第17章「地底世界」
J.「最強たる存在」
main character:ロイド=フォレス
location:地底

 

 エンタープライズの機関室。
 ロイドはそこで、故障した制御部―――バロン製飛空艇の動力である “浮遊石” の力を制御するための機関だ―――を確認している。
 トラブルの原因はすぐにわかった。浮遊石のオーバーヒートだ。地底の熱のせいで、浮遊石の力が不安定になり、制御しきれなくなってしまったようだった。

 一応、応急処置をすればすぐに飛べるようにはなるだろうが、この地底ではすぐに墜ちてしまうだろう。
 ちゃんとした改造をしなければならないが、それはここで出来ることではない。

 ロイドは修理を諦めて、顔を上げた―――と、傍にいたヤンと目があった。
 彼は、少し納得のいかない様子で問いかけてくる。

「大丈夫なのか?」
「いや、無理ッスね―――これは俺一人じゃどうにもなりません」
「そうではない。城に向かわせた者たちのことだ」

 カイン、それからロックとセリスとギルガメッシュ。
 それら4人のことを思い浮かべ、ロイドはさらりと言う。

「大丈夫ッスよ」
「しかし、たった4人で攻城戦の中を突破するというのは―――」

 言いかけたヤンの言葉を、「いえ」とロイドは遮って。

「4人じゃありません。1人です」
「・・・は?」
「カイン=ハイウィンドならば、たった一人で突破できると言ったんですよ」

 機関部を確認するために使った工具を放り出しながら、ロイドはなんでもないことのように言う。
 ヤンはしばし考えて、それからぽつりと呟いた。

「・・・SeeDの話は私も聞いたことがある。エイトスが誇る最高の傭兵―――その実力は、そこらの軍隊顔負けだという」
「そー見たいッスね」

 ロイドは否定するでもなくあっさりと頷く。

「このフォールスで言うなら、エブラーナと良く似ていますかね。個々で高い能力を持ちながら、役割分担をはっきりとさせている戦闘集団―――単に戦闘能力で言えば、バロンをも上回るでしょうね」

 実際、バロンよりもエブラーナの方が戦闘能力は上だった。
 ロイドも体験したことがないので聞いた話だが、かつてあったバロン−エブラーナの戦争では、どの戦場でも殆どエブラーナが勝利を収めていたのだという。
 だというのに、バロンが負けなかった理由は、物量に雲泥の差があったからだ。
 早い話、エブラーナには領地を占拠しても、それを維持するだけの人も物資も足りなかった―――だから、占領しすぎて手薄になってしまったところを、バロンが取り返されては取り返し―――などと繰り返していたから決着が着かなかったのだ。

「そんな相手に、いかにカインが強かろうと・・・」

 非難じみたヤンの言葉に、ロイドはにんまりと笑って逆に問う。

「ガーデンに無くて、バロンにあるものはなにか解りますか?」
「は?」
「SeeDに無くて、ソルジャーにあるもの・・・或いはエイトスに無くて、シクズスにあるもの、でもいいッス」
「何の話を・・・」

 苛立ってきたヤンの言葉を塞ぐようにロイドは、もったぶらいずにさっさと答えを告げる。

「答えは ”最強” 」
「最強、だと・・・?」
「SeeDは完成された戦闘集団です。俺も資料で読んだだけですが、任務遂行率はほぼ100%。軍属でない戦闘集団と言えば、クラウドさんのソルジャー―――新羅の私兵団が有名ですが、それと比較しても圧倒的に高い遂行率です」

 です―――が、とロイドは切り替えて。

「しかしSeeDには、シクズスのレオ=クリストフ、ソルジャー1stのセフィロスと言った、 “最強” がいない。最強を止められるのは同じ最強だけ―――SeeDが何人集まろうと、 “最強の竜騎士” カイン=ハイウィンドは止められない」

 それに、とロイドは苦笑して付け加えた。

「あの人、初めての “セシル王” からの命を受けて、かなりはしゃいでますからね―――尚のこと、止められやしませんよ」

 思い返す。
 ロックがギルガメッシュを見つけ、バロンに戻ることを提案した時。ロイドもそれに賛成したにも拘わらず、カインは先へ進むことを強行した。
 正直、ロイド自身でも不思議に思うが、あれで割とカインはロイドのことを――― “セシル=ハーヴィの副官” のことを評価してくれている。普段なら、素直にロイドの意見に従い、バロンへ戻ろうとしただろう。

 つまるところで、カインは己の槍を振るいたくてうずうずしていたのだ。
 なにせ、長年の夢がついに叶ったのだ。
 若くして “最強” と呼ばれるほどに強くなったのも、全てはセシルの元でその力を発揮したかったからだ。普段と同じ、クールな振りをしていたが、割と長い付き合いのロイドには解る。あれは、内なる激情を必死で抑え込んでいたのだと。

 そして、敵を目の前にして待ちきれずに飛び出した。
 今頃は、ドワーフの城へと辿り着いた頃だろうか。

「まあ、カイン隊長については心配要りません―――心配したら逆に怒られます。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「問題は、ロックの方ですね。ギルガメッシュと・・・それからセリス将軍がどう転ぶか解らない」

 ロイドの言葉に、ヤンは「むう?」と首を傾げる。

「ギルガメッシュはともかく・・・セリス将軍も疑っているのか?」
「ええ。俺はセシル王のように彼女のことを好きなわけでもないし―――なりゆきにしろ、ゴルベーザ側についていたということもあります。素直に信じる気にはなりませんね」

 などといいながら、ロイドはそれが杞憂だとも半ば思っていた。
 セリスは信用できなくても、ロックのことは信用できる―――人一倍 “罠” には敏感な彼のことだ。セリスが怪しいのなら、それを感じ取っているだろう。ギルガメッシュに対して、危険なものを感じているように。

 ロイド自身、ギルガメッシュの事は特に危険視していない。
 というか、あれだけ堂々とされていると、危険に思うのも馬鹿馬鹿しくなってくる―――だが、ロックが激しく警戒しているところを見ると、何かあるような気さえしてくる。
 送りがけに言った言葉は冗談などではなく、敵であるならさっさと向こう側へと帰って欲しいというのが本音だった。そうすれば悩む必要もなくなる。

「しかし、それならば尚のこと。私も行った方が良くなかったか?」

 そんなヤンの言葉を聞いて、ロイドはふと気がついた。

「・・・もしかしてヤンさん。ヒマなんスか?」
「む・・・」

 図星らしい。
 どうやらうずうずしていたのはカインだけではなかったようだ。

「もう少し我慢してくださいよ。多分、もうそろそろ来るはずですから」
「さっき来た、SeeDの候補生がか?」
「いえ。今度は多分、本物のSeeDが来る―――だから、ヤンさんには残って貰ったんですよ」

 本音を言うと、信用できるのならセリスやギルガメッシュにも残って貰いたかった。
 だが、もしも土壇場で裏切られたら、一気に全滅させられる。その可能性を考えて、ロックに連れて行ってもらったのだ。

 そして。
 ロイドの予想通り、外では戦闘が始まっていた―――

 


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