第17章「地底世界」
M.「最強の竜騎士」
main character:カイン=ハイウィンド
location:地底

 

 

 ドラゴンダイブ

 

 カインの槍にSeeDの一人が貫かれ、その近くにいた他のSeeDも衝撃波で吹き飛ばされる。

「な、なんだ貴様―――」

 絶命したSeeDから槍を引き抜いて、吹き飛ばされたSeeDの方に向いて尋ねる。

「ゴルベーザは何処だ?」
「ゴルベーザ―――依頼人か! 言うとでも思うか?」
「・・・まあいい。どうせ、先に居るだろうしな」

 カインはドワーフの城を見る。
 彼がいる場所は、城の城門だった。
 周囲にはSeeDが三人―――内一人は、問答無用で突き殺した。後は、ドワーフの亡骸が二つほど。おそらくは門を守っていた門番だろう。

 カインは吹き飛ばされたSeeDを無視して、城の中へ向かおうとして―――

「黙って行かせるとでも―――がふっ!?」

 立ち上がりかけたSeeDに槍を突き立てる。
 血を撒き散らし倒れ伏すそれを見て、カインは無感動に呟く。

「黙って行かせろ。いちいち相手をするのも面倒だ」
「こ、こいつ・・・」

 振り向けば、生き残ったもう一人のSeeDが歯がみしていた―――が、武器を握りしめた手がぶるぶると震えている。
 それを冷めた目で見つめ、カインは無視して先へと進む。

「ま、待て!」

 待たない。
 後ろで叫ぶSeeDを無視して、カインは城内へ向かって駆け出した。
 残されたSeeDはそれを追わなかった―――追うことが出来なかった。足も、震えていた―――

「く・・・な、なんだったんだよ。今のは・・・!」

 疾風のように唐突に現れて去っていった竜騎士。
  “死” そのもののようだと彼は思った。

 彼はSeeDになってから何度か任務を経験した。仲間の死も目にしたことがある。今更、死を目にしたからと言って畏怖するような素人でもない。
 だから彼が恐怖していたのは “死” ではない。カイン=ハイウィンドという名前の、理不尽な暴力。

 なまじ経験のある彼だからこそ、抗えなかった。
 相手と自分との、実力の差がはっきりと解ってしまったから。

「そ、そうだ・・・伝令―――」

 あの “暴力” を他のSeeDに伝えなければならない。
 そう気づいたが、伝える術がない。竜騎士の足に敵うはずもない。

 どうすればいいか途方に暮れていると―――

「・・・うっわ、死にまくってる」

 脳天気な声が門の外から聞こえてきた。
 振り向くと、妙な三人組が門をくぐり抜けるところだった。

「こっちがSeeDとか言う連中で、この小さいのがドワーフか」
「だ、誰だ!?」

 やってきたのは、赤い鎧の男に、青いジャンバーを着た男、それから金髪の女性―――
 青いジャンバーの男はよく解らないが、他の二人は武装しているのがはっきりと解る。
 油断なく構えていると、赤い鎧の男が友好的に笑いかけてきた。

「あっれ、ゴルベーザから聞いてない? 援軍だよエングン」
「援軍?」
「そう、俺ら三人、ゴルベーザに呼ばれてきたんだよ―――ッ!」
「!?」

 相手に近づいていたギルガメッシュがいきなり斬りかかった―――

 

 

******

 

 

