第17章「地底世界」
K.「ソルジャーVSガンブレード使い」
main character:クラウド=ストライフ
location:地底

 

 

 4つの死体が整然と並べられている。
 それを見て、さてどうしたものかとフライヤは思案する。

 一応、敵だが。だからといって亡骸をこのまま放置しておくのも目覚が悪い。
 せめて墓でも作ってやろうかとも思ったが、彼らの故郷はここから遠く離れたエイトスである。異境の―――しかも地底世界などに葬られては、祟られるような気もする。

「放っておけばいい。味方ならともかく、敵のことをそこまで気に掛ける必要もない。それに傭兵として戦いに参加している以上、朽ち果てる覚悟くらいはできていただろうからな」

 素っ気なく言ったのはクラウドだ。
 ・・・などと口に出しながらも、彼は死体を並べるのを手伝ってくれた。

「そうかもしれんが・・・しかし、できれば手厚く葬ってやるというのが人の情けというものじゃろう」
「・・・なら、好きにしろ」

 などと言いながら、実際に墓を掘るとあれば彼は手伝ってくれるだろう。
 クラウド=ストライフという男は、表に表してるほど冷たい男ではない。

 フライヤはそんなことを思いながら、ロープで拘束している “捕虜” を振り返った。

「ニーダ。こういう時、お前達はどうしてるんじゃ? 仲間が死んだ時、それが遠く離れた場所だった場合には?」
「え、ええと・・・聞いた話では―――」

 ニーダはSeeD候補生だ。この任務が初の実戦になる―――だから、捕虜になるのも戦いで仲間が死ぬのも初体験だった。
 死人かと思うくらいに青ざめた表情はそのためだろう。
 逆らう気力もないらしく。彼は反発することなく―――変わり果てた仲間達からは目を反らして―――答えた。

「死体は回収可能なら、回収してガーデンへ持ち帰ります。それから解剖して、死因を確認して・・・」
「か、解剖?」

 思っても見なかった単語が飛び出たことに、フライヤは目を丸くした。
 クラウドも、怪訝そうに眉をひそめている。

「いや、俺も詳しく知らないんですが、死体からは色んな情報が読み取れるらしんですよ。相手の武器とか、技とか―――そう言うのを検証することによって、他のSeeDが同じ相手に当たった時に、役立てるとかで・・・」

 ニーダが言ったほかにも、解剖すれば人体の構造・原理が解る。人体の原理が解れば、どうすれば強くなれるのか―――どんな訓練をすれば長所を伸ばし、短所を潰せるのか。また、人体構造学から人の構造に適した武具を創り出すことが出来る。人間は―――というかどんな生き物でも同じ事だが、個人個人によって細部が異なる。だから個人に合わせた武器を開発することによって、その能力を120%引き出すことも可能になる。
 また、単純に医学の発達にも繋がり―――なんにせよ、 “死体” というのは人道無視すれば、なによりも貴重な研究材料なのだ。

「情のない話じゃのう」

 フライヤが気分悪そうに言い捨てる。
 しかしクラウドは肩を竦め。

「程度の差はどうであれ、何処もやっていることだ」
「お前は認めるのか」
「・・・死者が生者の血肉となる。そう、考えれば嫌悪するような話でもない」

 そのクラウドの言葉に、フライヤは驚いたような顔をする。
 クラウドは「なんだ?」と彼女を見返した。

「いや・・・お前がそう言うことをいうとはな」
「らしくないか?」
「いつもの “興味ないな” で済ませるかと思ったんじゃ」
「・・・確かにな」

 らしくないことを言った・・・とも思う。
 しかし、なんとなく言わずにはいられなかった。

( “ソルジャー” もそう言った存在だから・・・か?)

 魔晄という超エネルギーを仕込まれた戦士・ソルジャー。
 それが “実用化” するまで、どれほどの犠牲があったのか。
 1stのソルジャーであるクラウド自身、知るべくも無いことだが、しかし並大抵ではなかったのだろうと想像するに難くない。

(或いは―――俺自身が、誰かの血肉の上に在るからなのか・・・?)

 なんとなしに思い浮かんだ自分の思考に、クラウド自身戸惑いを覚えた。

(なんだ・・・? 俺は何を考えている?)

