第17章「地底世界」
H.「SeeD」
main character:カイン=ハイウィンド
location:地底
ずががががががががっ!
飛空艇が地面に不時着する。
セリスの “レビテト” で幾分か落下速度は和らいだものの、完全に勢いを殺すまでには至らなかった。
飛空艇の甲板にいたロック達は、激しく転倒し、甲板上を転がって全身をしたたかに打ち付けた。それでも、落下の衝撃で飛空艇から投げ出された者が居なかったのは、僥倖といえる。
「つっ・・・くっ・・・」
全身の痛みを堪え、ロックは立ち上がる。
他の面々も同じように身を起こすところだった。「・・・バッツは!?」
周囲を見回すが、当然その姿は見つからない。
「クエエエエエエッ」
ボコが一声鳴いて、ひらりと飛空艇の上から飛び出す。飛空艇の甲板の高さは、地面から見て建物二〜三階分の高さがある。しかし、ボコは身軽に地面に着地すると、そのまま飛空艇がやってきた方向へ向かって駆け出す―――バッツを探しに行ったのだろう。
「俺も―――っ」
「待てよロック!」ボコを追いかけようとしたロックを、ロイドが制止する。
苛立ちを隠そうともせずに、ロックは振り返った。「なんだよッ」
「お前にはやって貰いたいことがある、バッツを探しに行くのはその後だ」
「なっ―――てめえッ!」ロックはまるで信じられないものでも見るかのように、友人の顔を見たあと―――冗談を言っているわけではないと理解して、怒りを顕わにする。
だが、構わずにロイドは続けた。「見ろよ “赤い翼” の飛空艇が着陸してる」
ロイドの指し示した方を見ると、真っ赤な飛空艇がドワーフの城の前にずらりと着陸していた。
飛空艇の上からは、何人ものの人影が降りては城の中へと入っていく―――「なんだ、あいつら・・・赤い翼の団員じゃないよな・・・?」
「ああ。赤い翼にしては数が多すぎる―――かといって、このフォールスでゴルベーザに協力する人間があんなにいるとは思えない」
「操っているのではないか? 赤い翼やどこぞの竜騎士団長のように」セリスがカインの方を見る。
その皮肉げな視線に対し、カインは冷笑を返す。「操るにしても、問題はどこの誰を操っているかだ。俺が知る限り、ゴルベーザが操っていたのはバロンの兵のみ―――他で人員を捕獲したということもない」
「貴様が裏切ってから、補充したのでは?」セリスが尚も言うと、カインはやれやれと肩を竦めた。
「だから、どこの誰をだ? 操るにしても戦士でなくては意味がない。ただの村人を操っても戦力にはならん―――それも、数が在るところをみると、ある程度まとまった戦闘集団ということになれば、バロンの騎士、ダムシアンの傭兵団、ファブールのモンク僧兵―――そしてエブラーナの忍者と言うことになるが、少なくともこの一ヶ月でゴルベーザは地上に姿を現していない」
カインは見下ろすようにセリスをみやり、
「それでガストラの将軍殿? どこから人員を調達したと仰られるので?」
「ぐっ・・・それは―――地上に出ていないなら、地上以外のどこからか・・・」
「なるほど。もしかすると、ドワーフたちを操っているのかもしれんな」ヤンが言うと、即座にロックが否定する。
「いや、聞いた話じゃ、ドワーフって言うのは背が低い種族で、大人でも人間の子供くらいの身長しかないらしいぜ」
遠目だからはっきりとは解らないが、赤い翼から降りていく者たちは普通の人間の背丈だ。
「あ、そうだ」
ふと思いついてロックはギルガメッシュに目を向ける。
「おいテメエ」
「あん?」
「お前、ゴルベーザの仲間だろ? あいつらのこと知らないのか?」ロックの問いに、ギルガメッシュは首を傾げて。
「いんや、知らねー。俺が知ってるのは、ゴルベーザのヤツが魔物を従えてるって事くらいか?」
だが、ロックは険しい顔をしてギルガメッシュを睨付ける。
「てゆかお前、今、認めたよな?」
「へ?」
「ゴルベーザの仲間だって事を否定しなかったよな?」
「あ、やべ」やっちゃったー、とギルガメッシュは口に手を当てる。
「ついに尻尾を出したな!」
「えー、尻尾なんかついてないぜ? 俺」
「うるせえよ! ていうか正体ばれたならもう少し慌てろよ!」ギルガメッシュはんー、と頭を掻いて、
