第17章「地底世界」
P.「召喚士の娘」
main character:ロイド=フォレス
location:ドワーフの城

 

 暗い隠し通路を駆け抜ける。

「おわっ!?」

 最後尾を走っていたロイドが突然すっころんだ。
 灯り一つ無い通路だ。まともに走れる方がおかしい―――というのに、カインもセリスもヤンも、さらにはルカさえも、転ぶことも立ち止まることもなく駆けていく。

「つう・・・」

 転倒し、身体のあちこちを打ち付けて、ロイドは呻き声を上げた。
 痛みを堪えて立ち上がる―――が、転んだせいで今、どちらを向いているのかも解らない。とりあえず、通路の壁に手を当てて立ちつくす。

「大丈夫?」

 心配そうな少女の声は背後から聞こえた。
 振り返れば、暗闇の中にぼんやりと瞳の光が見えた。

「ええと・・・ルカ?」
「うんっ」

 頷く返事が聞こえ、直後に小さな手がロイドの手を掴む。

「大丈夫?」
「ちょと痛いッスけど―――よく、こんな暗闇で迷うことなく走れるもんだ」
「そうだよね」

 ルカも頷く―――ような気配がした。

「あの人達、ドワーフでもないのに、どうして闇が見えるんだろう?」
「ドワーフは闇の中でも目が見えるって?」

 そう言えば、昔読んだ書物にそんなことが書いてあったことを思い出す。

「こっちだよ」

 ルカが手を引いてくれる。
 走らずに、ゆっくりと歩いて手を引かれるロイドは、幼い少女に気をつかってもらっていることに、少し恥ずかしく思う。
 その一方で、疑問もわき上がる。

「・・・どーして先行した三人は、この闇の中で目が見えるんだ?」

 

 

******

 

 

 三人とも、ドワーフのように暗視が効いているわけではなかった。
 当然、まともに走れるわけではなかった。三人とも、身体のあちこちを通路の壁にぶつけながら、それでも速度を落とさない。転びそうになっても、なんとかギリギリで体勢を立て直す―――それぞれの地域でトップクラスの戦士達だからこそ、辛うじて闇の中を走ることができていたのだ。

「光・・・?」

 先頭を駆けるカインがそれに気がついた。
 闇の中、白く色が抜け落ちたように、長方形の光が見えた。
 それが出口だと気づくと同時、カインは光の中へ飛び込んでいた。

「・・・っ」

 闇の中から突然光の中へ飛び出て、カインはまばゆさに目が眩んだ。

「ここは・・・?」
「クリスタルルーム!」

 セリスとヤンが少しだけ遅れてやってくる。
 隠し通路を抜けて、カイン達が辿り着いたのは、ファブールにもあったクリスタルルームだった。広い、体育館ほどもある広い部屋だ。部屋は、光を反射する材質で壁も床も天井も覆われて、部屋全体が輝いていた。

 その輝く部屋の光源は、たった一つしかない。
 部屋の中心に掲げられた結晶―――クリスタル。

「あれが、闇のクリスタル―――・・・」

  ”闇の” という形容詞がついている割には、その色は真っ黒というわけではなかった。
 地上にあるクリスタルと同じように、明るい輝きを放っている。どうやら “闇の” というのは、地上にクリスタルに対する対義語のようなものらしかった。

 そして、そのクリスタルの前には―――

「「「「「「キャーッホッホ!」」」」」」

 ルカが抱きかかえていた人形が立ちはだかっていた。
 それも、何時の間に増えたのか、六体も居る。

「僕らは陽気なカルコブリーナ!」
「怖くて可愛い人形さ!」
「ばーかめ!」
「クリスタルを手に入れる前に」
「君らを倒してゴルベーザ様の」
「手土産にさせてもらうよ」

