謁見の間。
玉座にセシルが座り、その傍らにはいつものようにベイガンが立っている。
そして、ベイガンのさらに隣には、ミシディアの長老が控えていた。さらに、その三人と向き合うようにして、バッツやロック、セリスなど、一ヶ月前にセシルが ”報酬” を渡すために集められた面々にローザとキャシーを加えた面々が集められていた。
「闇のクリスタル?」
今、セシルから同じ単語を聞いて、バッツが首を傾げながらそれを繰り返す。
「それが地底世界にあるっていうのか?」
バッツの問いに、ミシディアの長老が頷いた。
「正確にはまだ推測の段階じゃがな。ただ、フォールスにあるクリスタルは表―――光のクリスタルと呼ばれ、それの対になる闇のクリスタルが存在するのは確かなようじゃ」
「それならば私も書物で読んだことがある―――だが、闇のクリスタルは地上から失われたとも」テラが言うと、その場の皆が訝しげに眉をひそめる。
「闇のクリスタルとやらがあるのはいいとして」
ロックが皮肉でも言うかのような軽い口調で言う。
「それがなんで地底にあるって? 地上にないから地の底ってのは安直じゃないか? それともなにか根拠が?」
ロックに言われ、ミシディアの長老は首を横に振る。
「いやない」
「おおいっ」
「じゃが、地上になければ地底世界にあってもおかしくはあるまい―――付け加えれば、ゴルベーザとやらが地上に姿を見せないのも説明がつかんか?」
「なんか、強引すぎる気がするけど」
「・・・ちょっといいか?」おずおずとセリスが手を挙げる。
ロックやバッツの方を見て、「さっきから “地底世界” と連呼しているが、なんの話だ? まさか地面の下にもう一つ世界があるとでも?」
「・・・あれ、知らねえ?」ロックがバッツと顔を見合わせる。
バッツはなんでもないことのように、「地面の下にはドワーフたちの国があるんだ」
「どわーふ?」
「ありゃ、ドワーフも知らないのかよ」
「いや、シクズスにはドワーフはいないから仕方ねえよ―――でも、地底世界の話は知っておいて欲しかったかな。個人的に」皮肉げなロックの物言いに、セリスはあからさまに不機嫌そうな顔になる。
「引っかかる言い方だな?」
「いやいや。別に他意はねえよ―――シクズスにゃドワーフはいねえが、 “地底世界” にまつわる話は幾つかあるだろ」
「それはフィクションだろ!」
「殆どはフィクションだけどな。ただ、その大本になった体験記がある。とある冒険家が地の底へ続く道を見つけて、地底人の国を見つけたって話だ」ロックがそう言うと、バッツが挙手をする。
「あ、それお俺知ってるぜ。親父が持ってた。確かシクズスの冒険家で、名前が “マック=コール” とか―――って」
そこまで言って、ぎょっとしてロックを見る。
ご名答、とロックは笑って。「俺のひいひい爺ちゃんらしいぜ―――あれ、ひいひいひい爺ちゃんだったか・・・?」
ロックは暫く思い出そうと頭を悩ませていたが、やがて「まあ、いい」と思考を打ち切る。
「だけどな長老さんよ。ウチのご先祖様の体験記にはクリスタルなんてものは載ってなかったぜ?」
「しかし、ミシディア中の書物を紐解いてみたが、考えられるのは地底世界でしか有り得ん」
「だけどよー・・・」
「そこまでだ」ロックと長老が言い合うのを見て、セシルがパァン、と手を打った。
「ロックの言い分も解るが、ただ長老の言うとおり話の舞台が地底に移っているというのなら、地上でなんの動きも見られないことにも説明がつく。何より、ゴルベーザの本拠地と思われるバブイルの塔は地底からそびえ立つ。 “闇のクリスタル” のことを抜きにしても、地底世界を調べる必要はあると思う」
セシルの言葉にロックはないか言いかけたが―――しかし、反論は述べずに頷いた。
「―――確かにな。他に打つ手がないならそれも悪くはない」
「それで? 俺達が集められた理由はなんなんだ?」カインがセシルに問う―――問いながら、答えはわかっているとでもいうかのように不敵に笑っていた。
そんな親友に、セシルは苦笑して見せて。「これからの行動についてだよ。まず、地底世界を調べるにしても大部隊を動かすつもりはない。あくまでも調査―――偵察なので、少数精鋭で行う」
「当然、ここに呼ばれたからには、俺も含まれて居るんだろうな?」
「ああ、頼むよカイン」
「フッ・・・頼む、か」カインは首を横に振る。
「それでは聞けんな」
「なっ―――」カインの拒絶に、ベイガンが色めき立つ。
「カイン殿! 陛下の命令を―――」
「・・・そう言う意味か」ベイガンが言葉を言い終えるよりも早く、セシルは苦笑する。
それから、改めて言い直す。「カイン=ハイウィンドよ。王の名において命ず。地底へと赴き、ゴルベーザの行方を探り、その目的を打ち砕くのだ!」
「―――ハッ」カインはその場に膝を突き、頭を垂れる。
「勅命。確かに承った。必ずや王の期待に添えることを約束する―――」
しばし、間。
それからセシルは困ったように頬を掻く。「・・・どーにも苦手だな、こういうのは」