「バレたっつーか、元々バレてるんだろ? だったらこれ以上隠すのも面倒だし」
「こ、この野郎―――それでっ、どうするんだ!?」
「どうするって」
「正体ばれたら暴れるか逃げるかしろよッ!?」
「つったってなあ・・・」ギルガメッシュは困ったように首を捻る。
「そこまでだ」
ロックとギルガメッシュの言い合いに、カインが割ってはいる。
「なんだよ!」
「それは後にしておけ―――どうやらお客さんだ」
「へ?」カインが指さした先。
エンタープライズに向かって、6人の人影が走ってくるところだった―――
******
「しかしよぉ。まさかこんな所まで来るとはなあ・・・」
「SeeDの先輩達も戸惑ってたぜ。お陰で俺達の出番もないしさあ」走りながら誰かがぼやく。
全く同感だ、とニーダは思った。―――今、こうして走っている彼らはバラムガーデンの傭兵集団、通称 “SeeD” の候補生だった。
彼らはSeeDになるための試験として、本当のSeeD達と一緒にこの任務に就いている。SeeD試験は実際の任務の中で行われる。
だから、任務によっては過酷だったり、逆にあっさり終わったりもする。
過酷すぎて生き残れないような任務は御免だが、何も出来ずにあっさりと終わってしまっても困る。だから適度に困難で、自分の力が発揮できるような任務が望ましいのだが、当然、自分で任務を選ぶことが出来るわけではないので、これは運次第だ。それで今回の任務はどうかというと、はっきり言えば最悪だった。
任務に出立する時、移動用の車が置いてある駐車場ではなく、何故かSeeDもSeeD候補生も集められたと思ったら、依頼者―――ゴルベーザという、黒い鎧を身に纏った不気味な男だった―――が、不意に漆黒の剣を振りかざすと、剣が砕け、その破片が闇となってSeeD達を包み込んだ。
闇の中に陥って―――しかしそこは訓練された傭兵達だ。騒ぐことなく、冷静に状況を確認した。もっとも、SeeD候補生達は、若干、パニックになりかけたが。
その後、依頼人の案内で闇の中を歩けば―――この地底に出たというわけだ。
いきなり地底に連れてこられたということだけでも驚きなのに、さらにここはフォールスの真下だという。
歩いた、といっても半日も歩いてはいない。バラムガーデンのあるエイトスから、フォールスまでは間違っても歩いていける距離などではない。(今でも信じられないよなあ。SeeDの先輩達も驚いてたし。キスティス教官ですら吃驚してたもんな。・・・こんなことができるなんて、噂に聞いた魔女くらいなもんだと思っていたけど、これが “真の魔法” というヤツなのかな)
フォールスやファイブルでは、 “魔女” と同じように真の魔法を使いこなす “魔道士” がいると言うことは聞いていた。
だが、これほどのものとは想像すら出来なかった。(そりゃ先輩達も慎重になるよなあ・・・俺達の面倒見てられないって)
任務自体は単純だった。
ドワーフの城を攻略して、クリスタル、と呼ばれる結晶を手に入れる。
だが、突然フォールスまで連れてこられ、いつもと勝手の違う任務に、SeeDたちは教官であるキスティスと相談し、今回のSeeD試験は中止という判断を下した。
そのため、赤い翼の飛空艇がドワーフの戦車団を沈黙させた後も、SeeD候補生達は城攻めには参加せず、待機するよう命じられた。いくらSeeDの判断だと言っても、候補生達はそれで素直に納得できたわけではない。
SeeDとなるために、今まで訓練を続けて、そしてようやく試験の機会を得たのだ。今回はナシと言われてハイそーですかと納得できるわけがない。中でもサイファーが激しく抗議し、ついにはガンブレードを振り回して暴れたところを、SeeDが三人がかりで押さえつけた。今は拘束されて、飛空艇の中に閉じこめられている。サイファーのように暴れたわけではないが、他の面々もサイファーと似たような気持ちだった。
そんな折り、いきなり別の飛空艇が近くに不時着してきた。 “赤い翼” の飛空艇と同じような作りだが、よく見れば形が違う。色も赤くはない。何かと思って、赤い翼の団員に聞いては見る者の、団員達はまるで操られているかのようになにも反応しない。そこで候補生達が、偵察任務を名乗り出たのだ。
