「これは・・・!」
「ゴルベーザ!?」

 闇はじんわりと空間に染みこむように大きくなっていったが、不意にカイン達に向かって一気に広がる!

 

 呪縛の霊気

 

 闇が三人の身体を絡め取る。
 途端、身体が重くなり、身動き取れなくなってしまう。

「う、動けない・・・ッ」
「これは―――あの時の!」

 ヤンはファブールで、この術に身動き一つ出来なかったことを思い出す。

「ほう・・・上手い具合にかかってくれたか」

 闇が消え、その場にはゴルベーザとシュウが現れる。

「ゴルベーザ・・・貴様ッ」

 カインが睨む―――だが、動かせるのは口と視線だけ。身体はピクリとも動かない。

 最強の竜騎士の視線にも臆せず、ゴルベーザは三人を見回す。

「・・・セシルは来ていないのか。私の心配も杞憂だったと言うことか・・・」
「ゴルベーザ。こいつらは私が・・・」

 シュウがムチを手にカイン達を睨む。
 ゴルベーザは大して興味なさそうに、

「好きにするが良い。私はクリスタルを頂いていく」
「待て! ゴルベーザ!」

 カインの制止の声を無視して、ゴルベーザは台の上に納められたクリスタルへと歩みを進める。
 そして、カインの前にはシュウが立ちはだかる。

「動けない敵をなぶるのは趣味じゃない―――キスティス達の仇だけど、せめて苦しまないように殺して上げる」
「キスティス・・・!?」

 ヤンは、それが飛空艇に来たあの女SeeDだと思い出す。

「待て! その女SeeDならば―――」
「はぁ〜・・・ようやく辿り着いた」

 唐突に緊張感のない言葉を吐きながら現れたのはロイドだった。
 ちなみにまだルカに手を引かれている。

「・・・って、ゴルベーザ!?」
「今頃来たか、ロイド。状況は最悪だぞ」

 最悪、と言いながらも、カインの口調は軽かった。
 先程までの焦った様子がない。
 その様子を怪訝に思いながら、シュウは新しくやってきたロイドとルカを見る。

「人間一人とドワーフが一人・・・やってきたところでなんだというの?」
「ヤツはセシル=ハーヴィの副官だ―――この意味が解るか?」
「セシル・・・ハーヴィの!?」

 セシルの名前はエイトスまで届いていたらしい。
 親友の名の高さを誇りに思いながらカインは続ける。

「そうだ。付け加えれば、俺も一目置く存在だ」
「セシル=ハーヴィの副官で、カイン=ハイウィンドが一目置く存在・・・」

 シュウは思わずロイドを凝視する。

 ―――シュウは有能なSeeDだった。
 しかし、カイン一人にSeeDの部隊が壊滅的な打撃を受けたこと、さらにはゴルベーザがセシルやカインのことを高く評価したことによって、その二人が一目置く存在として、ロイドの影が大きく見えていた。付け加えれば、カインがロイドが登場した時に余裕を見せたことも大きく見せた要因の一つだ。

 だから、動きを封じられたカインの事よりも、ロイドに気を取られてしまったのは仕方ないことだと言える。
 そしてカインはその隙を見逃さない。

「惑わされるな。カインから目を―――」
「遅いッ」

 ゴルベーザの警告に、シュウが反応するよりも早く、カインは行動を起こしていた。
 とは言っても身体は動かせない。だから体内の “竜気” を開放する!

 竜気―――竜騎士は、飛竜と触れることによって、竜が秘める高エネルギー――― “竜熱” と呼ばれる力と感応し、 “熱” をある程度操る力を手に入れる。それが “竜気” と呼ばれる力である。
 竜騎士は体内の熱を操作することによって、瞬間的に熱を集中させ、体内の細胞を活性化させることで常人を越えた瞬発力を得る。竜騎士の跳躍力の秘密はそこにあった。

 そして、その “竜気” をさらに極めれば、体外の熱を奪い、己の力とすることも可能となる―――それが。

 

 竜剣

 

 カインの身体から槍を通って、竜の形をした青白い光が放たれる。
 それは、すぐ傍にいたシュウの身体を掠めると、再びカインの元へと戻っていく。青白い光がカインの身体を覆い、闇の呪縛を少し打ち消す。

「おおおおっ!」
「・・・っ!?」

 まだ呪縛は完全には解かれては居ない―――だが、それでも身体はなんとか動く。
 重い身体を無理矢理に動かし、カインはシュウへ槍を向ける。

 シュウも即座にムチを構える。
 その瞬間、カインが叫んだ。

「ロイドッ、今だ!」
「!」

 カインの合図に、シュウは思わずロイドを見た。
 にやり、と笑ってロイドは剣を抜く―――その姿にシュウは何が来るのかと、気を取られた。

 ―――シュウ以外は知っていることだが、ロイド=フォレスに戦闘力はない。
 だから剣を抜いたところで、戦いに参加することすらできない。
 しかし、そんなことをシュウは知らない―――だから、カインが自分の名前を呼んだ意味を理解して、シュウの意識を引き付けるために剣を抜いた。戦闘能力はないが、そういう事に関しては頭はまわる。

