第17章「地底世界」
O.「隠し通路」
main character:カイン=ハイウィンド
location:ドワーフの城

 

 ゴルベーザ達が撤退した後。
 カイン達は、ドワーフの兵士達に取り囲まれていた。

 ドワーフの娘を人質に取っていたSeeDも撤退していたため、生き残ったドワーフ達が動き出したのだ。
 斧を構え、殺気をみなぎらせているドワーフたち。同じ人間と言うだけで、どうやら、ゴルベーザの仲間だと思われているらしい。

「流石に殺したらまずいか」

 面倒そうにカインが言う。
 ロックはそんなカインを軽く睨み、

「・・・解ってるなら言うなっての」
「ならばどうする? 逃げるにしても、俺一人ならともかく、お前らは突破するのは難しいだろう?」
「・・・この赤いのを囮にして―――」
「おいおいおいおい! なんか物騒なことを言ってるなマイブラザー!」

 おどけた調子で―――しかし目はマジだった―――ギルガメッシュが慌てて言うが無視。

「魔法で退却するか?」

 セリスが言う。
 確かに、転移魔法<テレポ>ならば無事に脱出できるだろう、が。

「できたら逃げずに誤解を解きたいんだけどな・・・」

 ここで逃げたら、ゴルベーザの仲間だと認めるようなものだ。
 そうしたら、さらに誤解を解くのは難しくなる。

 しかし、突然攻め込まれた挙句、仲間を殺されたドワーフの怒りは生半可ではない。
 ロックの危険信号が激しく警鐘を鳴らす。今すぐ逃げなくては危険だ、と。

「仕方ない、ここは―――」

 逃げるしかない、と言おうとしたその時。

「お前達、何者だラリ?」

 ドワーフたち誰かが、そう尋ねてきた。
 その時、ロックの脳裏にふとあることが思い出された。

「ラ・・・」

 そして、思わずその言葉を口走る。

「ラリホーーーーーーー!」

 次の瞬間、ドワーフたちが一斉にロック達に向かって殺到した―――

 

 

******

 

 

 ドワーフの国―――ジオット。

 地底世界のフォールス地方を統治する国である。

 国、という形を取ってはいるものの、基本的にドワーフたちはお気楽で脳天気である。
 地上にある “国” のようにきちんと政治が機能しているわけではない。
 ドワーフたちは、起きたい時に起きて、食べたい時に食べて、働きたい時に働いて、そして眠くなったら寝る。誰もがそんな生活を繰り返している。

 なんともお気楽な社会ではあるが、彼らの生活はそれほど緩くはない。
 地底では地上よりも凶悪な魔物が徘徊し、なによりも魔物よりも厄介な “マグマ” が地上にある川や湖と同じように、普通に生活圏の身近にある。
 普段は近づかなければ問題ないが、たまに大きな地震が起こると、マグマの川は氾濫し、湖―――マグマ溜まりは吹き上がり、多大な被害を巻き起こす。

 そのためか、ドワーフは男女問わず、頑丈な身体を持って生まれ出る。
 強力な膂力を持ち、幼い少女でも身の丈ほどもある斧を振り回すのだ。
 それは、肉体を強化されたソルジャーにも劣らない力である(もっとも、ソルジャーに比べると、力は互角でも速度では遙かに劣るので、戦闘力で言えばソルジャーの方が上であるが)。

 さらに過酷な環境だからこそ、助け合うことが自然と行われる。
 誰かが泣いていたら、近くにいた者が慰める。誰かが困っていたら、助けられる者が力になる。その延長線上で、食べるものがなくてお腹がすいていたら、自分のパンを半分に割って助けてやる。マグマの氾濫で住処を失ったら近所のドワーフが集まって、新しい家を建ててやる。王様が困って悩んでいたら、みんなで集まって良い方法を考える。
 政治は機能していなくとも、社会としては “絆” によって上手く回っている。それがドワーフの国ジオット。

 また、ドワーフたちは、かつて失われた超古代の技術の一部を継承している。
 お気楽で、豪放なその性質からは想像しがたいが、その技術を再現できる器用さを持っている。そのため、同じフォールスでも、地上に比べて同等以上の高い技術力をもっており、カイン達が見た戦車などもその産物であった。

 

 

******

 

 

 ゴルベーザ達が撤退して一時間後―――

 カイン達はドワーフたちの王―――ジオット王の前に並んでいた。
 飛空艇で留守番していたロイドとヤンも居る。フライヤとクラウドの二人は、医務室で手当を受けて居るのでここにはいないが。
 ちなみに、不時着したエンタープライズも、戦車に引っ張られて城の格納庫に格納されている。今頃は、ドワーフたちの手によって補修作業が進められているのだという。まさに至れり尽くせりの状況。