飛空艇で候補生達と同じように待機していたキスティス教官も、これ以上、候補生たちを押さえつけておくにも限界があると判断して、仕方なく許可した。もっともただの “偵察” にそんな大人数で行かせるわけにはいかない。
そこでキスティスは候補生達の中で、6人選抜した。SeeDは基本的に三人一組で行動する。だから、任務に就く時も三人を一単位として扱うのだ。―――というわけで、選ばれたのがニーダ達2チームだった。
「だけど偵察は良いけどさ。こんなことしたって無駄だろ? どーせ試験は中止だし」
誰かが言う。と、また別の誰かが。
「馬鹿だな。別に試験はこれで終わりってワケじゃないんだぜ。ここでポイント稼いでおけば、次の試験に影響あるかもしれないし、もしも不時着した飛空艇がなにか重要なものだったら、上手くすると・・・・・・」
「おっとついたぜ。で、どうする? とりあえず呼びかけてみるか?」
「そうだな―――おーい・・・って、なんて呼びかけりゃいいんだ? そもそもこの飛空艇って敵なのか味方なのか?」
「さあなあ。ドワーフが飛空艇を持ってるって聞かないし、ゴルベーザってヤツの援軍じゃねえの?」
「バカ。それを偵察するために俺達は来たんだろうが―――お?」と、飛空艇の上―――甲板の縁に人影が見えた。
「お、誰かいたぜ。おいお前―――」
誰何の声を出したその時。
飛空艇の上に何者かが不意に飛び降りた。
そして―――
ドラゴンダイブ
―――次の瞬間、激しい衝撃が、ニーダ達を吹き飛ばした。
******
「な、なんだ・・・!?」
突然吹き飛ばされ、地面に倒れたニーダが見たものは、蒼い竜騎士の槍に胸を貫かれた同胞の姿だった。
「な・・・」
「お前達は、なんだ?」竜騎士―――カインは槍を死体から素早く引き抜きながら問う。
と。「う、うわああああああっ!」
別のSeeD候補生が、手にした武器を振り回してカインに飛びかかる。
それは理性的な行動ではなく、単に仲間の死を目にした恐慌だった。
対し、カインは冷淡にそれを見やると、槍を構えることなく上を指さす。「危ないぞ」
そう、カインが忠告した次の瞬間―――
ブレイバー
頭の上から振り下ろされた巨剣の一撃に、肉が断ち切られて骨が砕ける。
顔に付いた返り血を腕で拭いながら、クラウドはカインを振り返る。「余計だったか?」
「いや、手間が省ける。正直、面倒だ―――おい、お前ら。投降するか逃げるかするなら見逃してやるぞ」
「ふ―――」候補生の一人が怒りに顔を真っ赤にする。
「ふざけるなあああああっ!」
手にした武器―――長剣を構え、突進してくる。
カインは面倒そうに槍を構えて―――不意に後ろへと跳んだ。その一瞬前までカインのいた場所に、雷光が降り注ぐ。「魔法か」
「熱くなるな! 冷静になれよッ」今し方、魔法で援護した男が、長剣を手にした男に向かって叫ぶ。
「あいつ・・・大きな剣を持った方、あいつはソルジャーだ」
「ソルジャーだと!? あのセフィロスの・・・!」長剣の男は振り返らずに、しかしその場に立ち止まる。
カインはフッ・・・と笑って隣のクラウドを見た。
「どうやら俺よりも、お前達の方が名が知れているようだな」
「―――興味ないな」クラウドは素っ気なく応える。
そんな二人の前で、長剣の男は我を取り戻したようだった。「悪い―――援護を頼む」
「ああ。バックアップは任せろ」そう言った男は、隣りに立っていた仲間に目配せする。
仲間は頷くと、長剣の男に向かって手をかざした。「ヘイスト」
長剣の男の時間の流れが速くなる。
それを感じて彼はにやりと笑った。「ソルジャー相手だろうと関係ない。俺達の力見せて―――」
「ギルガメッシュジャアアアアアアアアンプッ!」飛空艇の上から再三誰かが飛んだ。
だが、長剣の男は慌てずにバックステップ。「のわあっ!?」
目標が避けたことにより、ギルガメッシュは盛大に着地失敗してその場に転倒する。
「もう奇襲は通用しない! まずは貴様から―――」
長剣の男が、ギルガメッシュに向けて剣の切っ先を向けた瞬間。
だんっ! と、打撃音が周囲に響いた。
ついで、何かが自分のすぐ隣を過ぎ去っていく。 “ヘイスト” で加速された自分の感覚でも、それは一瞬のことで―――「安心しろ」