気恥ずかしいのか、少し顔が赤い。
カインは顔を上げると、すくっと立ち上がる。「この俺が夢にまで見たことだ。これくらいはやってもらわんとな」
「フッ」とカインは笑う。
と、ファリスが肩を竦める。「なにをやるかと思えば・・・」
「え、格好いいじゃねえか」バッツが言って、それから自分を指さす。
「あ、ところで地底世界、俺も行きたい」
「お前、行きたいって、ガキの遠足じゃあるまいし・・・」ロックが呆れたように言うが、バッツは意に介さない。
「だってよー。地底世界って親父から話には聞いたけど、実際に行ったことねえし」
「・・・それを言うなら俺もだな。ちょっとした洞窟なら何度か潜ったけど」
「元より君達には行って貰うつもりだったよ」
「・・・達って、俺もかよ」ロックが言うと、おや、とセシルは首を傾げ、
「気が乗らないかい?」
問われ、ロックはふと何か考え―――いや、思い返すように悩んだ後。
「―――いや、そうでもないな」
「なら決まりだ。それから―――」
「できれば、私も」そう言った人物を見て、誰もが意外そうな顔をした。
ギルバートが彼女の名を呼ぶ、「フライヤ? 君が?」
「雇われの身と言うことは重々承知しておる―――じゃが」
「そうか、君は探している人が・・・」
「まさか地底世界に居るとは思わんが、な」そう言いながらも、少しでも可能性があるのなら確かめてみたいという決意が秘められている。
ギルバートは頷いて。「解った―――いや、ダムシアンの傭兵として頼むよ。僕の代わりに地底の様子を確認してきてほしい」
「御意に」
「構わないかな? セシル」
「ギルバートがそう言うのであれば。それに彼女は信頼できることは僕も知っていますし」そう言ってから、セシルはもう一人、尋ね人を捜している青年に視線を移す。
「クラウド、君は?」
「・・・地底世界とやらに興味はないが」と、1STのソルジャーは前置きして、
「だが、 “ヤツ” 何を目的にしているか解らない以上、何処に現れるかも解らんない―――行ってみても良い」
「素直に行きてーって言えばいいじゃんか」バッツが言うと、クラウドはムッとした顔でバッツを睨む。
それを見てセシルは苦笑して、「じゃあクラウドも追加で。あとは―――」
「私も行こう!」
「俺様も行くぜ!」と、声を上げた二人を見て、セシルは顔をしかめた。
「・・・・・・ヤン、君はファブールのモンク僧長だろう? バロンやトロイアでは助かったけれど、これから地底世界へ行くのはあくまでも “偵察” だ。君が行く必要はない」
「いや、地底世界というのは私も初耳だった。そんな世界が本当にあるというのなら、視察するのはファブールにとって必要なことだ」
「もっともらしく言っても駄目だ。そんなに言うなら君の代わりに他のモンク僧でも良いんじゃないか?」
「それも考えたが、私以外では足手まといになるだろう」それも考えたが、とは言ったが、それは嘘だとセシルは気がついた。
嘆息してから、問い直す。「本音を言ってごらん」
「べ、別に本音などない。私は純粋にファブールのことを思って―――」
「はい、じゃあ、この話はお終いだ」ヤンは「ぬう」と唸ってから、仕方なさそうにぽつりぽつりと話し始めた。
「実は・・・ラモン王の具合は大分良くなって来ている」
「あれ? その割には、ずっと寝たきりだと聞いているけれど」
「倒れたことを幸いに、責任を私に押しつけ、あわよくばそのままファブールの王に仕立て上げようとしているのだ! このままファブールに留まっていれば、なし崩しに王となってしまう! だから私は国を離れねばならぬのだ」
「はい終了ー」
「ぬあっ!? セシル! 私が本当のことを話せば考えると言ったではないか!」
「いや言ってないし」ズガーン、とショックを受けるヤン対して、セシルはニヤニヤと笑って。
「良いじゃないか、ヤン=ファン=ライデン王。どうせいずれはなるんだし」
「まだ早い。というかラモン王の方が適任でっ」
「でもラモン王は正式な王じゃないし」ファブールでは、次の王はモンク僧長を努めたものがなるという決まりがある。
だが、前王が急死したために、その弟だったラモンが王の座についただけなのだ。
そのこともあって、ラモン王は以前からヤンに王位を早く譲りたがっていたらしい。「ふっ・・・気持ちは解るよ、ヤン。僕だってなし崩しにこんなところに座っているしね」
「セシル、ならば―――」
「そんなわけで苦労を分かち合おうじゃないか」
「ぬううううううっ!」ヤンは顔を真っ赤にしてセシルを睨付ける。
睨まれたセシルはからかいすぎたかな、と苦笑。「―――とは言っても、君は他国の人間であるし、僕がどうこう言える権限はないさ―――でも “先達” として忠告しておくよ。地底から帰ってきたら、覚悟は決めておいた方が良い」
「・・・・・・」セシルの言葉にヤンは沈黙する―――だが、己の立場を本人も解っているはずだった。
ヤンがファブールの王になるのは確定した事実だ。
それが早いか遅いかの違いに過ぎない。
