翻訳文:
グプタ時代(紀元320 – 550年)の彫刻は後のすべてのインド芸術が帰する基準となっている。実際、この時代の視覚芸術の影響は、インドの境界を越えて、スリランカ、東南アジア、極東へと広がっている。
この時代の仏陀像は記念碑的な単純さで知られている。それらはしばしば半眼で、温和なほほえみが厚ぼったい頬をもつ卵形の顔の下唇によって表わされている。グプタ朝の大部分の彫刻は精巧なかつらのようなヘアー・スタイルをしており、仏陀の髪は硬い蝸牛の殻のようにカールしている。これらの特徴に加えて、この仏像はまるで水に濡れたように見える張り付いた衣裳を着ていることが特徴である。彼の右手は掌を開いた施無畏印を結んでいるが、この印の意味するところは、彼のもとに逃げ込めば畏れることはなにもない、ということだ。
仏陀像の更なる特徴は、例えばushnishaと呼称される肉髻で、これは彼の優れた知力を示す標識なのである。さらに額にurnaと呼称する白毫があり、引き伸ばされた耳朶があり、首には三本の皺が刻まれ、掌と足裏には蓮とchakra(チャクラ)と呼ばれる法輪があり、長い腕は膝まで達している。インド人の自然との親しみの結果として仏陀像も自然界と分かち合う特質をもつこととなる。たとえば、肩はライオンの力を暗示させるように作られ、眼は蓮のつぼみ、眉毛は飛行している白鳥、等々という具合である。これらの特質は単に肉体的に類似しているというばかりではなく、詩的な隠喩を意味している。というのも、神の領域、自然、ならびに明白な世界への深い尊敬と理解に由来するからだ。
サルナートは仏教世界にとって、仏陀が最初の説教を行なった場所として知られている。ここは古代から仏教徒の巡礼の中心地の1つであった。
画像:
観音菩薩立像 Avaiokitesvara
グプタ王朝 5世紀
砂岩 高さ 137cm
サールナート出土
『原色世界の美術』13 インド・西アジア
小学館 1970
P20
中国や日本の慈悲を強調した観音菩薩とはいささか趣を異にして威厳と精神性が顕著である。見事なプロポーションのこの像はサールナート派の傑作の1つ。
翻訳文:
サルナートは多分、グプタ期(西暦320 - 550)においての仏教彫刻のもっとも華々しい場所である。画面構成に必要だからと言って妥協することなく、必須でない装飾は取り払われてしまった。穏やかな仏陀像はしばしば瑜伽行者の凝視を思わせる半眼で、穏やかな微笑をたたえている。
仏教徒の像には多くの特徴があり、沢山の姿勢や仕草が読み取れる。しかしながら、仏陀の伝記のうちで精神的にもっとも重要な瞬間に関していえば、歴史的な仏陀、つまり釈迦牟尼、の像にはわずかの数の仕草しか見出されない。もっとありふれた結跏坐位に代えて、この仏陀は玉座に坐り、ダルマ・チャクラ(説法)印を結ぶ。説法、すなわち転法輪の仕草である。仏陀はサルナートの鹿野苑で最初の説法を行なわれた。そして、教義を説くことにより、仏教の車輪を動かし始めたのである。それ故に、サルナート由来であるがゆえにこの像はとても興味深い。半眼は内に引きこもった瞑想の目付きであるが、しかし、彼の手は忙しく彼の教義を世界に伝えようとしている。
身体に張り付く衣裳はグプタ期彫刻の特徴であり、この作品の単純性を活かすことに寄与している。グプタ様式の他の特徴としては、卵型の顔、高い眉、突き出た唇、さらに頭上の堅く巻かれた蝸牛殻の巻き毛がある。
W. Zwalf (ed.), Buddhism: art and faith (London, The British Museum Press, 1985)
サールナート仏像についてはもう一体有名な仏像があります。
元々はニューデリー国立博物館収蔵だったのですが、今現在は同博物館に見当たりません。これもどうやら大統領官邸に引っ越ししたような気配です。
画像:
初説法仏坐像
サールナート出土
465-85年頃
黄褐色砂岩
高さ 160cm
サールナート考古博物館
『岩波 世界の美術』P99
サールナート仏像
フィラデルフィア美術館
画像:
Avalokiteshvara, Bodhisattva
of Compassion(観音菩薩、憐れみの菩薩)
Made in Uttar Pradesh, Sarnath region,
India
Gupta dynasty, c. third quarter of 5th
century CE
Artist/maker unknown, India, Uttar
Pradesh, Sarnath region
Sandstone
Height: 48 1/2 inches (123.2 cm)
* Gallery
230, Asian Art, second floor
1994-148-1
Stella Kramrisch Collection, 1994
画像:
From Eastern India, possibly Sarnath
Gupta period,
5th century AD
The 'teaching Buddha'
仏陀の説法
大英博物館
画像:
From Sarnath, Uttar Pradesh, India
Gupta period, 5th century AD
外国のサルナート仏像
サルナート仏像については個数が限定されている。
PCで検索したところ
大英博物館に二点
フィラデルフィア博物館に一点
だけのようだ。
説明:
『岩波 世界の美術』ヴィディヤ・デヘージア著/宮治昭・平岡三保子 P97
・・・・(グプタ朝の帝国内でマトゥラーと並ぶ)もう1つの工房の地、サールナートはマトゥラーよりさらに東に位置するが、ここでは彫刻家たちはマウリヤ朝のアショーカ王柱と同じチュナール産の黄褐色の砂岩を用いて製作した。サールナート仏はその衣文の襞を削除してしまって、全体的になだらかな衣に仕上げている。サールナートの傑作は高浮彫による初説法の仏陀像である。ヨーガ行者のように瞑想風の姿勢をとり、仏陀は転法輪印を結んでいる。鹿野苑における説法は台座に表された鹿によって示される。畏敬の念を起こさせるような威厳と静寂さをもった形体が、優美で洗練されたモデリングと見事な結合を見せている。・・・・
更に詳細な説明文は次。