声は背後から。
嫌な予感がして後ろをゆっくりと振り返る―――すると。「奇襲であろうとあるまいと、貴様ら程度は全く問題にならん」
冷めた様子で、カインが呟く。
その手にした槍は、先程、サンダーの魔法で援護してくれた男を貫いていた。「き、さま・・・ッ」
「それから、一つ忠告しておいてやる」
「なにを―――ぐふっ!?」長剣の男が問い返した瞬間、自分の胸に何か熱いものがこみ上げるのを感じた。
それが、自分の胸を刃が貫いたのだと気づいた瞬間、彼は絶命した―――「・・・目の前の敵から余所見していると危ないぞ、と言おうとしたんだがな」
と、カインは死体から槍を抜いて、振り返る。
そこには、長剣の男に “ヘイスト” をかけた青年が青ざめた顔で立ちつくしていた。「なあ、お前もそう思わないか?」
「くっ・・・」それが皮肉だと言うことに、彼は気がついていた。
自分の言う通り、 “余所見” していたカインに対して、彼はしかし仕掛けることができなかった。次々に仲間が屠られて、恐怖に立ち竦んだと言うこともある―――が、何よりも、仕掛けても無駄だと直感していたのだ。そしてその直感は正しかった。「さて、どうする?」
「くっ・・・う・・・うわあああああああああっ!」彼は悲鳴をあげると、そのまま背を向けて逃げ出した。
「おいおい、なーに逃がしてるんだよ」
死体から自分の剣を抜いて、ギルガメッシュはカインに呼びかける。
「何か問題でもあるのか?」
「え? ええと、敵はとりあえず殺しといた方が良くないか?」
「何故だ?」
「何故って・・・だって、生かしておいたら次また来るだろう?」
「そうかもしれないな」カインが認めて頷く。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「―――って、それだけかよっ!?」
「騒がしいヤツだな。何が言いたいんだ?」
「・・・わかった。もういい」何故か疲れた様子でギルガメッシュが肩を落とす。
カインは本気でギルガメッシュの言っている意味が解らないらしく、怪訝そうな顔をしていた。「おい」
そんな二人にクラウドが呼びかける。
「こいつはどうする?」
「「こいつ?」」異口同音。
クラウドの指し示した方を二人が見ると、未だ尻餅をついた状態のニーダがいた。「あ、あはははは・・・」
ニーダは力無く笑う。
いや、笑うことしかできなかった。(なんだよ・・・こいつら)
自分たちはSeeD候補生だ。
半人前であることは十分解っているつもりだが、それでもSeeDになるために日夜訓練に勤しんできた。
正直、そこらへんのただの傭兵よりかは格上だという誇りもある。だというのに、それがあっさりと蹴散らされた。
奇襲されたとはいえ、向こうの方が数が少ない。それなのに、ほぼ一瞬で仲間は殺され、しかも相手は傷一つ―――息を一つ切らせていない。「なんだこいつは?」
カインがニーダをみて言う。それは俺の台詞だ、とニーダは思ったが言えなかった。
この三人の中でも、特にこいつだ。とニーダはカインを見て思った。
最初の一撃で、6人まとめて吹き飛ばし、さらには魔法で加速された長剣の男が反応できない速度で、後衛を串刺しにした。基本、ガーデンでは三人一組で、前衛後衛に分かれる。
前衛がメインの場合、後衛がサポートして、後衛がメインの場合は前衛が囮となって敵を引き付けて、後衛が魔法なり射撃攻撃を行う。そうやって役割をはっきりさせることによって、どんな状況でも100%の能力を発揮することが出来る。
もちろん、相手も魔法や射撃で後衛を直接狙ってくることもある。そういうパターンに対しても、色々と対応策は講じられている―――が。(前衛を無視して一瞬で後衛を直撃できるアタッカーなんて聞いたことがねえ・・・ッ)
そんなことが出来るならば、今までガーデンで行ってきた訓練は殆ど無意味になる。
あくまでもSeeDは三人一組。連携をもって力を発揮する傭兵だからだ。
それぞれの役割を正しく果たせば、どんな強敵であろうとも打ち破ることが出来る―――というのがSeeDの理念だからだ。(だけど、噂に聞くソルジャー最強のセフィロスや、ガストラ帝国最強のレオ=クリストフでもこんなことは不可能なはず・・・・・・って、まさか!?)