「すまなかった。危うく恩人を傷つけるところであった」

 「ラリホー♪ ラリホー♪」と、脳天気な口調の他のドワーフたちと違って、ドワーフの王は威厳のある口調で謝罪する。
 頻度は多くないとはいえ、この地底にも地上からの旅人は来る。その応対のために、ドワーフの王としてそれらしい態度を身に着ける必要があったのだ。

「いや、誤解が解けてなによりです」

 相手が一国の王だからだろうか、珍しくカインが丁寧な口調で応対する。 

 ―――殺気じみたドワーフたちに取り囲まれたあの時。
 ロックが叫んだ言葉を聞いたドワーフたちは、全員武器を手放して、ロック達に殺到すると、そのまま胴上げをし始めた。
 皆、口々に「ようこそトモダチ!」「歓迎! 歓迎!」「よろしくラリホー♪」などと、殺気など微塵も消し去って、喜び、はしゃぎ出したのだ。

 その後、ドワーフたちが落ち着くと、ロックは城を襲ったゴルベーザ達と自分たちとは違うと言うこと、ゴルベーザの目的を阻止するために地底に来たのだと告げると、ジオット王は少しも疑うことなく、信じ、誤解は最初から無かったかのようにあっさりと解けた。

(つーか効果バツグンにも程があるぜ、エリア・・・)

 ドワーフの子孫である女性の笑顔を思い浮かべ、ロックは苦笑。
 というか、ゴルベーザがこの “挨拶” を知っていたなら、すでにクリスタルは奪われていたに違いない。

「それと、礼を言わせてもらおう。地上からの来訪者よ。お前達のお陰で我らは救われた」
「・・・いや、もう少し俺達が早ければ、少なくとも戦車団が壊滅する前に間に合えば、被害はもっと少なかったでしょう・・・」

 頭を下げるジオット王に、そう答えたロイドの言葉は謙遜でもあったが、本音でもあった。とロックは気づいていた。
 飛空艇がトラブルさえ起きなければ―――或いは、バッツが飛空艇から落ちなければ・・・
 あの時 “赤い翼” は戦車に攻撃を集中していた。あの時ならば、アベルに騎乗したカインが、旗艦を急襲し、墜とすことも可能だったはずだった。

(って、あれ・・・? バッツ・・・?)

 はっと気づいて、ロックはカインを振り返る。

「おい、カイン! バッツは!?」
「うん? さっき落ちただろう」
「冷静に言ってるんじゃねえよ! てめえの竜は戻ってきたのか!?」
「・・・そう言えば、戻ってきていないな」

 カインはふむ、と小首を傾げ、

「まだ戻ってきていないと言うことは、墜ちたバッツを見つけられないか―――それとも、持ち運べない状態で困っているとか」
「持ち運べない状態って―――」
「バラバラ」
「くっ・・・!」

 ロックは身を翻すと、王の間を飛び出そうとする。
 その背中に、ロイドが呼びかける。

「おい、ロック! どこへ―――」
「決まってる! あんのバカヤロウを探しに行く!」
「あ、それなら俺も行くぜ!」

 ロックを追って、ギルガメッシュもかけだした。

「なんでテメエも来るんだよ! 着いてくんな!」
「オメエに命令される謂われはねえよ。俺もアイツにゃ用があるんだ―――アイツの腰のものになぁ!」

 なんて事を言い合いながら、二人はあっという間に王の間を飛び出していった。

「あいつら・・・」

 はあ、とロイドは嘆息。
 それからカインを軽く睨み。

「もう少し、言葉を選ぶと言うことを考えたらどうッスか?」

 刺々しいロイドの言葉に、しかしカインはフッ、と笑って。

「冗談を真に受けるあいつが愚かなのさ」
「冗談?」

 ああ、とカインは頷いて。

「死んでいるわけないだろう」
「へ?」

 きっぱりと言い切るカインに、ロイドは二の句を告げなかった。
 代わりにセリスが問いかける。

「その根拠は?」
「俺ならば死なないからだ」
「いや・・・幾らアンタでも、暴走中の飛空艇から墜ちたら死ぬだろ?」

 思わず素でロイドがつっこむ。
 しかし、カインは冷笑を崩さない。

「どこから墜ちようと関係ない。俺は死なない―――だから、アイツも死ぬはずがない。・・・俺と同じように、セシル=ハーヴィに認められた男ならばな」
「もしかして、それが根拠か?」

 呆れたようにセリスが問うと、カインは「それ以上に確かな根拠があるか?」と、逆に聞き返す。
 ロイド、セリス、さらにヤンまでもが唖然としながらも思い知っていた。

 カイン=ハイウィンドは、セシル=ハーヴィの “親友” なのだと。

「話は済んだか?」

 誰もが言葉を失った中で、ジオット王が尋ねてくる。
 ロイドは我に返ると、慌てて姿勢を整えて、

「あ、すみません。ジオット王」
「気にする必要はない。それで、そのゴルベーザとやらの目的は、やはり―――」
「お父様!」

 と、王の言葉を遮って、ドワーフの少女が王の間へ入ってきた。先程、SeeDに刃を突き付けられて、人質になっていた少女だ。
 彼女はジオット王の元へ駆け寄ると、胸に抱えていた人形を王へ見せて、