 ギルガメッシュの不意打ちを、しかしSeeDはそれを咄嗟にバックステップで回避。

「あ、外した」
「やっぱり敵か!」
「・・・何をやらかす気かと思えば・・・」

 はあ、とロックは溜息をつく。

「下手な小芝居やってないで、さっさと行くぞ」
「こ、ここは通さん!」

 SeeDが立ちはだかるのを見て、セリスが剣を抜こうとする。
 それをロックが押しとどめて、

「三対一で勝てると思ってるのか? 命を粗末にしたいなら止めてやる義理もねえけどさ」
「・・・うっ」

 SeeDは力無く項垂れて、武器を下げる。
 にやり、とロックは笑って。

「そーそー、最初っからそうやってれば良いんだよ。雑魚が雑魚なりにってなあ。それが賢い生き方ってもんだ。あはははははっ」

 嘲笑をあげて、ロックはすたすたとSeeDの隣を歩いていく。

「くっ・・・うおああああああああッ」
「!?」

 ロックが完全に背中を向けた瞬間、挑発に耐えきれなかったのかSeeDが雄叫びを上げて、背後からロックに襲いかかる―――だが、その攻撃の手が届くよりも早く。

「がふっ・・・!?」

 SeeDの雄叫びに、驚いて振り返ったロックが見たものは、胸から刃を生やした―――絶命したSeeDの姿だった。
 ずぶり、と剣が抜かれ、支えがなくなったその身体が地面に崩れ落ちる。

「おいおい、危ねえな」
「ギルガメッシュ―――」

 倒れたSeeDの向こうから姿を現したのはギルガメッシュだった。
 彼は、血の付いた自分の剣を振って払い、

「お前、今死ぬところだったぜ? 助けてやったんだから、俺に死ぬほど感謝しやがれ」
「あ、ああ・・・ありがと」
「・・・野郎に礼を言われても、なんも嬉しくねえな―――まあ、いいか」

 ギルガメッシュはぽんっとロックの肩を叩いて、そのまま先へと進む。
 ロックもその背中を追いかけようとして―――

「・・・今、わざと挑発しただろう」

 セリスが隣りに並んで、ぼそりと呟く。
 ロックは恍けて、

「何の話だ?」
「・・・まあいい。それで? アイツのことはどうする?」

 セリスが前方を行く赤鎧の男を見やる。
 ロックは肩を竦めて。

「・・・さっぱり良くわかんねーな。折角、絶好の機会を与えてやったのに」

 ギルガメッシュが敵だというのなら、あそこでロックを見殺しにするはずだ。
 だというのに、躊躇うことなく助けた。

「ホントにゴルベーザとは縁が切れてるのか、それとも俺達を信用させるために、わざと味方を殺したのか―――なんにせよ」

 ロックはぎゅっと自分の胸に手を押しつける。

「まだ、嫌な予感は消えやしねえ―――」

 

 

******

 

 

 城内に入って。
 カインの勢いは留まらず、それどころか勢いを増していく。

 SeeD達は為す術もなく一撃で屠られ、カインは敵のまっただ中を、ただ一直線に突破していく。

 攻めている背後からのバックアタックと言うこともあるのだろう。
 殆どのSeeDは反応できず、なにが起きたのか解らないまま串刺しにされていく。

 と―――

「ぐぅっ!?」

 カインの槍がSeeDの肩口をかすめ、血しぶきが舞う―――本当はもっと身体の中心を狙ったのだが、何かの気配を感じたSeeDが身を竦めたのだ。突然の急襲に、SeeDは振り返ってカインの姿を認める。

「何だ、貴様―――」
「ほう・・・俺の一撃を避けたのは、この城に入って貴様が初めてだ」

 何故か嬉しそうに言って、カインは足を止めた。

 今、カインがいるのは城のホールだ。
 背後からの不意打ちが失敗したSeeDの他にも11人―――つまり、総勢12人、4チームのSeeDがいた。
 他は、今まで見たとおり、ドワーフの死骸が転がっている。

 他のSeeD達もカインの存在に気がついて振り返ってくる。

「竜騎士!? ここはドワーフしかいないはずじゃなかったのか!?」
「伝令だ! 先に居るシュウさんに、イレギュラーの存在を伝えろ!」
「了解!」

 SeeDの一人がホールの奥中央にある扉から出て行く。どうやらその先にこのSeeD達のリーダーがいるようだった。

(なんとなくこの城、バロンの構造に似ている―――まあ、城の構造など基本は大して変わらないだろうが。ということは、この先は王の間か・・・?)