 一体一体が口上を述べた後、六体口を揃えて『キャーッホッホ』と笑い出す。

「・・・人形風情が。随分と面白いことを言うものだな」

 カインが槍を一振りして、その切っ先を人形へと向ける。
 セリスも剣を抜いて、ヤンも拳を構える。

「ノルマは一人二体か・・・」

 セリスがそう言うと、カインはフッ、と笑って。

「なんなら全て任せようか、お嬢さん? 人形遊びは大好きだろう?」

 いつものように、カインがセリスをからかう。
 だが、対してセリスは怒りもせずに、

「そうだな・・・ならば、私に任せて貰おうか」

 セリスが前に出る―――と、カインは後ろに下がりながら尋ねる。

「随分とやる気だな?」
「当然だ。貴様は十分暴れ回って満足だろうが、地底に来てから私は一度も剣を抜いていない」
「待て、セリス―――やつら・・・弱くはないぞ」

 ヤンが警告を発し、ともに戦うためかセリスに並ぼうとする。
 だが、それをカインが槍で制した。

「なんの真似だ・・・?」
「それはこちらの台詞だ。折角、お嬢さんが一人でやると言っているんだ。見守ってやるのが男の務めだろう?」
「馬鹿なことを。貴様はあの人形達から発せられる邪悪な気を感じないのか?」

 ヤンの言葉に、カインは人形達に目を向ける。
 確かに、人形達からは強力なダークフォースを感じられた。おそらく、ゴルベーザはダークフォースで人形達を操っているのだろう。

「だからどうした?」
「なに・・・!?」
「黙ってみていろ。それともまさか、ガストラの女将軍を、本気で “お嬢さん” だと侮っているわけじゃないだろうな?」

 カインに言われ、ヤンは押し黙る。
 セリスは見た目は可憐な美女であるが、その実は剣も魔法も使いこなし、若くしてガストラ帝国の将軍とまでなった女傑である。さらには、セシル=ハーヴィとも互角以上の戦いを繰り広げたことは、ヤンも目にしている。

「解った。・・・だが、危なくなれば―――」
「くどいな。そこの気障男の言うとおりだ。人形ごときに遅れを取る私ではない」

 セリスが言い捨てると、それに過敏に反応したのは当の人形達だった。

「ごとき? ごとき?」
「人形如きだって!?」
「ばかにするなよ人間如きが!」
「お前なんか、ギッタギタのグッチャグチャにした後」
「操り糸をつけて、僕らのオモチャにしてやる!」
「そしてその後はスクラップだー!」

 『キャホホ、キャホホ』と笑いながら、人形達がセリスに向かって襲いかかる。

「・・・人形に人形遊びされるのは、御免だな」

 無感動にそう言って、彼女は剣を一閃させた―――

 

 

******

 

 

 一方、その頃―――

 ロックとギルガメッシュは、バッツを探しに城を飛び出―――そうとしたところで立ち止まる。
 城門で、ドワーフの兵士と、誰かが言い合いをしていた。

「だから、ここに人間が来てるでしょ! こいつはそいつらの仲間なんだって!」
「そんなこと言われても困るラリ。王様から、誰も城に入れるなって命令されているラリー!」

 ドワーフの兵士と言い合いしているのは、人間の女性だった。
 歳は二十歳頃。緑の髪の女性で、手にはロッドを持っているところを見ると、魔道士なのかもしれない。女性は供を連れていた。フード付きのローブを羽織った大小の何者か。それと、大きな鳥と炎の塊の魔物―――ボム。

 さらには、見覚えのあるような飛竜やチョコボもいる。チョコボは二羽居て、片方のチョコボの背には茶色い髪の青年が―――

「って! バッツ!?」

 ロックはチョコボのボコに背負われているバッツの姿に気がついて、急いで駆け寄った。

「バッツ! おい、ボコ! バッツは無事なのか!?」

 勢い込むロックに、ボコは困ったようにクエーっと鳴く。
 だがロックはボコの言葉が解らない。バッツの様子を確認してみると、どうやら息はあるようだった―――がぴくりとも動かない。