セシルが聞いた話では、ヤンが王になるのは、なにもラモン王だけが望んだだけではない。他のモンク僧を初めとする、ファブールの国民全てがそれを望んでいるのだ。「えーと、俺は?」
と、先程ヤンと一緒に手を挙げた赤い鎧の男が自分を指さして尋ねてくる。
それに対して、セシルは首を横に振った。「君は駄目だよギルガメッシュ」
「どおしてだよ!」
「貴様ッ。陛下に対してその口の利き方はなんだッ!」ベイガンが声を荒らげて怒鳴る。
バッツの親友であるカインや、異邦人であるバッツやロックなどが、セシルに対して気安く対等に話すのは我慢できるが―――それでもあまり気分の良いものではないが―――配下の、それも新参者が不遜な口の利き方をするのは許容できなかったようだ。しかしベイガンの叱責もどこ吹く顔で、ギルガメッシュは「はあ?」と肩を竦めて。
「俺ぁ別にバロンの国民ってわけじゃねえぜ? ただ、バロンに来たら、あのゴルベーザって野郎にスカウトされただけだ」
「しかし、貴様は仮にも陸兵団を束ねる―――」
「いいよ、ベイガン。別に僕やバロンという国に対して剣を捧げたというわけでもない」セシルが言うと、ベイガンは不承不承押し黙る。
ギルガメッシュはニカッと笑って。「流石はセシル王。話が解るねえ―――それで? 当然、俺も地底に同行させて貰えるんだろうな?」
「理由は?」
「あん?」
「君が地底に行く理由はなんだい? バロンの為というわけでもなく、バッツの様に好奇心というわけでもないだろう」
「別に俺は好奇心だけで行く訳じゃねえぞー」バッツが反論するが、とりあえず無視。
「フライヤやクラウドのように人捜しの為でもない、ヤンのように逃げるわけでもない」
「・・・に、逃げるとかいうな! ただ私はファブールのためにだな」ヤンがなにやら言い訳しているが、やっぱり無視。
「ではギルガメッシュ、君の目的は?」
「いや、俺は―――その陸兵団の長として、バロンのために・・・」
「一番最初に否定したんだけどね、僕は」
「そりゃテメエの―――もとい、陛下の勝手な印象でございましょう?」なれていないのか、妙な敬語でギルガメッシュが言う。
それをセシルは半眼で見下ろす。「では、本当は僕に対して忠誠を誓っていると?」
「もちろん!」
「ならば言うことを聞いて貰おうか。大人しく、ここで留守番しているんだ」
「な―――なんでだよ!」
「それがバロンのためだからだ」
「・・・・・・っ」
「・・・・・・」セシルとギルガメッシュがしばしにらみ合う。
だが、そうしてても意見は覆せないと諦めたのか、ギルガメッシュは「チッ」と舌打ちをすると、踵を返して謁見の間を出て行ってしまった。ギルガメッシュが出て行ったのを見て、ベイガンがセシルに言う。
「陛下、あの男・・・」
「ベイガン、君の言いたいことは解るよ。だけどね・・・」
「俺も解らんな。セシル、どうしてあの王を王とも思わないような傍若無人な男を野放しにしているのだ?」
「・・・君がそれを言うかな」カインの言葉に、セシルは苦笑する―――が、すぐに真剣な顔をして。
「・・・目的が解らない」
「目的?」
「彼はゴルベーザにスカウトされたと言った―――けれど、ゴルベーザが何の理由もなく、流れ者に声を掛けるとは思えない」
「俺が陸兵団を仕切っているとのが目障りだったんじゃねえですか?」と、慣れてない微妙な敬語で意見を発したのはリックモッドだった。
前の陸兵団の長が亡くなってから、ギルガメッシュがその座に着くまで、リックモッドが陸兵団を仕切っていた。とはいえ、正式に軍団長となったわけではない。自分はその器ではないと、辞退し続けていた。リックモッドは前軍団長アーサー=エクスカリバーを心から尊敬していた。だからこそ、その後継となるのに気後れがあったのだろう。「それもあるだろうけど。それだけなら洗脳した人間を使った方が良いだろう?」
「む・・・」
「ぬ・・・」実際に洗脳されていたカインとベイガンが渋い顔を浮かべる。
「けど、ギルガメッシュは洗脳された様子はない。ダークフォースも感じなかった」
「なら、考えられるのは一つだな」ロックが言って、ちらりと隣のバッツを見やる。
「さてそれは何でしょう―――はいバッツ君」
「へ? お、俺!? え、えーと・・・ギルガメッシュってやつが有能だからじゃねえの?」
「だからスカウトせずには居られなかったって? はいハズレー」
「なっ。・・・じゃあ、なんだってんだよ?」
「なに、簡単な話だ。洗脳されていなかったヤツを引き入れたって事は―――」
「―――最初から、ゴルベーザの手駒だった、ということだろう」ロックには全て言わせず、セリスが言う。
自分の台詞を取られたことも気にせず、ロックがパン、と手を叩く。「せーかい。・・・まあ、完璧な答えだとは言い難いけどな」
「どういう意味だ?」言いがかりを付けられて、セリスがムッとしてみせる。
だが、ロックは答えずに、セシルへ視線を投げかけた。視線を受け取り、 “そこまで言ったなら、最後まで言えばいいのに” とセシルは苦笑。「ゴルベーザの手駒、かどうかはともかく。なんらかの繋がりがあるのは間違いない―――けど、その目的が解らない」