 自分自身が誰かの犠牲の上に成り立っているなど、そんな事は覚えがなかった。
 だが不思議と、先程思い浮かんだ思考は、無視できないほど心に染みこむ。

「クラウド・・・? どうした」

 フライヤの声に我に返った。
 見れば、フライヤが心配そうな表情で―――最近では、ネズミ族という異形であるフライヤの表情の変化も大分解るようになってきた―――こちらの顔を覗き込んでくる。

「随分と、険しい顔をしていたようじゃが・・・」
「・・・なんでもない。少し、考え事をしていただけだ―――ん?」

 フライヤの肩越し――― “赤い翼” の飛空艇がある方向から、誰かがやってくるのが見えた。
 二人―――カインやロック達が引き返してきたには早すぎる。まだ城へ着いたかどうかと言ったところだろう。だとすれば考えられるのは新手のSeeDだが、SeeDは三人一組が基本のはずだ。

 しかも、ニーダ達とは来ているものが違う。SeeD候補生達は紺の制服を着ているのに対して、向かってくる二人組―――どうやら男女の二人組らしいが、前を歩く男は白いコートを羽織り、その少し後ろを歩く女性は橙色の服を着ている。

 数の差違に疑問を感じながらも、クラウドとフライヤはやってくる二人に向き直る。
 まだ相手の顔も見えないような距離だが、魔法ならば十分射程距離だ。いつでも動けるような体勢で相手を待ち受ける。

 しかし、相手は特に遠距離攻撃を仕掛けてくる様子はなかった。
 やがて、ようやく互いの顔が視認できるまで近づいてきたところで、ニーダが叫んだ。

「キスティス教官!」

 

 

******

 

 

 助けを乞うようにニーダが叫ぶ。
 キスティスも縛られているニーダの姿に気がついて声を上げた。

「ニーダ! 無事だったの!?」

 ニーダはキスティスが受け持っている生徒の一人だった。
 全滅したと言われていた中、自分の教え子が生きていることに安堵仕掛けたが―――そのすぐ傍に並ぶ、4つの死体を見て表情を凍らせる。

「・・・・・・っ」

 報告は受けていたが、実際に死体を目の当たりにして、キスティスは言葉を失う。
 4人の中にはキスティスの教え子も入っていた―――顔が真っ白に、血の気が引いているのは怒りのためだった。

「おいおい、なにぼーっと突っ立ってるんだよ、センセー」

 ガンブレードを肩に担いだままサイファーがこちらを振り返ってくる。

「まさか雑魚が死んだからってショックを受けてるんじゃねえだろうな」
「サイファー! そんな言い方は―――」
「雑魚だから死んだんだろうが! 弱っちいから死んじまった―――ただそんだけだろうがよ!」
「くっ・・・サイファー、私の生徒達を侮辱するのは止めなさい」
「侮辱?」

 怒りを堪えきれず、睨付けてくるキスティスに、サイファーは大仰に両腕を振って肩を竦める。

「俺は事実を言っているだけだぜ―――なあ、あんたもそう思うよなあ?」

 そう問いながらサイファーが目を向けたのは、巨大な剣を持った金髪の青年。
 彼は興味なさそうな表情でキスティスとサイファーのやりとりを眺めていたが、話を振られて小さく頷いた。

「そうだな―――だから」

 自分の身の丈ほどもある、巨大な剣をサイファーへと向ける。

「お前も、死ぬんだろ?」

 その挑発に、サイファーは怒りもせずに、むしろ「へっ」と愉快そうに笑う。

「おもしれえ・・・」

 ガンブレードで目の前を十字に斬るように振るう。

「試してもらおうじゃねえか・・・どっちが雑魚かをよッ」

 ガンブレードを握りしめ、今にも飛びかからんとする様子のサイファーに、キスティスの警告が飛ぶ。

「サイファー! 気づいているの? あれは “神羅” のソルジャーよ! 単体での戦闘能力は、SeeDを上回る―――」
「だからなんだってんだッ!」

 キスティスの警告も意に介さずに、サイファーはソルジャーに向かって突進した―――

 

 

******

 

 

 力任せの一撃が飛んできて、それを剣を立てて受ける。
 目の前で鋼と鋼が激突して火花が散る。間近で見た相手の獲物を見て、思わずクラウドは呟いた。

「ガンブレードか・・・!」

 ―――ガンブレードとは、その名前の通りに銃と剣が合わさった武器である。
 とはいえ、トリガーを引けば銃のように剣の刀身が飛んでいくような飛び道具ではない。
 柄に、銃のように “引き金” があり、トリガーを引くと内蔵された火薬が爆発し、刀身を振るわす。斬りつけた瞬間にトリガーを引くことにより、斬撃と共に強い衝撃を与えることが出来る。つまり、一撃で二種類の攻撃を与えることが出来るのだ。