「見て! 見て! 新しいお人形! 今、そこで―――」
「ルカ! 見て解らぬのか。来客中であるぞ。人形遊びは後にしなさい」
「むう・・・折角、お父様に見て貰おうと思ったのに!」
「ルカ!」

 王が娘を叱りつける。
 それを見てロイドが、

「ま、ま、俺達は気にしていないですから。―――可愛いお人形ッスね。お名前は?」

 ロイドが少女―――ルカに笑いかけると、ふくれっ面だった少女はぱあ・・・と顔を明るくして。

「えっと、私はルカ。それでね、この子は “カルコ” っていうの!」
「へえ、いい名前ッス」
「えへへー♪」

 どちらの名前のことを言われたと思ったのか、褒められて嬉しそうに顔をほころばせる。
 ジオット王も、そんな愛娘を微笑ましく見守る―――だが、すぐに我に返り、王の顔となって厳しく言う。

「ルカ。大事な話の途中だ。下がってなさい」
「はあい」

 しぶしぶと、ルカは頷くと、そのままロイドの隣りにちょこんと寄り添う。

「ルカ・・・」
「まあまあ、俺なら構わないッスよ?」

 ロイドがそう言うと、王は諦めたように溜息を吐いて。

「客人がそう言われるのならば」

 といい、それから気を取り直し、

「さて―――どこまで話をしましたかな?」
「ゴルベーザの目的ですが・・・」

 と、カインが切り出す。

「ゴルベーザの目的は闇のクリスタル・・・」
「やはりクリスタルを?」
「心当たりがあるのですか?」
「うむ。この城に一つ―――それから、南と西にある街に一つずつ―――だが、その街で護っていたクリスタルは、先日何者かに奪われたのだという報告が入った。それもおそらくは―――」

 ジオット王の言葉に、カインが舌打ちする。

「 “闇のクリスタル” の存在に、気づくのが遅すぎたな・・・この一ヶ月で先手を取られてしまったか」
「仕方ないッスよ。でも、まだ手遅れじゃないッス」

 ロイドが言うと、カインは頷く。

「ジオット王。この城のクリスタルはどこに?」
「それはな・・・」

 王が愉快そうに笑う。
 陽気なドワーフの王だ。威厳を保っていても、その本質は他のドワーフたちと変わらないのかもしれない。

 ジオット王は、ぽん、と玉座に肘置きを叩く。その直後に、足の踵で玉座の下を蹴った。途端。

 ごぅん!

 と、王の間に響く音がして、玉座のすぐ後ろの壁が倒れて入り口が開く。

「隠し通路か」
「シドのおやっさんが喜びそうな仕掛けッスね」

 ロイドが苦笑する。
 その時だった。

「キャーッホッホッ!」
「!?」
「なんだ!?」

 突然響き渡った哄笑に、カイン達は辺りを見回す―――だが、そんな笑い声を上げている者はいない。
 だが。

「カ、カルコ・・・?」

 ルカが戸惑った声を上げる。
 見れば、哄笑を上げているのはルカの腕の中に抱きかかえられていた人形だった。

「見たぞ聞いたぞ、クリスタルの在処! これでゴルベーザ様も喜んでくれる」
「この人形・・・ゴルベーザの!」

 ヤンがルカの人形を奪おうと手を伸ばす―――だが、それよりも早く。

「キャッ!?」

 人形は、ルカの身体を蹴ると、そのまますっ―――と宙を飛んで、ジオット王の横をすり抜け、クリスタルへと続く隠し通路へと入り込む。

「いかん! クリスタルが!」
「ちいっ! ゴルベーザのヤツめ、セコい手をッ!」

 言うなり、カインが駆け出す。
 続いて、ヤンとセリスも隠し通路へと飛び込んだ。さらには―――

「わ、私のお人形さん!」
「ちょっ!? 危ないッスよ」

 ルカも続いて隠し通路へ。それを追いかけて、ロイドも続く。

「み、皆の者! 敵じゃ! クリスタルを奪われるなッ! それからルカを守れー!」
『ラリホー!』

 その場にいたドワーフの兵士達も一斉に隠し通路へ飛び込んで―――

『ラリ?』

 ―――どんがらがっしゃーん! と激突。
 狭い入り口に、何人も一度に突撃したせいで、詰まってしまったのだ。

「何をしとるんじゃお前らーーーーーっ!」

 身動きできなくなってしまった配下の兵士を見て、ジオット王は頭を抱えた―――

 


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