第17章「地底世界」
B.「アガルトの村」
main character:ロック=コール
location:アガルトの村・郊外

 

 

 アガルトの村―――

 バロンの南、ミシディアの西方にある火山島にあるその島は、フォールスにある六国家のどこにも属していない村である。
 その理由は単純で、単に何処の国からも離れている辺境の村であり、何処の国とも特に親交もなく、またなにかしら益のある場所でもない。

 バロン・エブラーナが戦争していた時は、何度か両国の占領下になったこともあるが、戦略的に重要な場所ではなかったために、結局は放置されていた。

 そのアガルトの村の外―――
 小さな森のすぐ傍の草原に、バロンの最新型飛空艇 “エンタープライズ” が着陸していた。

 

 

******

 

 飛空艇の着陸した草原に、一人の青年が倒れていた。
 茶色い髪をした、旅装束の青年。腰には、陽光に反射して輝く剣があった。
 その倒れた青年を、一匹のチョコボが心配そうに見下ろしている。

 クエ、と鳴くチョコボに、青年は小さく身じろぎして呟く。

「地面はいいよなあ、ボコ。なんたって落ちる心配をしなくていいんだから・・・」
「つーか、いつまでそうしてる気なんだ? 最強の旅人さんよ?」

 倒れた青年の傍に、もう一人、バンダナをした青年が呆れたように見下ろしていた。
 旅人、と呼ばれた青年―――バッツは寝返りを打って、自分を “最強” と呼んだ青年を見上げる。

「誰が最強だって? 俺は―――」
「はいはい、ただの旅人サンだろ? ・・・ったく、まさかバッツ=クラウザーともあろう者が、高所恐怖症だったなんてな・・・」
「良いじゃんかよ。人間誰しも苦手なものはあるぜ?」
「それはそうだけどな。けど、高いところが苦手な旅人って―――旅してりゃ、高いところを行く機会なんてザラだろが。例えば山越えなんかはどうしてたんだよ?」
「崖っぷちだったらともかく、普通に山を上り下りするくらいなら問題ねえよ。・・・高さを感じさせられるようなところは迂回してたし」

 言って、バッツはよっと身体を起こす。

「んで、他の連中は?」

 バッツの問いに、ロックは村の方を指さす。

「もう先に行ってる―――ああ、カインと、ロイドだけは飛空艇の中にいるな」
「へ? なんでその二人だけ」
「ロイドは飛空艇の整備―――というか点検だな。んで、カイン隊長殿は “そういう面倒なことは嫌い” だそうだ」
「・・・いちお、あいつが部隊長じゃなかったか・・・?」

 バッツが呆れたように言うと、ロックも似たような顔をして。

「そうなんだけどな。ロイドの話によると、どうやらこういう事に関しては欠片も役に立たないらしい。以前、 “赤い翼” と竜騎士団がちょっと大きな野盗団に対して合同任務についた事があるらしいんだが―――その時に野盗の情報を集めるためにカインがとある街で情報収集した時、何故か街中巻き込んだ大乱闘に発展したんだと」
「なんで? やり方をなんか間違ったのか?」
「間違った・・・というか、最初っから間違えているというか―――俺も聞いた話なんだけどな。適当な通行人に話を聞いて、何かの情報を知っていたら話を聞いて、何も情報を得られなかったらとりあえず叩きのめしていたらしい」
「は?」
「情報を知らない―――というのが嘘か本当か判別付かないから、とか言う理由らしいけどな」
「む、無茶苦茶だ・・・」
「そんなわけで、カインはお留守番。俺達もさっさと行くぜ。地底世界の情報を集めねえと」

 そう言って、ロックは村の方へ向かって歩き出す。
 バッツもボコと一緒にロックを追いかけて、

「あれ? そーゆーお前はどうして残ってたんだ?」
「お前を待ってたからに決まってるだろうが―――ったく、飛空艇から降りた途端、地面にしがみつくように寝ころびやがって・・・」
「悪かったって。・・・いや、そうじゃなくてさ、どうして他の連中と一緒に行かなかったんだ?」
「・・・・・・イヤな予感がするんだよ」