先程も繰り返した言葉を、セシルはもう一度口にして、
「あからさますぎるんだ。ゴルベーザの手の者だって、こっちが気づいていることは、向こうも気づいてるはず。なのに、未だにバロンに留まっている。それとなく見張りをつけてはいるんだけど、別に何か工作している形跡もない。誰かと密かに連絡を取り合ってる様子もない。文字通り、何もしていない」
セシルはそこまで言ってから、ギルバートとギルガメッシュに顔を向ける。
「ファブールからトロイアまでの道中、なにか変わったことは?」
「いや、特にはなかったよ」
「・・・強いて言うなら、とことんやる気が無かったことくらいですかね」ギルバートとリックモッドが答える。
それを聞いて、セシルは「ふむ」と考え込む。「やる気がない・・・か」
「しかし、目的が解らないのならば、それこそ追い出せばいいんじゃねえの?」バッツが言うと、セシルは苦笑して。
「ゴルベーザの目的がはっきりしない以上、それもできないよ。もしかしたら彼を通じて、なにか解る可能性がある以上は」
「あ、なるほど・・・」
「ただ、一つだけ。ゴルベーザ―――というよりがギルガメッシュの目的には心当たりがある」
「へ?」
「エクスカリバーだ」一ヶ月前、ギルガメッシュからエクスカリバーを取り上げた時、酷く動揺していた。
普段、やる気の無かった男が、あの時だけは食い下がってきた。「陸兵団の軍団長となったのも、エクスカリバーが目的と考えられるし、今だってエクスカリバーを持つバッツが地底へ行くと言うから、同行したがった―――と考えれば説明もつく」
「まあ、確かに・・・」
「なんにせよ、これで彼がどう動くか―――それとも動かないか、だ。・・・ベイガン」
「ハッ。ギルガメッシュの監視を強化するのですね」
「ああ―――気づかれても良いから、常に誰かが彼の居場所を把握しているように」
「御意」
「さて―――それで地底行きの話なんだけど、地底に行くのはカイン、バッツ、ロック、フライヤ、クラウド、ヤン―――それに、ロイド」
「了解ッス。俺は運転手ッスね」
「そういうこと。現状はエンタープライズしか飛空艇がないから、それを使って貰う」と、バッツが「あれ?」と首を傾げて。
「ちょっと待て。もしかしてたった七人で?」
「さっきもセシルが言ったろ? あくまでも偵察が主目的だからな。こんぐらいで丁度良い―――それに、下手に動かせるほど、兵力に余裕もない」バッツの疑問にロックが答え、セシルも「そういうこと」と頷く。
「でも、どうやって地底に? 例の地底世界から伸びてるって言う塔に行くのか?」
「いや、バブイルの塔には尋常でない数の魔物が守っているから出来れば避けたい―――それに関しては、長老」
「うむ」と、再びミシディアの長老が口を開く。
「バロンの南、ミシディアの西にアガルタと言う大きな島がある。なんでも、そこには地底へと通じる道があるという」
それを聞いてローザが「あ」と声を上げた。
「アガルタって・・・確か、何処の国にも属さない街があるところよね。あの街の住民の先祖はドワーフだって話を聞いたことがあるわ」
「・・・? なんでお前がそんなことを知っているんだ?」本気で不思議そうにセリスが尋ねると、ローザも首を傾げて。
「え? 昔、大学で教わっただけだけど?」
「・・・だいがく?」それが初めて効いた言葉のようにセリスがきょとんとする。
ローザはあら、と笑って、「もしかしてシクズスには大学とかないのかしら?」
「いや、それくらいあるけれど・・・あの、私の記憶に間違いがなければ大学って勉強するところよね? あ、もしかしてフォールスでは違うとか」
「・・・何をそんなに不思議がっているのか解らないけれど、フォールスでも勉強するところよ?」
「ええっと・・・貴女、馬鹿じゃなかったの!?」
「えー、セリスひどーい。私、頭良いわよー」
「その物言いが十分馬鹿っぽいけど―――そこの旅人!」
「え、俺?」いきなり話を振られて、バッツはきょとんとして自分を指さす。
それをセリスは鋭く睨み、指まで突き付けて。「貴方、前言ったじゃないの! 自分と同類だって!」
「いや意味が違―――じゃなくて今、人のことを馬鹿にしなかったか!?」
「してないわよ」
「そか。なら良いんだけど」なんだか納得行かない気分だったが、バッツはそれ以上追求しない。
バッツの隣でロックが腹を抱えて身体をくの字に折り曲げ、玉座の上ではセシルが口を手で押さえていた。「・・・なんだよ、何がおかしいんだよ」
「「いや別に」」計ったように声を揃えて二人は首を横に振る。
コホン、とセシルは咳払いを一つして、気を取り直すように。「それで、その他の人なんだけど・・・まず、ファリス」
「あいよ」
「君はエブラーナへ行って欲しいんだ。できればエブラーナの人間と話をしたい」
「陛下、それは―――」
「ベイガン、今はバロンがどうの、エブラーナがどうの言っている場合じゃない。エブラーナにあるバブイルの塔が鍵を握るなら、エブラーナの民に協力して貰うのが一番だ」