―――と、そこまで考えて、ニーダはふと気がつく。目の前の男の正体に。
「おい、お前は何だ?」
尋ねられて、ニーダは思わず目の前の男を見て呟く。
「カ、カイン=ハイウィンド・・・」
「それは俺の名前だ」訝しんでカインが眉をひそめる。
「大方、最初の一撃で腰でも抜かしたんだろう。・・・こいつも逃がすのか?」
クラウドが尋ねると、カインは心底どうでもよさそうに。
「ああ、放っておけばいい」
「いや放っておくなよ」などと、呆れたように言ったのはロックだった。
何時の間に降りてきたのか、見ればロイドにセリスもいる。ロイドはニーダを拘束するためか、縄を持っていた。ロックはニーダの傍に屈み込むと、問う。
「お前、名前は?」
「・・・・・・」
「死にたくなかったら素直に話した方が良いぜ」と、ロックの手にはいつの間にかナイフが握られていた。
それを、ニーダの首筋に突き付ける。「ニ、ニーダ・・・」
「オーケー、ニーダ。さて、お前には色々聞きたいことがある」
「お、俺を尋問しても無駄だぞ。何も重要なことは知らないからな!」これは本当だった。
ニーダは “ドワーフの城をせめてクリスタルを手に入れる” という任務のことしか知らない。SeeDならば何かしら話を聞いているかも知れないが、候補生の身分では聞かされてはいなかった。しかし、ロックはひらひらと手を振って。
「いや、お前でも答えられることだから安心しろ。お前―――いや、お前らSeeDか?」
「!」ずばり自分の正体(厳密に言えば候補生だが)を当てられて、ニーダは顔色を変えた。
それを見て、ロックがにやりとする。彼は、ニーダの着ている制服を見て、「やっぱりな。その制服、エイトスで見覚えがあったんだ」
「なんだ、SeeDって?」カインが尋ねると、ロイドが答える。
「エイトスにある傭兵育成学園―――ガーデンに所属する傭兵部隊のことッスよ」
「というか、そんなことも知らないのか?」皮肉ではなく、心底不思議そうにセリスが尋ねる。
するとカインは「ああ」と声を上げて。「いや、ガーデンの事は聞いたことがある―――興味ないからそれ以上の事は知らなかったがな」
「そうですね。カイン隊長の興味のある組織ではありませんからね」ロイドはそう言って、自分が持っていた縄をギルガメッシュに放り投げた。
反射的にギルガメッシュはキャッチする。「なんだよこれ」
「それで、こいつを縛り上げてください」
「はあ? なんで俺がそんなこと・・・」
「やれ」と、カインが命令すると、ギルガメッシュは渋々とニーダに縄を掛ける。
ニーダは特に抵抗することなく拘束された。「さて、と―――」
拘束されたニーダに、今度はロイドが問いかける。
「もう一つ答えて貰おうか。お前達の戦力は?」
「・・・それは―――」流石にそこまで情報を与えるのは気が引けるのか、口ごもる。
ロックは無言で突き付けたナイフに力を込めた。「お、俺達とSeeDの先輩達だけだ・・・後はゴルベーザってヤツが・・・」
「・・・? お前、SeeDじゃないのか?」
「俺達は候補生だ。この任務でちゃんとした働きを認められたら正式にSeeDになるはずだった」ニーダの説明に、カインは納得したように頷く。
「なるほど。道理で雑魚ばかりなわけだ―――おい、ロイド。俺はもう行くぞ」
「はいはい、お気を付けて」なにか諦めたようにロイドが苦笑を返すと、カインはそのままドワーフの城へと駆けだしていった。
ロックが驚いてロイドを振り返る。「―――って、あいつ一人でいいのかよ!?」