(もらった―――)

 ロイドに気を取られたシュウを、カインの槍が狙う―――そこへ。

 

 呪縛の霊気

 

「ぐ・・・っ!」

 二度目の呪縛が、カインを再度束縛する。さらに、ロイドとルカまでが呪縛された。

「・・・やれやれ。手間を掛けさせるな」

 クリスタルに辿り着く寸前で、ゴルベーザはこちらを振り向いて術をかけていた。
 振り向き、その姿を見てシュウは唇を噛む。

「す、すまない・・・」

(私は・・・何をしている・・・ッ)

 先程の王の間でも、今でも、自分はゴルベーザに助けられてばかりだ。
 傭兵が雇い主に助けられるなど、あってはならないことだった。

「貴様よりも、カインの方が上手だったというだけだ―――殺すならさっさと殺して仇をとれ」

 ゴルベーザはクリスタルに向かず、シュウを見守る。
 これ以上はどうしようもないはずだが、カイン=ハイウィンドは最後の最後まで何をしてくるか、見当がつかない。念の為、見張っていた方がよいだろうとゴルベーザは判断した。

 だが、シュウにとってはこれ以上の屈辱はない。
 これでは親に見守られねばなにもできない子供ではないか、と。

「随分とお優しいじゃないか、ゴルベーザ」

 からかうようなカインの言葉に、シュウの顔が恥辱で真っ赤に染まる。

「いちいち話を聞くな」
「・・・わかってる!」

 カインの目の前で、シュウはムチの先端にくくりつけられた刃を握る。
 それを身動きできないカインの首に突き当てた。あとは、これで喉を突き破ればいいだけだ。

 死の直前だというのに、カインは取り乱すことなくいつもの冷笑を浮かべていた。
 しかしそれは諦めていたわけでも、何か策があるわけでもない。
 その表情には脂汗が浮かんでいた―――完全に束縛されているので解りにくいが、今も必死で束縛から逃れようともがいているのだ。

 思えば、さっきだって唐突に登場したロイドを使って束縛から逃れようとした。
 どんな状況であっても活路を見いだす―――最強とは、そういうことなのだろうかとシュウは思う。

「セリス! なんとかならんのか! セシルのダークフォースを跳ね返したみたいに!」
「剣があれば何とかなったかも知れないが・・・」

 ヤンの問いに、セリスは忌々しげに焼け朽ちた人形を睨む。
 その人形の成れの果てに混じって、セリスの剣が砕けおちていた。

「くっ・・・どうにもならんか・・・」

 ヤンが歯がみする。
 セリスも胸中で諦めつつあった。

(魔法を唱える隙はない。ここまでか・・・・・・ロック・・・)

 ふと、トレジャーハンターの青年の顔が思い浮かんだ。
 無意識に浮かんだそれを、セリスは慌てて打ち消す。

(なんであいつの顔が・・・ッ)

 困惑しつつ、けれどふと思う。

(あの男だったら・・・どうする・・・?)

 諦めるのだろうか? それとも―――
 セリスの中から諦める気持ちが薄れていく。
 見れば、シュウは手にした刃に力を込め、カインの首をかっ切るところだった―――

「待て!」

 セリスの叫びにシュウは一瞬動きを止める―――が、最早セリスの方を振り向こうともしない。それでも構わずセリスは叫んだ。

「キスティス!」
「!?」

 シュウが驚いた顔でセリスを見る。食いついた、とセリスは不敵に笑い、

「貴様の仲間・・・キスティスの居場所を知りたくはないか?」
「まさか・・・生きているの!?」
「ああ。サイファーという男と一緒に―――それと、他のSeeD達も」
「・・・・・・」
「取引だ。彼女達の命が惜しければ引け!」

 セリスの言葉に―――しかし、シュウは微笑んだ。

「ありがとう」
「なに・・・?」
「キスティスが生きていると解っただけでも感謝するわ―――でも、その取引は飲めない・・・いいえ、飲む必要がない」
「どういう意味だ・・・!」
「私達は傭兵だ。敵に囚われて死ぬ覚悟などいつでもできているということよ―――それに」

 クスっと彼女は笑う。
 その笑みは、さっきまでの切羽詰まった様子はない。どうやら親友が生きていると知ったことで、余裕を取り戻したらしい。

「私が知る限り、キスティスは最も優秀なSeeDよ。私が助けなくても、自分で何とかするでしょうよ」
「くっ・・・」
「お喋りはそのくらいにしろ」

 ゴルベーザの声に、シュウは振り向かずに頷く。

「解ってる。じゃあ、今度こそ、さようなら―――」

 そう呟いて、カインの首を切り裂こうとした―――その瞬間!

 

 レディアントブレス

 

 突如白い霧が巻き起こり、闇の呪縛を吹き散らした―――

 

 

 

 


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