「・・・・・・」ベイガンは実際にエブラーナとの戦いを体験したことがある。
だからこそ、なかなか割り切ることが出来ないのだろう。それでも王の意に逆らう気はないようで、押し黙る。「だけどなー、セシル王。俺もバロンの人間ってわけじゃない。アンタの命令に従う義理はねえぜ?」
「解っているよ。だからこれは、命令じゃなくて要請だ。それなりの報酬も用意する」
「ま、そう言うことならこっちも嫌とは言わないが―――けど、そこの竜騎士みたいに期待に添えることは約束できねえぞ」皮肉のつもりなのか、ファリスはカインを横目で見やる。
するとカインもにやりと笑って。「俺としてもお前には無理をするよりは無事に戻って来て欲しいところだ」
「なっ、なにいってるんだテメエ!?」
「俺の本心だが」顔を真っ赤にしてファリスが叫ぶ。
そんな二人を見て、ロックが「うわ」と声を上げ、「お前ら、まさかそう言う関係・・・!」
「待てコラ! そう言う関係ってどういう関係だ!」
「みなさーん! ホモだ。ホモがここに居ますよー!」
「殺すぞテメエエエエエエエエッ!」
「何を騒ぐ」いつの間にか、カインがファリスの傍らに移動していた。
そっ、とファリスの顎を手で持ち、自分の方を向かせる。「あんなヤツが俺達の関係を計れるわけ無いだろう。だから騒ぐ必要はない」
言いながらカインがだんだんとファリスに顔を近づけていく。
「ちょっ、顔が・・・」
「顔が―――なんだ?」
「そのっ・・・」少しずつ二人の距離が近づいていく。
周囲もシンと静まりかえって―――ロックでさえも大人しくして、成り行きを固唾を呑んで見守っていた。
一人を除いて。「おい」
という声と共に、ファリスとカインの顔と顔との間に剣が入り込む。
「おわっ!?」
いきなり目の前に現れた剣に、ファリスは大仰にのけぞって後ろに下がった。
カインも顔を上げて、剣の持ち主を見やる。「何のつもりだ?」
「・・・ファリスが嫌がってるだろ」突き出した剣―――エクスカリバーを、カインの方へ向けてバッツが睨む。
「なんだこの剣は―――俺とやる気か」
「てめえがその気ならな!」
「フッ―――」敵意を見せるバッツに、カインはしかし後ろに下がった。
「今はやる気はないな。陛下の前だ」
「陛下の前でキスしようとするのもどうかと思うけどな」
「キス? 別に俺は顔を見たかっただけだ。可愛いいも―――もとい、ファリスのな」
「か、可愛いとかいうな! お、男に向かって!」ファリスが抗議の声を上げると、バッツも「そうだそうだ」と続いて。
「ファリスはどっちかっていうと可愛いじゃなくて綺麗つうんだ!」
「お前もなに言ってるんだよッ!」
「だってそうだろが! 特に水浴びした後のファリスなんかドキッとするほど綺麗で!」
「もういいから喋るなお前は」
「・・・待て。今、聞き捨てならないことを言ったな、貴様」それまでクールに受け流していたカインが、初めて険しい表情をバッツに向けた。
「水浴び・・・貴様、まさかこいつの裸を見たわけじゃないだろうな!?」
「いやそれは―――考えてみれば見たことねえな。汗流す時も、一人だし―――たまに一緒に行こうぜ、とか言うとなんか殴られるし」
「クックック・・・所詮、ただの旅人はその程度と言うことか!」
「なにッ! ならお前はどうなんだ!?」
「フッ―――俺ならこいつの全てを知っている。例えば股の内側にホクロがあることも―――がふぁっ!?」いきなりカインが悲鳴をあげる。
その腹部には、ファリスの拳が突き刺さっていた。「いい加減にしやがれこのバカヤロウ共」
その顔は怒りのためか、それとも羞恥のためか、真っ赤に染まっていた。
スッ、と拳を引くと、カインの身体がその場に崩れ落ちる。どうやら気絶しているらしい。「さっきから人が黙っていれば―――バッツ!」
「は、はいっ」思わず “気をつけ” の姿勢になって背筋を伸ばすバッツ。
それほどまでにファリスの声音には迫力があった。「次、似たようなことがあったらマジ殺ス」
「は、はひっ!」まさに蛇に睨まれたカエル。
バッツは頷くことしか許されなかった。「あー、ようやく終わった? それじゃクラウドとバッツ、とりあえずそこで気絶してるカインを、クノッサス導師のところへ連れてってくれる?」
「なんで俺がこんなやつを・・・」
「興味ないな」
「いや、君達に関する話は終わったから―――クラウドはそのまま帰ってくれていい。出立は明朝、城に来てくれればいいから」セシルに言われて「わかった」と短く答え、クラウドがカインを肩に担ぐ。バッツも反対側を担いだ。
二人が謁見の間を出たところで、「・・・私がここに居ると言うことは、私もエブラーナへ同行しろということですか」
そう言ったのは、それまでずっと黙っていたキャシーだった。
「何故、一使用人である私が、またこのような場に呼ばれるのか疑問でしたが」
「頼まれてくれるかい?」
「私は、私の主以外の命令を聞く気はありません」
「うん、そういうと思った」言ってから、セシルは吐息。