「バッツ! おいバッツ! 返事しやがれ!」
「あんた、こいつの知り合い?」

 そう、問いかけてきたのは緑の髪の女性。
 「ああ」と頷きながら、ロックはその女性を見て―――思わず呟いた。

「・・・ミスト?」

 その名を呟いた途端、女性は戸惑いを見せる。

「・・・どうして、母さんの名前を知っているの・・・?」
「ちょ、ちょっと待て。母さんって、あんたミストの娘かよ!? 確か名前は―――」
「たいへんたいへんー!」

 ロックが言いかけた時、城の中から別のドワーフの兵士が飛び出してきた。

「敵ー! また敵が出たー!」
「って、ちょっと待て! 敵ってゴルベーザが戻ってきたのかよ!?」
「!」

 ロックが “ゴルベーザ” と名前を出した瞬間、緑の髪の女性の表情が険しくなる。

「よく解らないー! いきなり人形がクリスタルルームへ飛び込んでー! そして他の兵士達詰まっちゃったー」

 言われても訳が解らなかった。
 それはロックだけではなく、同じドワーフの門番も同様だったらしく、首を傾げるだけだ。

「とにかく大変なのー! だから応援ヨロシクー!」
「わかったー!」

 絶対に解っていないはずだが、門番は「ラリホー♪」と一声あげると、報告に来たドワーフの兵士と一緒に城の中へと走っていく。

「・・・門を守らなくていいのかよ」

 ロックは思わず呟いたが、まあすでに城内に敵が侵入しているのなら、門の意味も在ってないようなものだ。
 さて、自分はどうするかと考える。
 どういう状況かは解らないが、探しに行こうと思ったバッツはあっさり見つかった。しかも生きてはいるようだ。

(あ、ギルガメッシュのヤツは―――)

 ふと、気になって赤い鎧の男を振り返る。
 ずっと静かなので、忘れていたが、バッツが持っている剣、エクスカリバーが目的なら、ここで強引に奪おうとしても不思議ではない―――そう思ったのだが。

「・・・・・・」

 当のギルガメッシュは、ぼーっと女性の姿を眺めていた。
 さっきから静かだったのは、どうも彼女のことを見つめていたかららしい。まさか、一目惚れでもしたのか、とも思ったが、ギルガメッシュが彼女を見つめる視線は、そういう恋愛感情的なものとは違うように思える。

 と―――

「ゴルベーザがこの城にいる・・・」

 女性がぽつりと呟く。
 しばし、彼女はなにやら考えていたようだが、やがて自分の供を振り返った。

「ブリット、ついてきて! 他はここで待機!」
「ちょっと待て。何故、ワシらは待機なんじゃ!?」

 大きいローブ姿―――声からして男らしい―――が、抗議の声を出す。
 チョコボや、大きな鳥や、ボムなども不満そうに彼女を見る。

「・・・こんなところで貴方達の正体がばれたら大変でしょう? ブリットなら、ドワーフって言って誤魔化せるかも」
「しかし・・・!」
「わかってやれ」

 尚も言い募ろうとしたローブ姿(大)を、ローブ姿(小)―――こちらはドワーフと同じくらいの背丈で、少しガラガラ声の青年のような声だ。

「なんだかんだ言っても心配してるんだ―――」
「ブリット、余計なことを言うんだったら、アンタも置いてく」

 言うなり、彼女は城の中へ向かって駆け出す。
 その後を、やれやれと溜息を吐いて、ブリットと呼ばれた小さなローブ姿が追いかける。

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺もっ!」

 何故か、ギルガメッシュもその後に続いた。
 訳の解らないまま、ロックは取り残される。

「ど、どーなってるんだ?」

 訳が解らない。
 地上で行方不明になったはずのミストの娘が、唐突にこんな地底に現れたことも解らなければ、その娘にギルガメッシュがついていったことも解らない。チョコボはいいとして、魔物であるはずのボムや、大きな鳥―――よくよく見れば、石化の毒を持つ魔物・コカトリスだった―――なんかが、大人しくしているのも解らない。

 なによりも。

「おい、バッツ・・・?」
「・・・・・・」

 無反応。
 顔を覗きこんでみれば、目は開いている―――だがその瞳に光はなく、ただただ虚ろだった。

「ええと・・・説明、してくれるか?」

 ロックが、この中で唯一話が出来そうなローブ姿の男に呼びかける。
 彼は、ローブの下でこくりと頷いた。

「さて、何から話すべきか―――まず、我らを束ねるあの少女。お主は少し知っている様だじゃが、察しの通り召喚士の娘じゃ」
「じゃあ、ホントにミストの娘の―――ええと、確か名前は・・・」

 ミストの村で聞いたその名前を、なんとか思い出す。

「リディア・・・そう、リディアだ!」

 と、ロックがその名前を口にした瞬間。
 びくんっ、とバッツの身体が激しく跳ね上がった―――

 

 


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