「そのシュウとやらと一緒にゴルベーザもいるのか?」
「依頼人のことか・・・? いるとしたら、どうする?」

 帰ってきた言葉に、カインはフッ―――といつも通り冷笑を浮かべる。

「ヤツには借りがある。それを返すだけのことだ」
「威勢は良いが―――この人数相手に勝てると思うのか?」

 その問いに、カインは冷笑を浮かべたまま答えなかった―――

 

 

******

 

 

 ・・・・・・一分後。

 ズダンッ!
 床を破砕する音とともに、SeeDの一人に槍が突き刺さる。
 カインは素早く槍を引いて、残りの敵を見回した。

 SeeD達の数は半分に減っていた。

「ば・・かな・・・」

 信じられないものでも見るかのような―――夢幻でも目にしているかのような眼差しで、SeeD達はカインを凝視していた。
 たった一分。
 わずか60秒で、11人居たSeeDの内、5人が槍に貫かれていた。

 ちなみに、カインの槍を避けたSeeDは一番最初にやられていた。

「あと六人か。流石にこれだけの数を相手にするのは骨だな」

 などというカインの呼吸には一切の乱れがない。
 5人を倒しただけではなく、ここに到達するまで何十人ものSeeDと交戦したはずだというのに、息切れ一つしていない。

「バケモノか・・・」
「そこを退け。貴様らでは相手にならん」

 カインの言葉は挑発でも、嘲笑ですらなかった。
 完全無欠の事実。
 たった一人の竜騎士に、SeeDの精鋭達が手も足も出ていない。

「くっ―――こうなったら・・・!」

 SeeDの一人が歯を食いしばり―――そして何故か手にしていた武器を放り捨てて、カインに向かって突進する。
 武器を放棄したことに疑問を持ちつつも、カインは向かってくるSeeDに対して、容赦なく槍を突き刺した。SeeDはそれを回避しようとするが―――カインの槍からは逃れられない。槍は腹部に深々と突き刺さり、貫通する。

「ぐふっ・・・かかった―――」

 貫かれたSeeDは口から血を吹きながらもにやりと笑う。
 そして、自分を貫いた槍を掴んだ。

「今だ!」
「「応ッ!!」」

 SeeDがカインに突撃する。
 カインは槍を抜いて応戦しようとするが、槍はしっかりと掴まれていて抜くことが出来ない。そうこうしているうちに、剣を持ったSeeDが二人、カインの両側から襲いかかる。

「ちっ」

 舌打ち一つして、カインは槍を手放してバックステップ。
 竜騎士の脚力は、ほんの軽く飛んだだけで、容易く剣の届く距離から退避する。

「槍がなければ、竜騎士など!」

 武器を手放したカインに向かって、SeeDが追撃してくる。

 

 居合い斬り

 

 しかし、そのSeeDは腰から抜き放たれた剣によって斬り飛ばされた。
 SeeDたちの勢いが止まる。カインは冷たい目でそれらを眺め。

「槍がなければ・・・なんだって?」
「剣も、使えるのか・・・!」
「一応な。・・・もっとも、居合いはセシルの方が速いがな」

 というより、オーディン王が使っていた技をセシルが見様見真似で会得して、それをカインに教えたのがセシルだった。
 剣技で言えば、実はセシルと互角―――並の剣士では相手にならないくらいの技量は持っている。

 槍を封じたところで、今度は剣だ。
 あがいても勝ち目がないのかと、SeeD達の動きが停滞する―――その隙を、カイン=ハイウィンドが見逃すはずもない。

 ズダンッ!
 破壊音が響き渡る―――その瞬間、槍を封じられたカインに突撃したSeeDのもう一人の首が跳ね飛ばされる。
 剣で斬りつけるだけでは破壊音は鳴らない。その音は、カインが床を蹴った音だった。―――あまりにも強い蹴りのせいで、床が砕けた音。このホールのあちこちに、床の砕けた後がある―――それは、僅か一分間で5人のSeeD達を屠った痕だった。