(本当に、僕には威厳ってものがないなあ・・・器じゃないと解っているつもりだけど、こうもないがしろにされると少し哀しい気がする)
思いつつ、ローザに視線を投げる。
すると彼女はすぐに頷いて、キャシーに、「お願いキャシー」
「・・・お嬢様の頼みでしたら仕方ありませんね」本当に仕方なさそうに、キャシーは嘆息と共に頷く。
「あ・・・エブラーナに行くなら俺も同行させて貰って良いか?」
おずおずと手を挙げたのはマッシュだった。
セシルは頷いて。「ああ、きっとそう言うと思ったから呼んだんだ」
マッシュの師匠と兄弟子はエブラーナの方へ向かったという。
セシルの戦いを見届けたい! と、同意の上で別れたマッシュだが、それでも師匠達の行方は気になるのだろう。「それからテラ」
と、名を呼んだセシルは躊躇う。
( “それ” はきっとこれから必要になる―――けれど、それはテラにとっては忌避するべきものだ)
果たしてそれを、頼んでも良いものかと。
だが、その逡巡を見て、テラはセシルが何を言いたいかを理解する。「デビルロード、じゃな」
「・・・ああ」テラの言葉にセシルは頷いた。
「ゴルベーザには赤い翼の飛空艇に加え、瞬時に遠方へ移動する手段を持っている。それに対抗するにはデビルロードしかない。せめて、バロン−ミシディア間の他にも、ファブール、ダムシアン、トロイアの三ヶ国と自在に行き来できるようにして欲しいんだ」
それを聞いて、ミシディアの長老が声を上げた。
「セ、セシル王! あれはテラにとっては―――」
「・・・解った」
「テラ!? 良いのか!」
「何も言うな。それは私にしか出来ぬ仕事だ。そしてそれが今必要というのならば、やるしかないだろう」テラの決意を秘めた言葉に、セシルは頭を下げる。
「すまない」
「王が軽々しく頭を下げるものではない―――フン、それに後悔に苦しんでいるのは私だけではない。だというのに私だけが立ち止まっているというのは、なんとも情けないではないか」
「テラ・・・・・・そういうことならば私も―――いや、ミシディアの総力を挙げて、デビルロードの建設に取りかかるとしよう!」長老が自分の胸を叩くと、ギルバートも頷いて。
「建設資材に関してはダムシアンが請け負います。必要なものがあればなんでも言ってください―――それでいいよね、セシル?」
「ええ。そのつもりでした。やはりバロンでは流通に不便なようで」ダムシアンが壊滅した際に、商人達がバロンへと流れてきた。
一月前までは、商人達の喧噪が凄まじかった街も、今では落ち着いてきている。
それというのも、バロンでは商品を仕入れるのに不便だからだ。リヴァイアサンの脅威が無くなったとは言え、まだ港は開く準備が整っていない。なので陸路で商品を仕入れなければならないのだが、バロンの他の国との境は全て山だ。その点、ダムシアンには港もあるし、なによりバロン、トロイア、ファブールの中心にある。
だから物を売り尽くした商人達が、ダムシアンへと戻り始めているのだ。「リックモッドさんは、陸兵団を率いて、資材運搬の手伝いや警護を頼みます」
「まっ、ウチは人手だけは多いからな。了解しましたぜ―――って、ウチの軍団長はどうしやす?」リックモッドに言われて、セシルはふむ、と少し考えて。
「とりあえず謹慎処分かな。それの方が監視もしやすいし―――ベイガン、理由は適当に頼むよ」
「陛下への不敬罪で首をはねても良いと思いますが」
「いや、謹慎でいいよ。牢屋に入れようとしたり、処刑しようとすれば、流石に暴れるだろうしね」そうなればそうなったらで反応を見るのも良いかもしれないが、もしも万が一逃げられてしまっては少しばかり困る。
「さて・・・それでレオ将軍、セリス将軍」
最後に残ったガストラの将軍二人に、セシルは目を向けた。
それを聞いて、セリスはフン、と鼻を鳴らせて。「ようやく名前を呼ばれたか。退屈で帰るところだったぞ」
「いや、帰ってもらうんだけどね」
「なに?」怪訝そうにセリスが眉を寄せる。
「貴方達がバロンを訪れたのは、クリスタルのことを調べに来たと思われますが」
「ああ。ここには居ない、もう一人の将軍ケフカ=パラッツォが言い出したことだ。フォールスに “クリスタル” と呼ばれる特殊な力を持つモノがあるから、それを調べたいと。上手くすれば、ガストラの新たな力になるかもしれないとな」
「セリス将軍!?」セリスの言葉に、レオが慌てたように叫ぶ。何故なら、表向きではセリス達がバロンに来たのは “親善” という名目で来たのだから。もっとも、ガストラの三人の将軍が揃ってきている段階で、単に親交を深めようとしているなどと、赤子ですら思いはしないだろうが。
レオに名を呼ばれたセリスは冷笑を浮かべる。
「今更隠し立てすることでもない。バロン王は気づいている―――でしょう?」
「そうですね―――けれど疑問には思いませんか? あまりにもタイミングが良すぎると」
「なんの話だ?」
「貴方達がバロンを訪れて、その時に丁度ゴルベーザが行動を起こし、戦が始まった。貴方達もそれに巻き込まれ、実際に剣を振るった」