 刃が通らないような硬い魔物や、鎧を身に着けた相手にも有効な武器ではあるが、その反面、トリガーを引くタイミングなど使いこなすにはかなりのセンスが必要とされるので、今では使い手は殆ど存在しない。

 自分の武器の名を口にされて、サイファーは武器と武器越しににやりと笑う。

「知ってるのかよ!」
「昔見た映画で騎士が使っているのを見たことがある―――骨董品だな」
「抜かせッ」

 渾身の一撃を受け止められたサイファーは、剣を振り上げて再度振り下ろす。
 クラウドは同じように自分の剣で受ける―――が。

「喰らいなッ!」
「!」

 ズガンッ。
 インパクトの瞬間、サイファーがトリガーを引くと、刀身が爆発的に震える。
 叩き付けられた振動は、衝撃となってクラウドの剣を伝わり、剣を持つ手へと直撃する。手が軽く痺れ、剣を取り落としそうになる。

「おらあッ!」

 サイファーは再び剣を振り上げて、クラウドの眉間めがけて振り下ろす。
 クラウドは、それを剣で防ごうとするが、手が痺れて反応が遅れる。

「終わりだッ」
「・・・させるかッ」

 

 リミットブレイク

 

 クラウドは体内に秘められた魔晄の力を解放。
 人並み外れた力が沸き上がり、その力で巨剣を握りしめ―――振り上げる。

 しかしそれは攻撃を防ぐための動きではなく―――

 

 画龍点睛

 

 巨剣が強引に天へ向かって振り上げられる。
 その力任せの動きは風を生み、突風がサイファーの身体を吹き飛ばす。

「ちいいっ!」

 高く―――大人2人分程度の高さまで跳ね上げられたサイファーは、空中でくるりと一回転。
 そのまま重力に従って足下から着地した。

「ちっ・・・デタラメな技を使いやがる・・・!」
「サイファー! 相手はソルジャーだって言ったでしょう! 甘く見ないで!」
「うるせーな・・・随分と過保護じゃねーかよ・・・」

 目の前のクラウドよりも、むしろキスティスの方に苛立ちを感じて、サイファはぶつぶつと呟いた―――

 

 

******

 

 

「サイファー! 相手はソルジャーだって言ったでしょう! 甘く見ないで!」

 そう叫びながら、キスティスは目の前の “敵” へと注意を向ける。
 ネズミ族の赤い竜騎士―――キスティスは彼女のことを知っていた。

 嘆息して、その名を口にする。

「違ったら御免なさい? 貴女、もしかしてブルメシアのフライヤ=クレセント?」
「・・・私のことを知っておるのか?」

 驚いた様子のフライヤに、キスティスは「ええ」と頷いて。

「私と近い歳で、同じ女性で、それでいてブルメシアでNo.2の竜騎士―――気にならないわけがないでしょう?」
「No.2と言うわけではない。単に、No.1の弟子だった、というだけじゃ」
「それなら、貴女の国でそのNo.1―――竜騎士フラットレイ以外に、貴女より強い人はいるのかしら?」
「・・・・・・」
「ほらね」

 くすくす、とキスティスは笑う。

「会ってみたいとは思っていたのよ。ブルメシアを出奔して、疾走したフラットレイを探して世界中を旅していると聞いていたから、バラムにも立ち寄らないかしらとも思っていたわ」
「私は、お主のことを知らんがな」
「まあ、普通はそうでしょうね。学園の一教員の知名度なんてたかがしれているでしょうしね」

 苦笑。

「だけど私は良く知っているわ。貴女だけじゃない、他にもシクズスのセリス将軍や―――ちょっと歳は離れているけれど、貴女と同じナインツの聖騎士ベアトリクス・・・」
「セリス=シェールならばここに来ているがな」

 フライヤが言うと、「あら」とキスティスは驚いて見せた。

「もしかして、さっき城の方へ走っていったのが―――」
「カインの後に走っていった三人がおったじゃろう。そのうちの一人がセリスじゃ」
「あら残念。行き違いになっちゃったのね」

 心底残念そうに彼女は天を仰ぐ―――もっとも、この地底には天はなく、赤い天井が見えるだけだが。

「本当に―――残念」

 そう、言いながら彼女はゆっくりと視線を降ろす。
 その視線の先には、4つのSeeD候補生達の死体―――

「貴女とは、もっと別の形で出会いたかったわ」

 キスティスは自分の武器―――鉄鎖を組んで作られたムチ、チェーンウィップを構える。
 対し、フライヤも自分の槍―――クラウドに粉砕された代わりに、ギルバードから譲ってもらったミスリルの槍だ―――を構える。