 それほどの強い蹴りから放たれる瞬発は、誰も反応すら出来ないほどに速い。
 バッツの無拍子とはベクトルの違うの強引な速さ。それがカイン=ハイウィンドの持つ能力。

「あと、4人―――いや、3人か」

 カインは槍を掴んだままのSeeDを見る。
 そのSeeDはまだ息があったが、その命も風前の灯火だった。

 カインは剣を腰に納め、槍を掴み、引き抜こうとする―――が。

「これは死んでも離さない・・・!」

 しっかりと槍を掴んで離さない。
 見上げた覚悟だ、とカインは思いながら

「そうか」

 とだけ短く呟き―――カインの掴んだ場所から青白いゆらめきが、槍を通って、SeeDの身体へと到達する。

「・・・なんだ・・・これは―――寒い・・・!? 力が、抜け・・・・・・」

 青白い光がSeeDの身体を包むと、槍を掴む手から力が抜けていく。
 まるで、力を吸い取られているような―――

 愕然として、SeeDはカインを見やる。

「まさか・・・お前、俺達の力を―――・・・」
「 “竜剣” ―――という。竜騎士の能力だ。敵の “熱” を奪い、己の “熱” とする」

 人間は行動する旅に熱―――カロリーを消費する。竜騎士の竜剣は、そのカロリーを奪って己の力とする。
 カインがこれだけ戦いを続けて息を乱さないのは、槍を振るうたびに相手の “熱” を吸収して自らのエネルギーとしているためだ。

 カイン=ハイウィンドに対して “数” は力にはなりえない。
 ロイドが、カイン=ハイウィンド―――最強を止められるのは最強だけだと断言したのも、こういった理由があるからだ。

「この・・バケ・・・モノめ・・・」

 SeeDの身体から完全に力が抜ける。
 カインは苦もなく槍を引き抜く。槍を引き抜かれたSeeDは、すでに事切れているらしく、そのままその場に崩れ落ちて最早動かない。

「バケモノか」

 そう呟いた時、彼の表情に浮かんだのはいつもの冷笑ではなく、苦笑だった。

「本物のバケモノを見たことがないからこそ、俺如きをそう呼べる。或る意味、幸せだな―――」

 カインは本物のバケモノを知っている。
 それは最強だとかそういう次元の話ではない。
 自分では永遠にたどり着けない “何処か” へ到達してしまった者の話だ。

 カインはそれを知っている。幼い頃からずっと―――

(セシルに比べれば、俺の “最強” など、まだ人内の範疇だ)

 胸中で呟いて、残った敵を見やる。

「三人―――か。引っ込んでいるならば無駄に殺しはしないが?」

 カイン=ハイウィンドは、これだけ殺しておいて当然だが、博愛主義者というわけではない。
 立ちはだかるならば、それを排除するのになんの躊躇いも覚えないし、必要だと感じるならば、何の罪もない女子供に手を掛けることも躊躇いはしない。

 だからといって、殺戮や暴力を振るうことに快楽を得るような人間ではない。
 彼が喜びを得るのは、己の強さを実感できた時だけだ。
 雑魚を幾ら屠っても己の強さを証明できない。だから “どうでもいい” 。

「う、うわあああああああああああっ!」

 残った三人のうち一人が、恐慌に駆られてか襲いかかってくる。
 恐怖に支配された者など、カインにとって敵にすらならない。槍のひと突きで沈黙する。

「あと二人―――」
「だ・・・ダメだ。相手は人間じゃない―――敵うわけがない・・・っ!」
「お、おいっ―――」

 片割れが、背を向けて逃げ出す。それは、先程伝令が向かった先―――王の間へと続くと思われる扉だ。

「お前は逃げないのか?」

 残った一人に問いかける。
 最後の一人は憎々しげにカインを睨付けた。

「SeeDの力を侮るな・・・ッ」
「侮ってなどはいない。単にお前らよりも俺が強かった―――ただそれだけだ」

 挑発じみた返事だが、カインは気の強い女性をからかうのは趣味みたいなものだが、生死を賭けた戦場でそう言った駆け引きを好まない。口先で相手を揺さぶって勝利しても、それは自分の強さとは言えない。
 彼が望むのは “勝利” ではなく “強さ” だった。勝利ならば彼の親友がもたらせてくれる。ならば、彼が為すべき事はその勝利のために強さを証明することだけだ。

 だからカインの言葉は、侮蔑でも嘲笑でもない。
 実際に戦ってみて、その結果を冷静に見たその “事実” に他ならない。

 それでも言われた方にしてみればこれほどの屈辱もない。
 最後に残されたSeeDは怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。