 苦虫を噛みつぶしたような渋い顔で、ロックは吐き捨てる。

「それって、あのギルガメッシュってヤツの話か?」

 バッツが問うと、ロックは頷いた。

「あいつが大したヤツじゃないってことは解ってる。レオ=クリストフやカイン=ハイウィンド、それからバッツ=クラウザー―――お前らみたいな “最強” に比べれば怖れる必要もないって解っちゃいるんだが―――」

 ギルガメッシュが敵だとしても、用心すればこそ “警戒” しなければならないほどの相手ではない。
 理屈ではロックもそう感じている―――だが。

「あいつが飛空艇に乗り込んでるって気づいた時から―――いや、違うな・・・セシルのヤツがあいつを地底に行かせることを拒否した時から、胸騒ぎが消えないんだ・・・」

 セシルはギルガメッシュを地底に行かせることを許可しなかった。
 しかし、ギルガメッシュはエンタープライズに密航した。それはセシルの思惑に反することだ。
 今頃は、セシルも自分と同じように、城の中で胸騒ぎを感じているに違いないとロックは思った。

「そのギルガメッシュは?」
「だから、村だよ。セリス達と一緒に情報収集してるはずだ」
「放っておいて良いのか? そんなに気になるなら、ずっと張り付いていればいいじゃねえか」

 バッツの意見はもっともなようでもある。
 だが、ロックは首を横に振る。

「言ったろ。あいつ自身は大した相手じゃねえ―――けれど、それでも嫌な予感がするって事は、 ”罠” はアイツ自体じゃない、か。もしくはアイツだけで完結する罠じゃねえ―――って、俺はそう見てる」
「・・・よくわかんねえ」
「ともかく。アイツの狙いは解ってる。お前がその腰にぶら下げてるモンだよ」

 ロックに言われて、バッツは自分の腰に視線を落す。
 ズボンのベルトにくくりつけた鞘。その鞘には、旅人が持つに相応しくない立派な剣が収まっている。

 聖剣エクスカリバー。
 振るう者に勝利をもたらすと言われる剣―――だが、剣に認められていないバッツが振るっても、ただのナマクラで、木の枝一本切れやしない。
 そしてそれはこの剣を狙っている(と、思われる)ギルガメッシュも同様だった。
 だから、尚のことギルガメッシュの目的がイマイチ掴めない。何故、自分では使えない剣を求めようとするのか―――・・・

「狙いが解ってるなら、そいつを張ってたほうが早い。アイツが実は単なる囮で、そのお仲間がエクスカリバーを狙って無いとも限らないしな」
「ふうん・・・ま、いいや。それよりもさっさと行こうぜ。他の連中が情報収集してるなら、俺達だって負けられねえだろ!」
「だ・れ・の・せ・い・で、出遅れたと思ってるんだ―――馬鹿と煙は高いところが好きじゃなかったのか?」

 ロックが皮肉げに言うと、バッツはチッチ、と指を負って。

「つまり、俺は馬鹿じゃないってことの証明だろが。高いところ嫌いだし―――それに、なんと俺は今まで風邪を引いたことがないんだぜっ!」
「・・・風邪を引かないのは馬鹿だろ」
「あれ?」

 と、バッツは首を傾げて―――それから慌てて手を振った。

「ちょっ、違ッ―――今のナシ! ちょっと言い間違えただけだぜ!」
「でも風邪ひいたことないんだろ?」
「・・・無いけど」
「馬鹿は風邪をひかないって言葉を知ってるか?」
「・・・知ってるけど」
「じゃあ、納得したところで村に行こか」
「・・・うう、俺は馬鹿じゃねえ馬鹿じゃねえぞ・・・」

 ちょっと涙目でぶつぶつ呟きを繰り返すバッツを、励まそうとするかのようにボコが自前の羽で優しく撫でる。
 そんな一人と一匹の様子を少し微笑ましく振り向いて―――ロックは前を向いて街へと歩き出す。

(とりあえずギルガメッシュの事は置いておこう。まずは、前に進む道―――地底への道を見つけ出すんだ・・・)

 今、何を考えて為すべきか。
 それを間違わぬように胸に秘めて、ロックはアガルトの村へと向かった―――

 


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