「ゴルベーザが私達を利用した―――つまり、ケフカにクリスタルのことを囁いたのがゴルベーザだと?」
「さて、ケフカ=パラッツォとゴルベーザの間に繋がりが在るかどうかは置いておいて、少なくともガストラにクリスタルの情報を流したのはゴルベーザでしょうね。噂を流しただけなのか、それとも直接ケフカ将軍に会ったのかは解りませんが」と、そこで話を区切って、セシルは将軍二人に自分の意見を告げる。
「ま、ともあれ僕が言いたいのは、ゴルベーザは貴方達を利用した―――けれど、僕は利用する気は無いと言うことです」
「つまり、私達の存在は邪魔だと?」
「いや邪魔ではなく、害悪に成りうると思っています」
「セシル、そんな言い方はないと思うわ」と、珍しくローザがセシルに対して抗議の声を上げた。
カインがこの場に残っていれば、明日の天気の心配くらいはしたかもしれない。「でも事実だよ、ローザ。ゴルベーザとの戦いは終わっていない。この一ヶ月は平穏だったけど、いつゴルベーザが攻めてくるかも解らない―――それでゴルベーザを打倒したあと、もしもフォールス全体が疲弊していたら?」
「我々にとってはこの上ない御馳走だな」セリスが言う。
戦いに疲弊した国を攻め落とすのは容易い。「もっとも、それでガストラが攻めてくるとは思わないけどね。あっちだってまだ戦争中だ。海を渡ってまでフォールスへ攻めてこれる余力があるとは思わない」
「だったら・・・」
「でも駄目だ。このまま戦い続ければ、こちらの手の内を見せることになってしまう」
「手の内、と言っても、殆ど見せてもらった気もするがな」セリスが苦笑する。
確かに竜騎士団長カイン=ハイウィンド、暗黒騎士団、それに赤い翼―――バロンの主力である軍団の戦いぶりをセリス達は見ている。
他の国にしても、ファブールのモンク僧、ダムシアンの傭兵ともセリスやレオは戦っている。しかし。
「エブラーナの忍者に、地底世界のドワーフたち・・・まだフォールスには貴方達に見せていない力がある。・・・それにもっとも肝心な “力” がある」
「なに?」
「召喚士」
「!」
「魔導の力は、幻獣の力をベースにしているらしいね。ガストラの本当の目的はクリスタルじゃない―――ミストの召喚士だったんじゃないか?」
「・・・・・・」セリスは答えなかった。
図星―――というわけではない。本来の目的はあくまでもクリスタルの調査だったのだから。
しかしセシルの言葉も間違いではなかった。もしも幻獣を召喚できる召喚士を捕えることができれば、魔導はさらなる力を得ることが出来る。「もしも、戦いが終わったそのどさくさに紛れて、召喚士を一人でも連れ去られたらこちらとしては困ったことになる」
「だから帰れ、か」レオの言葉にセシルは頷いた。
「もうすぐ、新しい飛空艇が完成する。そうしたら、それで送り届けよう」
「ふむ・・・そういうことならば仕方ない、か。セリス将軍」
「そうだな。バロンに来て数ヶ月にもなる。何時までもガストラを留守にしているわけにはいかない。なにより発案者であるケフカは勝手にさっさと帰ってしまったからな、ここに無理して留まる理由もない―――」自分で言って自分の言葉に納得しようとする。
どこも間違ってはいない。自分たちがここに居る理由はない。しかし―――「―――ガストラの将軍、ならば、な」
「セリス将軍・・・?」レオが不思議そうな顔をする。
セリス自身、不思議だった。自分が何を言っているのか解らない―――何を言いたいのか解らない。「 “私” は残りたいと思っている」
(いや―――違う。解らない筈なんてない。だってこれは―――)
「これが、私の本音だ」
「セリス将軍!」
「私は・・・ッ。セリス=シェールはッ! 決着が着くまで留まりたい・・・!」(この戦で、初めて私が “私” として剣を振るったのだから)
ファブールで暴走したセシルに立ち向かった時も。
ゾットの塔でローザを救いに来たセシルと戦った時も。あの時の自分は、 “ガストラの将軍” ではなくただの “セリス=シェール” だった。
そして今も、自分が関わったこの戦いに最後まで付き合いと思っている。
それは命令とか義務とかではなく、バッツやマッシュと同じように、見届けたいのだ。「・・・だが、私は自分の立場をわきまえているつもりだ」
その反面で、それができない立場だということも自覚している。
どんなに言っても、セリス=シェールは “ガストラの将軍” なのだから。「だからセシル王が許さぬというのなら、私は―――」
「じゃあ、セリスは地底に行って貰おうか」
「え、ちょっ・・・」
「レオ将軍はどうしますか?」
「私は・・・あくまでもガストラの将軍だ」
「なら、飛空艇が完成次第、ガストラに送り届けると言うことで―――」
「ちょっと待てえええええっ!」セリスが叫んで、「ん?」とセシルは彼女に目を向ける。
「どうかした?」
「どうかした? じゃないだろう! なんでそんなにあっさり許諾できるんだ! お前、ガストラの将軍は、害悪にしかならないと言ったばかりだろうが!」