「黙れ! SeeDの力はこんなものじゃないこんなものじゃ―――出でよ! 我がガーディアン・フォース!」
「む・・・!」

 SeeDが叫ぶと同時、その目の前に翼を生やした巨大な蛇が出現する。
 雷気を操る “翼有る蛇” ケツァクウァトル。
 天井に頭が着くほどの長大な曲をくねらせて、翼有る蛇はカインを睨み―――

「ちっ!」

 殺気を感じてカインは横に飛ぶ―――直後、その場所をケツァクウァトルの頭部から放たれた雷撃が薙ぎ払う。

 

 サンダーストーム

 

 雷撃は連続して放たれて、対してカインは逃げ続けるのでやっとだった。

「は―――ははははっ! 見たか! これがSeeDの力だ!」

 SeeDが哄笑を上げる。
 ガーディアン・フォース―――幻獣達の魂を精神の中に宿す力。
 その力で様々な能力を得たり、身体能力を上げる。SeeDの使う “疑似魔法” も、このガーディアン・フォース―――通称G.Fによるものだ。
 元が幻獣の力だけあって、オリジナルの力には及ばないものの、そこらの魔道士が使う魔法よりは遙かに強力な力だ。

 だが、強力な分、使い勝手が悪いという反面もある。
 敵味方が入り乱れている場所では使いづらい―――だが、味方が全て倒れてしまった今、最後に残されたSeeDがその使用を躊躇する理由は何処にもなかった。

 ホール中に雷撃が荒れ狂い、SeeDやドワーフの亡骸を容赦なく雷光が灼いていく。
 だが、生き残ったSeeDはそんなこと気にせず、ケツァクウァトルの思うがまま暴れさせる―――追いつめられたせいで、どこか精神のタガが外れてしまったのかもしれない。
 彼は、逃げまどうカインの姿を見て、心底愉快そうに笑い続けた。

「あ―――ははははっ! いいぞ、いいぞ、その調子だ! 殺してしまえ―――」

 馬鹿笑いを続けるSeeDに、カインはなんとかそのSeeDに近づこうとするが、それをケツァクウァトルの雷撃が阻む。
 敵に近づくことすら出来ないまま、カインは逃げ続けることしかできない。
 それを見て、ことさら愉快そうに笑うSeeD。

「何がバケモノだ! 所詮は時代遅れの騎士なんか、このガーディアン・フォースの前では―――」

 ずムッ。
 と、何かが彼の胸から聞こえた。
 なんだ? と思って見下ろしてみれば、彼の胸から一本の棒が生えて―――否、槍が突き刺さっていた。

「え―――?」

 何が起こったか理解できないまま、彼はその場に倒れる。
 自分がどうして死ぬのか―――それすら理解できないまま、彼は事切れた。
 同時、猛威を振るっていたケツァクウァトルもその姿を消す。

 シン・・・と静まりかえったホール。
 そこで、カインはフ・・・と吐息する。

 そして、倒れたSeeDに近づくと、自分の槍を―――雷撃から逃げながら投擲した槍を引き抜いた。

「・・・侮っていたのは、貴様の方だったな」

 槍を投げたのは、カインにとって苦し紛れの方策だった。
 勝ち誇りなどせず、カインの動きに注意していれば防げた程度の攻撃だ。

 カインは自分の槍から血を拭うと、先へと続く扉へと目を向ける。
 おそらくその先にカインの―――いや、セシル王、ひいてはバロンの “敵” が居る。

「お、よーやく追いついた」

 背後から声。
 振り返ると、ロック達三人が駆けてくるところだった。

 カインは怪訝そうに三人を見やり、

「なんだ?」
「なんだはねえだろ。助太刀にきてやったんだぜ」

 ギルガメッシュが言うと、カインはさらに怪訝そうに眉をひそめて。

「助太刀? 要らんが」
「あっさり斬り捨てられちまったよオイ―――まあ、この現状を見ればそう言うのもとーぜんか」

 ギルガメッシュは周囲を見回す。
 SeeD達の死体―――その殆どは黒く焼けこげている。

 カインはそんなギルガメッシュに向かって槍を突き付けた。

「というかお前は敵だろう。そろそろ殺しておいた方が良いか?」
「待て! 俺なんか殺したってつまんねーぞ!」
「確かに詰まらんが。そろそろウザくなって来た」
「こえーーーーーーーっ! ウザいだけで人を殺すのかてめえは!」
「立場をはっきりしろと言ってる。敵なら敵らしくさっさとかかってこい」