「というかむしろ俺達は足手まといだ―――さて、ニーダ。戦力は本当にそれだけだな? ―――なら」ロイドはロックとセリス、それからギルガメッシュを見やり。
「悪いッスけど。アンタ達三人で、カイン隊長を追いかけてくださいな」
「・・・って、俺達三人だけでかよ!?」
「大丈夫大丈夫。道はカイン隊長が開けてくれるから―――兎に角、戦況がどうなってるか解らない以上、無闇に突っ込むことも出来やしない。その点、お前なら上手く立ち回れるだろうし、セリス将軍なら魔法が使えるから、最悪な状況でも脱出できるでしょう?」
「って俺は?」ギルガメッシュが自分を指さす。
ロイドは冷たい目で見やり、「アンタはゴルベーザの仲間だろ? だったら死のうが生きようがどうでもいいですし。というか、ゴルベーザの居場所と目的が解った時点で、アンタの存在用済みですし」
「うわひでえ。つーか、俺、ゴルベーザの仲間だったけど、今はお前達の仲間じゃん!?」
「わけわかんねーッスよ! まあ、本気でどうでもいいんで、城の中に入ったら、いきなりロックの背中から斬りつけるなりしてそのまま向こう側に戻ってください」
「・・・おい」ロイドの投げやりな言葉に、ロックが渋い顔をする。
・・・ともあれ、カイン一人で突っ込ませて、ここでじっと待っているわけには行かない。というか、先程のカインの様子を見るに、敵を全て殺すか逃がすかしてしまいそうだ。できれば、ニーダよりも情報を持っている者―――ゴルベーザか、SeeDのリーダーでも捕えて情報を手に入れたいところだ。
だからといって、全員で城に入ってエンタープライズを放置するわけにはいかない。
シド=ポレンディーナが作り上げた最新鋭の飛空艇だ。その技術を奪われるわけにはいかないし、何よりこれがなければ地上に戻るのも一苦労だろう。付け加えるなら、クラウドとフライヤの武器は丈が長いので屋内では使いづらい。
狭いならば狭い場所なりの戦い方もあるだろうが、不利になると解っているのに、不利な場所で戦わせることもない。
ヤンの格闘術ならば狭い場所ではむしろ有利だが、相手がSeeDならば今のように三人一組で攻めてくる可能性が高い―――ならば、こちらも戦える人間を三人は揃えておきたい。「・・・ちっ、俺にやって欲しい事ってのはこういうことかよ」
ロックが言うと、ロイドは頷いて。
「ああ。お前なら任せられる―――バッツの事は、今は考えるな」
「そういうわけに行くか! アイツは、アイツは俺を庇って落ちたんだぞッ!」
「ロック!」
「・・・! 解ってるッ! 今更俺が行っても、どうにもならないってことくらい解ってる!」もしも、そのまま墜落死していたとしたらロックがいっても死体を担いで帰ってくることくらいしかできない。それなら先行して走っていったボコにでも出来ることだ。
今は、アベルが上手くバッツを捕まえてくれたことを祈るしかない。ロイドは顔を曇らせて―――しかし顔を背けずに言う。
「悪いな、ロック―――でも、頼む」
「解ったよ・・・」仕方ねえ、とロックは城へと足を向ける。
「・・・その前に一つ聞いていいか?」
それまで黙っていたセリスが口を開く。
彼女は、ロイドを見やり。「どうしてお前が仕切ってるんだ?」
「他に仕切れる人がいないからッス。一応、この部隊の長はカイン隊長になるはずなんスけど、あの人、こういう事やりたくない人だから」
「・・・やりたくないって・・・そんなんで良いのか・・・?」セリスの疑問に、さてねえ、とロイドは苦笑した―――