「私は無益な戦いを望みはせん―――・・・一応聞くが、退く気は?」
「仇は取らなければならないわ。その子達の教師として」
「そうか・・・ならば、最早交す言葉も必要ない、な」

 な、とフライヤが言葉を置いた瞬間。
 キスティスのチェーンウィップが唸りを上げて、フライヤに向かって襲いかかった―――

 

 

******

 

 

 破晄撃

 

 碧く地を這う魔晄の光がサイファーを襲う。

「散れよッ」

 ガンブレードを持っていない空いた左手で、前方を払うような仕草をする。
 凪いだ空間に炎が生まれ、それはクラウドが放った魔晄の一撃へと殺到すると、互いに相殺し合う。

 疑似魔法―――魔道士達が使う魔法の簡易版とも呼べる魔法だが、魔道士の使う真の魔法とは違い、威力は劣るがいつでも即発動できる利便性がある。

「ハッ、そんなもんかよ! ソルジャー様の力ってのは!」

 挑発しながら、もう一度腕を振るう。
 すると、今度はいくつかの氷の塊が生まれ、それはロケット弾のようにクラウドに向かって飛んでいく。
 クラウドは「ちっ」と舌打ちして、

 

 凶斬り

 

  “凶” の字に巨剣が乱舞する。
 その斬撃の前に、氷弾は全て叩き落とされた。

「ソルジャーを舐めるな・・・!」

 

 ブレイバー

 

 クラウドはサイファーに向かって突進―――そのまま剣を頭上に振り上げて、サイファーに向かって振り下ろす!
 単に走って剣を振り下ろすだけの攻撃だが、常人の何倍ものの力を持ち、巨大な剣を振り回すソルジャーがそれをやれば、ただそれだけで必殺の一撃となる。

 同じソルジャーか、或いは人外の魔物でもなければ、その一撃をまともに受けることなどできないはず―――だった。

「舐めて―――」

 しかしサイファーは逃げようともしない。
 ぺろり、と舌で乾いた唇を舐め、迫り来る必殺の一撃に怖れる様子もない。
 彼は振り下ろされる巨剣の一撃に対して、ガンブレードを構えるだけ。

(受け止める気か・・・!?)

 出来るはずがない。
 クラウドはそう思いながら、剣を振り下ろす。

 巨剣とガンブレードが十字に交差する。
 本来なら、そのままサイファーは押し切られ、巨剣に押しつぶされて終わりのはずだった。

 しかし。

 ズガンッ!
 と、ガンブレードが震える。剣と剣が合わさった瞬間、サイファーがトリガーを引いたのだ。
 クラウドの巨剣が僅かに弾かれる―――だが、それだけで勢いが殺せるわけではない。尚も巨剣は重力に従い振り下ろされようとする―――ズガンッ―――ところへ、サイファーがもう一度トリガーを引く。さらに勢いが減じ―――ズガンッ―――三度目、サイファーはトリガーを引くと同時に、両手でガンブレードの柄を握りしめ、力任せに跳ね上げる。

「―――当然だろうがッ」
「なに・・・ッ!?」

 絶対必殺の筈の渾身の一撃が弾かれる。
 そのことにクラウドは驚愕し―――だから、次の反応が遅れた。

 間髪入れず、サイファーはガンブレード一閃。
 為す術もなくクラウドの腹部が切り裂かれ―――ズガンッ―――同時、ガンブレードのトリガーの一撃が叩き込まれる。

 クラウドの身体が地面に倒れる。

「あ・・・う、ぐ・・・」

 腹部からどくどくと血を流し、身じろぎするだけで立ち上がろうとする気配がない。

「雑魚はどっちだったよ・・・? ソルジャーさんよォッ」
「がはっ!」

 サイファーは、斬ったクラウドの腹部を蹴り上げる。
 口からも血を零し、もんどり打ってクラウドの身体が地底の赤い大地を転げ回った。

「クラウドッ! なにをしとるんじゃッ!」

 フライヤの声が飛ぶ―――が、彼女はキスティスの相手をしていて、助けには行けそうにない。
 サイファーは、蹴り飛ばしたクラウドの身体へゆっくりと近づくと、ガンブレードの切っ先をクラウドへ向ける。

「さて、オシマイの時間だ」

 サイファーは刃をクラウドへ向けて、躊躇うことなく振り下ろした―――

 

 

 


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