 カインが言うと、ギルガメッシュは大げさに首を横に何度も振る。

「ちがちがちがちが!」
「血が?」
「違うっつーの! 敵じゃない! 敵じゃないです! 俺仲間! みんなのトモダチ!」
「いや、それはウソだろう」
「ウソ確定かよ! もうちょっと信じる心プリーズ!」
「お前が敵だというなら即信じるが」
「それ、つまり信じてないって事だよね。泣いて良い、俺?」
「面倒なヤツだ・・・」

 カインはうんざりして、ロックの方を見る。

「お前はどうしたい?」
「は? 俺?」
「ああ。お前の意見を聞きたい」
「・・・って、どうして俺なんか」
「ロイドのヤツがお前のことを信頼しているようだからな」

 即答。
 さらにカインは続けて。

「俺はロイドの事は信頼している―――在る意味、セシルよりも信頼できる男だ。・・・セシルのヤツは普通に無茶を言うからな」

 しかしだからこそ、槍を捧げる気になったのだがな、とカインは苦笑して。

「そのロイドが信頼する男ならば、信頼できる。そういうことだ」
「・・・前々から思っていたんだけどな、アンタやセシルって “信頼” の定義が間違ってないか?」
「そうか?」

 首を傾げるカインに、ロックは至極疲労したように長く吐息する。

「それで、どうする?」
「正直、ここで殺しといたほうが後腐れなくて良いと思う」
「ちょっと待て!」

 当然だが、ギルガメッシュが抗議する。

「さっき助けてやったろうが! その恩は何処行った!?」
「ははは。あれは君を試したんだよ」

 ギルガメッシュとは目を合わせずに、ロックが適当な口調で言う。

「ウソこけ! 泣きべそかいてたくせに!」
「かいてねえっ! ホントにあれは試したんだっつーの! お前が敵かどうかをな!」
「・・・・・・それで?」
「え?」
「俺、お前助けたじゃんか。だったら敵じゃないんじゃねーの?」
「それは・・・そうかもしれない、けどなあ」

 調子が狂う。
 嫌な予感は消えてはいない。
 根拠のない直感と言えばそれまでだが、それに何度も助けられていた経験もある。そのロックの直感が、この大して強くもない、おちゃらけた男を “危険” だと警告している。

 しかし、その一方で違和感も覚える、
 こうまで疑って―――それもあからさまにはっきりと疑っているのに、当の本人は飄々としている。
 いつ、敵だと完全に断定されて、刃を向けられるかもしれないというのに、そういった危機感を感じている様子はない。土壇場になってもどうにかする “奥の手” でもあるのか、それともロックの直感は勘違いで、本当に敵ではないのか―――

(・・・セシルのヤツも迷うわけだ)

 判断しなければならない立場に立たされてよく解る。
 セシルも、このギルガメッシュの態度に判断を狂わされていたのだろう。

 一番正しいのは、後腐れなく殺してしまうことだ。
 だが、もしもそれが間違いだったなら、これほど後味の悪いこともない。
 なによりも問題なのは、ギルガメッシュが “敵” であるという証拠がなにもないことだ。あるのは “ゴルベーザに雇われた” という疑わしさだけ。
 付け加えれば、ギルガメッシュが害となっている事実も無い。

(・・・くそ)

 胸中で毒づきながら、ロックはカインに告げた。

「とりあえず・・・もう少し様子を見てみた方が良いかもしれない」
「あやふやな意見だな」
「し、仕方ないだろ! 判断する材料が少なすぎる!」
「だから認めろよ。俺は味方だぜ」

 ギルガメッシュが胸を張って言う。
 その言葉を信じられたらどれだけ楽か―――そう思いながら、ロックはギルガメッシュ関連で、何度になるか解らない溜息を吐いた―――

 


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