「でも君は、将軍ではなく、ただのセリス=シェールとして残るんだろ? だったら問題ないじゃないか」
「あるだろう! 私の言葉が真実とは限らないし、仮に真実としても、ガストラの将軍に戻ったら、私は私の責務を果たさなければならなくなる」
「うん」
「うん・・・って」唖然とするセリスに、セシルは苦笑して。
「君が本音を言ってくれたから、僕も本音を言っておこうか」
「本音?」
「僕は君のことを嫌いじゃない」
「え」
「きゃーっ、セシルったら私と言うモノがありながら浮気? 浮気なのー!?」セシルの発言に、きゃあきゃあと喚きだすローザ。
「もう、やっぱり名前が似てるから? 名前なのねー!」
「だからいい加減に名前ネタは止めろって何回・・・ッ」
「そうだよローザ。それに浮気なんかじゃない。僕が一番好きなのは―――解っているだろう?」
「わ、解らないわ。・・・ちゃんと、名前を言ってくれないと」
「ならヒントをあげようか。僕が好きな人の名前は名前が三文字なんだ」
「それじゃセリスだってそうじゃないの!」
「じゃあ、もう一つ。家名は四文字だよ」
「いじわるっ! わざと言ってるのね!」
「ははっ、ゴメンよローザ」
「・・・いいわ、その代わりに “ローザのこと大好き(はぁと)” って10回言ってくれる」
「仕方ないなあ、ローザは」
「おーい、だれかこのバカップルを滅殺してくれー」ロックが投げやりにツッコむ。
ちなみに彼の言葉は、その場の全員の総意だったという。「まあ、冗談はさておき」
「えー、冗談だったの?」ぶー、とローザが頬をふくらませるのに対して、セシルはさらっと無視。
「セリスには返しきれないほど借りもある。だから、君の望みは叶えて上げたいと思うし、もしもこのまま君がガストラへ帰って後悔してしまうのは絶対に嫌だ」
「だから・・・私が残ることを許すと? けれど、全てが終わった後にガストラに戻れば、私は貴方達の敵になるかもしれない。貴方の言うとおり、ここに私が残ることが、後々の害になるかもしれない・・・」
「その時はその時だ」
「そんなことで―――」
「セリス=シェール!」
「ッ!」突然名前を呼ばれて、セリスはビクッと硬直する。
見れば、真っ直ぐにこちらを見つめ降ろすセシルの視線と目があった。「君が正しいと思うこと、望むことを成せばいい」
「私が・・・望むこと・・・」
「後ろを振り向く必要はない、先のことを不安に思う必要もない、ただ “今” どうしたいかを望めばいい。さあ、どうする?」問われ、セリスは逡巡し。
しかし、すぐに答えを出す。彼女が望んだ選択を、「私は・・・―――ここに、フォールスに残りたい。私はそれを望む!」
言い放って、セリスはレオを振替える。
申し訳なさそうに、少しうつむいて、「すまない、レオ将軍。私は―――」
「気にしなくて良い、セリス将軍―――いや、セリス。私もバロン王と同じだ。君が望むことを望む。皇帝には適当に言っておくさ―――セリス将軍はフォールスに残る必要があった、とね」それから僅かに表情を強ばらせる―――それが彼にとっての微笑なのだと、セリスだけが知っていた。
「君を補佐するのは私の役目だ。今までも、これからも変わることはない」
「すまない―――ありがとう」レオの “微笑” に、セリスも微笑みを返す。
その様子を、ロックが複雑な表情で眺めていた―――
第16章「一ヶ月」 END
次章予告ッ!
二章ぶりにお久しぶりー!
私とセシルの愛の復活と共に、次章予告も大・復・活ー!
セシル:ていうか、あれって君が勝手に引きこもってただけだよね。
もう、セシルったらいけずなんだから。
さて、次はいよいよ地底世界―――
バッツ:ついに、ついにリディアと再会ィィィィィッ!
うん、そうそうドワーフの城で―――
バッツ:ゴルベーザの力で動きを封じられ、ピンチに陥る俺達! そこに颯爽とリディアが現れて―――
リディア:お兄ちゃん! 助けに来たよ!
バッツ:リディア!? お前本当にリディアなのか!?
いや、あの、これ私の次章予告で・・・
バッツ:リディアの召喚魔法がゴルベーザの力をかき消し、そのフォローを受けて俺がゴルベーザに肉薄する!
リディア:やっちゃえお兄ちゃん!
バッツ:行くぜ必殺! 斬鉄剣三段返しーーーーーーーーッ!
なにその新技。
・・・じゃなくて、勝手に予告を進め―――
バッツ:悪が滅びた後、手と手を取り合うエセ兄貴と嘘妹。
リディア:お兄ちゃん、リディア会いたかった・・・
バッツ:俺もだリディア。お前の居ない間、淋しくって死にそうだったぜ。
リディア:くすっ、お兄ちゃんったら、リディアがいないと駄目なんだから。
バッツ:そうだな、俺はリディアがいないとダメダメだ。
リディア:お兄ちゃん・・・
バッツ:リディア・・・―――と、ひしっと抱き合う二人。感動の一瞬! てなわけで次章!
ファイナルファンタジー4 IF(仮)
第17章 「地底世界」
バッツ:読まないと、斬鉄剣しちゃうぜっ♪
・・・もう、好きにして。